モーツアルト     ベートーヴェン
 
 

2011年1月1日(土)  遅ればせながらSV-192S

 
 キット屋倶楽部の皆様、明けましておめでとうございます。本年も「第九のIのmonthly フロイデ」どうぞよろしくお願いいたします。

 遅ればせながら、昨年のクリスマスイヴの日にSV-192Sを購入しました。数日通電して真空管をエージングしたのち、音出ししてみました。TL-51Xとの間はAES/EBUケーブルで繋ぎ、真空管と足はデフォルトのままとし、24bit/176.4kHzにアップサンプリングしての音出しでした。聴くこと数時間、このDACにぞっこん惚れ込みました。あらゆる面でmodel2をはるかに凌駕する素晴らしいDACです。一言でいえば、表現が素晴らしく"音楽的"なのです。
 それではどう音楽的なのか? まずなによりピアニッシモでの表現力の雄弁さ、音楽的緊張感の見事な持続をあげたいと思います。演奏家なら誰でももっとも神経を使う弱音での表現が、実に素晴らしい! これまで私のオーディオはここが弱く、アンプの弱点と思っていたのですが、なんとDACの問題だったのですね。驚きでした。一方フォルティッシモも天井を打つ感じがほとんど感じられないものになっています。
 次に挙げたいのが、楽器の質感の見事さ。ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、木管楽器、オーケストラ、声楽、そしてチェンバロ、どれをとっても、「ああこれが本物の音だ」と感じられるのです。ベルリンのテルデクス・スタジオで録られたピアノや、ドレスデン・シュターツカペレの弦楽器やホルンの音などは、聴いていて鳥肌が立つほどの感動を味わいました。ピアノ独奏曲はまるでそこで弾いてくれているという錯覚を覚えるほどでした。(これまで私は真空管オーディオの欠点はピアノ(←楽器です)の再生音と思い込んでいたのですが、これが間違いであることをSV-192Sを聴いて悟りました。)
 さらに音の躍動感、音楽(演奏)の生命力を実感させてくれる再生音にもぞっこんです。これまで私の再生音は、レガートは得意だけれど躍動感・生命力の表現は苦手で、その原因はアンプとスピーカーにあるのだと思い込んでいましたが、SV-192Sに変えて、この不満をきれいさっぱり拭い去ることができました。うれしい!!
 また演奏家が細部に宿した様々なニュアンス、多彩な音色もよく再現してくれます。(対してmodel2は暖かく深みのある音なのですが、その単色に塗りこめられてしまう感があります。) 
 弦楽合奏を聴く時に感じられる音の粒の大きさも私には理想的です。さらにその粒のほぐれ具合もちょうどいいと感じています。

 ネットでSV-192Sのインプレを検索しますと、「空間性の表現に優れる」「ホール感がよく感じられる」といったものが多いようです。確かにそれは一聴してわかります。しかしこのDACの本質は、上記のような「優れた音楽性」にこそある、というのが私の印象です。まさにキット屋10周年記念にふさわしい傑作ですね。
 あと数カ月このままで鳴らし、その後必要性を感じれば、足や敷物や12AU7(ECC82)の交換も視野に入れようと思います。そして今なにより期待しているのは、MUTECのMC-3です。CECのマスタークロック入力機能付きの新CDトランスポートと同期させると、どんなに素晴らしい音楽("音"というより)を聴かせてくれるのか、想像するだけで心が躍ります。
 

 

2011年1月8日(土) 5分でわかる(!) ルネサンス音楽入門

 
 昨年11月の日記でご紹介したパレストリーナの「教皇マルチェルスのミサ」を聴いてルネサンス音楽の魅力にとりつかれたワタシ、12月にルネサンス音楽について書かれた本を何冊か読み、"にわか勉強"をしました。以下その成果のご披露です。題して「5分でわかるルネサンス音楽入門」。(笑)

 西洋のクラシック音楽の歴史を大きくみると、こんな具合です。
・14世紀以前 中世の音楽
・1430年頃〜1600年頃 ルネサンス音楽
・1600年頃〜1750年頃 バロック音楽(ヴィヴァルディ、バッハ、ヘンデルなど)
・1750年頃〜1900年頃 古典派・ロマン派の音楽(モーツァルト・ベートーヴェン・ブラームス・ワーグナーなど)
・1900年頃以降 近代・現代の音楽(ドビュッシー、ストラヴィンスキー・バルトークなど)
 つまり、今日話題にしているルネサンス音楽というのは、バロックよりもさらに古い音楽で、ダ・ヴィンチやミケランジェロで有名な美術におけるルネサンスとほぼ同時代の音楽といってもよいと思います。
 この200年弱のルネサンス期の音楽をもう少し細かく分け、代表的な作曲家の名を付けるとこんな風になります。
・ルネサンス初期 (デュファイ、オケゲム)
・ルネサンス盛期 (ジョスカン・デプレ、イザーク)
・ルネサンス後期 (パレストリーナ、ラッスス、ビクトリア、バード)
 これらの時代は、キリスト教にがんじがらめにされていた中世から、古代ギリシャ・ローマを範とした"人間復興"の時代であり、コロンブスのアメリカ大陸発見(1492年)、ルター(1517年)をはじめとする各国での宗教改革、コベルニクスによる地動説の提唱(1543年)などがあり、人々の規範が大きく変わった時代でした。

