キット屋倶楽部
H田さんの

樽アンプ製作記

 


「50歳から始める真空管アンプ(樽アンプ編)」

<前説>
 何だかパクリなタイトルではあるが、作製者であるH田氏は至って真面目に
 真空管アンプを作ろうと決心し、幾度かの不安・混迷・挫折・根気・恐怖を
 乗り越えながら、遂に感動の瞬間を迎えた全記録である。
    


<序章>
 本人曰く、男として生まれてきたが、こういう工作を成功させたことは一度も
 ないらしい。小中学生の頃も、何度かプラモデルに挑戦したが、とごとく失敗
 に終わり、いつも途中で投げ出すことを自慢にさえ思っている。
 これは、大袈裟ではなく、ペンチとプライヤの区別さえ付かなかった50過ぎの
 オヤジだったのです。

 つい数年前まで、H田氏と真空管アンプには全く接点がありませんでした。
 車とカメラとギターが趣味のちょこ悪オヤジだったのです。
 ギターの方は、弾くのも好きであるが、ギター本体に対する拘りもかなりのも
 ので、○リーズ・○リーやマー○ィンをはじめ、限定モデルを何本も所有する
 ほどの収集家でもある。ステレオに関しては中堅クラスのコンポを所有し、そ
 れなりに満足して好きなギターの曲を中心とて音楽を楽しんでおりました。
 
 ところがある日、悪友に誘われてキット屋さんの真空管アンプの音を聴いてし
 まったのです。H田氏はたいそう感激し、
  「自分が今まで聞いてきた音はいったい何であったのか?」
  「この真空管アンプの音を聴かずして過ぎていった時間が勿体ない!」
 とさえ思ったのです。
 是非ともこの音を自分の物にしたい、という収集家の野望がメラメラと燃え盛
 り、家人をも巻き込んで疾走を始めました。

 でも、先に書いたように先天的な不器用さと、途中投出し型の体質から、アン
 プ・キットを自分で作るなどということは、まず選択肢として無かったのです。
 必然的に悪友の代理製作というかたちで、次々にキット屋さんの名立たる名機
 を手中に収めてきました。

 ある日、キット屋さん店主と悪友に
  「折角のキットなのに、やっぱり一台くらい自分で作らないと」
  「自分で作ったアンプから音が出た瞬間を知らずして...」
  「マニュアル通りにやれば必ずできるよ」
  「完成するまでサポートするから」
 と、天使(悪魔?)のささやきに心が動き、遂に決心したのです。

 「自分でやってみる!」
    


<第一章 準備>

1日目 PM 6時

キット到着

 今回初挑戦に選んだのは、樽アンプ「WS350B」です。
 真空管アンプとしては異例な美しい筐体で、リビングのインテリアと
 しても大変お洒落なアンプです。外観から受ける印象は、音楽も透き
 とおった感じで、クラシックの室内楽はもとより女性のソプラノなど
 大変美しく表現してくれそうです。
 H田氏は嬉しそうですが、この後どうなることやら。
        

開梱

 イメージからは、基盤周りの部品と配線だけで、入出力や電源スイッ
 チ周りの配線は既に出来上がっているのでは?、と思っていましたが、
 以外にもこのあたりの工程も全てユーザー担当となっており、部品数
 にしても、工程数にしても、初心者にしては少しキツイかな?
 横でマニュアルを眺めるH田氏から、段々と引きつってくる顔の音が
 聞こえそうです。(ピキピキ)
        

読書

 ここで感じたのは、「初心者ほどマニュアルを読まない」ということ
 です。書いてあることが理解できない部分が多い--->読まずに取り敢
 えず順番にやってみる--->失敗する。ということが多い様な気がしま
 す。筆者もまだ初心者グループに属していますが、1台目のキットの
 時は、マニュアルを読まずに順番に進めていくことで苦労した経験が
 あります。たとえば、
  1. 部品Aを付ける。
  2. 部品Bを付ける。
  3. 部品Cを付ける。
   ※ この時、部品Aに干渉するので、部品Aを取り付ける際には
     部品Cの高さを考慮する。
 の様に、ヒントが最後に書かれていたりします。最初にマニュアル全
 体に目を通しておけば気付くのですが、そうでなければ部品Cを取り
 付ける段階になって、部品Aのやり直しをしなければならなくなりま
 す。
 解らなくても、取り敢えず最後までマニュアルを読んでから作業にか
 かりましょう。
        

