キット屋倶楽部
キット屋コラムの部屋
 

『オーディオと音楽の交差点』

音楽とオーディオの交差点 第5回

<はじめに>
 皆さん、ご無沙汰しております。四弦亭酔響です。
 キット屋様が栄えある「クラフトオーディオ賞4年連続,全部門での金賞受賞!」ということで、四弦亭もお仲間にさせていただいているものとして大変嬉しく思っております。
<<大橋店主様をはじめとするキット屋の皆様、本当におめでとうございました!>>

 実は、四弦亭酔響も先日の真空管フェアには少しお邪魔しまして、各メーカーのデモ等も聴かせて頂いてきました。その際にSV-2(2003暫定版)も聴かせて頂き、私も大橋様に感想を述べさせて頂いたところ、大橋様も同様の問題点を感じておられたようで、その後の最終市販版はそのあたりが解決され素晴しい仕上がりと伺っています。
 残念ながら91Bは聴くことが出来ませんでしたが、model2は私も愛用しておりまして嬉しい限り。

 四弦亭はmodel2に関してはいくつか振動対策をしています。
 驚きのハイCPと再現力ですが、やはり振動対策という面では若干不十分であるようです。皆さんの好みもシステムとのバランスもあると思いますので一概にはお薦めはしませんが、試しに付属のゴム足ではなく、お手元にある各種の素材のインシュレーターでも試してみては如何でしょうか。匡体自体への振動対策も効果が出るようです。
 但しがちがちに固めてしまわないよう、響の良い素材等で振動を適度にコントロールしてみると、お好みの音や響がmodel2からさらに引き出せるかもしれません。
 また、もしCDPの天板にmodel2のゴム足で直置されている場合は、是非別の設置場所やコーリアンでも何でもよいですのでしっかりしたボードの上に設置することだけはお薦めしておこうかなと思います。お金もほとんどかかりませんので、手軽に自分の好みになるかどうか試してみては如何でしょうか。但し、やりすぎは禁物です。全てはバランス、絶対はありません。

 一つの素材やものが良い結果が出たからといって全てに適用しますとまたバランスが壊れることを四弦亭酔響も経験しております。

 やはり固有の素材には固有の音や特色があり、使いすぎは禁物と思います。ケーブル等でも全て同じメーカーのものというのも私はしていません。

 今回は楽器のことを書かせて頂きますが、楽器自体も基本的には2種類の木材素材を使用しています。そして付属品まで含めれば3〜4種の木材が使用されています。固い、柔らかい、木目が真直ぐ、くねくね曲がっている木目等、質量や密度、それらの複合素材が有機的に連携して弦楽器の音や響を作っている訳です。

 ご自身の頭に音のイメージがなければ変化だけで一喜一憂してしまうトラップにはまりやすいですのでそれだけは注意して頂きたいと思います。部屋や環境によっても大きくその評価は変化しますので。それ自体の音の変化より部屋の音響的各帯域のでこぼこの特性にサーフィンを上手にさせるか、潜るか、みたいな波乗りによってその変化が良くも悪くも変化の拡大再生産をしているように感じます。なので、部屋のアコースティック環境によってその変化の評価はそれぞれの環境次第と感じるこの頃です。

 今回は好評を頂いた<弦楽器のお話からのオーディオ交差点>ををもう少し突っ込んで書かせて頂くことにしました。結果長文となってしまいましたことを先にお詫び申し上げます。しばしおつきあい下さいませ。

 楽器購入ガイドでもありませんので、なるべくオーディオとも比較しながら書いたつもりですが、<誰に書いているの?>なんて部分になってしまった所もあります。

 皆様がCD等でいつも聴かれているであろう弦楽器のことを少しでも興味をもって知って頂ければと思います。
 通常、楽器もオーディオ以上に魔物が住んでいる世界ですので、専門家がVn顧客にはあまり語らない部分もオーディオ関係のサイトであるということであえて突っ込んで書かせて頂いた部分もありますので、楽器やクラシック音楽にご興味を持って頂ければと思います。

<弦楽器を構成する素材と部位>

 オーケストラで使用されている楽器は
ヴァイオリン(Vn)、ヴィオラ(Va)、チェロ(Vc)、コントラバス(Cb)
の4種類です。基本的には同じ構造で大きさそして弦長さ(太さ)で担当する音域が異なります。

 さてこのヴァイオリン属が弓を使って演奏する為には
基本的構造本体+付属部位(部品/広義の消耗品)に分かれます。
本体基本構成部位
本体は下記のパーツにより構成されています。
表板(スプルース/ヨーロッパの松の類)
裏板(メープル/楓)
側板(メープル)
スクロール/ネック(メープル)

