キット屋倶楽部
私のオーディオ人生
Y下
by Y下
第21回 老兵は死なず、ただ消え去るのみ?
 ご無沙汰しております。第21回はハイテクカートリッジ対一世を風靡した老兵カートリッジの試聴になります。現代のハイテクカートリッジはずば抜けて凄いのかそれとも1960、70年代の兵(つわもの)カートリッジが良いのか独断と偏見で自分なりに答えを出したいと思っている。
 今回の表題は「老兵は死なず、ただ消え去るのみ?」ですがオーディオ機器に関しては消え去るのみにはならない、「復活あるのみ」第21回はコラムでご紹介しましたシステムを一部変更しての試聴になりますが個人的に判断する以上どうしても偏った答えになってしまうのと使用する機器によっては逆の結果が出る場合もあります。その辺を弁えて拝読して下さい。
 
MCカートリッジは昇圧トランスが決め手だ!
 以前のコラムに良い昇圧トランスがなければMCはやらないと書きましたが今回入手したトランスは私が聴いた限りでは三本の指に入る最高音質のトランスの一つです。
 ある雑誌の高名な先生がカートリッジはスピーカーユニットであり昇圧トランスはエンクロージャーと例えを言っていましたが私も同感です。いくら巷で良いカートリッジ(スピーカーユニット)でもお粗末な昇圧トランス(エンクロージャー)では本当の良さと魅力を十二分に引き出すことができない、
 今迄沢山の昇圧トランスを試聴してきましたがはっきり言って名前は伏せるがオリジナルと称するトランスや名ばかりの価格だけ高価なトランス類にはこれは良いと思えるトランスには一度もお目にかかったことがない、
 答えは簡単である。国産のトランスの場合は昇圧トランスのコア材はすべて国内で生産された同じような製鉄工場で作られ似たような材質のコアを使っているだけ、外観こそ違い中身は皆同じような代物だ、有名なMCカートリッジのオリジナル昇圧トランスも見栄えこそ良いがヨーロッパ、アメリカのトランスではなく所詮国産トランスであるからどれも似たような音である。
 ではどこのトランスが良いかこれは好みの世界になりますが私が試聴した限りでは「ウェスタンエレクトリックではWE−618B」「トライアッドトランス」「UTCトランス」この三つがベスト3だ、この3つのトランスを試聴しますとアナログの世界が激変するぐらい変わるのには驚く、ウェスタン、トライアッド、UTC、はともに業務用、軍事用トランスですからバラツキは少なく一般市販されているオーディオ用のMCトランスとは比較にならない高品質、高音質なトランスになる。
 今回入手したUTCトランスはアメリカ陸軍の通信用マイクトランスになります。多分有事の際に戦場での交信に使われたのではないかと思われるが戦闘中に交信している最中に上手く伝わらなくなれば生死に係わる。
 ※ウェスタンのWE−618Bもマイクトランスになりますが何でもWEなら良いと思うのは考えものだ、
 ※ウェスタンの製品は初期のタイプは自社で作られていたがそれ以降の製品はOEMで他社での製造になる。ウェスタンのトランスの場合はトライアッドにOEMで作らせていたのだがここのトランスも優秀である。
 
 UTCのトランスは大変信頼のおけるトランスでコアは多分パーマロイと思うが一部のアナログマニアの間では大変好評で高く取引されている。昇圧トランスに関してはコアが大きいほど低域の量感が増え安定感のある音になる。もしUTC、WE,トライアッドのトランスが手に入るようなら騙されたと思って手に入れて下さい。期待は裏切らないと思う、
 ※入手したUTCトランスは自分でケーシングして使用しています。
 
使用プレーヤー
 前回ヤマハのGTシリーズを使用したプレーヤーでしたが今回はプレーヤーケースから自作で製作しました。プレーヤーのケース台はホームセンターで購入した合板を寸法通りにカットして頂いて自分で組立ました。塗装はピアノブラック仕上げを採用、時間をかけて塗装をしてから最後はウレタン仕上げしました。プレーヤーケース蓋は透明アクリルの5mmを使い45度で止まる市販のヒンジを取り付け完成しましたが素人の作りでも自分では満足している。
 使用アームは前々回のコラムで飾り用のGRACE、G−565Fで実行長285mmのロングアームになります。昔は有名なSMEの3012を使った経緯がありますがあのアームは私が使用した限り「ちょうちんフグの錘」をぶら下げた遊び心はあるのですがパイプ共振があるためなのかガタがあるのか多少金属的な冷たい音が出ていた記憶を覚えています。確かSME−3012とマイクロトラックのウッドアーム304の二つをダブルアームのセットで聴き比べした時のその差に愕然とした、翌日SMEの3012はお払い箱、子供騙しのような作りは今でこそ興味がない、
 ヤマハのGTシリーズ、パイオニアのトンアームでPA−70を使ったタイプと今回自作したプレーヤーと聞き比べしますとGRACEのアームのためなのか苦労をして組立たせいなのか音のグレードがアップしたような気がします。

