音楽のすすめ 第4章

2008.5.16

概要(2/5):
源氏は須磨海岸と明石海岸へ漂流。そして帰京後は藤壷中宮との連合軍結成。やがて明石君から姫を奪い取り、中宮立后の日へ備えます。着々と進む源氏復権の日々。そして六条院の建設。

3-2:源氏物語の音楽第2部
12.須磨(フランク:ヴァイオリン・ソナタ第3楽章)
(プロット:源氏は京と別れ須磨に行く決心、出発の2‐3日前に左大臣家へ挨拶、頭中将も来る、源氏ニ条院に帰る、無紋の衣装で挨拶、源氏は行く前に全財産を紫上へ譲る、源氏は尚侍へも手紙、藤壷の入道宮にも、源氏は北山墓所の桐壷帝の墓に参る、舟で京を出る、須磨の浦に到着、源氏は方々へ手紙、伊勢に居る六条からも返事あり、朱雀帝は騒ぎの中心人物たる尚侍君に対しその涙は私のためか源氏のためかと問う、源氏は須磨の絵描く、太宰大弐が帰京時に舟で通りかかり同船していた五節姫からも源氏に手紙、手紙の往来に弘徽殿怒る、明石入道の隠れた野望は娘の出世、入道の叔父は桐壺御息所と親戚だった、頭中将が須磨に来る、帰ったあとで嵐)
観念した源氏は須磨に退く決心。無紋の服を身に纏った源氏は一つずつ処理して行く。頭中将が周囲に構わずやって来たのを供応。音楽は11節までとはガラッと変り、フランクの切ない旋律が相応しい。源氏は煩悶しているが、これを栄養として、後の自分を形成しようと周到な計画を練る。


13.明石(フランク:ヴァイオリン・ソナタ第2楽章)
(プロット:京では嵐が数日続く、須磨でも廊に落雷、桐壺帝源氏の夢に出る、夢の通り舟が明石から来る、明石の地へ源氏は舟で移る、入道は熱心だが明石君は嫌がる、明石君は山側にあるもう一つの邸へ逃げる、源氏の衣装は入道が面倒見る、入道は琴を奏じ明石君の事を源氏に告げる、源氏明石君に手紙、それを入道待ち構える、帝は眼を病む、源氏は明石君を呼ぶが来ず、逆に源氏が明石君を訪問、その印象六条にそっくり、源氏は紫に気を使いしばし明石君を尋ねず、都より免罪の達しあり、源氏は毎日明石君を訪問、明石君は琴を初めて源氏に聴かせる、明石君の琴の音は冴えている、京への帰途時に源氏は難波でお祓い、源氏は権大納言に復帰する)
須磨に移り、六条御息所と良く似た娘(明石君)の存在を知る。紫に気を使いながらも、明石君に夢中になっていく。やがて帰還することになり、その際は人々に因果応報を思い知らせようとする。この音楽は誰に何をどうするか戦略を練っている時の源氏の心情を表す。前12節よりも、もう少し力強さを持つ音楽が相応しい。

14.濡標(ヴィヴァルディ:四季〜冬1)
(プロット:須磨退去騒ぎを起こした尚侍君も源氏は頼りにならないと自覚、朱雀帝から冷泉帝へ譲位あり、源氏内大臣に、旧太政大臣は復帰し摂政に、明石で女子誕生の知らせ、源氏は宣旨の娘を明石姫の乳母係として送る、紫は妬いて琴にも触れない、藤壷前中宮は女院と称す、源氏は自分の須磨退去の際に冷たかった兵部宮卿(紫の実父、後に出る蛍兵部宮とは別人、後の式部卿宮)に冷淡、源氏は住吉へお礼参り、たまたま来ていた明石君は源氏に会わず退く、伊勢斎宮が京に戻る、一緒に帰った御息所は病気で尼に、御息所の死、源氏は六条御息所の娘の前斎宮を女御にしたいと藤壷女院に相談)
全てが元通りになり、しかも源氏本人は内大臣に、また明石の地では女子誕生す。源氏はここで目をギラつかせる。紫の嫉妬も気にせず。藤壷女院も権力を復帰させ、変身する。ここで女院と源氏の連合軍が結成され、今後なりふり構わずやり通して行く決心。既に源氏にとって過去の人である六条御息所は、帰京後に死す。ヴィヴァルディの「冬」のチェンバロをしみじみと聴いて欲しい。

