モーツアルト     ベートーヴェン
 
 

2012年6月2日(土) リーズ・ドゥ・ラ・サール ピアノリサイタル&オフ会

 
 5月31日(木)の夜は、名古屋・伏見のしらかわホールで、フランスの若き女性ピアニスト、リーズ・ドゥ・ラ・サール( Lise de la Salle)=official websiteはこちら=のリサイタルを聴きました。曲目は前半がシューマンの「子供の情景」op15と「幻想曲」op17、後半がショパンの「24の前奏曲」op28でした。
 演奏は目を閉じて聴いていると、女性とは思えないほどパワフルで線が太く、スケールの大きな表現です。かぼそく華奢な女性や青白き神経質な秀才とはまるで正反対。落ち着き払った演奏でテクニックも万全。10代半ばから将来を嘱望され、フランスを代表するレーベルnaiveからすでに6枚のCDが発売されているのも十分頷けました。特に2曲目の「幻想曲」の2楽章では、まるで音楽の女神が降臨して彼女を操っているかのような錯覚にとらわれるほどの凄い集中力!  また後半のショパンでも7番イ長調(←例の大田胃散のCMで誰でも知っている曲ですね) あたりからぐっと集中力が高まり、強い説得力を放ちました。大きな拍手に応えて演奏されたアンコール2曲は、今年生誕150年のドビュッシー。この夜は今年前半に聴いた演奏会の中でもかなり上位に入る感銘度でした!  
総合演奏感銘度 子供の情景 ★★★★
  幻想曲 ★★★★★
  ショパン ★★★★☆
 しらかわホールは音がいいですね。再認識しました。世界中のピアニストから「日本のNagoyaには、しらかわホールという類を見ないほど素晴らしい音響のホールがある」として大変有名ですし、チェコのパノパ弦楽四重奏団からは「世界一の室内楽ホール」とお墨付きをもらっているのも知ってはいたのですが・・・これまで私はこのホールの後ろの席で聴くことが多かったのですが、今回は前から4列目。うーん素晴らしい! 響きの豊穣さとタッチの明晰さの両立! 今秋このホールにはルイサダとルプーが来てくれます。前の席を買います!

 また今回のチケット代はわずか3000円と、とてもお値打ちでした。招聘元の蛎matiさんは様々な努力をしてこの価格を実現させたのでしょう。敬意を表します。また同じアーティストを3年連続で日本に呼び、東京・大阪・名古屋の三箇所で演奏会を開き、演奏家の成長を聴衆も実感しようというのは良い企画と思います。リーズ・ドゥ・ラ・サールは来年が3年目とのこと。来年も聴きに行きます!

 最後になりますが、この演奏会はいつものオフ会のメンバーといっしょでした。6041のSさん、タケさん、デカチョーさん、五味康祐のオートグラフの持ち主I瀬さんそして大橋さんです。終演後は居酒屋で夕食もごいっしょさせていただきました。

 

2012年6月9日(土) ハンス・ロット交響曲第1番 & ブルックナー交響曲第9番(第4楽章サマーレ・フィリップス・コールス・マッツーカ補筆完成版2012年最終稿)

 
 この表題をご覧になって、ふたつとも「ああ、その話ね」とわかり、にやりとされた方はクラシックオタクと言えるかもしれませんね。

 マーラー(1860〜1911)のウィーン音楽院時代の友人であり、狂気のうちにわずか26歳で夭折したオーストリアの作曲家ハンス・ロット(Hans Rott 1858〜1884。Wikipediaはこちら) の唯一の交響曲のご紹介です。
 ロット20〜22歳の年に作曲されたこの曲は、彼の死後完全に忘れ去られてしまったのですが、今から23年前にアメリカで初演され、その後2004年に楽譜が出版された頃から実演とCD録音が相次ぐようになり、今まさに復活をとげつつある曲です。今回パーヴォ・ヤルヴィ指揮フランクフルト放送響という一流の演奏家による国内盤CDが発売されました。クラオタからは「いまさら」と言われそうですが、素晴らしい曲ですので、キット屋倶楽部の皆様にも是非聴いていただきたいと思い、ご紹介する次第です。
 全4楽章50数分の大曲です。「ブルックナーとマーラーを結ぶミッシングリング」と言われているようですが、確かに随所にマーラーの交響曲1,2,3番を髣髴とさせる旋律やオーケストレーションが出てきます。否、この言い方は間違っていますね。ロット作品の方が作曲年代は早いのですから、「マーラーにあちこちパクられた交響曲」と言うほうが正しいです。また何度も出てくるクライマックスの作り方は音楽院時代の師であったブルックナーにそっくりです。そして何より瑞々しく、若々しく、美しく、切ない旋律の数々!! (第1楽章と第4楽章の第1主題を聴いてみてください) もし私がこの曲を売り出すプロデューサーなら、「マーラーの交響曲第0番《青春》」という名前で売り出すでしょう。そして美しいだけでなく、作曲後ほどなくして訪れる作曲者自身の精神の軋みや錯乱も内包しています。
 かつてscore1204教授が、隠れた名曲としてカリンニコフの交響曲をご自身のブログで紹介されたことがありましたね。第九のIはこのハンス・ロットの交響曲第1番を皆様に推薦します。聴いて損はさせませんよ!
  ハンス・ロット交響曲の名曲度 ★★★★☆