自作のプレーヤーでケースは集成材を使いピアノブラック塗装での仕上げになります。アームは有名なGRACEのG−565Fアームリフター付きでアーム台は自作で仕上げました材料は3mmの真鍮製になります。

写真では判りにくいですが5mm厚の透明アクリルカバーを付けました、アクリルカバーを付けないと遊びに来た孫に触られる恐れがある。また本体の前面、左右は真鍮のパネルを取り付けましたが何となく黒と金は仏壇のイメージになってしまった。
 
試聴用スピーカー
 スピーカーは最近購入しましたワーフェデールのSuper8−RS/DDで20pのダブルコーンタイプの一発での試聴になります。以前のコラムでワーフェデール社の30pの同シリーズを紹介しましたがボックスの容積不足と技量のなさのため最終的に失敗、その後「あのスピーカーユニットは三下り半」で追い出したが購入された方が鳴らしているのを聴いたが鳴らし方が悪いのかひどい惨めな音であったがこのユニットに対しての未練はない、
 今回は20pタイプですがボックスの容積は250リッターと十分すぎるぐらいあります。20pクラスのフルレンジならボックスの容積は70〜80リッターあれば十分ですがあえて初挑戦!ユニット実装後低域の量感が出過ぎのため吸音材の量やバスレフダクトの調整に苦労をしました、またユニットを長い時間エージングをしたお陰で期待した通りで20pとは思えないスケール感、緻密さ品位の高さはオーディオの概念を変えるぐらい見事に鳴り出したのは驚異だ、3WAY,4WAY等のクロスオーバーの繋がりの不自然さ、定位、バランス、音像全てにおいてフルレンジのがベターである。
 マルチでやっているハイエンド・マニアは馬鹿にするがスピーカーは20pで十分である。大橋氏が日記で書かれているようにスピーカーは「20pで始まり20pで終わる。」この名言は自作でスピーカーの苦労をしてきたマニアなら理解できるのでは、私もその通りだと思う、
 
今回のカートリッジ鳴き比べ使用機器
デノン DL−S1 
サテン M8−45  
SMEオルトフォン  
オーディオテクニカ AT−1 
B&O SP−12 
ソノボックス SX−2
以上の6個を使って比較試聴しました、
アンプは マランツ#7 SV−91B、Y下バージョン

使用レコード

ヤン・ラングレンのジャズレコードでピアノの音が素晴らしくしかも奥行き感を伴ったアナログの最高録音

珍しいヨー・ヨー・マのバッハの無伴奏チェロ、この音を聴きますとデジタルCDでは出ないアナログ独特な温かみと深みのある音に感動すら覚える。
 
独断と偏見の鳴き比べ
第1回戦 オーディオテクニカAT−1対SMEオルトフォン
 中学生のころに読んだ当時の雑誌の鳴き比べでほぼ互角は本当なのだろうか?不安と期待で鳴き比べて見た、まずはAT−1をヤン・ラングレンのレコードを使っての試聴だ、AT−1の音を聴くとやはり中域の厚みのある腰の強い鳴り方でヤン・ラングレンのピアノの響きとベースのはじく音が大変心地よく大人のジャズといった雰囲気が良く出ている。このカートリッジだけで聴いていると不満はまったくなく合格点を上げたくなるMMカートリッジだ、次にSMEオルトフォンに交換してUTCトランスを介しての試聴である。出てきた音はAT−1とは違いピアノのフェルト感が見事に再生された、音質、音色、音の躍動感と音楽性においてすべてオルトフォンに分があった、特に差が出たのはヨー・ヨー・マのバッハ無伴奏チェロだ、オルトフォンでしか聴けない奥行き感を伴った鳴り方は文句なしだ、このように比較するとあの当時の雑誌の批評は疑わしく騙された印象は免れないが冷静に考えると当時使用された昇圧トランスのレベルが低くかったのかそれともあの音の悪いトランス内蔵のSPU−GTタイプを使用したのかわからないがレベルの低いトランスでMCカートリッジを聴いてもその良さが感じ取れない、
 