 下記は基本構造部品だが長期的には交換が必要なもの=楽器本来の価値には関係ない
バスバー(表板内側の駒の左足下付近に木目方向に膠で取り付けられている強度補強も兼ねる桟/スプルース)
魂柱(駒の足の下より数ミリ手前に表板と裏板に挟まっている丸い棒/スプルース)
(スプルース)
ナット2種(黒檀/弦をガイドする指板に先端につける枕木、テールピースを止める緒止め糸をガイドする枕木)
指板(弦を指で押さえる黒い板部分)

 因みにVnで4本の弦で20キロ以上の弦のテンションが掛かります、基本的に各パーツは膠(ニカワ)で糊付けされています。Vnは上から5度で調弦されていまして上からE -A -Dー G (ミラレソ)となっています。

<表板>
 弦楽器にとって最も重要なパーツが表板です、表板がもっとも音に与える影響が大きいです。裏板のダメージ(修理)より表板のダメージがあるほうが価値に大きく影響を与えることからもご理解頂けると思います。

 但し、400年の修理補修の歴史と技術は伊達ではなく、実際は適切に修理されたものは余程のことがないかぎり元に戻ります。これは木材という天然素材の不思議ですが、極端に言って踏みつけられて割れたり割けたりしてばらばらになっても元どおりに戻し、ある程度まで音も回復させることは可能なのです。
 但し、価値という意味では当然下がりますが、音は出るようになるのです。その後メンテ、修繕ということで故障が多くなる確率は高いのは当然のことですが。
 一般には魂柱の接している部分の表板が割れている楽器は力がかかることも含め価値は大幅に下がりますし、そういう楽器は安くても奏者としては購入しないことが懸命です。頻繁に修理修繕に出していたのではどうにもなりませんので。

 木目(夏目と冬目)がしっかりと出ており、夏目が太すぎない素材、つまり生育環境の悪い北側の斜面で風雪に耐えた均等な木目を持つものが良いとされています。(例外も当然あります)
 木取りは通常、柾目取り、年輪の見える輪切りの状態をケーキを切るように中心に向かって三角系に切り取りそれを2枚に切り2枚をセンターで接着して1枚にしてそれを削って行きます。木の太さがある場合(丸太の半径が楽器の横幅以上あれば)1枚取りをすることも可能。2枚の場合は楽器のセンターからみて木目をシンメトリックにすることが出来ます。これは手にある木材次第。どちらが良いとは言えません。

<裏板>
 これも、表板と同じように柾目取りをして2枚に割って接着して1枚板にする場合と1枚取りをする場合があります。これはクオーターカットと言われて所謂、虎目が出る切り方です。別にセンターに向かって切り分けないでそのままスライスするものをスラブカットと言います。これは大理石の模様というか雲というかそんな模様が出てきます。その中間のハーフスラブというカットもあります。
 一般にはクオーターカットは締まった低音、スラブは柔らかめの豊かな低音という感じになる場合が多いようです。

<スクロール>
 これは音と直接関係ある部分ではないのですが、作者の技術や作風をはっきり出すところでもあり(オリジナルニスも残っている)、この部分はネックを交換する場合は切りはなして新しいネックに接合します。
 バロックセッティングからモダンに変更する場合には継ぎネックをしてある(2種類方法があるようですが)場合は大体スクロールに継ぎ目がある場合が多いです。これが楽器の古さを証明する場合もありますがコピーやイミテーションではご丁寧に筋を入れたり、実際に継いでいたりしてなかなかややこしいのですが。。。

<指板 (黒檀)交換部品>
 指板は段々と使用によって音程のツボが掘れてきてでこぼこになってきます。指板が新品であれば2〜3回の削り直しが可能です。削り直しによって段々薄くなってきますので、それ以上削ることが強度も含め出来なくなったら、交換して新品を新たに取り付けます。無論、スクロール側のナットも合わせて低くしてゆきます。
 駒も若干ですが指板が薄くなったことに従って適正な指板との高さを維持する為にほんの少しですが低くします。指板を交換する場合は通常、駒も新しくすることになります。

 実は、指板は真直に直線に削っている訳ではありませんで、弦の中央の振幅が最大になるあたりを一番深く削ってあり、緩やかな逆アーチを描いて削られています。この度合が掘れ等も含め全体の反り角度が平坦になって来ますと音程も発音も取りにくくなってきます。
 駒のアーチ角度も含め各弦でのマージンも変化させてありますし、まあこのあたりは奏者の好み等で調整する場合もあります。とても微妙なことなのですが、気にする奏者にはとても重要な部分です。よく、『松脂の飛び散る音』なんて言うオーディオ用語がありますが、振幅の大きいチェロなどで特に振幅の大きい低弦などは駒と指板との幅の適正なマージンより少なすぎたり、弓の必要以上に強い入力と音の立ち上がりの際に弦の振幅が最大になった時にそのマージンを超える振幅をさせれば確実に弦は指板に触れる(叩き)ことでバチバチとかビビビというノイズが出ます。

