第2話 音楽と飲食物の関係(2/2)

(補足)
 赤字:今回新たに書いた文章
 黒字:過去の文章からの引用

ヨハン・シュトラウスの喜歌劇「こうもり」の終幕で、ロザリンデが「みなシャンパンのせいよ!」と叫ぶ場面があります。そしてプッチーニの「トスカ」第2幕で警視総監スカルピアを殺したトスカが、テーブル上に残ったスペインのワインを飲もうかと手を出す場面、またモーツアルトの「ドン・ジョヴァンニ」第2幕で従者レポレロと一緒の場面でワインを飲むところ、ヴェルディの「椿姫」の開幕部で一同が「この楽しいひとときを酒で楽しもう!」と歌う場面、ワーグナーの「さまよえるオランダ人」の水夫の合唱部分で、陸地に戻った船乗り達が酒を飲むのを楽しむ場面、またヴェルディの「オテロ」で、イヤーゴが豪快に歌う「酒の歌」、ヴェルディの「マクベス」第2幕で、頂点に達した飲食の場面でマクベス夫人が乾杯を促す場面、マスカーニの「カヴァレリア・ルスティカーナ」の最後の場面でのトリドウの辞世の歌「お母さん、あの酒は強いね」、オッフェンバックの「ホフマン物語」の冒頭で学生達が酒を讃える歌、そしてワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」第1幕で両人が毒酒と思って、覚悟の上で飲み交わす場面等々。オペラには多くの酒の場面があります。思ったほど多くはないのですが、酒は音楽を楽しむ上で重要な要素と考え、ここで集中的に考えてみましょう。

まず、前節の食べ物に合わせるアルコール類を考えましょうか。今はドクター・ストップで飲んでいないのですが、何と言っても好きだったのは赤ワインです。ボルドーでもブルゴーニュでも構いませんが、特に産地を上げるならメドック産(ボルドー)でしょうか。重厚なボルドーと天才肌のブルゴーニュ。但しフトコロの都合で、多くの場合2500円以下のものしか買えない。これは味の濃いものほど美味しいと思います。軽いのは強烈なアピールに欠ける。でも大概の人は余り強くない赤ワインの方を選ぶので、不思議な気がします。ただし白から選ぶ時は少々困ります。一般的に辛口が好きですが、私自身の経験が浅すぎるため、余り良く分かりません。白というのは、普通の品は赤以下として扱われますが、特選の白だったら、それこそ天文学的な値段がします。甘口の白だったら、その時の気分によりけりですが、幾つか選べます。昔国産の甲州の中に素晴らしく美味しい甘口の白があったのを覚えていますが、いつもああではない。国産品の中にある山梨ワイナリー(サドヤ)にできる赤ワインに、素晴らしいものがあると聞きました。確かにその時は美味しいと思いましたが、今もそう思うかどうかは分りません。オーストリアの白ワインは値段も比較的安く、普段は半ば馬鹿にされていますが、味の方はそれなりに。オーストリアの同業者から現地のワイン・リストを貰いましたが、努力中というところ。むしろブルガリアの赤ワインの方に面白いものがありそう。

キュンキュンに冷えたシャンパンなら何時でも歓迎です。シャンパンそっくりのドイツ製のゼクトという手もありますが、味が少しきついのでは?またイタリアとかスペインのワインもありますね。あれも歓迎です。カーヴァ(スペイン)とかスプマンテ(イタリア)という名で、シャンパンに似た作り方のものがありますが、ものによりけり。またサングリアというスペインの地酒もワインの仲間ですが、味はまあまあ。白と赤がありますが、甘いし余り上質のワインでは無いようです。シャンパンはそれほど飲んでおらず、今まで正直言ってこの領域で一番旨い!といえるものにお目にかかっていない。値段だけが麗々しく張りますが、コストパフォーマンスが良く分からない。実際西欧人たちはワインを良く飲みます。オックスフォード大学の寮に寝泊まりしたことがあるのですが、あそこでは朝は別として昼食時にも夕食時にもワインが出ます。あれはオックスフォードとケンブリッジの伝統だそうです。そこの教授陣は近世まで結婚することを禁止されていたため、専ら食欲のみ先鋭化したのが、料理とワインに情熱を傾けた理由なんだそうです。また英国の昔厩舎だったところを改造した古いホテルに泊まったところ、その中ではアルコールを出していい時刻というのが設定されているそうです。パブ内部でのシキタリも含め、英国には様々なルールがある様子。

