キット屋倶楽部
キット屋コラムの部屋
 

『オーディオと音楽の交差点』

音楽とオーディオの交差点 第6回<音楽ホールと演奏について>
                   「祝 新社屋/試聴室オープン記念」
<はじめに>
 皆様、ご無沙汰いたしております。四弦亭酔響です。
 年末バタバタしておりましたが、やっと第6回を書き上げることができました。サブタイトルにありますように、なんとか「新社屋/試聴室オープン記念」に間に合わせることが出来ました。

<<大橋店主様、会社の皆様、本当におめでとうございます>>

 まさにオーディオにとってその部屋の音響環境に大きく左右されることと同じように、音楽ホールと演奏とは密接に様々な要素で関係していますので、今回のテーマはタイムリーと思って書かせて頂きました。
 不特定多数の方々に出来る限り音楽専門用語を使わないでご説明するように心がけましたが、なかなか表現が分かりにくかったり適切でない部分もあるかと思いますが、ご容赦ください。
 お時間がありましたら今一度過去のコラムをご参照頂ければと存じます。

 今まではどちらかと言いますと皆様との情報の共有化ということで、事実や客観的な事象を通して、四弦亭酔響の考えや価値観をお伝えしてきましたが、今回は踏み込んだ一部主観的な内容も含まれておりますので、一つの考えや意見としてお読み頂ければと存じます。

<絶対はありません>ので。

ホールは第二の楽器
 ホールは音楽演奏には必要不可欠な第二の楽器と言っても良い位のお客様にとっても奏者にとってもとても大切な音響空間です。

 オーディオでも部屋のアコースティック環境が大きくセッティングやチューニングに左右するのと同じようなもので、部屋の環境によってそれぞれのセッティングやチューニングを行うことも多いのと同様、演奏者はホールの音響が異なれば演奏や弾き方も能動的に変化させ、結果的にお客様にお伝えしたい音楽や響きになるように演奏します。

 オーケストラの音や響そしてその評価は定期演奏会を開いている本拠地のホールの存在と一緒に語られるくらい大切なものでもあります。

 日本ではなかなか固有のオケが専用ホールを持つことは難しいですが、最近ではレジデントオケとかフランチャイズという言葉で定期会場(ホール)で通常の練習も可能なオケも出てきています。これは練習時も同じホールを使用することで、オケの固有の響を作ってゆくことにとても大切なことです。
 ポイントは定期を毎回会場を同じ会場で開催するということも大切ですが、そのホールで規定回数のリハーサルが可能ということはとても大切なのです。

名門オケと名ホールの関係
 ヴィーンフィルは世界屈指の音楽専用ホールであるヴィーンのムジークフェラインを本拠地にしていますが、あのホールの響はとても残響も長くある面独特な響を持っています。そのホールで長く音や響作りを日頃から行ってきたヴィーンフィルはまさにムジークフェラインと共に築き上げ醸し出された響であり、各奏者はそのホールによって音楽的に必要な奏法やバランス感覚を含め耳や身体に染み着いているわけです。なので、他のホールで(来日公演等でも)演奏してもその身体に染み着いた響のイメージに近くなるように音作りをするように身体が反応します。
 頭や耳にある響きや音楽のイメージが重要ということを証明しています。そうするとあのムジークフェラインと同じとは言いませんがかなり総合的には近い音や響きを演奏側から実現することが可能なのです。

 オーディオののセッティングやチューニングでも全ての音の基準は皆様各位の頭や耳のイメージにある訳で、そのイメージ構築の基準を何処に置くか、また慣れてしまう人間の感覚や感性を適宜チェックしたり補正するかが大変重要になってくるということと同じと思います。

 つまり、当初より四弦亭酔響が皆様に提案している演奏会へ是非行って頂きたいということの根拠でもあります。

演奏者にとって良いホールとは/名演を産みだす条件

 演奏者とホールの関係を少しご説明をしてゆきたいと思います。
 演奏者にとって良いホールとは何だと思いますか?