 それが殆どの場合「松脂の飛び散る音」と言われる音の正体です。

 実は表板と裏板は素材が異なる為に湿度に対して繊維が伸縮する比率が微妙に異なります。特に裏板の伸縮が大きいようです。それが主たる理由で楽器は夏の湿度が高い時には仰向けになった人間がお腹をへこますように裏板がより伸びて若干ですが逆に反る訳です。すると指板はネックも指板も一緒に下がり気味になり、結果として駒の方の指板の端の高さが少し下がり、指板と弦の距離が基準のマージンよりも大きくなります、これを「ネック(指板)下がり」と言います。すると弦と指板の間隔は広くなり、とても弾きにくい状態になります。

 逆に冬に「乾燥しすぎ」ますと夏と逆の理屈によってボディは横からみると、お腹(表板)が膨らんでいるように反りますので、「指板(ネック)上がり」を起こし駒の高さはそのままですので、その場合は弦が指板に近づいていますから適切な調整をしていませんと弦が指板を叩きやすくなって、バチバチ、ビビビとどこかの板が剥がれて雑音を出すような音を出します。
 湿度が高いのも楽器には良くありませんが、最近は部屋の密閉度も高く鉄筋コンクリートの建物で暖房をかけ続けている環境は湿度が下がりすぎて楽器が剥がれたり、割れたりする場合もあります。なので乾燥しすぎも大変楽器にとって要注意なのです。

 特にチェロはボディが長い分その指板の上がり下がりはテコの原理と同じように相当変化します。通常は40〜60%位の湿度を普通の状態として駒の高さは調整してあるようです。季節では秋位でしょうか。

 チェロの奏者の方は夏用の駒を標準の駒とは別に持っていて季節の変化で少し高い駒に交換する場合も多いようです。まあ定期的な調整と共に季節の行事ではないですが交換してもらえば済むことですので。
 ただし、楽器によってその上がり下がりのレベルは様々ですので1年中同じ駒を使っている場合もあります。
 Vnも同じなのですがチェロ程ではないので普通は指板が下がらないようにボディと指板のすき間に指板下がりを防止(完全に防止はできませんが)するものを挟んでおくとその症状はうちばに収まる範囲です。でも楽器によってその変化の度合は異なりますので、これは楽器次第。

<付属品4点セット(基本的には美観も含め同じ素材のセットになります)>

ペグ(糸巻)
テールピース(駒より手前の弦をまとめて取り付けるもの)
エンドピン(ボディの側板手前センターの丸い穴に差し込みテールピースから
      伸びる緒止め糸を引っかけて止めるもの)
顎あて(バロック期には奏法的に不要だったが、技巧や高音域が必要になった
    古典以降に楽器を安定的に固定する為に発達、初めは本当に小さいも
    のだったようである)

使用素材は比重の軽い順に
本柘(ヨーロッパ柘、将棋の駒や櫛等に使われるものとは種は同じだが微妙に異なる)
ローズウッド(黒と茶の縞模様)
黒檀(アフリカのガボン産等が良質と言われ、真っ黒なものが好まれ縞黒檀は安物に使われ
   着色して黒にしてある場合が多い)

最近では弓の材料と同じ
フェルナンブーコ(南米原産の豆科の木)で作ってある4点セットも出ています。

 比重としてはローズウッドに色は似ていますがもう少し赤系、多分ローズウッドより少し重く、固めで、丁度黒檀との間位でローズウッド依りかなという感じです。見栄えも悪くなくイタリアの新作楽器等に一部の製作者が標準でつけてきています。

 この材質による音や反応の変化はかなりありますので、好みによって調整が可能であります。

 各素材は良質の物(高級品)は高価です。特に柘は高価です。密度の低い粗悪さを隠す為の着色をしているようなものを使うのであれば他の素材の良質な素材のものを取り付けたほうが良い音質が得られます。素材や形だけで質の良くないものを、高価な楽器についているからというだけでそれらに取り付けてある良質な高級なものとは似ても似つかない粗悪品を取り付けては本末転倒、まったく意味をなさないです。
 個人的な経験では新作系はまだ音が落ち着いていない楽器には柘は響過ぎ(明るい音ですが)、音の暴れや密度感を損ない、実際に弾くにもコントロールがしにくい楽器になる場合が多いようです。結局はバランスであり、柘がついているから良い楽器だなんてことはありませんので、売ろうかなだけのあやしいディーラーの商売戦略には乗らないようにしてください。まさに新作に柘をつけますと音は激変、明るいバンバン鳴るような感じがする場合も多いですが、現実には扱いづらい楽器だったり音色が作りにくい楽器になってしまうことも多いです。