ワインの源にあたるギリシャ(クレタ)のワインも、少々松ヤニ臭さがありますが、飲めます。もともとギリシャやローマでは、ワインは生(キ)のまま飲むのでなく、水で割って飲むものだったのですね。またポルトガルのポルトー酒(ポートワインの先祖)や、スペインで作られたシェリー酒とか、マデイラ酒のような甘みのある酒。これらも、どれでも歓迎。オーストラリア産やカリフォルニア産、さらに南米のチリ産やアルゼンチン産もOK。寒くなってから収穫して作るアイス・ワインはカリフォルニア産で十分です。5ツの等級に別れるハンガリー産のトカイ酒もそうですが、あれは独特のクセがあります。でも美味しい!ワインの値段は大概ワケが分からないものですが、自分で売り場を回っていると、自然と相場が分かります。その代わりレストランでワイン・リストを見ると、確かコレくらいの値段だったのに店内では3倍も取られる!ということに気がつきます。やはりアルコール類は店の稼ぎ頭!。

イタリアにバルサミコという食酢がありますが、あれもワインで作ったものですね。最近あれを使った料理を幾つか覚えました。またマルサラという白ワイン。あのラテン諸国に散見されるような甘みの感じられる酒も皆ワインから作ったもの。ほんの少しだけシェリー酒を混ぜたりしたもの。それにしても、こういうアルコール類を昼間に飲めるようになる可能性は日本にあるのでしょうか。欧米ではアルコールの中でも、ワインとビールは別物だという感覚があるようですが、我が国では難しいかも知れません。交通規則上の問題もありますし。

ワイン以外の酒、つまり各種の蒸留酒なども大切です。シェリー酒は有名ですがあれが出たら次には肉料理が出るという印だから注意しろ、と言われました。またシェリーの謂われも知らなかった頃、ザンデマンのシェリー酒を、普通のワインのごとく飲み干していたのを思い出します。それでは甘過ぎますし、知らないということは恐ろしい例。イタリアからの訪問者はグラッパを抱えて来ますし、ロシア人は例のジャガイモから作るウオッカを抱えて来ます。このウオッカの特産地なんですが、ロシアとばかり記憶していたら、ポーランド人が不機嫌になりました。あれはポーランドの酒だと言うのです。考えてみれば、ポーランドはその東よりの土地をロシアに取られてしまったのですね。その瞬間に分からなかったので、ついなぜ?と聞いてしまいました。側に居たロシア人がどう思ったことでしょうか。宇宙ステーションではアルコールを持ち込むのは禁止なんですが、ロシアに対してはそういうオキテは効かず、それでロシア人から宇宙飛行士達が飲んでいるのと全く同一のウオッカ製品、というものを貰いました。ウオッカとしては結構な量の、ポリ袋入りです。韓国人からは例の朝鮮人参酒を貰いましたし、中国人からは老酒を貰いました。これらはいつ、どのような機会に披露すべきかを考えているうちに定年になってしまいました。ワーグナー「ワルキューレ」の中に、ジークリンデが客人のため蜜酒を用意する場面がありますね。あれこそ、ハネムーンの元祖。結婚したばかりの新郎新婦は洞穴にこもり密酒だけを飲んでしばし暮らした、という生活週間のなごり。当時はまだ今日のようなワインは無かったと思いますし、ドイツ北部では気候も少し寒すぎると思うので、どんな味がしたのでしょうか?

ウイスキー(バーボンを含む)の類いも色々あって、昔は私自身がおもしろがって海外免税店から買い集めましたが、結局は飲まず仕舞いです。あれは良い値段がついていて、主としてお土産に適していたというのが最大の理由です。またブランデーやコニャックも同様です。これこそブランデーと名が付けば何でも飛びついた時代もありますが、今では自分で飲むためだったら、シャンパンにします。またカクテルですが、結論を言うなら、マティニにつきると思います。ただもう少し甘いものを欲する時はマンハッタン、またテキーラを基にしたマルガリータにします。これだけあれば私には十分。まったくアルコールを飲めないというのも残念な気がしますから。

ビールはどうでしょうか。実はビールについては大学のドイツ語の先生に吹き込まれたことがあります。ある日ドイツ語の先生が教室に赤らめた顔で現れ、新聞を掲げて怒鳴りました。「 諸君、この写真をみましたか?これは国辱ものです!」というもの。それは来日したドイツのエライ人たちの公式の歓迎パーティで、日本側が用意したのが、ワインやシャンパンでなく、ビールだったことを示す写真でした。先生の説明では、ビールは労働者の飲み物だ、というのです(本来、両者は全く別の目的を持ち、それぞれ素晴らしい飲み物ですが)。そう言えば昔読んだ童話に、かわいい息子にはワインを持たせ、憎らしい息子にはビールを持たせた、という話を思い出しました。そういうものか、と思い、それ以来気をつけているのですが、大概の場合日本でパーティの際で出るのはビールですね。しかも大瓶から互いに相手方に注ぎ合う例の伝統的形式。私も現役時代に何度か外国人を歓迎するパーティをしましたが、そこでは無理してワインを主にし、またどうしても、という人のためにビールは個人用の小瓶にしました。そうしたら「何で小瓶なの?」という不満が日本人仲間から出ましたが「飲み物は各個人専用なの」と説明。ワイン・グラスなぞ無かったので、全部自分で揃えました。終了後にはそれらグラスは全て食堂に寄付。でもまた新しいパーティの必要があって、再びワイン・グラスを各種ワイン用に、またシャンパン・グラスや、リキュール・グラスも多数買い込みました。それで当分過ごしたのです。皿も全て本物のグラスや焼き物皿を買ってきました。米国 NNSAのお偉方達が見えた時は、共同宣言の採択を祝して、私の部屋の冷蔵庫内に常に冷やしてあるシャンパンで乾杯しました。