 実は残響が長いことが全て良いという訳ではありません。

 ステージ上で各パートやセクションの音が聴こえてくるホール空間の響が適切にステージにも演奏者がアンサンブルに必要な情報を適切にフィードバック(反射や間接音で)してくれるホールなのです。
 客席の響が良くても、ステージ上ので直接音が聞き取れないホールは演奏するのにはとても怖いホールになります。

 良くあるのが、ステージで上手下手で分かれたり、離れた位置の楽器パートにとって他パート(例えば低弦)の音があまり(まったく)聞えてこないホールは特に怖いです。また、意外に思われるかもしれませんが隣の奏者の音がスーとホールに吸い込まれていってしまうようで、隣の奏者の音が実感を持って聞えないステージというのもあってそれも怖いものです。更に、自分の音が聞き取りずらいステージというのもあります。

 怖いということは何かと言うと、各奏者は聴き合ったり、必要な音を確認しながらアンサンブルを行ってます、(当然、目や呼吸でも確認はしますが)通常聞えてくる低音パートが聞き取り辛かったら、特にその上の音を担当するパートや楽器の各自が自信を持ってギリギリの所まで音楽が追い込めなくなる確率が高くなる。お客様の位置で音がずれてばらばらなパートに聴こえるのはまずい訳ですので、良い演奏になりようもありません。
 逆に言えば事故が起こり易いと判断するのでどうしても積極的な演奏を控えるようになるという構図です。

 言ってみれば、霧の中の曲がりくねった山道は怖くて飛ばせないのと同じで、緩慢で安全運転になりやすい、というよりそうせざるを得ない訳です。
 そういうホールで無理をすれば実際に事故も起こりやすいですし、所謂名演というのは産みだし難くなるのは自明の理。

 逆に、視界(聴界?)良好の道であれば、指揮者が望んでいるギリギリのエッジを狙い易くなる訳です、巨大なタンカーの様なオケを車に例えればコーナーを限界ギリギリの高速で攻められる訳です。

 これは音楽上の適切なテンションやスピード感(テンポではありません)や流れが、音楽の進行や和声的な進行によって作曲家によって作られたサーキットというかラリーの道というかそんなコースのコーナーの連続や直線を緩急つけながらテンポ良くヒラリヒラリと抜けたり疾走してゆく様のようなものです。見通しの悪い、風景の良くない道をゆっくり走るのは楽しめないし、ゆったり流してドライブするには良い風景や気候が良くないと楽しめない同じこともあります。

 通常、物理的に巨大なタンカーは海上で急に止まれませんし、旋回や方向転換するのは時間もかかる訳ですが、オケがそんな巨大な図体でレーシングカーのようにヒラリヒラリとコーナーと抜けていったり、時には豪快な巨体をドリフトさせて抜けてゆく。そんな様は爽快ですよね。

 そんな感じで演奏をギリギリまでエッジを攻める、またコーナーの1ミリの単位でハンドルを切る、なんてことをするには見通しや路面が整備されていなければ、直ぐにコースアウト、下手すれば連続の追突なんてことになってしまう訳です。
 全て安全圏内の運転でトロトロ走っているのではお客様に感動して頂ける良い演奏なんてご提供することは困難です。

 また指揮者がいくらハンドル切ってもオケ(車)の様々な都合というものもあり優秀な指揮者はリハを通してその能力や個性を見極め、セットアップを必要に応じて行い、リハを終え、本番に望む訳です。

 全開走行は本番の一発勝負、オケと指揮者の相互の信頼関係や各技術によって演奏は決まるようなものなのです。優秀なオケは各種、各場所にコンマスやトップ等の所にセンサーや制御装置を持っていて、指揮者が無理なハンドルやアクセルをしたりすると自動制御をしてコーナーを何もなかったように走り抜けられるように訓練はされているのですが。

 なんと言うのでしょうか、ジャンボジェットが地上3メーターで地形に沿って飛んでいる状態を要求された場合に500メーターのマージンを取ってしまうか、3メーターまで地上ぎりぎりに寄れるかはオケの能力と指揮者の信頼関係や腕次第とでも言いましょうか。

 つまりステージで奏者にとって適切なフィードバックが直接音のみならず間接音でも可能なホールでは名演が生まれやすいということです。

 別にその成功体験を多く積んだオケは多少問題のあるホールでもそれに近いところまで攻めたり、響を実現してくる、ということになるかと思います。これがオケのアンサンブル能力だったり機能的な高さにつながる訳です。

 当然、響の異なるそれぞれのホールでも良い音や響をお客様に届ける為にはホールによって各奏者は音の発音のアクセントのつけ方、歌い方、音の保持音のスピードや切り方、減衰のさせかたを能動的に変化させて、そのオケや指揮者のイメージするあるべき音や響に近づけてゆきます。
 その制御コントロールの重要な要素であるステージ上での直接音と間接音の適切なフィードバックが適切でないホールは弾きにくいホールとなる訳です。