オプション球

 注文時点では聞いてなかったが、追加で「Philips 7581A」と
 「GE 6SN7GTB」をオプションで注文していた。
 やはりこのオヤジ、気が抜けない。
        

部品確認

 マニュアルにある部品リストと現物を確認していくのですが、ここで
 すでに部品の名前が解らず固まってしまう。ダイオードやメッキ線は
 もとより、コンデンサと抵抗の区別も怪しそう。取りあえず部品番号
 で確認しようとするが、細かい文字と天性からの神経衰弱ネガティブ
 により、なかなか見つけることが辛そうです。
 老眼鏡もオプションで同梱して下さい(笑)
        

<第二章 基盤製作>

1日目 PM 7時

初ハンダ

 記念すべき初ハンダです。その前に灰皿で練習しましたが、ステン製
 だったので上手く行かずに本番突入しました。基盤には真空管ソケッ
 トだけ取り付け済の状態です。まずは背の低い抵抗から。
        

第一歩成功

 初めてのハンダは上手くいった様です。何故かH田氏も納得しており、
 「うん、うん、出来るやん、いいね、いいね」の連発です。
        

1日目 PM 8時

うわ言

 部品番号の確認--->基盤位置の確認--->抵抗の足曲--->基盤差し込み
 --->ハンダ付け--->足の余り切除
 この作業の連続ではありますが、H田氏が徐々にハマっていく様子が
 伝わってきます。「きれいな山型にならない」とか「ハンダの色がく
 すんでいる」など、うわ言の様につぶやきながらも作業は進んで行き
 ます。
        

1日目 PM 9時

抵抗終盤

 抵抗も、1W、2W、と進み、最後の5Wとなりました。
 5Wは発熱するため、基盤から5mmほど浮かせます。
        

鼻唄

 この頃になりますと、慣れてきたのか表情にも少し余裕があります。
 と同時に、このオヤジ、これでハンダ仕事が楽しくなって、また次々
 に発注してしまうのでは? という悪夢が脳裏をよぎります。
 家人のためにも正夢とならないことだけを祈りつつ...
        

抵抗完成

 取りあえず抵抗は完成しました。
 初めてにしては十分な出来栄えです。

 1日目はここで終了。[経過時間 3時間]
        

2日目 PM 6時

コンデンサ取り付け

 2日目が始まりました。
 会社を毎日定時で終え、チャイムと同時にさっさと帰る姿を眺めてい
 ると、相当ハマっているなと可笑しくなります。
 今日は基盤へのコンデンサ取り付けです。「極性に注意しないと爆発
 するよ」と脅しておいたので、慎重に作業を進めております。
        

2日目 PM 7時

ダイオード取り付け

 このダイオードも、極性を間違えるとあっという間に壊れてしまいま
 す。
        

バイアス用ボリュームとターミナル

 バイアス調整用ボリューム2個と、配線ターミナルを15本取り付けま
 す。ターミナルなど、ハンダ面の大きな部品は、ハンダごての熱を
 十分に伝えてからハンダを付けないと上手くいきません。
        

基盤完成

 ついに基盤が完成しました。お見事です。
 「半分くらい出来た?」
 というH田氏に
 「いいや、まだ2割程度」
 と悲しいお知らせをすると「こんなに部品が無くなってるのに?」と
 いう疑いの表情をしておりますが、これから待ち受けている至難をこ
 のあと思い知ることになります。
        

<第三章 本体配線>

2日目 PM 8時

出力側のアース接地

 アースにラグ板を追加し、メッキ線にてスピーカー端子からアースに
 落とします。
        

電源スイッチまわり

 電源ランプとスイッチ部の配線です。
 電源スイッチは、一度取り外してラグ板を取り付けてから配線します。
 電源配線の黒と茶の線は、後で基盤と干渉するので、マニュアル通り
 上に出すか、茶を長めにしてサイド側の壁側に沿わせた方が良かった
 かも知れません。
        