 2つめにご紹介するのは、ブルックナー最後の交響曲、第9番の4楽章(=最終楽章)を4人の学者&作曲家 (サマーレ、フィリップス、コールス、マッツーカ) が補筆完成させたものです。CDとしてはサイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルの国内盤が発売になったところです。
 ブルックナーはこの曲の第4楽章を作曲している途中で亡くなりました。作曲家の未完の"白鳥の歌"には、モーツァルトのレクイエム、マーラー交響曲第10番、ベルク歌劇「ルル」、プッチーニ歌劇「トゥーランドット」、バルトークのヴィオラ協奏曲などがあり、いずれも別の人の手で完成版が作られています。ブルックナーの交響曲第9番第4楽章もこれまで数種類の補筆完成版が作られていますが、私が今回の版に期待したのは、主に二つの理由からでした。
 @ 現代を代表する指揮者であり目利きであるラトルと、天下のベルリン・フィルが演奏すると決めたのだから、それだけ音楽的説得力があると期待できたこと
 A 全23分653小節のうち少なくとも440小節はブルックナー自身の手になる完成版あるいは草稿が残されているとのことで、それだけ真性ブルックナーに近い音楽が聴けると期待できたこと
大いなる期待と少しの不安を抱きながら聴きました。4回真剣に聴きました。その結果は・・・

 一聴多くの部分がいかにもブルックナーという響き、メロディ、進行なのですが、彼の傑作である交響曲第7番、8番そして9番の3楽章までの、あの精神的崇高さがあまり感じられないのです。時折「ここは素晴らしいな」と感じる瞬間もあるにはあるのですが (例えば終結部のパワフルで壮麗なコラール風の部分など) 、すぐに途切れてしまい凡庸さと退屈さが戻ってきてしまうのです。実に奇妙なトルソでした。
 上記ハンス・ロットの交響曲と続けて聴くと、神に祝福された曲、創造の霊感に満ちた曲がどちらかはあまりにも明らかでした。この補筆完成版は音楽学的には正しいのかもしれませんが、超一流の作品が持つイマジネーションの飛翔に欠けています。ベルリン・フィルの演奏もへっぴり腰気味でした。がっかり。
 7月下旬に第九仲間が我が家に遊びに来るので、話のネタにその時までこのCDとっておきますが、終わったら中古CD屋に売り払います。(きっぱり)
  SPCM補筆完成版の真性ブルックナー度 ★★(満点は5つ星)
皆様どうぞご自身の耳で確かめてみてくださいませ。正反対の意見もあってよいと思っています。

 

2012年6月17日(日) 6月は3つの演奏会に行きました

 
 6月3日(日)は、愛知県芸術劇場コンサートホールで、パーヴォ・ヤルヴィ指揮フランクフルト放送交響楽団、アリス・沙良・オット(ピアノ)のコンサートを聴きました。曲目はリストのピアノ協奏曲第1番とマーラーの交響曲第5番でした。
 実は座った席が1階1列1番・・・ファースト・ヴァイオリンの一番後ろのプルトが目の前で、音は最悪。演奏の特徴もよく聴き取れなくて、最初は席の運の悪さを呪っていたのですが、ほどなくファースト・ヴァイオリン奏者とほぼ同じ角度から見ることのできるパーヴォ・ヤルヴィの指揮ぶりに釘付けになりました。
 一言で言うと「鮮烈な指揮ぶり」です。くっきり、はっきり、大胆に、120%の明快度を持って、オケの奏者が中途半端に弾くことを許さない明瞭そのものの指揮ぶりです。0.1秒も無駄にせずに次々に指示を繰り出してきます。この人は一種の天才肌ですね。典型的な「見える指揮」です。しかも次拍の動きが必ずわかるように振っているのです。すごい!
 私は未見ですが、彼の指揮したベートーヴェンの交響曲全集DVDが発売されているのですね。キット屋倶楽部の皆様の中でアマオケをやっている方が見えましたら、このDVDのパーヴォの指揮をご覧になった感想が是非知りたいところです。もし私が彼の指揮でベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」やヴェルディの「レクイエム」あたりを歌うことができるのなら、もう我を忘れて彼の導く音楽に没入しちゃいそうです。「現代最も多忙な指揮者」の本領をじっくり見ることができた1日となりました。
   パーヴォの指揮のキレキレ度 ★★★★★