 「時代」の話はこれくらいにして「地域」で見てみると、美術におけるルネサンスがもっぱらイタリアで発展したのに対し、音楽は今の北東フランスからベルギー、オランダにかけてのいわゆるフランドル地方で発展しました。そのため特に初期から盛期にかけてのルネサンス音楽をフランス・フランドル楽派と呼ぶことが多いようです (古い本ではネーデルランド楽派と書かれています)。そして後期になると、ヨーロッパ各国に広まっていきました。

 またルネサンス期の音楽を「作品形態」で分けると、
@宗教に関係する内容を歌った声楽曲 (通常は無伴奏)
A恋など宗教と無関係な世俗的内容を歌った声楽曲
B器楽曲
の3つに分類することができます。私の関心はもっぱら@にあります。人間復興が始まったとは言え、現代に比べてはるかにキリスト教の影響が強かったこの時代、音楽の中心も@であり、その意味でこれがルネサンス音楽の本流と言ってよいかと思います。

 ここまで勉強した上で次はCD選び。日・英・米・仏のベストCD紹介本を使って、ルネサンス声楽ポリフォニーでまず聴くべき5枚を選び出しました。
 ところが実際CDを注文しようとすると、数年前に発売されたばかりで上述のベストCD紹介本に載っているCDですら"品切れ"になっていることが多く、かなり苦労したのですが、イギリスのあるクラシックCD専門店の方の努力に助けられ、すべてが第一希望の演奏とはいかないまでも、なんとか無事5枚を揃えることができました。以下がその5枚です。

 

2011年1月15日(土) ルネサンス声楽ポリフォニーの精華を聴く5枚

 
●作曲 ジョスカン・デプレ (Josquin Desprez 1455頃〜1521)
●曲目 ミサ・パンジェ・リングァ(Missa Pange lingua)他
●歌唱 タリス・スコラーズ (The Tallis Scholars)
●CD Gimell CDGIM206(2枚組)
盛期ルネサンスを代表する作曲家の晩年の傑作ミサ。ジョスカンは美術におけるダ・ヴィンチ(1452〜1519)に比せられる巨人的存在。音楽は簡潔にして均整、宗教的気高さと自由闊達の融合。ファンタジーの飛翔を感じさせてくれます。この演奏は1986年の録音以来世界中で何十万枚売れたのでしょうか? まさにルネサンス声楽ポリフォニーを代表する1枚にして、クラシック音楽愛好家必携のディスク。

●作曲 パレストリーナ (Palestrina 1525/6〜1594)
●曲目 教皇マルチェルスのミサ (Missa Papae Marcelli)
●歌唱 パオロ・ダ・コル (Paolo Da Col) 指揮 オデカトン (Odhecaton)
●CD Arcana A358
昨年11月のこの日記でご紹介した、私のルネサンス音楽開眼の1枚です。ルネサンス後期のイタリアを代表するバレストリーナのこの曲は、やわらかで甘美な旋律線 (バレストリーナ・カーヴと呼ばれるそうです) と和声で、ルネサンス・ポリフォニーのひとつの到達点を示しているように思えます。ある意味人工美の世界なのですが、いったんこの世界にはまるといつまでも浸っていたい、そんな気持ちにさせられます。

●作曲 ラッスス (Lassus 1532〜1594)
●曲目 ダヴィデ懺悔詩篇曲集 (Psalmi Davidis poenitentiales)
●歌唱 ヘンリーズ・エイト (Henry's Eight)
●CD Hyperion dyad CDD22056(2枚組)
ルネサンス後期の南の代表がパレストリーナなら、北(フランドル地方)の代表がラッスス(没年も同じ年)。こちらは"懺悔"という強い感情に結び付く劇的表出力に惹かれます。実はこの曲、別の演奏CDを選びたかったのですが廃盤でやむなくこのCDに。演奏が最上とは言えず残念。今度同じラッススの晩年の作品「聖ペテロの涙 Lagrime di S.Pietro 」を買って聴いてみようと思っているところ。

●作曲 ビクトリア (Victoria 1548〜1611)
●曲目 レクイエム (Recquiem)
●歌唱 クリストファーズ(Christophers)指揮 シックスティーン (The Sixteen)
●CD Coro CORSACD16033(hybridSACD)
ルネサンス期のスペイン最大の作曲家が皇太后の死を悼んで作曲した6声のレクイエム。正式な曲名はOfficium Defunctorumと思います。その強い表現意欲と恍惚的とすら言いたい彼の音楽は、人の死を悼むというより、自らの死後の天国行きを痛切に願う狂気にも似た情熱を感じます。まさに同時代のスペインの画家エル・グレコ(1541〜1614)の宗教画のよう。5枚の中でもとりわけ強く惹かれたディスクです。