 オーディオのケーブルやアクセサリー関係でも同じようなことがあるかと思いますので、注意が必要なのではないかと思う次第です。

 これはオーディオでも(良いか悪いかはバランスやその使用者のイメージ次第ですが)各種素材が機器本体やアクセサリー関係でも素材の特性を利用し、システムの調整やセッティングで使われることと同じだと思います。
 但し、何をやったからといって『本体の能力を超えるものではない』ことは自明の理です。

<弦に関して>は(四弦亭酔響コラム4参照)
 弦楽器は各弦のバランスが大切なのですが、やはりそのバランスを取るのに魂柱の調整等もありますが、外的には弦を選定することも大切です。
 詳しくは書きませんが、一番下のG線がいま一つ鳴らない時に一番上のE線のテンションを弦のチョイスで変化させますと、鳴ってきたりします。特にE線の音を強くしようとして強いテンションの弦を他と比べて張っていた場合に結局、高音は出るけど音は詰まる、そしてG等低域も出ない、なんてことになっている場合が多く、逆にE線のテンションを1ランク落とすことで上も下も豊かになったりする場合があります。
 まさにバランスで下が問題だから、出ないからと言って弦を太いのに替えたりテンションを上げても音は出ても反応等の問題が出たり、上の弦や隣の弦とのバランスを欠いて、結局音量が出ても本質的な解決にならない場合も多いようです。

 オーディオでも下の音が問題な場合でも上にその解決策がある場合もあるのではないかと思います。全てはバランスだなあと思う次第です。

 それと、弦をそうやって交換してテストした場合に楽器もそのテンションに慣れるまでに多少時間がかかりますので、すぐには判断しないほうが良いとか、弦が新品の場合は伸びるまで本来の性能が出ない、等、これはオーディオでも同じようなことを経験されている方も多いと思います。

<ニス(ヴァニッシュ)>
 オイルニスとアルコールニスがあります。
 ニスについては秘密めいた名器の音の根源的要因みたいに言われていたりしますが、もし現在ストラドと同じニスを塗ったところでストラドの音になる訳ではありません。今だにストラドのニスの秘密解明とか発見とかあるのですが確かに銘器のニスはとても美しいし迫力もありますが、それはニスだけでなりたっている訳でもありません。
 基本的にニスは2種類に分けられます。白木に目止めも目的とした「下塗りニス」。そして上塗りの「ニス」です。
 多くの銘器のオリジナルの上塗りニスというのは長年の使用で摩耗し剥がれてしまって、時期時期に補修ニス(基本的に透明)が塗られてきていまして、よく紫外線を使ってオリジナルニスがどれくらい残っているかの写真もあるくらい完全な状態で残っているものは殆どありません(唯一タリシオという19世紀の鬼集家が見つけたとされる「メシア」と名前のついたストラドはほぼ使われていない状態で現在は英国の博物館に所蔵されています)。メシアは実際に見ますと現在のストラドの一般的なニスのイメージの透明度はなく、赤みを帯びた厚みのある迫力のあるものであることで確認できます。
 古い楽器ではスクロールの糸巻との間のすき間にオリジナルニスが厚く残っている場合が多く出来た時の色を確認することが出来ます。

 つまりオリジナルとして残り、経年変化と枯化による木の細胞に直接染み込み変化し結合している下塗りニスがとても重要だということが分かります。とは言えその一般に言われる上塗のニス自体に決定的な音の秘密がかくされているという程ではないと考えられています。
 当然のことながら固すぎたり、柔らかすぎたり、厚すぎるニスは本体の響には良くありません。

 結局は音響に関わる本体の木に応じた厚みや細工、工作精度が銘器は抜群に良いということだけは言えると思います。

<楽弓>
 モダンボウはフェルナンブーコ(ペルナンブッコ/前述)を素材にしています。
 バロックやクラシックボウでは、スネークウッド、アイアンウッド等で作られている場合が多いようで、フェルナンブーコを弓に最適としたのは1780年頃トルテの時代からとのことですが、弓は楽曲の変化によって楽器以上にその形状を変化させているもので、様々なモデルがあります。
 基本的に時代が進むにつれて、長く、重くなってきます。現在のモダンボウの重さはVnで60g前後が平均です。

