音楽のすすめ 第4章

2008.6.3

概要(4/5):
ここでは斜陽期に入った源氏を描きます。娘を皇太子妃に立てることに成功したのに、なぜか満たされぬ源氏。そして女三宮の降嫁と、不義の子を見つめる源氏。周辺にいた数多い女君達は次々と出家して源氏の周辺から消えます。そして紫の死で呆然となる源氏。

3-4:源氏物語の音楽第4部
34.若菜上(モーツアルト:「ドン・ジョバンニ」序曲)
(プロット:朱雀院の悩みは娘の女三宮の行方、院の剃髪、朱雀院より女三宮の降嫁を打診された源氏は受諾してしまう、内親王を正妻に迎える話に一瞬期待、降嫁の件を紫に打ち明ける、紫はにっこりと受諾するが内心傷つく、源氏40歳になった祝いを受ける、そのため若菜を供す、女三宮が六条院にお輿入れ、源氏は通例どおり三日間通う、紫は涙を隠す。女三宮の返歌の幼さに失望、がっかりした源氏は前尚侍と密会を繰り返す、源氏40賀を紫/中宮からも受ける、紫はショックを受けながらも女三宮と親しく接す。明石尼君は明石女御に出生経歴を話す、明石女御は男子出産、明石の地ではそれを聞いて入道安心して世を捨てる、明石君は娘の明石女御に入道直筆の「願文」を見せる、明石君は激しく泣く、六条院で蹴鞠の会あり。女三宮の唐猫の首縄が簾に引っかかり隙間より柏木(衛門督)は女三宮を一瞬見てしまう。柏木たちまち恋に陥る)
源氏はさらに何を望む?女三宮降嫁の話に乗ってしまう。ただし、その結婚にがっかりすると今度は前尚侍と密会を再度することに。明石の尼君はつれづれに、明石女御に出生の時の出来事を話す。悩むのは明石女御。それでも源氏は着々と手を打ち続ける。つまり次回の天皇に公然と、自分自身の血統を据えようと決心したからである。このバチ当たり。「ドン・ジョヴァンニ」の悲劇性に焦点を当てた音楽が相応しい。

35.若菜下(ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」第3幕序曲)
(プロット:六条院で賭弓の会あり、柏木は東宮をだまして女三宮の猫を入手、柏木は猫と寝て女三宮の代わりに可愛がる、蛍兵部卿宮はそれほど関心の無かった真木柱と結婚、冷泉帝退位する、髭黒大将は右大臣になる、明石御息所東宮妃に決定、これで明石一族は住吉神社にお礼参りと願解き、縁起が良いので近江君は賽をふるう時「明石尼君、明石尼君」と言う、朱雀院50歳の賀に女三宮の琴を聴かそうと女楽を計画する(女三宮は琴を、明石女御は箏の琴を、紫は和琴を、明石は琵琶を担当)、源氏は後で紫と感想かわす、紫は明石君が余りに完璧だったからこちらは恥ずかしくなってしまうという。紫はここで出家を願うが拒絶される、紫は発病して二条院に移される、柏木は落ち葉宮と結婚、柏木は加茂祭前日に女三宮と会う、柏木のぼせ女三宮と情事、源氏は紫に六条御息所の生霊が取り憑いているのを見る。それで源氏は秋好中宮の世話をするのも嫌だと思う、夏の間紫は息が僅かしかない、女三宮は柏木からの手紙を源氏に見られる、源氏はその内容に驚愕する、源氏自らを振り返って恐ろしくなる、朝顔の前斎院と朧月夜尚侍は夫々勝手に出家してしまう、朱雀院の50歳の賀の試楽に源氏と柏木は同席する、源氏は柏木に冷水を浴びせるような言動、柏木は次第に病気になって行く)
明石女御は東宮妃になり、いよいよこれで大願成就する。ところが好事魔多し。柏木と女三宮が密通。それを源氏は知ってしまう。大変な場面の到来。ここではトリスタンの深い悩みを聴きたい。どうやって心の平安を得るか。