恐ろしいー音響環境からの影響と慣れ

 なかなか難しいことですが、音響の良い(=フィードバックが適切な)ある程度の音響空間を持った練習室で練習するととても気持ちよく練習ができます、またそういう環境での練習は楽器のとても良い響や鳴らし方を習得するのにも役立ちます。
 実際、無響室のような練習室での練習は全て響きのない生音(ぎすぎすした感じで気持ちも良くありませんし、本来、響がある所で弾かれることを前提とした楽器達ですので、響かない所では本領を発揮しません、音楽自体も響きの空間を前提としたものですので適切ではない訳です。

 楽器を選ぶのに素の音が重要だなんて響かない所でテストしてもほとんど何の意味もありません、適切な空間でどのように響くのか、遠音(遠くに音が届く)が利くのかという意味も含め最終的にはホールでテストするのが一番なのですから。

 狭い、響かない空間で毎日練習している人の音は結構聴くと解ってしまうことがあります、響きの音楽的使い方が(知っていても)知らず知らずに適切な響きが頭からも薄くなってしまっているような感じです。
 環境に鳴らされること怖いなあと思います。それくらい実は奏者は空間からの音の反射のフィードバックを聴きながら演奏しているということになります。

 ちょっと専門的になって恐縮なのですが、フィードバックの音を聴くと言っても様々な1次2次3次・・・と複合的に反射がありますので、大きなホールの響きのあるホールで全ての反射音を聴きながら演奏している訳ではありませんで、当然、目や呼吸という時差がない部分も大きな演奏情報ですからそれらを総合してアンサンブルをしている訳で、遅れて戻ってくる最後の響や音を聴きながらなんてことをしたら、オケはどんどんズレて遅くなって停滞してしまいますので、総合的な判断の重要な一つの情報ということになります。

オケにおける物理的時差とタメや間の関係

 楽器の音域や構造上の発音(音になる)の時間やステージ奥(客席から見て)の管楽器等はそれぞれのステージ到達までの時差を含めて音を出すタイミングは結果的にお客様のところでピタリと合うように音を出すタイミングや音のスピードを微調整をしています。

 例えばコントラバスという楽器は楽器が巨大なため実際に弓が弦を発音し振動させそれによって楽器が振動や共鳴するまでにかなり時間が物理的にかかります。また実際に和音を構成する下の音(基音/ドミソのド)を担当することが多いですので、後から出遅れてしまいますと、その和音の上の音を乗せることが出来ないで奇麗に響きません。

 なので実際のところコントラバス奏者はかなり指揮者の棒に対して早めに音を出すタイミングのアクションをとってゆきます。
 これは管楽器でも同じですし、ホルン等は管長が大変長いですし、ステージの奥の方の位置ですので特有のタイミングで早めに吹いて(早吹)行きます。音の出のタイミングを合わせるとは結果を合わせることであって、各楽器によってて固有の事情によってそれぞれの音を出すアクションをするタイミングはそれぞれあるという訳です。

 またそれを響きとして有機的につなげる一つの術として各オーケストラは指揮者の棒の打点に対して、固有の間やタメをもっていまして、それぞれのオケの個性を創る一つの要素となっています。

 当然、その間は作曲家によってその時代や国によって、また編成によっても変化はさせるのですが、基本的な全体として鳴る為の音を出すタイミングをはかるタメはそれぞれオケによっても違います。指揮者によっても変化はしますが。
 Vnでも何列(プルト)にもなっていますので、目とそして呼吸を使って、音だけでなく(特に後方の奏者)いきませんと結果的には後ろに行くほど音を出すタイミングが遅くなっていってしまいます。それでも人間は見たことをそのアクションにするまで、そして楽器から音が出るまでのコンマ何秒の誤差が生じますので実際に音の出を合わせるにはそのオケの間やタイミングでの経験も必要でそれが固有のオケのアンサンブル能力につながります。

 例えば、ベームとヴィーンフィル(最近最後の82年日本公演のライブCDが出ましたが、私もその場で聴きました)の演奏におけるオケのタメというか音が出るまでの間は一時代を象徴したようなドイツオーストリア系音楽やオケの象徴的間ですが、ものすごく、棒との時差があり、ベームが棒をブルブルっと振り降ろし次の拍にゆくような時に1拍目の音が出てくる訳です。
 最近の腹話術師のやる衛生中継での画像と音声のズレの模写ではないですが目の情報とのズレのような感じです。