 銘弓としてのストラドに合うF.トルテ、デルジェスに合うD.ペカットと言われるオールドボウ製作者が両横綱でしょうか。アンリ、ユーリ、サルトリー、ラミー、ヴォアラン等多くのメーカーもフランス。
 一応フレンチボウが銘弓と言われることが多いです。フランスのミルクール地方はイタリアのクレモナが楽器の一大産地であるように伝統的に弓の産地となってます。
 楽器がイタリア、弓はフランス、この組み合わせが一応良いとされてます。

 但し、各国優秀なメーカーは現代も含めおりまして、日本のブランド信仰では上記の国のものでなければ×なんて方も多く、まあ実際両国の製品は素晴しいものが多いことは事実ですが、大したものでない製品もありますし、基本的にそれらの製作地のものは割高です。オールドやモダンの銘器、名弓では決して掘り出しものなどありません。割安だったり、お買い得なんて言うものには必ず理由が存在しますので注意してください(あ、楽器購入に関して書いている訳ではありませんでしたね。。)

<実際の銘器の音は?>
 皆さんがCD等の録音で通常有名なヴァイオリニストの銘器の音響は経験されていると思います。でも実際に奏者の耳元ではどのように鳴っているのかご興味のあるところではないかと思います。

<基本的な銘器の音の特徴>
(その楽器の能力が引き出せる技術とそれに反応する名弓を使った場合)
機能的には奏者の立場的には

・反応が驚くほど速い(しかし音を作る時間もある/弓の入力に対してストレスがとても少ない)
・音や音色のパレットが大変多い
・倍音の並び方と共鳴が素晴しいブレンドで様々な音を作って行ける
 ブリリアントで深い和音(コード)が素晴しい響である
・各弦や各帯域のバランスが良い、それらの個性が音楽的に有機的に融合している等などです。

 楽器の良否とは別に弓に対してそれぞれ適度な反発力と許容度合があって、それらは奏者の好みや弓、そして技術的なボーイングのアプローチによって違いがあり一緒ではありません。
 ストラドはとても軽い感じで弓のスピードが重要でゴリゴリ弾いても音は出ないですし、デルジェス等はかなり音量と圧力の関係に関しては許容度が高く、ストラドと同じ弾き方が適切とは言えないというような個性があります。
 どの楽器でもそれぞれの個性があり、奏者の好みや音楽の作り方によって好みや適切さによって選択されます。

 但しその特徴の一旦を担うテンションは両ナット(枕木)の高さでも相当変化させられますし、魂柱やバスバーによっても変化させることは可能なので、全てはバランスで、音楽を奏でる為の奏法や表現手法によって各奏者の好みになる部分です。

 実際にストラドは耳元では「え?」と思う程、音が大きく聞こえませんが、ホールでは音が良く通り響わたります。不思議です。逆に奏者が楽器に弓からのパワーの入力と反発の実感を求めるとストラドは良く鳴らない。
 オーディオでも各機器にそれぞれの固有の鳴らし方の秘訣のようなものがあると思いますが、それと同じでこれは好み次第ということになるのでしょうか。

 結果的には奏者にとって音楽を作りやすく表現がしやすいということが一番重要です。
 当然、銘器は遠音が利きまして音が減衰しないで遠くまで届きますし、ホールで良く響ます。
 音に芯がありますので豊かに響ながらも構成する音はきっちり並んで聞こえます。とにかく音楽的で、弾き始めるとどんどんその奥深さに入って時間をたつのを忘れる位です。特にオールド銘器は特にそれを感じやすいと言えます。当然、モダン楽器でも同じですが、名ばかりではない健康状態の良いオールド銘器はマンションや億ションレベルの対価が必要ですが確かに素晴しいです。

<実際に奏者が耳元で聴く音は?銘器の音は「こもっている」!?>
 言葉で表現するのは大変難しいのですが、高音はシャリ感のある「金や銀の鈴が鳴っている?」ような音と言われます。シルバートーンなんて表現されたりもします。
 低音とくにD線やG線は「こもり感」のある音しかし「特定の音が一緒に乗って」いる。そうなんです。実はオールドの銘器の低音というのは実は「こもる」系なのです、しかしこのこもり音に付帯している音というかノイズがあります。
一般にはZ音とか「ジーとかズー」とかいうZzzzって音が乗っているのです。パールマンはこの音を「Zit Sound」とか「Zitter tone」とか言っていたのを記憶してます。

 このZzz音の存在が特に低域音では奏者の耳にかなり聞こえてくるのです。中高域にも存在するようなのですがあまり耳には聞こえませんがシャリ感にはつながっていると思われます。でも、この音、実際お客様の位置に深い音を届けるだけで、離れた所では関知しない音なのです。でもこれがなんというか音に芯を持たせて音を遠くまで深々と届ける秘密と言われているのです。これは特に低弦で関知しやすいです。