ビールも悪くないと思い、日本人だけの集まりではビールも出しましたが、原則私主催のパーティではワインが主流でした。1回のパーティにワイン15本程度。そういう時は1週間前からあちこちのショップで前菜になりそうなものを買い集め、車で運んだのです。当日は朝から(私は朝型人間なので5時に起き、6時台から働けます)オードブルの調理を担当しました。昼休みには近所のショップと3往復もして、色々な生ものを揃えました。飾り付けや、生花も自分で選びました。そのうち女性陣が助っ人になってくれたので感謝!出費は掛かりましたが、これも仕事の一環と観念した次第。これ以降、ワインは定着したように見えますが、タダのダンナ芸だった(きっかけを作ったとしても)かも知れないな、と思っています。海外では英国のビターが美味しい。コレ本当!今まで余り好みでなかったのは、中国の青島ビールと、メキシコのコロナ・ビール(柑橘類で注ぎ口を拭うビール)。ブラジルのCOSB機構を一人で訪問した時は、途中泊まった田舎の小ホテルで、およそ英語も通じず、身振りでビールを注文しことも。

飛行機内で出されるワインも昔は有料でしたが、今では各航空会社とも無料です。でも最近はそれも余り飲まないようにしています。昔ビジネス・クラスに乗ったことが(ホンの2〜3回だけ)ありますが、最初からシャンパンが出され、またあとでブランデーが出されるのをフルコースで飲むと頭がクラクラします。大概の場合はエコノミー・クラスですが、そこでdrink?と聞かれたら、最近は専らシュヴェップス(炭酸飲料)を飲むようにしています。昔欧州旅行に行った時、隣席の日本人のおばあさんが娘に会いにロンドンへ行くところだ、と言っていました。当時はアルコールは有料でしたし、私自身も金欠病でしたから、そこでトマト・ジュースを注文しました。そうしたら、彼女もまた弱々しい声ながらトマト・ジュースを注文したのですよ。一般論ですが、あの年代の方はトマト・ジュースは不得意だったんじゃないか、と思っている次第です。

一度だけ外部団体の依頼を受けて、団体にくっ付いて行ったことがあります。飛行機に乗る前から、日中の空港の特別待合室でビールと御ツマミを出されて仰天しました。おかげで飛び立ってから、頭が痛くなりました。ここまで洋酒の話ばかりでしたが、それに比して日本酒の知識は余りありません。昔一度飲んだ土佐産の辛口が美味しかったと記憶しています。東北の方が辛口の本場ですが。ようやく最近になって、吟醸酒と清酒の区別がつくようになりました。ああいう冷酒も案外良いですね。もっと勉強したいと思います。でも気をつけないと。というのは、私の親戚の中には元々資産家だったのに、酒に溺れてついに全てを無くしてしまった、という伝説の持ち主がいるからです。私は医者からドクター・ストップを外して可、と言われるのを楽しみに待っているところ。

このように酒は赤ワインの濃いもの、料理はソースをタップリ効かせた白身魚料理、及び各種ソーセージ料理(香草の香り高いドイツ・ソーセージでも、脂肪豊かな中華ソーセージでも!)、または日本の家庭料理の類い、を好むとなると音楽はどうなるのでしょうか。やはり脂ぎったようなソーセージはワーグナーを聴くのに相応しいし、赤ワインもそうでしょう。童話「くるみ割り人形」のストーリーの中に登場するネズミの王様が、脂の乗ったソーセージを好む、という話を思い出します。特に素晴らしいことでもあれば、コッテリしたソースをかけた魚貝類の生ものやフライを、シャンパンで食することになりそうです。その上で、今日はどんな音楽を聴こうか、と考えることになります。やはりワーグナーの曲、あるいはベルカント・オペラ?はたまたベートーベンの弦楽四重奏曲やバッハのミサでしょうか。それらの曲を聴く時に一人で音楽に集中するのか、それとも楽しさを共有するため友人達と一緒に聴くのとどちらを選ぶ?

(以下では、各地での食物との遭遇を中心に記します)

フォルテ マーク

宇宙用ウオッカ
宇宙用ウオッカ




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