36.柏木(マーラー:交響曲4番第3楽章)
(プロット:柏木の病状はますます悪化、次々と自分の過去を思い出す。死んでしまいたい、死は全てを浄化し、誰も傷つけないだろうと。女三宮は源氏を恐れる、女三宮から柏木に「思い乱るる煙くらべに」という手紙が来る、女三宮出産、源氏は男の子は世間に顔をさらすからと余計な心配をする、盛大な祝いだが源氏は華やかになれず音楽遊びもしない。源氏は薫をまともに見ようとせず、女三宮は源氏に出家したいと言う、世間の目にとまる前に病気にかこつけて出家させようかとも考える。朱雀院は六条院を訪問、朱雀院に女三宮は涙ながら出家したいと訴える、源氏あわてて止める、ついに朱雀院の手で女三宮は出家、朱雀院は源氏に尼宮(女三宮)の生活の面倒を見るように頼む、六条御息所の物怪が現れ嘲笑しつつ去る、柏木の病気はさらに進む、夕霧見舞う、親より先に死ぬのは不孝だし源氏の自分に対する態度は気がかりだと柏木は夕霧に言う、柏木の死、夕霧は柏木と尼宮間の真実を想像する、柏木の父大臣に会うと悲しみのドン底にいる、夕霧は柏木の正妻の落ち葉宮の母御息所を訪問、夕霧は未亡人になった落ち葉宮に興味を持つ)
柏木の病状は悪化してそのまま死去。源氏は当初薫を抱こうともせず。悲劇の始まり。源氏は産まれたのが男の子で皆が顔を見るので、困ったことと思う。この段階では柏木にとってそういうことはどうでも良いのだが、マーラー4番の悲しい旋律こそ相応しい。哀しみは通奏低音のごとく。

37.横笛(マーラー:交響曲5番第4楽章)
(プロット:源氏は柏木の死後一周忌に多額の寄進(黄金100両)をする、尼宮へ朱雀院は筍を贈る、源氏が来て朱雀院から尼宮に宛てた手紙を見る、源氏は女三宮を尼にしたのに罪悪感を覚える、筍は薫が這い出て食す、夕霧はウスウスこの不倫に気づくが黙っている、落ち葉宮の母御息所は見舞のお礼にと夕霧に横笛贈る、夕霧の夢に柏木が出て笛を伝えたい人は別の人だと言う。源氏は横笛の由来を夕霧に説明し自分が預かりたい様子。源氏は笛の由来をここで打ち切ってしまい夕霧も追求せず。落ち葉宮は琴を巧みに弾き音楽の才能があると朱雀院は判断していた。チョッと弾いた琴の音は深みあり、夕霧が落ち葉宮の所に行ったと女房が告げ口、雲居雁はそ知らぬ顔で通す、若君が夜起きて泣き雲居雁は夕霧に愚痴を言う。六条院に行くとニ宮と三宮が互いに張り合っている。尼宮の子の薫もそこに加わる。柏木の父大臣は誰か落し子だと名乗り出て来ないかと言う。)
落ち葉宮の母御息所は夕霧に横笛を形見として渡す。悲劇は続く。哀しい歌が欲しく、このアダージェットこそ最適である。

38.鈴虫(シューベルト:交響曲未完成第2楽章)
(プロット:夏に尼宮の持仏開眼の会あり、殆どのものを紫が準備する、朱雀院は尼君に六条院でなく三条宮に住んではどうかと勧めるが源氏は反対、ただし諸々の宝物は三条宮の蔵に収める、尼宮は御殿で源氏と鈴虫を聴く、宮中の月見宴が中止になったので殿上人たちもゾクゾクと六条院へ来る。そこへ冷泉院より鈴虫の宴をしようとお召しあり。そして源氏は冷泉院に出掛ける。秋好中宮(実際には恐らく皇太后)は母六条の受けている苦しみを源氏に話す、秋好中宮は自らの出家を願うが拒否される)
源氏には不安の要素が加わるが、兄院も見かけ上大切にせねばならず、悶々。源氏が夢みた王国はこのまま未完成に終わるのか?秋好中宮の出家は止めることができたが。話の進行がダイナミズムをやや失っている。だからこそシューベルトの「未完成」が相応しい。

39.夕霧(モーツアルト:交響曲25番第1楽章)
(プロット:ここは本筋とは余り関係が深くないが夕霧の性格を詳しく記述したもの。柏木の正妻たる落ち葉宮と母御息所の住む小野山荘に夕霧は何年も通う、雲居雁は勘ぐる、ある日落ち葉宮の裾を夕霧は引っ張る。夕霧は落ち葉宮に男女の仲を知らない訳でも無いでしょうと訴える、出入りの律師は落ち葉宮の母御息所に夕霧を見たがと問う、皇女の誇りを持って落ち葉宮は夕霧を拒絶、夕霧は母御息所からの手紙を雲居雁に背後からサッと取られる、4畳半風の世話物騒ぎ、雲居雁は子供達をあやす、子供達は読書や人形遊び等全く今日的な風景を目前で展開、夕霧はやっと手紙を取り返す、2晩続けて夕霧は小野山荘に行かず、落ち葉宮の母御息所は誤解したまま失意のうちに死す、死後49日の法要は夕霧が世話する。落ち葉宮は京の一条邸へ戻ることに、源氏はこの夕霧の騒ぎを若いから良いじゃないかと思う、夕霧は主人顔をして綺麗にした一条邸で落ち葉宮を待つ。世間がこの騒ぎを周知、雲居雁に子供達まつわりつく、雲居雁は自分は鬼だと言う、雲居雁は庶民的に騒ぐ、のち機嫌直す、落ち葉宮はあくまで夕霧を拒み塗籠に鍵を掛けてこもる、女房が塗籠の戸を開けて夕霧を中に入れる、落ち葉宮は声を上げて泣く、しかしそのまま一条宮に夕霧達は住みつく、雲居雁は怒って実家に戻る、この騒ぎに元五節姫は雲居雁へ手紙出して同情す)・・・[自注]結局夕霧は雲居雁と落ち葉宮と半分ずつ通うことで決着した。
夕霧と落ち葉宮の騒ぎ。ここに源氏は間接的にしか出て来ない。そして何ということ、と雲居雁は呆れて実家に戻ってしまう。こういう4畳半風騒ぎは昔からあった。この世話物の歌舞伎を見るような家庭騒動は今日的。いつの時代もこういうことは起きていた。不甲斐ないのは夕霧。でも、心に平安を得るためモーツアルトを聴こう。

