キット屋倶楽部
私のオーディオ人生
Y下
by Y下
第5回 PP5/400シングルアンプ製作記
 私のオーディオ人生、第5回目になります。今回は10月18日に大橋様の店主日記に私のアンプが紹介されました、このアンプの製作を大橋様にコラムで紹介させて頂けないかとお願いしましたら大変面白い企画ですから載せてくださいと了解して頂きましたので、今回は今までのコラムとは趣向が違いますが、キットアンプをこれから製作される方や現在製作中の方もあまり参考にはなりませんが、アマチュアの製作した自作アンプの完成過程を見て読んでいただければ幸いです。

真空管アンプ作りは芸術である。
 この理念は私のアンプ作りでのコンセプトでもあります。色んな分野に芸術と言うものがあり、陶芸家、画家、木工などのクラフトの世界に芸術が沢山あります。このような芸術的なものは製作して最後は見て楽のしむですが、真空管アンプ製作は作る楽しみと完成してから音を聴いて楽のしむ要素が加わります。この部分が一般的な芸術とは多少ニュアンスが異なります。
 真空管アンプなどはオーディオシステムの一部ですが、この部分こそ自らの作品であり、製作者の感性が発揮できる部分でもあります。アンプは音さえよければ外観や内部配線処理などはどうでも良いと言う意見もありますが、実験段階であればそれで良いかも知れませんが、自分のオーディオシステムの(顔と考えた場合、)美観も大切であり内部の配線処理も大切ではないでしょうか、キットのアンプや自作でアンプを製作される方も一人の芸術家になって素晴らしい自分だけのアンプを作ってください。

PP5/400シングルアンプの製作の構想
1、以前に製作したPX−25アンプの入力段、回路定数を多少変更して製作。
2、オール手配線をせずにプリント基板を使用する。
3、パーツ類は自分の好みのものを選ぶ。
4、引き回し配線、部品実装は、計測器、制御機器、軍事機器などのシステム機器を応用して行なうため、
  多少真空管アンプとはコンセンサスが違うかも知れません。
5、美観を最重要とする。(これは好みの問題)
  引き回し配線、組立方法などは多少キットアンプとは異なりますのでご了承ください。
6、線材類は特別なものは一切使用しない、信頼性のある線材で十分である。

製作の注意事項
1、ヒーターなどの交流回路と信号バスラインとは極力離す。
2、入力と出力は一緒に結束しない、 
3、引き回し配線は余裕をもって配線する。
4、引き回し配線は必ず碁盤の目の配線に心がける(斜め配線はさける)
5、実装するパーツ類は同一方向に決めて取り付ける、(特にコンデンサー類は表記が見えるようにしてください。)
6、錫60%の良質な半田を使用する、半田コテは25W以上のコテを使ってください。
  半田付けに自信のない方は時間をかけて半田付けの練習をしてください。
  ぶっつけ本番は取り返しのつかない失敗の原因にもなります。
7、あせらずに時間の許す限りじっくりと組み立てる。
  自作アンプやキットアンプの製作は時間を競う競技とは違います。これは芸術です。
  早く音出ししたい気持ちは誰でも同じですが、アンプ製作だけはあせりは禁物です。

筐体設計
 自作アンプで一番のネックはシャーシーです。今回は精密板金の会社にお願いして製作しました、板金図面は3角法にて図面を起こします。本来はCADで設計しますが今回は手書きによる設計にしました、シャーシーの材質はミガキ鋼板1.2tを使用、アッパーパネルは鏡面処理を行ったステンレス1.2tを採用、アッパーパネルを使用することでビス類などが表面に出ないのと高級感がプラスされます。
 板金設計は失敗が許されませんから時間をかけて設計しました、(トータル3日間)
左側の写真は板金が出来上がった状態でフロント側からの写真です。真ん中の写真はリアー側から撮った写真で右側はステンレスのアッパーパネルの写真になります。ステンレスは保護ビニールが貼った状態です。