 最近多くの昔の名演奏家や指揮者の演奏の映像がDVD等でも手に入るようになりましたが、フルトヴェングラーとベルリンフィルなんて本当にフルトメンクラウの彼の棒で霊感ではないかと思うくらいでアンサンブルをまとめてきます、これはオケのアンサンブル能力無しには音の出るタイミングさえズレズレになってしまうほどです。
 さすがにフィナーレ等で彼が神につかれたようなアッチェレランド(加速してゆくと)すると、さしものアンサンブルも崩壊寸前だったり、近いことも起こり実際に見たり聴いたりすることも出来ますが。それはそれで全体として音楽として聴けば感動する音楽の流れや構成をきっちりもっている為にそれはそれで感動につながったりします。

 最近の傾向はドイツオーストリア系のオケでも段々とそのタメは一時代前よりは音の出るタイミングは早めになってきた変化はありますが、オケは固有の音を出す間を持っていることによって固有の響きを獲得しているということがあり、それも実は会場の音響空間がどういうもので作り上げてきているのかということも関係している部分でもあります。

 東京でここ数年、世界各国の名オーケストラや日本のオーストラのプレーヤーをイベント的に混成オケにして有名指揮者が振るというコンサートがありますが、それぞれのオケを背負ってきている首席やコンマス等も寄せ集めで演奏していますと、それぞれの所属オケの個性のタメがあります。そこに参加したある世界最高のオケ(ヴィーンフィルではない方のドイツのオケ)の奏者が言っていましたが、いつも妙なタメで遅くでてくるのが○響の方、先に入ってしまう傾向があるのが○○フィルの方、なんて感想を言ってました。
 同じ指揮者のそれも超一流の棒を同時に見ていても、それくらい違う間やタメが各オケである訳です。

 基本的にイベントオケはあくまでもイベントオケであり、定期を持つオケではありませんので、いくら世界最高のプレーヤーを集めてオケをイベントで組織しても最高のオケにはなりません。それは伝統や時間が必要な固有の響きを実現出来るのは定期を持つオケということになります。それはそのオケに所属している奏者各自の響きや音楽のイメージが同じベクトルの方向に向いていなければなかなか直ぐには実現しないということなのです。当然そこには長年のホームグラウンドとしてのホールもその伝統的な固有の響きの実現に影響をしているということでもあります。

オーディオとの関係/四弦亭が大切と思うことと

 オーディオでもまさに各帯域バランスや音のスピードが小音量でも大音量でもそろっているということは、四弦亭にとっては大切です。まさにオケの各楽器や音域がバラバラな微妙なタイミングのズレがありますとハーモニーや調性の変化による響きの変化が適切に聞えないシステムもあります(当然部屋からも影響は受けるのですが)。
 そういう面では大橋店主様が日々主張されて開発やヴォイシングに腐心されているポイントは大変共感できます。現に私はSV-501SEをパワーアンプに使用している訳です。私にとって聴いていてしっくりくるのはどうもシングルアンプである場合が多いようです。

 とは言え、これはあくまで四弦亭の現在の好み、そしてシステムや部屋の環境そして音源の場合の話でありますし、PPアンプが悪いという話ではまったくありません。300Bしかない、なんていう話でもありません。

 奏者でも曲の時代や解釈において音楽表現の為に弓を適宜使い分けたりする訳ですし、楽器を使い分けることもあるのですから。まさに絶対はありませんし、それよりも自分の頭のイメージ構築や適宜修正できる柔軟な姿勢が大切だと思います。

 音は機械に宿る為の前提は各々個人の音のイメージが耳や頭に宿っていること。

 それよりも誰がその商品の音決めをしたかということのほうが大切なような気がします。大橋様の感性と経験による音に私は共感をするということかもしれません。
 今月オープンした新試聴室、そして段々機器が運ばれてきた「男の城」である大橋様個人のオーディオルームがどのように今後の音作りに反映されるのか、まさにオケに取ってのホールと同じで、とても楽しみにしているところです。