15.逢生(ヴィヴァルディ:四季〜夏2)
(プロット:末摘花わび暮らし、庭は荒れ野草や近所の牧童の牛の放し飼い、叔母(北の方)が末摘花を呼べど末摘花は太宰府(「須磨」に出た太宰府大弐とは別人)に行かず、代わりに若女房の侍従が太宰府へ、花散里を訪れる途中で源氏は末摘花邸に立ち寄る、末摘花邸で惟光は露を払って通路を作る、末摘花ニ年後に東院へ移る、太宰大弐の北の方これに驚く)
夢疑わず源氏を待ち続けた末摘花は源氏に救出される。草の茂る、荒れた屋敷を尋ねた時の音楽。所詮は我々自身が末摘花と同等なのだろうが、どうすれば良いか源氏も我々読者も煩悶する音楽。以降源氏は本心を偽るが、心は揺さぶれたはず。例えどんな照れ隠しをしても。

16.関屋(ベートーベン:弦楽四重奏作品131第7楽章アレグロ)
(プロット:常陸守だった伊予守は空蝉と一緒に帰京、源氏石山寺お礼参り、伊予守は源氏失意の日に挨拶無しに常陸に下った非礼を詫びる、空蝉は未亡人になる)
かつて逃げた空蝉だが再会を果たす。昔自分に非情だった人びととも逢う。その際複雑な、屈折した感情を抑えて再会する。強い意志が必要である。空蝉の持つ強い意志を表すのは弦楽四重奏曲しかない。

17.絵合(ヘンデル:ハープシコード組曲G短調パッサカーレ)
(プロット:前斎宮が入内、藤壷女院が帝に入れ知恵、前斎宮女御と新弘徽殿女御の絵競争あり、絵競争では帥宮が判定、前斎宮女御が勝つ)
静かな世界の裏側では凄まじい陰謀が進む。藤壷女院と源氏の連合軍は斎宮女御(六条御息所の実娘で源氏の養女)を押し進め、他を蹴散らす。激しい嵐の前の音楽。源氏の有無を言わせない強い意志が現れる競争の場。力強いハープシコード(チェンバロ)の音楽が相応しい。

18.松風(モーツアルト:フルート四重奏イ長調K.298第2楽章)
(プロット:二条院に東院を建て西対に花散里を移す、東対は明石君を予定したが明石君はそこに行かず、明石の人々は中務宮(入道の妻である尼君の先祖)の大堰の屋敷を思い出す、明石君は大堰の川のほとりに移る、明石の海岸に似ていると思う、この移動に尼君同道、源氏大堰に明石君を尋ねる、源氏は桂院に設置中の仏像の監督のためそこに逗留(という名目)、その滞在中に殿上人達は京から源氏をお迎えに来る、源氏は桂院から大堰の明石君に使いを出して引き出物(被け物)にする衣類を所望す、姫がいることを紫に明かす、源氏は嵯峨野念仏に月2回行く)
ようやく明石君は都に出て来る。源氏としては何としても姫を渡して欲しいのだが、そのことは明石君も知っている。余りに政治的な取引であり、その材料を揃えようという源氏の姿勢は明らか。音楽は先を見越した軽快なものだが、明石君の心は寂しい。しかし明石君は耐える決心をする。

