第9話 皆と一緒のNY―オイスター・バーで

(補足)
 赤字:今回新たに書いた文章
 黒字:過去の文章からの引用


ここに記したのは商売を変える直前のニューヨーク訪問の記録です。これを最後のイベントとして、私は目出たくXX分野から卒業しました。そのあとは本来やりたかったCOSNに専念することになります。あらためて記録を読みますと、やはりニューヨークは忙しい街であり、年中飛び回っていなければならない場所なんですね。ここでは落ち着いてじっくりワーグナーを聴こうというのは、やはり奇特なことじゃなかろうかと。ここで最も相応しいのはジャズであり、さらにはミュージカルであり、またまた「強い声のベルカント・オペラ」の世界ではないかと思います。さあ、やってやるぜ、と言わんばかりの挑戦的な音楽こそ、此処でウケるんじゃないでしょうか。大変失礼な言い方ですが、昔シュワルツコップとフィッシャー=ディスカーウのジョイント・コンサートに、ニューヨーク中が熱中したという話は、あれはその「オタク」の世界だけのものではないか、と考えるようになりました。今日ではドイツ・リートは全くニューヨーカーにはウケません。昔考えていたのは、期待のしすぎ、良い予想のしすぎだったかも。ワーグナーがウケないのは、あれ、音楽自体が暗いからですね。影のある音楽だから。

昔ある評論家が「○○とニューヨークの哄笑」という題でエッセイを書かれたことがありましたが、あの意味がようやく分かったような気がします。なぜサザーランドが当初ここでウケたか、なぜニルソンやカラスがウケたかを考えると、それは絶頂期だったからでしょう。声の限りをつくしてオーケストラの大音量をねじ伏せ、聴衆の耳を麻痺させたのでは?もちろん、真面目な人もいますよ。でもシュワルツコップがウケたのも、それが一時的なものだったのも、全てこれで説明できそう。一口で言えば、声が全てなんです!なぜサザーランドの最後はロンドンだったか、ニルソンはなぜ一人スウェーデンに戻って亡くなったか、なぜカラスは。。。色々思い当たることがあります。衰えて声の最後期を迎えた時、それでもニューヨークから離れられなかった人達もいたはず。「ニューヨークの哄笑」とは旨く言い表したものだと感心しています。ヒマワリのごとく大輪の花を咲かせないと、ここではウケない。盛りを過ぎたり、始めから、か細い「りんどう」や小さな「すみれ」ではダメなんですね。絶頂期にある人だけ、ニューヨークでは大きな意義を持てるのかも。

フォルテ マーク

(下記は1995年の記録)
11月14日(火)
僕はまるでツアー・コンダクタ。雨の中を、ロックフェラー・センター経由でタイムズ・スクエアへ向かう。ともかく雨と風が強く、寒い。5番街からタイムズ・スクエアまで地理案内をしながら歩く。ブロードウエイを歩きながら各劇場前で出し物を告げると本物のブロードウエイだなあ、という声が上がる。何を最初に食べるかという問題は、米国らしいものを、ということでステーキになる。「テキサス・リブ・ステーキ」で食べた。ビールはライムで栓をした風変わりなコロナ・ビール。まとめて302ドルを払う。そこを出たのち、もっと安く食べたければ、と言って例のTAD'sステーキの店も紹介。

11月15日(水)
フロントでは7時からは日本食の朝食もありますと言っていたが、どうせ高いだろうと考えコーヒーショップの方へ。ロビーで逢ったKJM氏も同行。壁にパヴァロッティの写真が掛かっている。僕はオムレツとソーセージとトーストにしたが、KJM氏はスクランブル・エッグとフレンチ・トースト。KJM氏は前にベルギーで食べたソーセージがまずかったと話す。生っぽいと言うから多分イタリアン・ソーセージだろう。

昼食時にYYY機構のAdは近所の安いセルフ・サービス制のレストランを教えて呉れる。通常より遥に安く種類はたっぷりと言う。ヴァリック街に面し、YYY機構の隣のブロックにあるのだが、彼が入り口まで連れていってくれて独特の注文法を教えてくれた。独特というのは、ここはなんでも重量で値段が決まるのである。やたらと重たいパスタの類が多いのだが、肉、野菜、米料理、果物も多く、ビール(バドワイザーとマイケルラブ)なぞマグ当たりたった99セントである。ビール好きのKUM大学のYM氏につられ、NNN大学のTI氏とTS大のKJM氏を除く全員がビールをも注文。夜はミュージカルが跳ねた後、ウインター・ガーデンからホテルに戻ったのは夜11時半頃である。MM氏、KOJ氏と一緒にホテルのバーでワインを飲む。バーテンダーが帰ってしまった後もバーに居残り、12時30分頃に自室へ。

11月16日(木)
昼食時はまたAdと外に出る。昨日と違うレストランに行こうと考え、キングス・ストリート沿いのカフェに入る。皆が期待したビールをこの店では置いていないが、もう少しすればここでもビールを出すようになります、と愛嬌のいいウエイトレスが答える。ST氏は昼からステーキを選んでいた。YM氏はなおビールが欲しそうな顔をするので、2次会として昨日の量売り食堂に駆け込む。