 当然、四弦亭もシステムの使いこなしによって自分のイメージに近づけるという電源やケーブル等、設置台等、そして部屋のライトチューニング的なことは行って、所謂セットアップやチューニングは私は行っています。でもそこで重要なことは一旦自分の感性で気に入って購入したものは徹底的に信じて使い込んでみるという愛情なしにはどんなシステムや機器を変えても達成は難しいと思っています。いつも変化を求めて機器を変えないといけなくなってしまうのは不幸だと思います。まさに、奏者にとって、問題が、楽器や弓のせいなのか、自分の技術や使いこなしができていないのかと同じようなものです。


響きの環境と人間の感性
 イタリアの街角を散歩していますと、それこそ狭い路地でちょっと鼻にかかったベルカントとは言いませんが、響く声を出していたり、遠くの人に言葉が聴きやすいような発音をしてその石畳とアパートの石の壁面の残響を利用して怒鳴っていたりします。
 部屋でも同じことで大理石の床や壁なんかは何千年もの昔からですからその人の声や発音法が響きアリキのものになっていると感じます。まさに、これがイタリアの楽器の特徴にも近いものなのです。
 ちょっと鼻にかかったソプラノなんて言い方がありますが、まさにそんな感じです。
 音楽にしても楽器作りにしてもその固有の響きや発音というのは学ぶことは可能です。但しやはりその場所で学ぶということは本場であるという意味以上に生活やその環境にありふれているあたりまえの響きを感じることのほうが影響を与えるのではないかと思います。器楽奏者がヴィーンやフランスを目指すように声楽ではイタリアとなりますが、まさにその生活に密着した音楽だけでなくその言葉からも伝統的な独特の響きを感じることが大切なのかもしれません。

楽器と湿度
 もう一点、最新の設備の音楽専用ホールはホール内は本当に空調が良くなっていて湿度管理も楽器に適切な湿度になっています(時々効きすぎている所もありますが)。でも家そして会場まで、楽屋と様々な影響を受けてホールだけ適切というのでは楽器も変化について行けなくなって調子が崩れるということもあります。
 ヨーロッパへの演奏旅行で楽器が本当に良くなるようになるのは、やはり人工的な空調ではない乾燥によるもので、当然生まれた国の環境が一番状態が良いのは言うまでもありません。
 ヨーロッパから入ってきたばかりの楽器は日本の気候になれるのに調整を繰り返しながら適合して行くので、日本で初めての夏など、楽器によっては本当に絶不調になってしまうこともあります。

 前回第5回では書きませんでしたが、日本の修理調整の優秀な方はヨーロッパと完全に同じ(接着力や特性を含め)ニカワでは接着しません。そんなことをしていたら、日本の気候では直ぐに剥がれてしまったりいろいろ問題が起きやすいからなのです。それくらい湿度や温度が与える楽器への影響は大きいということです。また天然素材ですので、時間がたつにつれてその環境にも順応してゆく間口の広さがあるのが楽器です。
 但し、急激な湿度や温度変化は楽器には良くない(人間にも良くないのと同じです)し調子を崩します。

ホールも熟成が必要

 ホールの話にもどりましょう。
 楽器が枯化によって音や響きが良くなってくるように、実は現在優秀なホールとされている所でも完成した直後の音は酷かったなんてことはざらにあります。
 ホールは現代の建築基準で作る訳ですから、いくら木材を大量に内装で使っていたとしても所詮はコンクリートの箱です。大量のコンクリートの含有している水分が出て行くのにはやはり5年10年とかかるようです。どんどんバランスも響きも時間の経過と共に変わってゆく。
 もう一つ、出来たばかりのホールは音がまとまっていないので音楽専用ホールでもステージの上に予定にない反響板をつるしていたり位置をかなり下げている場合があります。

 これは先に説明しましたステージ上に音のフィードバックをさせる為の調整してあることのほうが多いのです。
 当然様々な位置にある席をある程度片寄りがないようなバランスを取る為でもありますが、まずはステージ上が前述のように演奏しずらいのではどうにもならないからです。
 証拠に段々ホールの響きが適正になってきますと目障りなその反響板は上に上がってゆくことが多くあるようです。設計が不完全でしかたなく反響板をつるしたなんてところもありますが。それにしても段々時間と共に解決してゆく場合も多いようです。

 有名な音楽専用ホールですが、オーケストラによっては、ステージ上の反響板の高さを標準でない位置にあえて指定しているところもあるくらいです。これは客席やホール全体の音の為もあるようですが。