板金が出来上がり塗装工程に回します。塗装色はトランス類がシルバーですからそれに見合う塗装色を決めました、塗装色はブルーメタリックのメラミン焼付け塗装です。この塗装はキズが付きにくい丈夫な塗装です。
左側の写真はリアー側の上部から、真ん中は内部の写真、右側はソケット金具とハムバランサー用ステーです。


全ての塗装工程が終了して端子類などの穴あけ作業を行ないます、本来は塗装前に穴あけ作業をするのが常道ですが、早く塗装の仕上がり状態が見たくて塗装後に細かい穴あけになってしまいました。


穴あけ作業はボール盤で行ないました、右側の写真は穴加工が完了した状態です。


写真は裏蓋をビスで止めた状態で風穴のスリットはNCによる加工です。


プリント基板の製作になります。今回のプリント基板回路は電源の平滑回路をパターン化しました、写真の左側はサンハヤト製のエッチング液とパターン用のペンです。


写真が逆になりましたが基板はガラスエポキシの片面タイプのベター基板を使用します。
パターン設計が終わりエッチング液で同箔を溶かします。右側の写真はエッチング完了の写真です。この後の処理は半田メッキを施します。


すべて終了しますとCR類の取り付け穴加工をします、ラウンドは0.8mmのキリ穴で明けて部品を実装します。コンデンサーは容量が銘記してある部分を上側にして半田付けします。右側は真空管のアクセサリーリングです。


使用コンデンサーのカップリングはスプラーグ、ブラックビューティーの160Pオイルペーパーコンデンサーです。このコンデンサーはマニア間では非常に音が良いと評判で、エレキギターでは有名なギブソン、フェンダーなどのビンテージギターに採用されています。(マランツ#7、マッキントッシュのC−22にも採用されている、)ただしこのコンデンサーは1970年代に製造中止になっていますから手に入れることは不可能に近いですが根気よく探せば見つかると思います。写真の左側に写っている銀色のコンデンサーはGE製の銀タンタルコンデンサーでカソードパスコンに採用しました、抵抗類は理研電具のRM抵抗です。


内部のラグ端子類を取り付け後に外観の仕上げに入ります。ここからがキットアンプと同じように組立開始でいよいよ配線と実装技術に入ります。


実装済みの内部写真です。プリント基板は仮止め状態にして配線引き回し、部品の取り付け構想を回路図を見ながら頭の中に叩き込みます。右の写真は電源トランスからの配線の線出しの様子、AC100Vラインは先に配線処理しておきます。このラインは必ず線材をツィストペアーにします。


実装配線のテクニックは個々にわけて配線します。トランスから線出し後はヒーターが交流点火のためツィストペアーにして引き回しを行ないました。
注意1、線材を結束しながら引き回し配線します。これが引き回し配線の基本です。完成後に後から結束しますと線が引っ張った状態になる恐れがあります、

 

ヒーター回路の配線が終了しますと予め製作してありました電源平滑用のプリント基板を取り付けます。基板からの引き回し配線はゆとりを作って結束します。この時にワィヤーの結束はクロスせずにストレートに引きまわします。右側の写真はプラスB電源回路のワィヤリング方法でこの時点でカップリングコンデンサーを半田付けしています。
注意2、コネクターなどに配線を半田付けする場合はゆとりのある配線を心がけないと誤配線が生じた場合線が届かなくなる、
注意3、斜め配線やクロス配線をしますと半田のコテ先が入らなくなり線材を焦がすことになりますから避けてください、碁盤の目を基本とします。


配線の全体像です。この時点で出力トランスのP−B間まで配線します。右側の写真はスピーカー端子まで配線完了の部分です。


信号系統の配線が終わりますとCR類をラグ端子に取り付けます。CR部品は表記してある部分を見える側に付けます、カラー抵抗など極性はありませんがカラーコードを同一方向に決めて縦横方向に決めてラグ端子に半田付けします。
パーツ類は出来るだけ縦横に取り付けるのと部品同士がクロスさせたり上下に2段重ねにならないことが計測器やMIL用機器などの部品取り付けの実装技術です。


