モーツアルト     ベートーヴェン
 
 

2011年2月5日(土) 往年の名盤VS現代の名盤

 
 日頃クラシックをオーディオでお聴きになる時、皆様は往年の名盤を聴くことが多いですか、それともワタシのように新しい録音が中心ですか? 「昔の演奏は素晴らしかったけど、最近はみんな小粒になってしまって」という声はときおり聞きますし、名曲名盤をあげた日本のガイドブックは数十年前の録音ばかりが挙げられています。今の音楽家はそんなにダメなの?
 というわけで、今日は往年の名盤と現代の演奏家のディスクの聴き比べです。比較の対象にあげたのは2曲。まずはこの曲の3つの演奏です。
◆バッハ 無伴奏チェロ組曲第3番ハ長調BWV1009 から 第5曲「ブーレ」

@ピエール・フルニエ(Vc) 1960年録音DG盤
 カザルス、ロストロ、ビルスマと並ぶ、アナログ派の皆様もよくご存じの名盤
A鈴木秀美(Vc) 2004年録音Deutsch Harmonia Mundi盤
 かつてキット屋試聴会の冒頭に流され、多くの皆様が買ったDSD録音hybridSACD盤
Bジャン=ギアン・ケラス(Vc) 2007年録音 Harmonia Mindi 盤
 カナダ出身の中堅奏者による「現代の名演」の代表格。特にフランスで高い評価の1枚

@を聴き始めてまず感じたのがその堅苦しさ。格調高いというよりは四角四面の堅苦しさ。みんなが普段着でいるところに一人だけブラックタイ&礼服で現れた感じ(笑)。ブーレという舞曲の感じがほとんど感じられない演奏です。一方中間部のブーレUの部分はとてもいいです。クレッシェンドとディミヌエンドや音色の変化を使い、流麗なホモフォニー音楽を奏でてくれました。でも最後にもう一度ブーレTに戻るとあの堅苦しさが・・・。録音は当時のマイクロフォンの感度が悪かったからでしょう、かなり近い録音。音は悪いです。マスターテープの劣化なのでしょうか、音が荒れてます。演奏&録音の両面で好感を持てずに終わりました。フルニエ・ファンの皆さんごめんなさい。

Aの音楽の入り方は@と正反対。いかにも自然体ですっーと演奏に入ってきます。そしてかなり早いテンポ。何と中間部のブーレUも同じテンポで弾ききり、ついにブーレTに戻ってもなお快速テンポ! ふたつのブーレの対比はほとんど無視されたままで、この曲を弾き切ってしまいました。2色刷りはずがモノクロに・・。この録音を聴く楽しみをあげるとすると、それはガット弦の音でしょう。スチール弦のようによく飛ぶ音ではなく、とても細やかで多彩なニュアンスの音色が感じられる音。それがこのディスクを聴く楽しみでしょうか。

BブーレTの入りのテンポもよく、舞曲性も感じられてなかなかいい演奏です。中間部のブーレUでは少しテンポを落として対比をきちんとつけていますし、歌謡性も見事。一番感心したのはブーレIの再現部。提示部とは違う強弱やアーティキュレーションを繰り広げていて、うれしい驚き。例えて言うと、ブーレIの提示部が白パン、中間のブーレUはサンドイッチの具、そして最後のブーレTの再現部は黒パン。同じブーレTを違う弾き方で弾いていて、つまりパンの味が2種類あって、重層的な味が楽しめておいしい! 録音もこれが一番好ましいです。

というわけで、この曲に関しては「現代の名盤」の圧勝。

続いてはこの曲の4種類の演奏です。
◆ベートーヴェン ピアノ協奏曲第4番ト長調Op58 から 第2楽章

Cウィルヘルム・ケンプ(p) ライトナー指揮ベルリン・フィル 1961年録音DG盤
 DG創立111周年を記念して発売されたCDboxにも収録された、欧州で名高い名盤
Dマウリツィオ・ポリーニ(p) アバド指揮ベルリン・フィル 1992-3録音DG盤
 日本では名盤の誉れ高いポリーニの新録音。ライヴ録音。
Eポール・ルイス(p) ビエロフラーヴェク指揮BBC響 2009-10年録音harmonia Mundi盤
 昨年発売され英・独で特に評判の高かった、第九のIお勧めピアニストの新譜
Fアンドラーシュ・シフ(p) ハイティンク指揮ドレスデン国立管 1996年録音TELDEC盤
 イギリスのベストCDガイド本「ペンギン・ガイド」で三ツ星評価の全集からの1枚

