キット屋倶楽部
私のオーディオ人生
Y下
by Y下
第15回 忘れられた昭和の名品
 コラムも早いもので15回目になりました、英国ヴィンテージスピーカーを多少なりとも感じ取って頂けたと思いますが、最近のコラムは「面白くもねぇぞ!」と批判に思う方に今回は「これでどうだ!」と言う内容にしました、今回のコラムは(6月17日)の店主日記でご紹介されたパイオニアのユニット、昭和の名品を題材にしました。じっくりと読んで楽しんでいただければ幸いです。


昭和のレトロスピーカー
 ヴィンテージと言う言葉を聞きますと何となく高貴な古い高級品のイメージが湧きます、古い物がすべてヴィテージと表現するのはおかしいような気がしますが、オーディオの世界でもすぐに海外の古いものをヴィンテージと言いますがガラクタで粗大ごみのような物でもヴィンテージにしてしまうのは如何なものか、
 日本の昭和30年代の時代と言えば最近よく聞くレトロと言う言葉は大変懐かしい響きに聞こえます。このレトロを題材にした日本映画(ALWAYS三丁目の夕日)が大ヒットしています。この映画を見ますと古き良き昭和の時代を反映した大変良い映画で携帯もパソコン、CD、テレビもない時代なのに人と人との繋がりと絆は今の時代とは随分違う気がするのは私だけではないはず、この時代はまだ高度成長の前になりオーディオも電気蓄音機からLPレコード再生の高忠実度とかHi−Fiと呼ばれる時代に入っていきますがこの当時の音楽再生装置は私達の時代でなく我々の親の時代になります。
 私達の世代は最初から海外のスピーカー(アルテック、JBL、タンノイ)等からスタートした人は極少数で海外のスピーカーの音などはほとんどの方は聴いたことも見たこともない時代を過ごしてきました、当時のステレオマニアが自作するのは皆さんが記憶にあるパイオニアのPAX−A20,20F,PIM−16,20、ナショナルの8PW−1、三菱のP−610、コーラルの8CX−50ぐらいでこれでもこの時代でも贅沢なスピーカーで小型のレコードプレーヤーに安いクリスタルカートリッジで自作の真空管アンプから流れる柔らかい響きを一人静かにパーシーフェースの「シンシアのワルツ」やフランクチャックスフィールドの「星に願いを」の音楽を夜更けまで楽しんでいた時代ではなかったのではないか、少ないアルバイト代を注ぎ込んでスピーカーユニットのスペックを穴のあくほど見ては予算との兼ね合いを考えたあげく大事そうにユニットを2個買ってみかん箱のような自作箱に入れて「これがステレオか」と一人悦に入っていた記憶は皆さんにもあるはずです。(勿論この当時は親から高級なセパレートステレオなど買ってくれるはずはない)
 当時のスピーカーは高域が「シャリン・シャリン」低域は「ドン・ドン」の今で言うドンシャリが流行していましたが、これこそステレオの音で友達に聴かせては自慢していた方も身に覚えがあるはず、また友達から高級なセパレートステレオを聴かされて自慢された方も昔を懐かしみながら悔しい思いを経験した方もきっと沢山いるはずです。
 それより以前の1950年代の中頃の音は私を含めて団塊世代の皆さんも経験どころか記憶にはないはずですが今の年齢が70代から80代の方たちは記憶の片隅に残っているかもしれません。この時代は私達の親達の時代です。想像ですが当時はダンスホール、音楽カフェなどに行ってはジャズやクラッシック音楽をカフェのマスターや仲間たちと音楽談義を楽しみながらコーヒーやアルコールを飲んで青春を謳歌していたと思う、おそらく此処で聴くレコードの音は自分の家の電蓄とはかけ離れたHiFiの世界だったのかも知れません。


50数年の時を超えて今宿るPAX−12B
 今回ご紹介しますスピーカーユニットは1954年(昭和29年)にパイオニア(当時の福音電機)から発売された複合型スピーカーです。このユニットのスペックを少しご紹介します。(パイオニアの歴史からお借りした抜粋)

発売年 1954年(昭和29年)
形式 30p複合型スピーカー(ツィーターはコーンタイプ)
マグネット ウーファ、ツィーター共アルニコマグネット
ネットワーク オイルコンデンサーだけによるツィーターのローカット
クロスオーバー 約3000Hzぐらいと思われる
※クロスオーバー用のコンデンサーが完全にパンクしていて計算不能
インピーダンス 16Ω
許容入力 10W
重量 4.5Kg
出力音圧レベル 102dB/W
周波数特性 35Hz〜16KHz
 
※初代の福音電機の複合型スピーカーは1952年(昭和27年)発売のPAX−12Aになりこの12Bは2年後の1954年の発売になります。昭和30年代後半に型番がインチからセンチに変わりPAX−30Bと変更されました。