左の写真は入力回路とドライバー段の配線と部品実装です。右側の写真はトランス関係の配線になります。


すべての配線が終了ですが最後にビスで留めてある箇所にペイントロックします。このペイントロックはネジの緩みなどが起らないのと締め忘れ防止を兼ねています、完成したアンプを最後に測定器を使用して最終チェックです。測定器はオシロ、発信器、歪率計、ミリバル、など測定器でチェックします。(キットアンプの場合はテスターだけでOKです。)
キットアンプや自作アンプを製作する場合、回路の分割をすれば配線は綺麗になります。
例えば、ACライン、+Bライン、信号バスライン、ヒーター配線、CR実装部分とブロック毎に分けて行なえば複雑な回路でも難しくありません。
すべての配線が完了しましたら必ず回路図を見ながらチェックします。自分は間違いないと思って製作しても必ず落とし穴があります。キットなどを製作しましたら実体配線図でチェックしますが、出来ましたら回路図でチェックしてください。
逆の発想ですが完成したアンプをチェックする場合実体図でチェックするではなく回路図と照らし合わします。チェックした回路を色鉛筆などで塗りつぶしてみれば正しいか即分かります。回路図の見方、信号の流れ方などが理解できます。


サンバレーさんのキットアンプなどは誤配線、部品の付けの間違いがなければテスター1本と自分の耳があれば100%動作して素晴らしい音がでます。
特に問題が生じた場合は、1、半田が確実にしみ込んでいるか、2、部品の付け間違いはないか、3、コンデンサーの極性と容量、抵抗の間違いはないか、4、アースラインは確実にボディー落ちているか、5、誤配線、配線忘れはないか、6、引き回し配線が熱の出るパーツと触っていないか、7、端子やリード線などが隣と接触していないか、これらの問題をクリアーしても稼働しない場合もあります。誰でもわざと間違って製作する人はいません、自分は間違いないと確信して製作しているはずですが最後はやはり(間違ってた、忘れてたとなるはずです)事実今回のアンプ製作は3箇所の配線ミスと忘れがありました。
 原因不明の場合は、深く考えずに日を改めて再チェックしてください。頭を少し冷やさなければなりません。
ギブアップして販売メーカーにお願いするのは最後の最後の手段です。再度チェックしても原因がわからない場合はもう一度組み直す勇気が必要です。
 1台のアンプを製作するにはトータルで数十時間もかけて作ります。製作を途中で中断しますと再度製作のリズムが戻るまでは、多少時間がかかります。リズムが戻らない時、間が空いた時、思い込み違いでミスが発生します。再度再開する時は今まで進めてきた部分をチェックするぐらいのゆとりがほしいです。
これは超一流のエンジニアでもビギナーでも同じで、間違いや忘れがあって当たり前のことです。
回路図の電圧値が±10%以内ならスピーカーに接続して音出しします。問題がなければ完成ですが、最後に振動実験を行ってください。一番簡単な方法としてアンプを車の荷台又はトランクルームに乗せて一時間ぐらい走ってください。(球は抜いておくこと)異常がなければ振動実験完了になりこれで完成になります。

あとがき
 今回のコラムは自作アンプの製作過程でしたが、私としてはみなさんにお見せするような自慢できるアンプではありません、「これでは参考にもならん」と思われますが、私としての真空管アンプ製作はアマチュアであり皆様に講義できる器量もございません。真空管アンプに関しては大橋様、佐藤様こそプロです。私の場合はアマチュアでありオーディオが好きで自分の真空管アンプを作りたい、ただそれだけです。
 自作アンプが作れるのになぜキットアンプを作るのだと思われますが、自作アンプの場合はすべて設計から部品調達を自分でしなくてはなりません。その煩わしさもあり苦痛もあります。コストを考えたらすべての面でキットアンプには勝てません。昔は鉄板シャーシも自分で穴加工して苦労もした経験もあります。その点キットアンプですとシャーシー加工は完成しています。すべてのパーツがセットで付属していますから私としては部品調達しなくて済みます。しかも少ない予算で完成度の高いキットアンプが作れるのも魅力です。
 次回の私のオーディオ人生第6回は「オーディオの浦島太郎」を予定しています

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