●作曲 バード (Byrd 1537頃〜1623)
●曲目 三声、四声、五声のミサ (Mass for 3,4,5Voices)
●歌唱 カーウッド(Carwood) 指揮カーディナル・ミュージック(The Cardinall's Musik)
●CD ASV Gaudeamus CDGAU206
ルネサンス期のイギリスを代表する作曲家バードの残した3種のミサ曲を1枚にまとめたディスク。曲の特徴は上述のラッススやビクトリアと対照的。抒情的な旋律の流れとデリケートで奥ゆかしさを感じさせる音楽です。まるで心の奥底のしまっている大切なものを一瞬見せてくれているような不思議な感触を持ちました。このディスク、イギリスでは名演の誉れが高いのに品切れ状態で、日本で手に入らないと思いますが、同曲異演盤が複数あるので、お望みの方はそちらを。

 「すべての時代は神の前に平等である」と昔の偉人が言ったそうですが、ルネッサンス・ポリフォニーは決してその後の時代の音楽に劣らない、固有の価値を持った音楽であると痛感したこの1か月でした。
 今後さらにルネサンス音楽のCDを集めるか、いったん別の時代の音楽に舵を切ろうか、今思案しているところです。

 

2011年1月23日(日) ひさしぶりのふたつのコンサート

 
 1月19日(水)と22日(土)に演奏会に行ってきました。昨年2月以来ほぼ1年ぶりのナマでした。

 19日(水)は、名古屋のしらかわホールでのエリーヌ・グリモーのピアノリサイタル。曲目は最近DGレーベルから出たのとまったく同じで、
・モーツァルト ピアノ・ソナタ第8番 イ短調K310
・ベルク ピアノ・ソナタop.1
・リスト ピアノ・ソナタ ロ短調
・バルトーク ルーマニア民族(俗)舞曲 Sz.56
というものでした。グリモーはこの日の名古屋のリサイタルの前に、東京で2回、同じ曲目で演奏会をしたのですが、ブログでのこの2日のプロ・アマの批評・感想は好悪真っ二つ。
はたしてどちらが本当なのか、期待と不安の両方を持ちながら会場に行きました。

 最初のモーツァルトはイマイチ。音が妙に太く輪郭がはっきりせず、粒も揃いません。和音も濁り気味。彼女のCDから聴こえてくる「どちらかというとやや冷たさを感じるクリスタルのような高音」とはまるで違う音です。途中でその原因は指の使い方にあるのではないかと気付きました。以前TVで見た彼女の指は"伸びて"いたはずなのに、モーツァルトでは卵を掌に持つように"丸めて"弾いているのです。これが原因かと。ベルク以下の3曲は伸ばして弾いていましたし、CDで聴いたとおりの音になっていましたので・・・
 次のベルクはこの日1番の素晴らしい演奏。不協和音の中から聞こえてくる甘美な歌、世紀末の退廃の香り、エロス、くっきり浮かび上がる対位法、そして何より演奏者グリモーのファンタジーの飛翔を強く感じました。演奏し終わってお辞儀をしたときの彼女自身の笑顔も、会心の笑みだったように感じました。今日のプログラムで彼女が本当に弾きたかったのは、この曲ではなかったのでしょうか?
 休憩後のリストはヴィルティオーゾとしても一流であることの証のような演奏。ほぼノーミスで、このやや捉えどころのない長い難曲を弾き切りました。とりわけ凄いと思ったのは左手の自在さ・雄弁さ。右手以上と言ってもいいくらい。この人左利きかもしれませんね。
 バルトークで楽しく締めくくった後のアンコールはグルッグの「聖霊の踊り」のピアノ版とショパンの新しい3つの練習曲から第1番の2曲。前から10列目やや下手寄りでの鑑賞でした。お客様8割程度の入りだったでしょうか。

 続いて22日(土)はジャン=キアン・ケラスのチェロ・リサイタル。ピアノはアレクサンドル・タロー。名古屋の電気文化会館での演奏会でした。曲目は次のとおり。
・シューマン 民謡風の5つの小品op102
・メンデルスゾーン チェロ・ソナタ第1番 変ロ長調op45
・ドビュッシー チェロとピアノのためのソナタ
・ブリテン チェロ・ソナタ ハ長調op65

 掛け値なしで素晴らしい演奏会でした。いい音楽を聴かせてもらったという満足感でいっぱいになりました。ケラスはもの凄いテクニックの持ち主(ブリテンの最終楽章の速さといったら! )なのですが、前に出てくるのはあくまで音楽なんです。まずなんといっても、そこが素晴らしい。そしてよく伸びる音。ゴシゴシ弾かなくてもきちんと音が通ってくる。持っている技術と音楽性のすごく高いレベルでの両立。(ケラスは私のお気に入りのチェリストでして、バッハもドヴォコンもケラス盤を愛聴しています。)
 ピアノのタローとのバランスも最上でした。アンコールはシューベルトの歌曲「夜と夢」とクライスラーの「愛の喜び」。数日前の東京での2回の演奏会のチケットはあっという間に売り切れたとか。首都圏の方は耳の肥えた方が多いんですね。






 
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