 soundbox1960様がチェコの名弦楽四重奏団、プラジャークSQの演奏会を楽しまれた数日後の7日(木)、今度は私が同じ宗次ホールにお邪魔しました。聴いたのは日独ハーフのバロック・ヴァイオリン奏者ミドリ・ザイラー(Midori Seiler)によるバッハのヴァイオリンとチェンバロのためのソナタBWV1014〜1019全曲演奏会です。チェンバロは夫君のクリスティアン・リーガー氏。
 ミドリ・ザイラーは------四弦亭酔響様のほうがずっとお詳しいと思いますが------ヨーロッパを代表するバロック・ヴァイオリン奏者で、「ベルリン古楽アカデミー」と「アニマ・エテルナ」という二つの古楽オーケストラのコンサート・ミストレルを務めるだけでなく、ソロ活動も活発で、CDではインマゼールのフォルテピアノ伴奏でモーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトの各ヴァイオリン・ソナタ集が既発売。ヴィヴァルディ「四季」のCD& DVDも話題になりました。またバッハの「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ」全曲のCDが、昨年末ドイツのフォノ・フォルム誌で「今年の1枚」に選出されたことは、この日記でもご紹介したところです。よく名古屋まで来てくれました。
 この日は駒も小さめのバロック・ヴァイオリン、4本ともガット弦、弓も張力が弱く短めのバロック弓で、ピッチも低めという"完全ピリオド楽器仕様"で弾いてくれました。スリムな響きと多彩で微妙な彩りのする音色で聴衆を魅了していました。
 バッハがこの曲集を書いたのは1710年代とのこと。ちょうどその時アルプスの南ではストラディヴァリウスが後世に残る名器を続々と製作していたのですね。今から300年前にタイムスリップしたかのような気持ちになりながら演奏を楽しみました。
   ピリオド楽器の音色の愉悦度 ★★★★

 6月17日(日)は、ミハイル・プレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管、樫本大進(Vn)の演奏会を愛知県芸術劇場コンサートホールで聴きました。曲目は珍しいグラズノフの組曲「中世より」の後は、ベルリン・フィル第一コンマスの樫本クンが4曲披露。ベートーヴェンの「ロマンスop50」、チャイコフスキー「憂鬱なセレナーデop26」「懐かしい土地の思い出op42〜メロディ」「ワルツ・スケルツォop34」。そして休憩後のメインディッシュがチャイコフスキーの交響曲第4番でした。
 この日は"ロシアの音"がする、優れた技量を持ったアンサンブルの演奏を堪能できた一晩となりました。グラズノフ作品の演奏が始まるとすぐに、「ああロシアのオケの音がする」と思いました。昔聴いたムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル、ロジェストヴェンスキー指揮ソビエト文化省響や、近年のゲルギエフ指揮マリインスキー歌劇場管に共通する音がします。それが何かを言葉で表現するのはたいへん難しいのですが、一番の共通点は多分「厚みと深みがありながらも芯のしっかりした強い音のする低弦」にあるのではないかと思います。この日もまさにそうで、ドイツ、フランス、イギリス、アメリカそして日本、いずれの国のオケのサウンドとも違う、脈々と続くロシアの音を堪能しました。
 ソビエト共産主義時代に既に一流オケで弾いていたと思われるベテラン奏者と、ペレストロイカ前後に生まれたような若手との混成部隊からなるこのオーケストラの演奏は、「自国の至宝を演奏するのだ」という矜持と責任感と自信にあふれた素晴らしいものでした。何十回と演奏しているであろう交響曲に、ルーティンワークの気配が少しも感じられないことに感心しました。また来日公演スケジュールを見ると、この日が連続5日目の公演だったのですが、疲れたそぶりを微塵も見せず、一番後ろのプルトの奏者まで真剣そのものだったことにも感謝と驚きを覚えました。
   お国物のロシア音楽の感銘度 ★★★★☆
 なお、樫本大進の独奏は立派なものでしたが、この指揮者&オケの持ち味とは合わないところも。彼の本領はまた別の機会に確かめたいと思っています。
 