40.御法(ワーグナー:「タンホイザー」第3幕第3場終幕)
(プロット:紫は出家したがるが源氏許さず、紫はニ条院で法会、長年書いた経を収める、準備万端を紫がする。紫は明石君/花散里と手紙で歌のやり取り、明石中宮と夏にお別れを言い気を失う事も、男三宮(匂宮)にニ条院を譲る、秋に明石中宮が来ている最中に紫の死、紫の死顔を夕霧はじっと見つめる、これが夕霧が紫の顔を見た最初、紫の死後出家の儀式、鳥辺野で葬送、源氏はナムアミダブツを言うのみ、前大臣(頭中将)も来る、源氏は秋好中宮からの手紙を見てこの人だけ残ったと言う、源氏は紫の死後7日毎の法事も処理できない程落ち込んでいるので夕霧が代行す)
とうとう源氏も年貢の収め時がきた。紫の死。他の女君達、前内尚侍も朝顔宮もみな消えてしまった。壮大な源氏の築いた伽藍がくずれ始めた。ここで源氏は真剣に、自分が歳を取った老人であることと向かい合う。そしてこの世の栄光など、この程度のものだったのかと、分かったはず。抜け殻になった源氏の姿。「タンホイザー」の終曲部こそこの場面に相応しい。

41.幻(モーツアルト:レクイエム「ラクリモサ」)
(プロット:悲しさに満ちた春、源氏は紫は全て知っていたのだろうと察す、年始客は多かったが源氏は蛍兵部卿宮にしか逢わず、源氏は紫が尼宮の輿入れ当時をどう思っていたか想像す、紫はあらゆる人に気を使う人だった、明石君もそれを理解していないだろうと源氏、夕暮れに源氏は明石君を訪問、明石君の御殿で夜遅くまで過ごすが泊まらず帰る、花散里は夏の着物を届けてくる、ホトトギスの声を聞きながら夕霧と話す。源氏は出家の準備をする、源氏は須磨時代の紫からの手紙を焼く、12月19日から3日間の御仏名会の祝儀を用意。恐らく来年は出家するのでこれが最後の正月の準備)
もはや誰にも興味を持たず、どんな地位にも興味なく、ムダな人生だったと嘆く源氏。モーツアルトの「レクイエム」よりラクリモサを聴こう。

42.雲隠(バッハ:トッカータ ハ長調 BWV564より アダージョ、チェロ版)
(プロット:なし)
本来ここは何も無い空白部である。しかし源氏のイメージを追っている我々としては、何かを入れて保存したい。昔聴いたバッハのトッカータこそ相応しいだろう。但しオルガンよりチェロのソロで聴きたい。

43.匂宮(バッハ:管弦楽組曲第3番アリア、チェロ版)
(プロット:「源氏物語」の後始末の物語。匂宮(匂兵部卿宮)はニ条院に、明石中宮腹の女一宮は六条院の南東対に移る、同様に女ニ宮は宮中では梅壷にいるが六条院では南寝殿に移る、また花散里はニ条東院に移る、さらに尼宮は三条宮に、落ち葉宮は六条院夏町へ、明石君は六条院と二条院の皆の世話をすることに、薫は冷泉院の養子になる。夕霧は落ち葉宮の住む六条院と雲居雁のいる三条宮に毎月15日ずつ通う。薫中将に昇進、薫の体は自然に薫る、匂宮それに香料で対抗す、冷泉院の弘徽殿女御の産んだ女一宮は素晴らしいと評判で匂宮は狙いを定めている、賭弓の競射の宴が六条院で開かれ大概の者は集う)
既に人々は交代してしまった。殆どの主役級が退場したが、それでもこの「源氏物語」は続く。ゆったりした管弦楽組曲のアリアこそ相応しい。ただしチェロで。他の人達はどうだろう、と思える箇所。