2日目 PM 9時

あぶない危ない

 段々と込み入った配線になってくると、線材とハンダに集中して、い
 つの間にか、指が限りなくハンダごてに近づいています。
 「おっ!、あぶない危ない!」
 横で見ていると、ひじょーにヒヤヒヤします。人柱ならず指ハンダ(怖)
        

猫の手

 この頃には、猫の手でも犬の手でもいいから貸して欲しくなります。
 そこをグッと鬼となり、一切の手出しはしません。
        

2日目 PM 10時

チャレンジ

 ACインレットの配線で、電源線の途中を剥いて行うという、少しテ
 クニックが必要な部分があるのですが、何とかクリアしました。
        

電源周り

 電源周りの配線もできました。コンデンサのマイナス側やアース端子
 など、一箇所に複数の配線をする場所があるので、これらもマニュア
 ルを良く見て印でもしておくと便利です。

 2日目はここで終了。[経過時間 8時間]

 腹へったぁ。
 やり始めたら夕食のことなど考えられない様子で、昨日も今日も食事
 抜きです。これって、完璧に夢中になってますよね。メシ食わせろー!
        

3日目 PM 5時

シールド線の加工

 3日目はシールド線の加工からです。ここでも、H田氏の不器用さは遺
 憾なく発揮され、シールド線が何度と無くニッパの餌食となってしま
 いました。ニッパでは力加減が難しく、カッターで進めました。
        

3日目 PM 6時

根気

 切る--->剥く--->熱収縮チューブ--->ハンダメッキ、この繰り返しで
 シールド線を10本作ります。大変根気のいる作業ですが、投げ出さず
 に続けています。真空管アンプはH田氏に「投げ出さない」ことの素
 晴らしさを教えてくれそうです。
        

ん?

 突然「中心線が無い!」と言い出したので、良く見るとシールド線で
 はなく、ただの黒線が混じっておりました。部品やゴミが散乱してい
 る状態では作業性が悪くなります。整理整頓を心がけましょう。
        

笑ってる

 そりゃまあ、一生懸命剥いたシールド線が実はただの黒線だったなん
 て、可笑しくもなりますが...
        

3日目 PM 7時

シールド線出来上がり

 上:入力端子--->セレクタ * 6本
 中:セレクタ--->ボリューム * 2本
 下:ボリューム--->基盤 * 2本

 計10本のシールド線が完成しました。
 結構キツかった様ですねぇ。
        

3日目 PM 8時

悪戦苦闘

 やっとの思いでシールド線を作りましたが、今度はそれを入力端子へ
 配線していきます。ここは、細い端子部分にハンダ付けするのでかな
 り大変です。しかも、グランド側はメッキ線にも端子にも複数の線が
 集中するので、順番を考えながら付けていかないと、折角うまくハン
 ダ付けできても次の配線時の熱で外れてしまいます。
 時間もかかり悪戦苦闘しながら、ようやく出来ました。
        

入力端子

 線同士をショートさせない様に注意しながらシャーシに取り付けます。
        

核心部

 次々に難関が待ち受けています。
 いよいよ、セレクタとボリュームへの配線です。狭いスペースと細か
 い作業の連続で、視力と集中力を最も消耗します。何度も何度もマニ
 ュアルを見て、ラインとR/Lを確認します。確認し過ぎるくらいが
 ちょうどいいと思います。ここで間違えると、セレクタが機能しませ
 んし、左右逆なんてみっともない事にもなります。
 経験者は語りますが、過信は禁物です。
        

3日目 PM 9時

ボリューム

 これは取り付けた状態ですが、ボリュームは一度取り外して、配線し
 てから戻します。
 これがまた初心者泣かせで、一箇所ハンダすると他が外れていく、と
 いった連続でなかなか進みません。思わず手を出してしまいそうにな
 りますが、そこを堪えて見守ります。
 大橋さんからも応援メールをいただき、この辺りがこの樽アンプ製作
 の肝であることを教えてもらいました。
        

入力チェック

 やっと入力部が完成しました。
 各々のシールド線の長さもピッタリで、配線も上手くまとめられまし
 た。
 この後、基盤を取り付けると修正が大変なので、ここでテスターを使
 って入力側の確認をしておきます。セレクタを切り替えながら、入力
 端子とボリューム出口の導通を調べておきます。
        