 この3つで今年前半の演奏会通いは終了です。年の初めに立てた「今年の目標4項目」の達成具合を簡単に振り返りますと(笑)・・・
@演奏会通い <目標>年間20回以上  <実績>上期14回
Aチケット代 <目標>年間15万円以下 <実績>上期70,100円
B名フィル定期通い <目標>年間3回以上 <実績>上期1回
C岡崎コロネット演奏会通い <目標>年間3回以上 <実績>上期2回
 @は年間目標達成確実、一方Aは下期に高額チケットが集中して目標達成困難。BCは下期次第というところでしょうか。
 最後に上期のベスト演奏会の発表です。ベスト1は3月7日のコンスタンチン・リフシッツのピアノ・リサイタル、ベスト2は6月17日のプレトニョフ指揮ロシア・ナショナル管のグラズノフとチャイコフスキー。ベスト3は5月31日のリーズ・ドゥ・ラ・サールのピアノ・リサイタルかな。

 

2012年6月20日(水) 世界のクラシック音楽界に最も貢献した日本人

 
 「世界のクラシック音楽界に最も貢献した日本人は誰ですか?」と問われたら皆様は何と答えますか? 日本に西洋音楽を根付かせた作曲家・山田耕作と答える方もみえるでしょう。幾多の優れた演奏家を育てた斉藤秀雄の名を思い浮かべる方もみえるでしょう。また小澤征爾のような世界的演奏家の名を挙げる方もみえるでしょう・・・・いえいえ私は「日本のクラシック音楽界への貢献」ではなく、「世界のクラシック音楽界へ最も大きな貢献をした日本人は誰だと思いますか?」と申し上げているのです。
 たいへん私的な意見ですが、それは豊田泰久さんだと考えています。豊田さんがどういう方なのかご存知ならば、少なくとも「そういう意見もあるかもね」と、ある程度賛同いただけるのではないでしょうか? また豊田さんをご存知ない方は是非この機会にその名を脳裏に刻んでいただければと思います。
 
 豊田泰久さんは1952年生まれの音響設計家で、現在渇i田音響設計のヨーロッパ(パリ)とアメリカ(ロサンゼルス)事務所の代表を務めておられる方です。優れた音響のクラシック専用ホールの設計を得意とされ、これまで国内外の数々のホールを設計して来られました。こちらが渇i田音響設計が手がけた国内の代表的なホール。こちらは海外のホールです。これらの中で、概ね1990年代以降に設計された、特にクラシック音楽専用として設計されたホールの音響はいずれも超一流と言われています。
 私は渇i田音響設計の手になる3つのホールで歌ったことがあります。1つはオーケストラコンサート用ホール、残りふたつは室内楽用ホールでした。練習も含めると歌った回数は70〜80回になるでしょうか。毎回至福の瞬間を味わえました。

 ヨーロッパやアメリカの名ホール、例えばウィーンのムジークフェライン・ザール、アムステルダムのコンセルトヘボウ、チューリヒのトーンハレ、プラハのルドルフィヌム、ボストンのシンフォニー・ホールなどは、いずれも19世紀の建築です。当時たくさん作られたホールの中でたまたま音の良いものが、今も使われ名ホールと呼ばれているのです。要するに半ば偶然の産物だったわけです。
 20世紀に入り、コンクリートと鉄筋で音響の優れたホールを作る試みはたくさんあったと思うのですが、あまり成功例を聞きません。逆に、例えば1980年前後に作られたロンドン響の本拠地バービカンホールはデッドな響きで悪名高いですし、ミュンヘン・フィルの本拠地ガスタイクホールはバーンスタインから「燃やしてしまえ!」と悪態をつかれたほどのひどさ。どちらもその後修正が試みられていますが抜本的改善からは程遠いようです。
 そんな折、世界で初めて現代建築で極上音響のホールを"意図的"に作り出せることを証明したのが豊田さんだったわけです。豊田さんのおかけで、世界中どこでも最高の音楽ホールが作れるようになったと言って過言ではありません。

 来日するクラシックの演奏家の間では、日本は (私の住んでいるような) ド田舎にまでクラシックに最適のホールがあるということで有名です。そして二言目には「自分の国にもこんないいホールがほしい」とのたまうのも決まり文句だそう。その多くがmade by 永田音響設計なのです。
 札幌のkitaraとミューザ川崎のどちらが日本一のホールか、指揮者ゲルギエフとヤンソンスがお互い自説を譲らず、ついに設計者の豊田さんの意見を聞こうということになり国際電話がかかって来たという逸話、近年誕生した世界の名ホールを特集したイギリス・グラモフォン誌の記事で取り上げられた10のホールのうち、実に5つが豊田氏設計だったという逸話・・・永田音響設計&豊田泰久には、すでにいくつもの"伝説"ができつつあると言えそうです。
 100年後もクラシック音楽が今のように聴かれているとしたら、世界中のホールが名音響ホールに生まれ変わっているかもしれませんね。そしてその突破口を開いたのが20〜21世紀に活躍した日本人・豊田泰久の功績だ、と語り継がれていることでしょう。







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