図:各御殿の広さ。長さ等はあくまで概算で、住人名は源氏の死の前後が入り混じる。(自作、2008年)
図:各御殿の広さ。長さ等はあくまで概算で、住人名は源氏の死の前後が入り混じる。(自作、2008年)

44.紅梅(マーラー:交響曲「大地の歌」第6楽章)
(プロット:将来の主人公を紹介する物語。真木柱と故蛍兵部卿宮の間にできた遺児の物語、宮御方は亡蛍兵部卿宮から莫大な遺産を受け継いでいる。真木柱は按察使大納言と再婚して一の姫君を東宮に出す、真木柱は宮中で後見役を務めている、按察使大納言は自分の所の中姫君は琵琶の稽古が足りないとこぼす。また琵琶は夕霧がうまいが薫や匂宮はバチさばきが弱いという意見を出す。匂宮は梅枝を中姫君を売り込みたい大納言から受け取るが実は大納言と血の繋がらない宮御方の方に関心あり。真木柱は宮中から戻り匂宮は良い匂いがするという。匂宮は宮御方との間を取り持たれるが宮御方返事せず。真木柱は匂宮が宇治八宮の姫に通う噂に悩む。宮御方は返事をするのを嫌がるので母が代筆して匂宮に渡す)
このあたり、少し未消化である。薫と匂宮の成長を待っている感じ。この先の展開の見込みが乏しいので、「大地の歌」の終楽章が合うだろう。

45.竹河(バッハ:「マタイ受難曲」埋葬より終曲の合唱)
(プロット:玉鬘を総決算する物語。髭黒太政大臣が死んで玉鬘尚侍は未亡人に、旧太政大臣家の威光は衰えている。玉鬘は薫を婿にと考える。18-19歳の玉鬘の娘は冷泉院よりお輿入れするよう言われる。玉鬘は弘徽殿女御が快く受け入れて呉れればと夕霧に言う、玉鬘の大姫君は山吹色に例えられ妹君は清楚な感じ、姉が夜更けてから院に出仕、なお冷泉院は玉鬘に会えなくて不機嫌。冷泉院は相変わらず玉鬘に関心あり、大君懐妊、新年に男踏歌があって薫は歌頭に選ばれる。男踏歌は宮中から冷泉院そして秋好中宮へ。その年大君は女宮を出産、数年後に男子を出産するが余り目立たない。玉鬘は尚侍職を中君に譲る、帝は大君を逃して不機嫌、弘徽殿女御も秋好中宮も不機嫌になる。玉鬘は八方塞がりを嘆く、息子達もまだ殿上人になっていないし。何もかもままならない世を嘆く)
もし新皇子が親王宣下を受けるなら、これは伏線ともなり得る。あらゆる不機嫌を身に浴びて、玉鬘は自らの不幸を嘆く。もうイヤになった。マタイ受難曲を聴こう。今までに紹介されたあらゆる事件は、皆夢の出来事として済むのなら、そうしたい、と願ったはず。それは源氏自身が追いかけて、追いかけて、ついに手に入らなかったものと同じ、それが非情な形で露になった。




 




まとめ:ここで晴天の霹靂とでも言える事態が発生。女三宮の降嫁。源氏はここでまた計算し、自分の上昇志向と合う結婚を受諾してしまいます。紫は奪い取ったもので正妻ではありません。葵以後に源氏の正妻は不在のままで、候補者だったのは六条御息所、朝顔齋院、朧月夜尚侍のみ。紫は賢明に振る舞うが不安と寂しさを隠しきれず。その心境を「ドン・ジョヴァンニ」序曲で表したいと思います。おまけに女三宮は源氏の子でない子を産みました。愕然とする源氏。畳み込むように「トリスタンとイゾルデ」第3幕序曲で深々とした低音で悩みを聴きましょう。是非大型のスピーカーで聴いて欲しい。マーラーの交響曲4番や交響曲5番はこの時の源氏の心境を表します。そしてワーグナー「タンホイザー」終曲部に達します。ここで要求されるオーディオ機器は本格的なものが必要。そしてここで紫の死にあいますが、後始末の音楽としては「ラクリモサ」以外に思いつきません。そしてチェロ独奏版のバッハ「トッカータ ハ長調」を聴きましょう。その間に源氏の死。何もかもムダでした。玉鬘の不幸な結末を暗示します。次回(7/5)は、宇治十帖の世界。霧深き宇治で起きる事を見て欲しいと思います。

(次回は「源氏物語」の音楽第5部として「橋姫」〜「夢浮橋」の原稿をお届けします)



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