椅子も大切な響きの構成要素
 もう一つ大切なのは、椅子の素材、これが約2000前後並んでいる訳ですから音響に影響しないなんてありえないのは皆さんの経験でも自明のことと思います。椅子と言ってもヨーロッパ製の椅子とか、木の部分や表面生地の素材とかで本当に変化するようで、椅子の予算をケチッた為に響きで損をしているホールもあるようです。

 オーディオでも部屋に何もない状態では音がまとまらない状態が多いように、その空間を埋める椅子や棚やカーペット等が入って段々と音が落ちついてくるのと同じです。

床と天井と季節と人間
 もう一つ、オーディオでも若干カルトな部分を含め、素材の方向性(方向管理)がとかアクセサリー等で近年、雑誌等を賑わしていますが、実はホールのステージの床というのは、もっとも楽器や奏者に近い、もっとも大切な反響板であるという事実があります。
 良いホールは大抵板の方向(目)を縦に客席方向に向けているのをお気づきでしょうか。
 上手下手の平行に板は貼っていません、客席に向かって縦に貼ってあるはずです。音楽専用ホールとか音響が良いとされるここ10年位に出来たホールのステージの板の方向を見てみてください。多分客席に向かって縦方向に向けてステージ床板が貼ってあると思います。

 ステージの床の素材や構造を吟味していないホールは適切に音が上に立ち上がらなかったり、イマイチの残響きだったりします、奏者へのフィードバックも悪い場合が多いようです。

 つまりステージ床(反響板)とその向かい合っているステージ上空の所謂反響板はとてもホールの善し悪しを左右するポイントでもある訳です。

 オーディオでも床や壁という所に目を向けるだけでなく、天井にも目を向けることで様々な問題が解消することもあるのは当然のことである訳です。但し、なかなか生活空間の場の天井に様々な対策をしてぶらさげたりするのは家人との絡みもあるので難しいのも現実とは思いますが。

 それとホールやステージの横や後ろに空間が確保されている(箱の中にもう一つ少し小さな箱を入れているようなもので、その箱と箱の間)ことが多いようです。昔聞いた話ですがムジークフェラインは天井裏に何トンもの砂利?というか詰め物がしてあるそうです(これは確認したことありませんが)。
 床、天井、反響板、壁、椅子等全てが有機的に連携しあって始めて良い音響空間が生まれる、それも時間がたって乾いてきたほうが響きが熟成される、オーディオでも新築の家やマンションでは生活物による吸音や反射が緩和されるということもありますが、オーディオの音も部屋の影響をもろに受けて落ち着かないのと同じ感じがします。

 もう一つ、冬と夏ではお客様が満席になる程、ホールの響きは影響を受けます。それは、着ている材質や量によって冬のほうが圧倒的に吸音するからです。でも、楽器は冬のほうが良く鳴りますのでツーペイなのかななんて感じますが。

 でもご安心ください。オケは能動的にその音響空間に合わせた奏法や表現やバランスを取っていますのでその外的な変化が基本的にお客様へお届けする音楽に影響を出すことはほとんどありませんので。


 これって、本当にオーディオと部屋の関係と似ていませんか?
 やはり日常生活をしている中で適度にデッドだったりライブという各自固有の環境の中でセッティングやチューニングを能動的に行うという行為無しには良い音は出てきません。言い替えれば、その響きを理解し感じる感性をもって積極的にその環境を利用したオーディオのセッティングというものが必要なのではないかと思いますし、もしオーディオ、特にSPを楽器に例えるなら、響きを殺して無響室的環境で聴くのはつまらない音(データや理論だけの)になってしまう可能性がないでしょうか。

ホールのタイプ
 折角ホールに行って生の演奏をお聴きくださいとお願いしている手前一応、経験的にはどんな席で聴くと良いのかということを(絶対ではありませんが)先に書かせて頂いたことも踏まえて書いておきます。