夕食時、もう盛り場の食事はあきらめ、近いところで済ませることにした。レキシントン街を歩いて南下し、ほとんどレキシントン・ホテルの近くまで来て、少し横道に入った所にイタリア・レストランがあったので飛び込む。但しボーイが喋っているのはイタリア語ではなくスペイン語だった。当方は7人もいるし、適当に空いたテーブルがあったので、ここに決めた。まず2階のトイレを借用。飲み物はサングリアを勧められたからそれにする。きれいな色だったが甘過ぎた。XXX機構のMM氏がもっと強い酒を、と言ったらボーイはそれではと言ってお代わりを持ってくる。苦味の増したサングリアには何が入っているのだろうと皆で首を傾げる。後で聞いたらブランデーを入れたという。僕はシーザー・サラダと豆料理だけにしたが、それだけにしておいて良かった。シーザー・サラダは他の人の口には合わなかったようだ。それに物凄い量だ。MM氏はステーキにしたが、厚さ5cmもあるような代物だった。8時ごろレキシントン・ホテルに戻り、KJM、MM両名と一緒にホテルのバーに行く。KJM氏とMM氏は白ワイン、僕は赤ワイン。途中でTSM氏も加わってバーボンの水割り。各自、未来への夢を語る。

11月17日(金)
昼食はグリニッチ・ヴィレッジに出かける。好物のパストラミ・サンドイッチ(またはコーンドビーフ・サンドイッチ)をとりたかったのだが、なかなか適当な店が見つからない。裏道で骸骨の装飾のある怪しげなレストランをみつけ、サンドイッチもありそうだから決めようとしたが、何となく気味が悪くてもう一つ先のレストランBoxesにする。耳をくすぐるような声のウエイトレスのサービスで、気持ち良くサンドイッチを注文した。但しパストラミでもコーンドビーフでもない。3人がソード・フィッシュのステーキを注文したが、彼らはてっきりタチウオを想像したらしい。実際はカジキだったから巨大でぶ厚い肉片にウンザリする羽目に。ビールを取る。帰途アメリカ街から見えた「ブルー・ノート」をII氏に指差して教える。

夜は壮麗なグランド・セントラル駅の地下にあるレストラン「オイスター・バー」に行く。予約してなかったが、悪くないテーブルを取れた。さっそく生牡蛎を注文。僕はメイン州産の牡蛎にする。MM氏はプリンス・エドワード島産の牡蛎。要するに寒い所の牡蛎がおいしいだろうと考えたのだ。肉が薄いが味はよかった。しかしMM氏は広島産の厚い方がいいと言う。生レモンかチリソースをかけるのだが、僕は全部レモン汁にした。本当においしい。牡蛎であたる人はお気の毒。メイン・ディッシュはポーチト・サーモンにし、サラダを添えた。このサーモンはパサパサしてあまり感心しなかった。TI氏とKJM氏はロブスターに。これが巨大なロブスターだった。うしろにロブスターの生け簀があって、コックが重量を量りながら選びとっているのだが、たまたま注文の重さだったロブスターは可哀想に。ボーイはふとロブスターを客の後ろから差し出して脅かしていた。

飲み物はビールから。ブルックリン・ビールを注文したら今日はありませんというのでボストン・ビールに。牡蛎が来てからは白ワインのムスカデを3本。これはよく合う。デザート・ワインはどうしましょう、とMM氏と相談し、ワイン・リストに見つけたトカイ酒を注文。ボーイが僕のところに来て、これは120ドルですがいいですかと聞く。甘いワインだった。それほどコクがあるとは思えなかったが、KJM氏を始め各メンバーはこれはうまい!と賛嘆する。気に入って貰えれば何よりだ。いわゆる貴腐ワインの類だと思う。まとめてアメックスで払う。800ドルを越えたのでびっくり。

ホテルに戻ってから再びバーに。ここでK銀行を開店して各自の円と僕のドルを交換。交換レートは1ドル=100円にした。MM氏はスコッチの水割り、KJM氏はマルガリータ、僕はマテニを飲む。飲めないTI氏はアイスティーだった。明日は休みだから時間を気にしなくて済む。

11月18日(土)
5番街、マジソン街を歩いてレストランを探したが、この辺りで食べられる場所は稀れだ。空腹で皆の顔つきも悪くなるし心配だ。ともかくビールの飲める所を、という御希望を考え、結局、午後の予定だったメトロポリタン美術館のレストランに入ることにした。ここも有料化されていた。II氏はここは高価だからと言ったので、レストランではなくカフェテリアの方へ。セルフ・サービスでパスタとフルーツとビールをとる。混んでいたので各自バラバラで、僕はMM氏と一緒に先住民のいたテーブルをシェアした。ビール瓶の栓を開けられないので、ボーイを捕まえて開栓して貰う。

(次回はプラネット・ハリウッドという、噂のバーに行きます)

フォルテ マーク




 <<第8話へ イラスト  第10話へ>>
音楽のすすめに戻る