@うーんこれは素晴らしい。感服! 何よりケンプの演奏。一音一音に気持ちがこもっています。そして渋みと重みのある、いかにもベートーヴェンらしい音。それを捉えた録音もたいしたものです。50年前の録音とは信じられません。最新録音といっても通用するほど。対してオケ演奏はまずまずのレベル。さすがに低弦の録音にはやや古さを感じます。なんといってもケンプの至芸に惚れました。
Aポリーニのピアノが全然ダメ。ケンプと反対でなにひとつ感じて弾いていないかのような、冷血動物的or人造大理石人間のような無表情・無感動演奏。嫌いです。心に何も伝わってこない空虚な演奏。アバドの指揮もベートーヴェンらしさが感じられません。日本での高い評価とは逆に海外では低い評価なのがさもありなんと思えました。
Bルイスのピアノはケンプに肉薄するほど素晴らしい。特に弱音時の表現の雄弁さ、そくそくと迫ってくる秘められた感情の真実味・・・この若さでこういう演奏ができるなんて!! 残念なのは指揮とオーケストラ。4つの中で一番落ちます。もっといい指揮者とオケで録音していたら、天下の名盤誕生だったのに。惜しい! 録音はこれが最上。
Cテンポが早すぎる。少ない音で多くのことを語るこの音楽に対しては、取るテンポが速すぎます。なんでそんなにセカセカ行く必要があるのか! もっと腰をおちつけて、じっくり語るべきなのに。これは10数年前の若きシフの録音。今の円熟したシフならずっと良い演奏ができるはず。再録音希望。オケの伴奏はテンポの問題を除けばいいレベル。録音も高い水準。(なおこの盤のみピアノはベーゼンドルファー。クレジットはないけど音からして間違いないはず・・・自信あり)

というわけで、ベストは往年の名盤@、2位は新譜のB、3位はC 4,5位なくて最下位Aという結果になりました。
バッハでは最新盤に軍配があがり、ベートーヴェンでは往年の名盤がトップ。今回私が申し上げたかったのは、古い盤しか聴かないのはもったいないよ、新しい味も試してみてはいかが、ということです。昔からあるスパゲティ・ナポリタンもいいけれど、明太子スパやツナおろしスパといった新しいものもたまには味わってみてはいかが(笑)?

もうひとつ録音について思ったこと。@のフルニエ録音、私のオーディオでは貧しい音でした。でもこのディスクをいい音に「して」、聴いている方も見えるのでしょうね。私の演奏家の音色や演奏の細部が聴きとりたいのでこういうセッティングをしていますが、逆に疲れる仕事からに帰ってほっとするひととき、チェロの音につつまれてゆったりした気分を味わいたいとお感じの方は、フルニエ録音をそういう音になるようにセッティングされているはず。一口に「いい音」といっても様々なのだろうということを感じました。

 

2011年2月12日(土) アレックス・ロス著「20世紀を語る音楽」(全2巻)

 
 昨年末に翻訳された話題の音楽書「20世紀を語る音楽」(みすず書房)をご存じですか?
こんな本です。

「本書が扱うのは20世紀クラシック音楽だが、その作曲家はじつに多彩だ----マーラー、シェーンベルク、ストラヴィンスキー、ドビュッシー、シベリウス、ショスタコーヴィチ、コープランド、ブリテン、リゲティ、ブーレーズ、ケージ、メシアン、シュトックハウゼン、グラス、ライヒ、アダムス等々、彼らについて伝記では縦割り、専門書では横割り、演奏批評では折々に言及され、その多くは演奏会プログラムの主流である。しかし点在する断片としての彼らを結ぶ無数の伏線をたぐりよせ、ひとつの壮大な文化史が描けると考えた本は、本書の前にはなかった。魅力的な群像、目から鱗のエピソード、楽曲分析、文化批評を駆使して圧巻の音楽史を描いてみせる本書は、その試みに見事に成功している。欧米各国で絶賛、全米批評家協会賞ほか受賞の注目の音楽批評家による記念碑的デビュー作。」-----本書の裏表紙の紹介文より。