 最近は音楽専用ホールが多くなってきて、大変素晴しい環境が日本には多くなってきています。
 音楽専用ホールというのは所謂オペラや演劇系の舞台物の興行には必要不可欠なドンチョウを通常装備していません。当然大がかりな舞台切り替え装置もありませんが。
 つまり、どんちょうがありますと、その巻上げというか(実際はスライドして上の空間に上がって行く空間もいりませんので、舞台の客席側ぎりぎりのところに空間というかスリットも必要なくなります。つまり反響板が連続して設置できるというメリットもありますし、空間そのものが一体化できるという音響的なメリットも計りしれません。またサントリーホールに代表されるような(モデルはベルリンフィルハーモニーホールです)『ワインヤード型』のようにステージの後ろにも席が出来ますし一番のメリットはステージからの各客席との距離がかなり平均的に短くできるということです。
 因みにムジークフェライン(ヴィーン楽友協会大ホール)は『シューボックス型』という長方形の箱型です。

聴覚と視覚
 また、実際の演奏会の場合、やはり視覚も重要だと思います。ある研究では、演奏会で目を閉じて聴いた状態と見ながら聴いている状態では音量の感覚が目を閉じて聴いた状態のほうが20%程落ちて聞えるということです(昔読んだ本なので記憶が曖昧ですが)。
 まあ、それ自体については異論もある方もいるかもしれませんが「視覚は聴いている音に影響を与える」ということでは異論はないのではないでしょうか。
 まさに長岡鉄男氏の言葉である「観音力」。

 以前もコラムで演奏会でその客席から目を閉じて知識ではなく、聴いてフルオーケストラの編成や場所を言い当てることは困難である。と書かせて頂きましたが皆様、如何だったでしょうか?お試しになられましたでしょうか?

どの席が音が良いのか
 そのご経験があるという前提で、どの客席で聴くと音が良いの?ということを書いてみたいと思います。
 結果的には「お好み次第」、ただし好みの視覚ということはあると思います。
 音的にお好み次第と言うのは、結局視覚を無視しては演奏会場では語れません。

 経験的な理屈から言えば、先に書いたように、最も奏者に近い重要な反響板はステージの床板ですので、その反射から近い距離を取れる位置は音は良いと思います。でも、通常はステージの床に対面し一番近い距離にあるのは、音楽専用ホール等にしかありませんが、ステージの両サイドやワインヤードに見るオケの後ろ側の席です、ただし後ろ(一般にP席と言われます)の席は楽器の音の指向性から言うと逆の位置になりますし、オケが音を作っているタイミングや音量は正面で合うように演奏されていますので、不利な位置でもあります、但し指揮者がテレビのように正面で見えますし、打楽器金管楽器の直接音はかなり聞えるのでそういう音が好きな方には良いとは思います。
 さて、ステージの左右の席、またそれに究めて近いが、ステージを斜め前方に見えるウイングのように張り出した2階や3階席は良い音がすることは確かです。但し、視覚的にはVnが近いが後ろ向き、またはVnは遠いがチェロバスやビオラが後ろ向きなんてことになりますが、音的にはよろしいと言えるかもしれません。
 視覚情報は聞える音を自動的に補正するので、若干のバランスが悪くても響きや音的には直接音と響きのバランスが取れていることが多いようです。

 視覚的な安定や左右のバランスを考えれば真ん中センターが良いのですが、現実的には2階席でも1階席部分の面積前方下方に広がっている訳で、ステージからの直線距離は遠くなりますので、一度ステージに反射した音が上に昇って天井やサイドに反射した音が多くなります。直接音は若干減る訳です。
 これがバランスが良いと思う方もいらっしゃいます。一階席の後方は音のブレンドは良く響き中心になりますが、私はそこまで後ろになるのなら2階席の前や3階の前、最後列でも上の階のほうが良いと思います。
 でもこれもお好み。ホールの客席の配置にもよりますし、考え方にもよります。

 一階の最前列の方はフルオケで大きい会場の場合はバランス的には音は良くありません、直接音が聞えますが見上げる状態になれば、管楽器は見えませんし左右(下上手)の幅が大体オケは15、6メートル前後になりますので多分、その両サイドからの直接音の全体を捕えるには難しい部分もあります。
 視覚的にも映画館の一番前の席のようなものですね。管楽器の音は自分の上を通り過ぎてゆき、反射音がメインになります。但し、指揮者の唸り声や呼吸や奏者から出てくる直接音の音の立ち上がりや音量そして気迫は直接感じますので、それはそれで感動的な情報を受け取ることも可能で、これもお好み。

 全てホールによっても同じではありませんので、ご自身の視覚聴覚を総合した好きな席(当然客席の価格も違いますので)を探してみては如何でしょうか。様々な席で聴かれることで(複数の演奏会にも行く必要があります)、客席による音の違いや、視覚がそれに与える影響も含めいろいろ体験されることが、オーディオライフにおけるイメージ構築やセッティングの参考になるのではないかと思います。