19.薄雲(モーツアルト:レクイエム冒頭)
(プロット:明石君もニ条院へと誘うが断る、明石姫を引き取り、源氏は明石君を見舞いに大堰に、明石君の琵琶を聴く、このころ太政大臣死、藤壷女院も死、冷泉帝誕生の秘密を夜僧が冷泉帝に漏らす、源氏は恐縮し譲位も親王復帰の打診も断る、六条御息所の娘の前斉宮女御は秋を好むと聞く、源氏また明石君のいる大堰に行く)
源氏は明石姫を手に入れる。ここで藤壷女院は死去。とたんに源氏は藤壷女院との約束を心の内で破ってしまう。また六条御息所の娘を引き取って世話をする。即ち、あらゆる事を想定して源氏は着々と自らの野心達成の準備中である。その心は寂しくも激しい。藤壷女院にレクイエムを捧げよう。

20.朝顔(ヴィヴァルディ:四季〜春2)
(プロット:桃園の式部卿宮が亡くなり前齋院の朝顔宮はその桃園に移る、源氏との結婚を勧める女五宮の言にも朝顔宮なびかず、源氏は朝顔宮の手蹟(筆使い)を藤壷入道宮と六条御息所と比較する、そして朝顔宮だけが残っていると回想、紫は不機嫌、桃園では錠が錆び付いたのを下男開く、源氏は紫のご機嫌を取る、源氏は藤壷女院の教養深さと尚侍の気配と明石君の気位高さを比較、源氏は空蝉を慎ましいと表現する、秘密を漏らした源氏は藤壷女院から恨まれる夢を見る)
朝顔宮にも手を出そうとしたが源氏は失敗。夢の中で藤壷女院が源氏を恨む場面あり。もうあとには引けない。源氏はひたすら予定路線を突っ走る。もはやこの状況ではヴィヴァルディの気だるさが相応しい。

21.乙女(モーツアルト:ピアノ協奏曲第21番第2楽章)
(プロット:朝顔宮が喪を解く時源氏より品々届く、女五宮は朝顔宮に源氏との婚礼を勧める、夕霧は六位になるがその低い位を嫌がる、源氏太政大臣に、梅壷の前齋宮(六条御息所の娘)が中宮にたつ、大宮(故太政大臣の妻、桐壺帝妹)は内大臣から明石君が琵琶の名手と聞く、雲居雁と夕霧の間の噂広がる、夕霧は女房等が六位の婿なんてと言うのを聞く、宮中は今年の新嘗祭節会のために五節の姫達を選ぶ、夕霧いっそ五節姫の一人たる惟光の娘ならと思う、源氏は夕霧を花散里に預く、元旦に太政大臣は参賀しなくて可、逆に白馬等が六条院に巡回されて来る、朱雀院へ行幸ありその帰路に大后(元の弘徽殿女御)邸に寄ったら大后喜ぶ、現式部卿宮(元兵部卿宮、紫の実父)が50歳になったので源氏祝う、六条院完成す、六条院に女君達移る)
源氏は朝顔宮を諦め、自らは太政大臣になり、梅壷の前齋宮は中宮(秋好中宮)になって、着々と準備が進む。六条院完成して女君達が移り始める。明石君も六条院の冬の御殿に移る。これで源氏の舞台は完成したが、夢の実現まではあと一歩。心地良いが実は寂しいモーツアルトの音楽が相応しい。




 




まとめ:「源氏物語」は無事に『須磨帰り』せず、ここにたどり着きました。ここでは気分が高揚し各時期では戦略が匂います。音楽は少し上質なものになった様に響く。特にフランクのヴァイオリンは奏者を選びたい。また「関屋」は空蝉との宿命の再会の場ですから、それを表す背景の音楽は大切なもの。しっかりした音で再生したい。互いに緊張して会うのです。それは空蝉だけでなく、源氏もです。緊張した弦楽四重奏曲作品131を響かせて欲しい。続く「絵合」におけるハープシコード(チェンバロ)は、畳み込むような音が生命。そして「松風」のフルートは単なる場面転換ではありませんので、じっくりと味わいたい。

(次回は「源氏物語」の音楽第3部として「玉鬘」〜「藤裏葉」の原稿をお届けします)




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