「芸術史は革新史だ。斬新奇抜を追及し、玄人をうならせた方が勝ち。素人なんて知らないよ。批評家や学者は暴走し、なじまれないものについての歴史を書き続けてきた。かくて親しまれる作品と専門家のほめる作品のずれは広がる一方。
 断裂が甚だしいのは20世紀クラシック音楽史。シェーンベルクやウェーベルンやブーレーズの、耳になじむメロディもハーモニーもリズムもない前衛音楽こそが進歩の担い手。専門家たちは説き続けた。
 ところが音楽ファンの聴く20世紀物といえば、ストラヴィンスキーのバレエ音楽だ。ショスタコーヴィチやシベリウスの交響曲だ。ブリテンの歌劇だ。ガーシュインの交響的ジャズだ。いつまでたってもそうだ。シェーンベルクなんて知らないよ。
 アメリカの新進気鋭の批評家たる著者は堂々と主張する。そろそろ歴史を実情に即して描き直そう。
 本書は革新や正統性なんて観念は括弧に入れる。すべては相対化される。進歩的でないとされてきた保守中道の音楽も各々の所を得る。
 前衛音楽が覇権を握ったのも、流行現象や楽壇政治の問題へと切り下げられる。歴史に必然なんてない。
 それから著者はクラシック音楽史を音楽だけで語らない。戦争や革命にどれだけ影響されていることか。その辺への目配りも確か。(中略)
 複眼的史眼でありのままに紡ぐ。われわれはようやくまっとうな音楽史を手にした。」----読売新聞の片山杜秀氏の書評より

 いやー、読み応え十二分の本でした!  いまどき珍しい2段組みで1,2巻あわせて576ページ。毎日寝床で読み続けること1か月。1行たりとも気を抜いて読めない知的興奮満載の本でした。超巨編大河映画を見た感じ。 ふうーーーー、疲れたけど面白かった!!

 

2011年2月13日(日) 凄い!! MUTEC MC-3

 

 昨年末のSV-192Sの導入に続いて、1月下旬、MUTECのMC-3が届きました。MC-3の効果の凄さについては、みとこさんやscoreさんのブログをはじめ、多くの方が触れておられます。私もその効果の凄さといいますか、すさまじさに圧倒されました。ここまで圧倒的な効果だと、いちいちどこがどう良くなったかを言う気がなくなってしまいます。お二人とも私あてのメールで同じフレーズを書いて来られました。「もう後戻りできない・・」

 程度の差はあれ、どのディスクもいままでよりよい演奏に聴こえるのです。やっと演奏の真価が現れた感じです。中には根本的に評価を変える必要があると思われたディスクも何枚かありました。
 これまで私はどちらかというと、「ラジカセで聴いても名演は名演」という意見に与してきたつもりだったのですが、SV-192S+MC-3で、ディスクに刻み込まれた演奏の真価を聴いてしまうと、やはり「いい装置で聴いて初めてわかる演奏がある」と言わざるを得ないのです。
 重心が下がり、音のピントが低音までピシリと合って、ニュアンスや音色の変化が手にとるようにわかる、これまで苦労して聴き取りに行っていたものが、いとも簡単に聴き取れる、聴こえてくる・・・。
 Model2からSV-192Sに換えた時にもその違いに唖然としたのですが、クロックの精度を数ppmから1ppm以下にすることが、これほどまでに音を良くするとは、やはり実際に聴いてみないとわからないものだと、つくづく思った次第。

 そんなある日、オーディオ好きの合唱仲間が我が家に遊びに来てくれました。2000枚を超えるクラシックCDを持ち、Infinityのスピーカーを使っているオーディオファイルです。事前に「普段よく聴くCDを何枚か持ってきて」とお願いしてあったのですが、彼が持ってきたディスクは二十数枚。曰く「録音の良いものばかり選んできた」とのこと。それならばということで、お互い「これぞ優秀録音盤」と思えるCDを交互にかけ合うことに・・・
 かけ合うこと約三十枚、彼のかけたCDには確かによい録音のものもありましたが、それほどとは思えないものもあり、一方ワタシのかけたディスクはことごとく彼の耳を捉えました。「うーん、これはいい録音ですねえ・・・」 最終的にワタシがかけたディスクのうち、数枚の品番を彼はメモりました。「オレ、このCD買うよ」
 またお互い同じディスクも持っていましたので、それらも数枚かけてみると、彼曰く「えっ、これってこんなにいい演奏だったのか ! 」SV192S+MC-3効果です。そんな彼が最後にポツリと漏らした言葉をワタシの地獄耳は聞き逃しませんでした。「完敗だ・・・」 「いやー、そんなことはないでしょーーー」と一応謙遜する振りをしつつ、内心はガッポーズ !