2回戦、SMEオルトフォン対DENONのDL−S1の対決
 同じMCカートリッジでともに伝統のあるメーカーでありアナログマニアの間ではカートリッジと言えばSPUかDL−103ではなかろうか、今回はDL−103よりグレードの高いDL−S1を使ってヤン・ラングレンのジャズピアノの試聴の開始になった、出てきた音はずばりレコードの溝の全てを拾い上げる広告に偽りなしのカートリッジで価格も高いが出てきた音もそれなりにグッドだ、ただオルトフォンと比較すると残念ながら低域、中域のねばりはなくどちらかと言えばDL−103をグレードアップしたような鳴り方で現代的な音になっているが個人の主観としてはもう少し味付けのある個性があれば面白いのと多少CDを意識した音作りにも聞こえるが買っても損はしないと思う。
 オルトフォンは伝統のある腰の据わった鳴り方でじっくり聴いていると「シェル鳴き」を伴って聞こえるがこの「シェル鳴き」がオルトフォンの欠点でもあり利点でもあるのかも知れない。オルトフォンのSPUはGシェル、Aシェルに装着して聞くのがベストでこれを別のシェルに変えるとオルトフォンSPU本来の良さが後退する。今回使ったSMEオルトフォンはその昔ヤマハの店員から個人的に分けて頂いた古いタイプである。最近の新しいオルトフォンSPUは残念ながらその持ち味の良さが失われているのかオルトフォン愛好家は旧タイプを大切に使っている気持ちがわかる。針はそう簡単には減らないかわりにカンチレバー等の損傷には特に注意すべきだ、
オルトフォンもDENONも大変良いカートリッジだが何となくトランスの良さが前面に出てきているような気がする。

SMEオルトフォン、1971年ごろ日本楽器の店員からわけてくれた非常に珍しいSMEオルトフォンカートリッジ、

デンマークのB&OカートリッジでMMらしからぬ素晴らしい音楽を聴かせてくれた、

1965年発売のSATIN,M8−45Eカートリッジで当時の販売価格はオルトフォンより高い32,000円

前回のコラムでご紹介したオーディオテクニカのまぼろしのカートリッジAT−1

DENONのフラグシップモデルDL−S1カートリッジ、6N銅と純金による複合極細線発電コイル採用のハイテクカートリッジ
 
3回戦、オルトフォン、DL−S1,M8−45Eの三つ巴の対決
 同じMC同士の鳴き比べであるが先のオルトフォンとDENONの対決は私の好みとしてはオルトフォンに軍配が上がったが次に比較試聴するのは伝説のカートリッジメーカーのSATIN,M8−45Eになります。このカートリッジは1965年発売の大変高価なカートリッジでほとんど巷には出てこないのではないか、早速DL−S1との鳴き比べである。針をレコードに下ろした時点で針音が違うのがわかる。このM8−45Eもオルトフォン同様低域の厚みのある量感とテンションの高さがあります。大変音楽性に優れたカートリッジで聴いているだけで楽しくなります。このカートリッジは間接音で聴くタンノイのスピーカーとは相性があるような気がする。サテン音響でのリファレンススピーカーはタンノイを使って試聴を繰り返していたのではないだろうか、オルトフォンやサテンに代表される当時のヴィンテージカートリッジの音作りは女性に例えるなら日本女性の「ズングリムックリ」の多産型の健康体系でDL−S1や最近のハイテクカートリッジはスレンダーなモデルのような美人に当てはまるのではないか、私はどちらも好みになりますが皆さんは?
 DL−S1,オルトフォンとサテンの比較試聴ではサテンに軍配が上がる。その違いはSATIN,M8−45Eはオルトフォンの中高域の切れ込みがプラスされ歪感が少なく爽やかな響きになる。最高点を叩きだしたのはサテンM8−45Eだが出力インピーダンスの違いも有因しているかも・・・
 ※サテンのM8−45Eの出力電圧は1mmVしかないのでUTCのトランスを介しての試聴結果になりました。
 
4回戦・DL−S1,SX−2,SP−12の比較
 最後はMMカートリッジのSONOVOXのSX−2とデンマークのB&O社のSP−12(MI型)の三つの比較試聴になります。DL−S1とSX−2を聴き比べしますとSX−2はヴィンテージカートリッジの共通点である中域の密度のある鳴り方ですがDL−S1には一歩及ばない、B&OのSP−12はロケットのような外観ですがDL−S1を含めた国産のカートリッジにはない今迄聴いた事のないヨーロッパの上流階級の貴婦人的な優しい鳴り方、クラシックには合うがジャズだと品が良すぎて物足りない、同じデンマークのオルトフォンとは系統がだいぶ異なり大変面白いカートリッジで外観こそ気に入らないが手元に置いておきたいカートリッジの一つです。
 
カートリッジの聴き比べ最後に
 今回は6個のカートリッジの聴き比べでしたが私個人としてはMCならSATIN音響のM8−45E、MMならB&OのSP−12が良かったのですがシステムの構成が違えば評価は逆になる場合があります。また使用するアンプやスピーカーとの相性、使用する音源の差もありこれが絶対とは言い切れないのがオーディオの面白さがあるのではないだろうか、また古き良きステレオと呼ばれていた時代のカートリッジが現代でも立派に通用するのは凄いと思う。
 カートリッジの鳴き比べは自分がセットして自分だけが聴くのではなく仲間にセッティングして頂いて聴くやり方のがその違いは良く分かる。自分でセッティングしていると前の音を忘れてしまう恐れがあるから聴き比べは一人より沢山の方が居合わせて聴いて頂きたい、これはカートリッジだけでなくアンプ、スピーカーにも言えるから比較試聴の場合は是非このような聴き方をお薦めします。
 
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