ロッシーニ「シンデレラ」の最新の比較

モノローグ(278) ロッシーニが25歳の時の作品。イタリア語ではチェネレントラと言う。 Apr.15,2016  

 

(1)シンデレラ(初のLP録音)

シンデレラジュリエッタ・シミオナート
クロリンデドラ・カラル
ティスベミティ・トルッカート・パーチェ
ドン・ラミロウーゴ・ペネッリ
ダンディーニセスト・ブルスカンティーニ
ドン・マグニスコ パオロ・モンタルソロ

オリヴィエロ・デ・ファブリティース指揮フィレンツエ管
1963年録音、ロンドン POCL1731/2
1963年というのはシミオナートというメゾ・ソプラノの記録にとって、少し遅過ぎたかもしれません。実際録音とか録画とかを考えると、何時それを録るかによって大きく印象が変わるのです。シミオナートがシンデレラを録ったというニュースは歓迎されました。しかしほんの少しでももっと良い時代だったらなあ、と思ったのも事実でした。1963年というのは私自身が初めてオペラの実演を見聴きした年でありますし、本当に思い出のある年です。この「シンデレラ」を聴き始めた時はシミオナートの声もソロソロおしまいかなあ、と思いましたがそれが後に進むほど、特に第2幕に入ってからは目覚ましい回復ぶりを聴かせました。上にも下にも全くごまかしの無い正確な音階をたどっています。しかし姉達の声を完全に打ちのめす程ではありません。ブルスカンティーニは若々しい声ですが、ただ、この人はドン・ラミロと競合する位置にあります。ドン・ラミロはテノーレ・レジェーロそのものという声を出しています。あれは良い。全体にファブリティースの指揮はキビキビしてテンポが速め。このCDは1963年頃は貴重な物でしたでしょうから、今のように何人もシンデレラ歌いがいる世とは事情が異なるため、シミオナートを崇拝する人がいても不思議はありません。私の耳には少なくともバルトリやヴァレンティーニより好ましいと思います。

 

(2)シンデレラ(若い日のベルガンサ) 

シンデレラテレサ・ベルガンサ
クロリンデマルガリータ・グリエルミ
ティスベ ラウラ・ザンニーニ
ドン・ラミロルイジ・アルヴァ
ダンディーニレナート・カップチルリ
ドン・マグニスコパオロ・モンタルソロ
指揮者:クラウディオ・アバド
1971年録音、ドイツGramophone STEREO 459 448-2

これは1971年の作で、クラウディオ・アバドの指揮です。約10年後にアバド指揮で生まれたDVDは、この年には録画抜きだったのを補う形でできたことを示します。その10年間の間に皆年を取ってしまい、この録音でシンデレラを担当したテレサ・ベルガンサは老けすぎて(実際、顔などを見ると老けた事がわかります)、若いフォン・シュターデと交代しました。その成果は先に述べました。王子様も10年前にはルイジ・アルヴァでしたが、それはフランコ・アライザに交代しました。しかしアライザは、後にワーグナーを歌うなど重い役柄にシフトしていきました。姉妹役にはマルガリータ・グリエルミ、ラウラ・サンニーニはともに新旧両盤で同役を努めています。お父さん役のパオロ・モンタルソロも同じです。ダンディーニ役は10年前にはレナート・カップチルリでしたが、10年後にはクラウディオ・デスデーリに交代しています。各種の脇役が立派だったという記憶から、ここで再度起用したのは卓見でした。肝心の主役シンデレラ役はどうだったでしょうか。

音が良いのに驚かされます。そしてアバドの指揮ぶりのハッキリ、キビキビした感じが好ましい。ベルガンサの声は少々暗めでしたが、それは傷になりません。まず思うのはベルガンサみたいに万事控えめで、決して出しゃばらない、という姿勢が好ましく思えます。家内はこれを聴いて昨日聴いたバルトリと比較して、バルトリの技術的すごさはわかるけど、ああ迫られるような歌を聴くと何か少し違うのよね、という評はそのまま私の評でもあります。ベルガンサの技術だって凄いのですが、それを見せよがしにしないのがベルガンサの良いところ。お姉さんたちやお父さんは後日録ったフォン・シュターデ盤と共通ですが、若い時分だけにこちらの方が素晴らしい。王子様は私の好みとは少し違いますがCDとしては申し分なし。ただ、ダンディー二役のカップチルリと、お父さんの声が似ているので、損をしている気がします。全体として申し分なしでした。

 