 びっくりされましたか?実は銘器の音は傍で聴くと低音はこもっていてあげくに言って見ればノイズ(のようなもの)が乗っているのですから。

 このZzzz音は、弓の毛と弦が摩擦でこすれる場合の発音の際のカクッとかコクッとかというノイズとは別です(この音も離れているとあまり感じないと思いますが)。

 はっきり言って一般に「こもる」音は音が通りませんが、このZzz/Ziiiを獲得している銘器は音に芯をがあり深々と朗々と遠くまで音を運んで行く訳です。これはモダンの銘器でも、場合によっては名工による新作でも注意して聴くと実は存在している、というより、獲得に成功している楽器は銘器であり、銘器になりうると言えるのかもしれません。不思議ですが。
 それらに必要なのは経年変化の枯化と適切な弾き込ということになります。さすがにこれだけは年月が必要なのです。

<基本的にはモデルで音の傾向は決定される>
 さて、ストラドのような音とか、ガルネリ・デル・ジェスのような音とはなんなのでしょうか?
 実はVnは基本的には4パターンが歴史的に完成させたモデルと言われています。現代でもその基本パターンに各自製作者なりの個性を表現していると言っても過言ではありません。またこのモデルで作った楽器はあまり音的な問題点や失敗が少ないということもその各モデルの完成度を示していると思います。
(1)アマティパターン
(2)ストラドパターン(基本的には黄金期1700〜1725年)
(3)ガルネリ・デル・ジェスパターン
(番外)シュタイナーパターン

 表裏板の隆起は(1)(4)はハイアーチ型で、(2)は中庸、(3)はフラットアーチとなります。
 一般には(例外はあるものの)隆起がフラットに近づく程音量が出ますが、音質はハイアーチのほうが有利と思われます。しかし銘器はその両面をそれぞれ素晴しいバランスで成立させて各個性を出しています。

 ヤコブ・シュタイナーはドイツチロル地方の名工で表裏板の隆起(ハイアーチ)の高いモデルで音量はあまり出ませんがとても甘美で繊細な音質を持ち、ストラドよりも存命中は高い価格で取り引きされていたそうです、話によると4倍とも言われています。現在は立場は逆転しストラドの5〜10分の1位でしょうか、それでも状態が良ければ千万単位の楽器ではあります。
 現代でもオリジナル状態のバロックセッティングでは現在でも十分活躍の余地がある銘器です。
 因みにアーノンクールの組織した古楽アンサンブルヴィーン・コンツェントゥスムジクスのコンマス(ミス)をやることの多い奥様のアリスはそのシュタイナーを使っています。

 これは何を意味するかと言いますと、音量を求めない宮廷の広間や教会での広くない響の大変多い所で演奏されるものであったということと、美しい音という美観やその当時の価値観を満足させるものであったと言うこと。時代、時代で求める音量や質は変化しているということです。アマティも現代のストラドやガルネリから比すると、音量が若干落ちますが音質は素晴しいものがあります。

 いろいろ書いてきましたが、楽器購入の手引きを書いている訳ではありませんのでこの辺にしておきます。楽器やクラシック音楽にご興味が湧いて頂けたら幸せです。是非、実際の演奏会に足を運んでみてください。バランスや響を感じるには不利ですが、一度、最前列のほうの席で楽器と奏者を観察してみるのも面白いかもしれません。通常聞こえない音も聞こえてくるかもしれません。

<楽器と機器選定>
 楽器や弓を新しくしたいという方には私がいつも薦めていることがあります。それは、とにかく多くの楽器や弓を弾かせてもらって自分の耳や感覚を一度ニュートラルにするということです。
 通常楽器は購入して5年や10年は弾く訳です。特に高価な楽器であれば、買う時は一生使うなんて思って買う場合も多い訳です。当然買った時はその音や弾き心地が気に入ったから買っているということは言うまでもありません。その購入時点での技術や音楽の表現法がしやすいものを選んでいると思います。

 しかし、人間は慣れというものには気付きにくく、それが癖だったりする場合もあるし、実は自分の癖を隠してくれる(その部分に許容範囲の大きい)楽器を選びがちになります。そしてその愛器を長年使う訳ですからなおさら癖は直りません。

 私は複数の楽器や弓を適宜使用していたり、自分が興味があるものですから楽器商で様々な楽器や弓をテストする機会もあるので、なんとなくニュートラルな感覚、そして自分の好みや趣味というものはどういうもので、自分の楽器や弓の特性というのは多くの楽器の中でどういう特徴を持っているのかということをいつもなんとなく意識させられる機会がある訳です。