 彼が帰った後、一部始終を見ていた妻がポツリ。「今日の音はこないだまでよりずっといい。何が変わったの?」 ワタシは自慢げにSV-192S+MC-3を指さしました。すると妻は「で、そのお金はどこから出たの?」「いや、あの・・・その・・・」

 

2011年2月19日(土)  最近買った新譜から

 
 SV-192S+MC-3で聴くようになってから、これまで以上に録音の善し悪しが気になるようになっています。演奏そっちのけで録音に一喜一憂(苦笑)。 大橋さん、悪い録音もいい音で聴けるDACを作ってほしいなあ(笑)。
●曲目 バッハ オーボエ協奏曲ヘ長調、ニ短調、オーボエ・ダモーレ協奏曲イ長調、オーボエとヴァイオリンのための協奏曲BWV1060
●演奏 オグリンチュク(ob&ob damore)、イブラギモヴァ(Vn)、スウェーデン室内管
●番号 BIS BIS-SACD1769(hybridSACD 輸入盤)
バッハのオーボエ協奏曲は現存していません。このディスクは様々なバッハの作品を集めてオーボエ協奏曲に仕立て直したもの。吹いているのは今やウィーン・フィルやベルリン・フィルと並んで世界最高の呼び声高いオランダのロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席オーボエ奏者。軽みと丸みを持つ繊細な音を持つ彼のオーボエの音色は、SV-192S+MC-3で楽しむのにぴったり。より哀愁を帯びた音色を持つオーボエ・ダモーレも同時に楽しめます。最後の曲で共演しているヴァイオリン奏者はロシア出身の注目の若手。そしてなによりこのディスクの最大の魅力は録音。年に数枚しか見つからない優秀録音です。お見逃しなく!

●曲目 ブラームス ヘンデルの主題によるフーガOp.24、2つのラプソディOp.79、6つのピアノ小品Op.118、4つのピアノ小品Op.119
●演奏 マレイ・ペライア(p)
●品番 ソニークラシカル SICC1419(国内盤) 88677 27252(輸入盤)
「録音」での特選盤が上記バッハなら、「演奏」面での今月の特選盤はこれ。ディスクをかけて数秒音楽が流れただけで、これは凄いピアニストだと感じさせてくれる稀有の演奏。すべて完璧。まるでミケランジェロの彫刻のよう、といったらイメージしていただけますか? あまたいる現役のピアニスト中、5本の指に入る名ピアニストと言って過言ではありません。地味なブラームスの曲からこれだけの感興を引き出すピアニズムに圧倒されました。ペライアは今秋来日し名古屋でもリサイタルを開いてくれる予定。どんなことをしてでも行きたい!

●曲目 モーツァルト ディヴェルティメント変ホ長調K563 他
●演奏 トリオ・ツィンマーマン(ツィンマーマン=Vn、タムスティ=Va、ポルテラ=Vc)
●品番 BIS BIS-SACD1817 (hybridSACD 輸入盤)
長調の中にほのかな悲しみをたたえるモーツァルト晩年の傑作、ピアノ協奏曲27番やクラリネット2作品への道を感じさせるこのディヴェルティメントは私の大好きな作品です。ヴァイオリン奏者はムターやテツラフと並んでドイツを代表する奏者、ヴィオラとチェロはヨーロッパ中で活躍している期待の若手ソリスト。3人のレベルがとても高い。充実した中声&低声の上で、清潔かつ上品によく歌う高音部がとりわけ素晴らしい。休日にコーヒーでも飲みながらBGMにして寛ぐのにいかが? 録音もいいですよ。

●曲目 ロッシーニ「スターバト・マーテル」
●演奏 ネトレプコ(S)、ディドナート(Ms)、ブラウンリー(T)、ダルカンジェロ(Bs)、パッパーノ指揮聖チェチーリア国立アカデミア管&同合唱団
●品番 EMI 6405292 (輸入盤)
今絶好調のコンビが昨年のヴェルディ「レクイエム」に続いて放った、お国物の宗教声楽曲第2弾。熱のこもった指揮&オケ、高水準の4人のソロ(特に女性二声)、"イタリアの声"を満喫できるコーラス(こちらは男声がとりわけ素晴らしい)と、三拍子揃っています。ただし善し悪しでなく好き嫌いを分かつかもしれないのが、第9曲をソロ4声で歌わせている点。普通はソロではなく合唱が歌うことが多いのですが・・・マイ・ベスト・チョイスのチョン・ミョン・フン盤(DG)と入れ替えるかどうか思案中。録音は平均レベル。EMIレーベルはなかなかいい録音が出ないんですよねえ。


 これ以外に新譜では、ゲルギエフ指揮マリンスキー歌劇場管のショスタコーヴィチ交響曲2&11番(hybridSACD)を買いました。このコンビですから演奏は悪くないのですが、CD層の録音がイマイチ。演奏・録音ともに高水準のショスタコ交響曲集になかなか出会えません。






 
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