(3)シンデレラ(盤石なシンデレラ) 

シンデレラフレデリカ・フォン・シュターデ
クロリンデマルゲリータ・グルエルミ
ティスベ ラウラ・ザンニーニ
ドン・ラミロフランシスコ・アライザ
ダンディーニクラウディオ・デズデーリ
ドン・マグニスコパオロ・モンタルソロ
クラウディオ・アバド指揮ミラノ・スカラ座管
1981年録音撮影

素晴らしい、の一言に付きます。もともと私はフォン・シュターデの発声の仕方に疑問を持っていて何故水飴の中を引きずるように発声するんだろうと思っていましたが、改めて聴いたら、その水飴質が心地良く感じられ、自分の声に関する考え方を変更しました。そう思って見れば全体が素晴らしく思えるのです。ジャン・ピエール・ポンネルの演出は、登場人物全員が影絵になったり、シンデレラの体を中心として視界を回転させたりしますが、全て合格。アライザの声そのものも、これなら力強さを兼ね備えたテノーレ・レジェーロとして通用します。日本ではなかなか手に入らない声質です。アライザが現在どういう状態なのかはわかりませんが、この1981年現在ではこれが正解でした。加えてダンディーニを演じるザンジーニの巧さに感心しました。男声のトリルには慣れていませんが、これなら良いと思います。父親役のパオロ・モンタルソロ、クロリンダのグリエルミも素晴らしい。歌手は全体にムラなく、自在に出ていました。フォン・シュターデの声域も、そこでも自在で声が引きつったりしません。オペラとしての欠点は長過ぎることぐらい。少し長いと思いますが、多分にこれは趣味の問題。ここで考えてみれば、この時代、オペラとは一昼夜の出来事を表す、という説を実行しています。

 

(4)シンデレラ(日本公演版) 

シンデレラ ルチア・ヴァレンティー二
ドン・ラミロ玉野部俊朗
男爵 ドミネコ・トウリマルキ
ダンディー二 小嶋健二
クロリンデ本宮寛子
ティスベイリーナ・ロミシェクスカヤ
指揮アントネルロ・アルレマンディ
藤原歌劇団・合唱団
新星日本交響楽団
1991年2月14日東京文化会館大ホール上演

今をときめくヴァレンティーニの出る公演ですから期待しました。現在これを歌えるのはどんなメゾ・ソプラノでしょうか。実はヴァレンティーニはこのあと暫くして死去しました。まだ若かったので皆が期待したのですが、逸材を失ったのは惜しい。

ヴァレンティー二の声は、やや茹ですぎたイモというか、水気の多過ぎたジャガイモの感じでした。それで最初に心配したのは、これで最後まで持ちこたえるだろうか、という点でした。シャープな感じからほど遠い感じ。水気の多さから音色はテレサ・ベルガンサの声をずっとタガを緩めた様な感じがします。おまけに最初の部分ではシンデレラの声は上限があって、それより上の部分では声が汚くきこえたので少し不安。このように様々な不安を抱えての上演でしたが、それが始まってしばらくすると喉がようやく回転し始めた、というところ。実はこのヴァレンティー二を聴きに行ったのは、娘の高校入試の発表の日でしたから、音楽会なぞ少し不安があったのですが、巧く行ったので同慶。娘達にすればこれが最初のオペラ見物。
日本人の演じるドン・ラミロは顔の表情が一面的でしたが、そもそもテノーレ・レジェロというのが稀ですから、これで満足しなければなりません。クロリンデとティスベの姉妹はお姉さんの方を日本人が演じましたが、嬉しそうな顔をしています。この姉妹は登場後すぐに感じたのは、ポンネルの演出で使われたような骨材をさらに小さくしたようなものを身につけていました。ポンネルのではない、という事を強調したければ、もっと別の表現をした方が良いかと思います。ダンディーニとか他のキャストも、問題は顔の表情だけ。なお演出ですが、シンデレラが一人暖炉の前で歌う歌は、ポンネルと違って後の方に置かれています。同様に嵐の音楽も後。これはポンネル流の工夫が必要です。なお最後のシーンですが、シンデレラが「灰かぶり」の服装のままで王子と結ばれるのですが、ポンネルのように正装して現れるのとどちらが良いかは聴く者の心の準備次第。この最後の大アリアは中々立派でした。

 

(5)シンデレラ(コロラトウーラ技術の粋) 