 しかし、多くの奏者は意外に楽器に無頓着だったり、楽器のことを良く知らない方も実は多い訳です。
 自分の楽器と弓しか知らない、またはその楽器に慣れてしまっている。その楽器のメンテも意外にずぼらで、その楽器の能力を引出せていないなんてことも多い訳です。

 すると、さて新しい楽器が欲しい/必要だとなれば、当然、なんらかの不満がその楽器にある場合が多い訳です。でも実はその楽器に適切な弾き方になっていない場合もありますし、逆に楽器固有の癖に自分が慣らされてしまっている場合もある。

 で、そのまま楽器商に行って、自分の予算の中で様々な楽器を弾いてみることになります。すると何が起こるか。同じような楽器や癖をもった楽器を選びやすいのです。

 でも良く買い換えたいというその理由を聞くと、その楽器の系統が持つ個性ではない所を望んでいたりする訳で、本質的にそれを楽器変更で解決するには今までのその楽器の個性に培われた、奏法を変更しないといけない場合も多いのです。

 当然、ちゃんとした楽器商であれば、その不満の原因を解決できる能力を持った楽器を薦めてくれるのに、それが自分にしっくり来ない。その慣れや癖のトラップに引っかかると結局、同じような楽器を選び、またいつの時点でか同根の不満を抱えることになる。不幸です。

 慣れや癖のトラップに引っかからないようにするためには、一度沢山の楽器や弓を弾いて感覚をニュートラルに戻す必要がある訳です。するとどんな楽器を弾いても思ったような音が出なければ、楽器や弓の責任ではなく自分の責任であるということも気付きやすい。

 こんな場合、誰にでも可能な訳ではないですが、実績ある銘器を弾かせると結局納得せざるを得ない。まあ言ってみれば自分より楽器のほうが実績があって偉いんだ、と思えるから、それでも解決したり鳴らない場合は自分の奏法の問題であると納得出来る。
 まあこれは乱暴な方法なのですが、まあそれくらいなかなか自分の癖は自分では認知しにくいし、良い楽器程そういう癖には正直に反応しますから、適正な弾き方をしてあげないと、はっきり言って鳴らないので厳しい反応をしてくるのです。そのかわり適正な弾き方であれば、信じられないような鳴りや響に豹変するわけです。

 ストラド等はその極端な例で優秀なストラドを持てる(貸与してもらえる)奏者でも、多くの証言では慣れるまでに2年かかったとか言う位、奏法/特にボーイングを修正しないといけないことがあります。
 ストラドのほうが何百年も名のある実績ある何人もの奏者に弾かれている手前「偉い」訳で自信満々の若手奏者でも鳴らないのは自分の責任と納得するから修正出来るということもあると思います。楽器が奏者を育てる例です。

こういう笑い話しがあります。
 あるVn弾きが楽器商で自分の楽器を下取りしてもらって、様々な
 試奏の上、別な楽器を購入した。
 しばらくしてそのVn弾きがその楽器を購入した店をおとずれて、
 気になる楽器を何本か試奏させてもらっていた。
 そうしたら、すごく気に行った楽器が一つあって、価格も同じような
 価格だったので交換して欲しいと言ったところ、楽器商は種明かし
 をしてくれたそうです。

真相は、
 実はその『Vn弾きが下取りに出した楽器』だった。

 そういう笑い話しです(笑えない話でもありますが。。)。
 不思議だと思われるかもしれませんが、下取りをした時点ではその楽器は長年の使用で傷もあり、汚れていたのを、奇麗に修復して磨き、魂柱や駒も新しくして見違えるようにシャンとした楽器になって、店頭に並んでいたということが真相だったそうです。

 それくらい慣れや癖(また当然好みもあると思いますが)が判断に影響をするということをお伝えしたかった訳です。

 オーディオ機器選定でもお店で多くの機器を試聴して、本当に何を今回の機器選定に関して望んでいるのか、その望みに矛盾はないのか、ということを一旦ニュートラルに戻す努力や時間をかけることで、見えてこなかった部分に客観値が出来るようにしてみると適切な選定が出来る可能性が高くなると思います。
 やっかいなのは、その試聴環境では自分が聴いている環境や機器の接続と同じことが出来ないので、高価なものであればやはりデモを貸し出してもらって判断することが一番良いと思います。

 様々な店で同じ機器でも同じ音では鳴っていませんので、複数の店で聴いてみるというのも手かもしれません。そんな失敗や経験を重ねることで、その試聴く環境の音の傾向からその機器が自分のシステムに組み入れた時に、どんな鳴り方をするのかという感性も育ってくるのかもしれませんが。