録音と奏者とホール
 実は録音は、メインのマイクはステージの反射に近く、真ん中の上の空間に陣取っていますので先の理屈に適ったベストな中空席で取っていることになります。さすがに、空中ブランコのように聴ける席はありませんので。。。。
 実際にお客様の入っていない録音の場合はホールがかなりライブになりますのでそれを調整するのは大変なようですが。

 録音の話が出ましたが、ホールというか空間と建物と一体になっている巨大な楽器があります。それはパイプオルガンです。オルガン奏者はまったく実際の客席での音やタイミングはわかりません。
 まず自分のすわっている所と言っても、巨大な面積や空間にパイプは設置されていますので、自分の位置がベストな位置ではないし、戻ってくるのは間接音が多く、また鍵盤を押した瞬間に音が出る訳でもなく鳴るまでの時差もあります。そして一番良い音はやはり中空になりますので、録音を聴いて自分の音を確認する、なんてことがざらにあるようです。はっきり言って、録音して音をフィードバックするまでは自分の演奏の客観的な把握がとてもしにくい楽器。なので、録音エンジニアと二人三脚ではないですが、本当に一緒になって録音してゆくしかないというものです。ホールが悪いと言っても楽器は他の位置や場所に移すことは出来ないですし。
 まさにホールが楽器の一部というものです。

 パイプオルガン奏者は客席も見えない、指揮者(オケと一緒だったりアンサンブルのパートを演奏する場合)も見えません。
 通常は車のようにバックミラーがついていますのでそれを見ながら演奏する、最近は指揮者をモニターするカメラからの映像を液晶画面に映し出して見ている(そういう設備がある)場合が多いです。

 バンダ=楽器がステージではなく左右の袖で演奏して音響的に遠近表現を表わす手法、でも、最近は全て袖のモニターでタイミングを見て演奏します。バンダの人数が多い場合は副指揮者がモニター見ながら振ったりする場合もあります。昔はモニターなんか便利なものが無い場合は副指揮者がステージの袖でステージの指揮者が見える位置に行ってその奥にいる奏者に合図を出したり。これは、ずれると怖いものです。
 オケ曲でもオペラでもこのバンダの効果を使っている曲は結構ありますので是非、CDや音楽の解説を読んで、また本番でその効果を聴いてみてください。
 管楽器、特にラッパ等金管楽器、合唱等が主に使用されるパートになります。実際はオケ曲ではその奏者はその箇所で演奏が袖で終るとそろそろと目立たないよう足音を出さないようにステージに演奏中に入ってきますので、見てみてください。山台で足を踏み外したり他の楽器に接触しないように狭いステージだとハラハラ。
 但し、これは一階前のほうの席では見えないことのほうが多いですが。。。

2003のおわりに

 今年最後の四弦亭酔響コラム/第6回をお楽しみ頂けましたでしょうか。
 色々書かせて頂きましたので、皆様それぞれ音楽やオーディオの経験から似たような体験をされていらっしゃる方も多いと思います。

 今回の内容は特に四弦亭酔響の主観的な考えや経験の分析からのものが多くなっています。様々な異論やご意見をお持ちになられる方もいらしゃるかもしれません。

 これはあくまでも「絶対はない」ということを当初よりコラムでは訴えさせて頂いているように、抽象芸術や抽象的な音というものをテーマにしている限り、すべては「四弦亭酔響はこのように考え、思っている」というあくまでも皆様の素晴しい音楽ライフやオーディオライフへの一つの情報や考えとして、それぞれの皆様がご自身の経験や感覚を踏まえてなんらかのご参考にしていただければと思っています。
 そのまま受動的に意見を受け入れてしまうのではなく、能動的なスタンスで理解して頂いたり、咀嚼して頂くことで、本コラムから何らかを受け取って皆様の趣味をより楽しく深くして頂ければ幸甚です。

 年末には第九の演奏会を含め沢山の演奏会が開催されています。
 是非一度、演奏会を聴いてから新しい年をお迎え頂ければと思っています。

それでは皆様、良いお年をお迎えください。
つづく

オーディオと音楽の交差点 第6回
四弦亭酔響
2003/12/12
  (無断転用転載禁止)
キット屋倶楽部に戻る