このユニットのフレームを見ますと左右に取手が付いています。多分このユニットは民生用ではなく業務用に使われたのではないか、当時の業務用なら小ホール、学校の音楽室、音楽カフェ、ダンスホールなどで活躍していたのではないだろうか、
マグネットカバーのエンブレムを見ますと
「FUKUIN ELECTRIC WORKS,LTD,TOKYO」の名前が入っています、今のパイオニアは当時では「福音電機」と言われていました、昭和29年の発売ですが当時としては塗装の仕上げとフレームの作りが「日本の工業技術ここにあり」と感心させられます。


ユニットを2本並べた状態ですが50数年の年輪を感じさない昭和のレトロスピーカーですが音も現代のスピーカーには負けないぐらい良い音で鳴ります。

マグネットカバーを外しますと大型のヨークを使っています、手前に見えるネットワーク用のオイルコンデンサーで合格の検印のスタンプが押してあるのを見ると当時も品質管理には厳しかったと思われます。このユニットの製作に携わった方がこのコラムをお読みになれば懐かしさが込み上げてくるのではないでしょうか、



昭和のレトロスピーカーを鳴らす、
 当時はおそらく使用するアンプもスピーカーボックスも現代とはかけ離れた粗末なもので音楽を楽しんでいたのかも知れませんからこのスピーカーの能力等ははっきり言ってわかりません。当時の日本の技術力と欧米の技術力とは相当な隔たりがあったのではないか、現代のオーディオマニアは海外志向になりスピーカーはアルテック、JBL、タンノイ等の海外製しか興味を示さないマニアばかりになってしまったきらいがある。国産品はバカにされ片隅に追いやられてしまったのは否めないのと日本の気候条件の変化による保存状態が悪いのでほとんどが処分されてしまったと考えられる。


パイオニアPAX−12Bを鳴らす使用機器
CDプレーヤー CEC製TL−51X
DACはサンバレーで購入した真空管式 MODEL2
プリアンプは私がレストアしたマランツ#7
メインアンプはサンバレーのSV−2(2007)300Bドライブの845シングルアンプでの試聴です。
ボックスは店主日記でご紹介されたタンノイ風のコーナー型でボックスの材質はフィンランドバーチ
ネットワークはヴァイタボックスに合わせた自作品を供用
使用のソースはいつも聴いているコジェナのヘンデルアリア集
このラインナップで上手く鳴らなかったら即粗大ゴミかお蔵入りだ、
早速ヴァイタボックスのDU−120コアキシャルユニットをボックスから外してパイオニアのPAX−12Bを取り付けた、果たしてどんな音で鳴るのか今まで以上に興味が湧いて来るのが自分でもわかる、今までは英国のGOODMANS、VITAVOX、ステントリアン、ワーフェデールのオール英国の伝統あるスピーカーを使ってきたけれど日本製だけはイメージすら湧かない、ひょっとして昔聴いたドンシャリのような音なのか、分解能も悪く特性だけを追っかけた音楽性のかけらもない酷い音となれば「所詮国産か!」とバカにして諦めが付く、これまで英国ヴィンテージスピーカーやウェスタンの音を自分の耳と肌で感じ取ってきたから十分比較もでき理解もできるはずだ、

SV−2(2007)で鳴らすパイオニアPAX−12Bの音
 SV−2(2007)でスタートだが50年の歳月を経て出てきた音に正直に言って言葉が出ない、コジェナのチェロから始まる独奏を聴いた瞬間、これが本当に国産のスピーカーなのか?自分の耳を疑った、「素晴らしい音で陰影を伴った渋く味のある音だ、」今まで鳴らしてきた英国ヴィンテージスピーカーと何ら遜色はない非常に落ち着いた響きで音の出方と傾向を一言で言えばタンノイのレッドとシルバーの音にヴァイタボックスを混ぜ合わせたような響きで私が所有しているグッドマンの音色に近い感じがしないでもない、じっくり聴くと英国スピーカーもPAX−12BもY下トーンになってしまっている、どんなにスピーカーを変えても自分の感性が全面に出てきているからガラリとは変わらない気がしてきた、まだユニットを実装してエージングも無の状態でのスタートのため多少音抜けが悪い感じだがエージングすればもっと良くなるはずだ、
 今回の試聴用のSV−2(2007)は見事に昭和のレトロスピーカーを鳴らしきった凄いポテンシャルを秘めた文句なしの第一級のアンプで私はこのアンプには改めて感服した、是非このSV−2(2007)のアンプを導入して色んなスピーカーを鳴らして頂きたい、お叱りを受けるかも知れないがマッキン、マランツ等のメインアンプで鳴らして満足しているマニアは私に言わせればまだまだ「ヒヨコ」だ!
 50数年間の眠りから覚めて即良い音を望むのはお門違いである。おそらくこの時代のレコードの聴き方は現代のマニアックな虫眼鏡で覗いた聴き方とは方向性が違う、端的に言わせてもらうとスピーカーの存在感と機器を忘れて音楽をさりげなく聴く方法が適していると思う、多分設計者はアメリカンサウンドを意識して研究開発されたと思うが私の印象ではアメリカンサウンドとは多少ニアンスが違う地味な音に聴こえてくる、  
 このスピーカーの名前を教えずに聴かせたのなら100人が100人とも国産とは見抜けないと思うぐらい素晴らしいユニットだ、事実このユニットを実装してヴィンテージスピーカーの大先生でもある西山氏に試聴して頂いたら「これが国産?」と驚いていた、今までの国産スピーカーは個性がなく特性だけを追っかけたスピーカーのイメージで正直言って私も見向きしなかったがこのスピーカーを聴くと当時のスピーカーの技術者の凄腕と努力が伝わってくるような気がする。