シンデレラチェチーリア・バルトリ
クロリンデローラ・ヌープ
ティスベ ジル・グローブ
ドン・ラミロラウル・ヒメネス
ダンディーニ アレッサンドロ・コルベッリ
ドン・マグニスコ エンツオ・ダーラ
ヒューストン交響楽団
ブルーノ・コンパネッラ
1995年録画録音

この、すさまじいコロラトウーラの洪水を聴いて、感心するやら、あきれ果てるやら、ボーツとしてしまいました。音楽から入りますと、まずテンポが速く、どんどん進みます。有名なロッシーニ・クレッシェンドに入る際は後一歩コシを据えてほしいとも思いましたが、全体を傷つけるものではありません。演出では王宮の姿を表すのに、階段を使っていますが、あれはやや疑問符があります。なによりクエスチョンが付くのは、扮装です。王子様の顔立ちと服装があまり良くない。王子様はまるでウサギみたいな横顔です。同様にダンディーニのメークアップも良くない。これに関しては前日に見たイタリア版の勝ちです。あれは顔の表情まで念入りに練習していますから、単に頭数をそろえるだけでは勝負になりません。姉妹達の姿も色々贅沢な注文がありますが、やはり演出の巧さではイタリアが如何に先進的かを示していました。そして主役の演唱ぶりですが、バルトリのそれは好き嫌いを超えて、そのピークにあります。決して昨日の水飴的歌唱をけなすつもりは無いのですが、あれはあれで素晴らしいが、だからといってこちらをけなすのは筋違いだと思います。バルトリが低い音程部分で聴かせる深々とした低音は、まるで魔女見たいです。見てくれが太いため、バルトリは損しています。確かにそう思ったのですが、どうしましょう。視覚的要素をとりこれはダメ、と言うかそれともあくまで音楽的要素をとってそれらを無視するかです。あとはテレサ・ベルガンサとジュエッタ・シミオナートのシンデレラがあります。明日以降に聴きましょう。

 

(6)全曲盤ではないもの(録音年月日は不問) 

アリア集の一部です。全曲盤とアリア集は別もので、互いに参考になりませんが、それでも無いよりマシと考えます。

6-1 スペルヴィア (1927年録音、1929年録音)
シンデレラ〜コンチータ・スペルヴィア、涙にくれ、1時間だけでも
もの凄いビブラートの洪水。ビブラートがある遅いテンポです。昔の趣味ですし、これは認めましょう。2曲とも同様です。

6-2 シミオナート (1958年録音)
シンデレラ〜ジュリエッタ・シミオナート、涙にくれ
録音年代が1956か1958だと察するのですが、これ以上は無理。推定しかありません。シミオナートの特徴はきちんとしていることですが、決して見せびらかしてはおりません。音域は完全にカバーしています。

6-3 カラス(1958年録音)
シンデレラ〜マリア・カラス、涙にくれ、ジョルジョ・プレートル2年をまとめたバージョンですが、「シンデレラ」は1962年の記録に残っています。このコンサートでカラスは体を左右に大きく振っていますが、あれは何とかならないでしょうか。やや熱気に乏しい感じがします。

6-4 ベルガンサ (1960録音)
シンデレラ〜テレサ・ベルガンサ、涙にくれ
ベルガンサはあらゆる箇所を問題なくこなしていますが、時として大きな声を絞り出すところがあります。優等生。

6-5 ホーン (1965年録音録画)
シンデレラ〜マリリン・ホーン、涙にくれ
ホーンはあのドスの利いた声を押さえ、それで良いの?と聞きたくなるほどの押さえぶりです。後は音色を好むかどうかでこれを押すか落とすかが決まります。

6-6 バルツア (1981年録音録画)
シンデレラ〜アグネス・バルツア、涙にくれ
バルツァの声は実によくコントロールされています。それで全曲を通しているので、どこでも好感を持ちます。あのテクニックは凄い。ただしトリル自体の技術が少し不足しているかも知れません。

6-7 バルトリ (1988年6月録音)
シンデレラ〜テレサ・バルトリ〜涙にくれ
バルトリは自分の持つテクニックの固まり見たいな所を、これ見よがしに聴かせますが、ああ凄いな、と思ったり嫌みだな、と思ったりする訳です。

6-8 ヴァレンティーニ (1995年録音録画)
シンデレラ〜ルチア・ヴァレンティーニ、涙にくれ
ヴァレンティーニは全曲盤よりこちらの方が好ましく思えます。節制が効いているため、どこをとっても穴がありません。なかなか聴き所のあるシンデレラでした。

 

千葉のF高












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