 高価な買い物であればそれは慎重になるべきだと思います。
 因みにある程度の楽器や弓になりますと、店から1週間程度借り出して様々な環境でテストが可能になっています(楽器屋さんは当然保険をかけてます)が、個人の癖ばかりは数日で直らない場合もありますので、なかなか楽器選びも難しいのは言うまでもありません。
 やはり日頃からニュートラルの感覚を持つ機会を作っておくと、判断はかなり瞬間で決めることも出来るのですが。。。。

<楽器の価値の第一義や優先は音ではない>
 楽器選定でも同じですが、結局は自己責任での購入です。
 例え優秀な楽器商が良い楽器だからと、そのご本人の要望を客観的に私からみても奨めているものが、その楽器の能力や本質や良さに気付かない場合は、本人には気にいらない、とか後から変なものを買わされたと恨まれても困ります。特に楽器は同じ音のものというのは存在しないですので、音という感覚的な世界では好き嫌いは様々で、絶対の音というものも当然存在しないので、楽器商の楽器の基準では音の善し悪しというのはその楽器の価値的には最終項目のようなものなのです。
 流通の価値は、いつ、どこで、誰が作ったか、健康状態(キズ、ワレ、ダメージ)、というのが作者が既にいないオールドやモダン楽器の価値(価格)の優先基準です。
 音が価値に与える要素としてはその最後。でも奏者にとって第一義なのが音ということになりますからなかなか奥深い訳です。

 偽物=他人が作ったのに本人の作としてその価格で売られる楽器は星の数程存在しますが、@@が作った**さんのイミテーションやコピーということでその@@さんの格の価格で売られれば問題ない訳なのですが。。。
 しかし、価格帯別(適正であったとして)や製作者の格別に多くの楽器を比較して弾けば確実に上の格の楽器達に良い音が存在する確率はあきらかに高いのも事実です。
 逆に音だけみれば、格上と同じような音を持つ楽器もあり、それを適正な価格で購入することが出来れば、ラッキーな出会いがあることも事実なのです。

 オーディオでも@@と雑誌で絶賛されたから買ったのに、酷い商品だったなんて恨んでも仕方がありません。
 自分の耳や感覚を磨き、自分の耳で確かめて購入されることが、結局は自分の為ですし、他人に責任を転嫁したからと言ってどうにもなりません。
 趣味の世界では最終的には自分が満足すれば良い訳で、他人にそれを聴かせてお金を取るのではないのですから。全ての責任は自分にあり、それをどのように使い音楽を楽しむのかも自分の姿勢次第です。

<使いこなしが大切>
 オーディオにしても楽器にしても、その使いこなしが大切です。これと思った機器やシステムをどのように自分のイメージに近づけてゆき、その能力を最大限に発揮させるかは、演奏者で言えば弾きこなす技術は当然重要ですが、目的は自分の中にある音楽イメージをいかに音や響を有機的に融合させて音楽として伝えられるか、という目的を果たす為のツールであることと同じように、全ての判断は自身のイメージがなければ始まりません。音楽の場合は聴衆という伝える対象があるのですが、オーディオは全てが自己完結する訳でまさに音を作るのも聴くのも自分の判断一つしかいないのです。
 当然、技術だけで音楽は伝えられないし、音楽だけで技術が不足ならそれも不十分。しかし、頭にある音や音楽イメージを高める努力をしなければツールである技術は生きません。つまりこれもバランス。いずれにせよ、頭にきっちりイメージしている音がなければ、楽器でもオーディオでもセッティングもチューニングもしようがありません。

 音が変わった=良くなった、良いと評価されていたものだから=良くなっているバズだ、なんてトラップにはまり込まない為にも客観値というか自分の音のイメージとそれぞれの音や再現や表現を比較してみることで、平行的な比較ではない音決めがしやすくなるのではないかと思います。
 是非、音楽を楽しむ為のオーディオという本来の目的を失わないようにバランス感をもって趣味の王道としてのオーディオを楽しんで頂きたいと思っています。私もそのようにしたいと思っています。
 何度もオーディオ店に足を運んで試聴して「ピン」ときたから購入したであろう各機器を信じて愛情をもって使いこなして頂ければと思います。愛情や信頼をもって接することをしないと決して良い音は出てこないというのは、楽器もオーディオも一緒なのではないかと思います。
 駄目だ、駄目だ、あの機器(楽器)でなければ駄目だと思って接しても結局はその能力も最大限に発揮させることは出来ないものではないでしょうか。

しつこく一言<迷ったらコンサートに足を運んでみてください>ね!
つづく

オーディオと音楽の交差点 第5回
四弦亭酔響
2003/11/12
2003/11/14 「指板項目」追加
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