昭和のレトロスピーカーをバカにするな!
 オーディオのハイエンドマニア達がスピーカーはウェスタン、アルテック、JBL、タンノイでないと駄目だとかスピーカーは外国製に限ると主張する方が沢山いるが(私もその一人だった)本当に良い条件での国産スピーカーを聴いたことがあるのだろうか、一度も聴かずに風の便りや人の噂だけを鵜呑みにして評価するのはオーディオマニアとしては恥ずかしいのではないか、
 日本の伝統ある工業製品であるパイオニアの半世紀前のスピーカーがこれだけ素晴らしい音で鳴るとは聴いて見るまではわからなかった、正直に言って私は脱帽である。
 このユニットの開発に携わった多くの技術者とユニットを組み上げた職工さんや個々のパーツなど苦労に苦労を重ねて作り上げた下請けの町工場の工員さん、「戦後の日本の工業技術ここにありき」で奮闘された気持がひしひしと伝わってくる、当時のエンジニア達は欧米のスピーカーを徹底的に研究されたのではないか、しかも外観がジェンセンのG−610Bに良く似ているのも頷ける、スピーカーのフレームの検印に個人名のスタンプが押してありますがこれを見ますと当時も高レベルな品質管理をされていた製品だと思う、多分このスピーカーの設計者や製作に携わった多くの方達はこの世にいない人もいるかも知れませんがこの方達のお陰で今日の日本のオーディオ文化がありパイオニアの70年の伝統と歴史があるような気がしてならない、 
 このように書きますと日本人である以上海外のスピーカーよりもっと身近に感じてきます。タンノイやJBL、アルテック等の海外スピーカーも良いがもう一度昭和のレトロスピーカーを見直す時が来るような気がする、その時に是非国産のレトロスピーカーを加えて頂きたい、
 今回の比較試聴で英国ヴィンテージスピーカーがドレスの似合う素敵な「貴婦人」的な音ならこのPAX−12Bは和服の似合う「京美人」の音に例えられるぐらい上品な音で音楽を聴かせてくれた。また50数年の時を超えてエージングもこれからですが時間が経てばもっと素晴らしいサウンドで音楽を楽しませてくれると思う、
 今回ご紹介しました半世紀以上前のパイオニアPAX−12Bは欧米のヴィンテージスピーカーと比較しても何ら見劣りがしないぐらい素晴らしい音楽を奏でてくれたが鳴らし方次第で石ころにもなりダイヤモンドにもなるのではないかと痛切に感じた、
 ヴィンテージショップ等では国産のスピーカーは価値がないと決めつけてバカにする、名前は伏せたいがお粗末なブリキ板で作ったようなフレームに亜鉛メッキで仕上げてフェライトマグネットを装備しただけの海外のコアキシャルタイプのヴィンテージスピーカーが高値で取引されているがこんなのにどこに価値観があるのか音以前の問題だと思うのだが、
 国産のスピーカーのすべてが良いとは思わないが隠れた名品もあるはずだ、それを探し出して上手く鳴らす、これも一つのオーディオの醍醐味ではないだろうか、「舶来のブランド」も良いがこんな立派な「Made in Japan」の存在があるのを忘れてはならないと思う、私は声を大にして言いたい「昭和のレトロスピーカーをバカにするな!」と、

一度は言ってみたいセリフ
 ウェスタンマニア、最新の舶来のブランド志向で固めたスーパーマニアの天狗達のスピーカーシステムにこの部分の音が悪いとケチを付けたら相手はきっと「あんたのスピーカーは何処のスピーカーだ!名前を教えろ!」と目を吊り上げて怒るだろう、その時胸を張って「僕のスピーカーは昔のパイオニアです!」と言ったら「何んだ!国産か!」とバカにされお叱りを受けるか鉄拳が下るだろうなぁ、こんな連中に「一度は言ってみたいセリフ」だが怖くて言えないかも、

<<第14回へ 第16回へ>>
<<「私のオーディオ人生」表紙へ
キット屋倶楽部のトップへ戻る