3日目 PM 10時

出力トランス

 ついに核心部を乗り越え、一転して広い場所で作業を行います。
 出力トランス--->スピーカー端子と負帰還(NFB)の配線です。
        

慣れ

 ヤマ場を終えたH田氏は、随分慣れてきて、このあたりの配線は難な
 くこなしていきます。
        

3日目 PM 11時

本体配線完了FONT>

 本体配線もほぼ終わり、基盤が取り付けられる状態まできました。
 もう一息です。
 今日は遅くまで頑張ったので、そろそろ終わりにします。

 3日目終了。[経過時間 14時間]
        

<第四章 基盤取付配線>

4日目 PM 6時

樽パネル

 基盤を取り付ける前に、フロントの樽パネルを取り付けます。基盤を
 付けてからでは、スパナが入らないためです。
        

基盤取付け

 基盤を取り付け、配線を行っていきます。
 一箇所、配線ターミナルに 3本を配線する所がありますが、それ以外
 は特に難しいところはなく、配線実態図を参考に進めていきます。
        

4日目 PM 7時

宣言

 この頃になると、H田氏のハンダを握る手に、余裕とともに自信が感
 じられます。じじシャツ姿は別として、なかなか様になっています。

 「樽アンプには、やっぱり樽プリかなぁ?」
 などと、次の目標も宣言しちゃってます。

 やはり相当ハマってる...
        

4日目 PM 8時

完成!

 ついに完成です!
 実態配線図片手に、H田氏も満足そうです。

 良く出来ました!!
        

<最終章 調整と試聴>

4日目 PM 8時

電源オン!

 最終確認を行い、真空管を挿し、いよいよ電源を入れます。
 H田氏は、恐る恐るかと思いきや、案外すっと入れてしまいました。
 よほど自信があったのか? いやいや、まだ電気の怖さを知らないだ
 けでしょう...
 ともかく、無事に通電し、各部の電圧も以上無さそうです。次にバイ
 アスを調整します。標準の350Bなので、0.7Vに調整します。
        

音出し

 この樽アンプにはボリュームがあるので、CDプレイヤーを直接接続し、
 音出ししてみます。写真にはありませんが、スピーカーは、最初は
 「8cm樽ウッドコーン」を使いました。
 千住真理子さんの「G線上のアリア」から、「クライスラー:愛の喜び」を聴き
 ました。
 とても透明感があり、ヴァイオリンの音が羽毛の様にふわっと舞い上
 がる感覚で聴こえます。「樽アンプ」らしい広がりと空気間のある音
 が印象的で素敵です。
        

球替え

 今度は、オプション球として追加購入した「GE 6SN7GTB」と「Philips
 7581A」に差し替えてみました。バイアスは同じ0.7Vですが、球を替え
 ると調整し直します。これも写真に写っていませんが、今度は「10cm樽
 バックロード」を使います。
 出てきた音は、先ほどとはかなり印象が違い、ドーンと重心を落とした
 太い音になります。アートペッパーの「Imagination」で、サックスの
 音が部屋いっぱいに響いて心地良い空間に変わります。
 H田氏も大変感激し、自分が作った最初の一台に耳も心も奪われており
 ます。
 フロントパネルに「Sunvalley」の銘板を貼り完成です。
 ラックやスピーカーとの雰囲気もバッチリで、この樽アンプを選んで本
 当に良かったなぁと思います。
        

4日目 PM 9時

大満足

 初めてやりきった! しかも真空管アンプ!!
 頑張ったH田氏は、「樽アンプ」からお気に入りの音楽をプレゼント
 され、素晴らしい音色に大満足しておりましたとさ。

 終了。[総合計時間 16時間]
        

<最後に>

 単身赴任先のアパートでも真空管の音を楽しもうと、樽バックローと
 樽ウッドコーンスピーカーにベストマッチなアンプは何かを大橋さん
 に尋ねると、
  「樽バックロードor樽ウッドコーンであればやはり樽アンプじゃ
   ないでしょうか!これは私も自宅で使っておりますが樽ウッド
   コーンとの相性もバツグンで特に小音量時の豊かさは大変心地
   良いものです。直ぐにはご用意できませんが樽プリも秋には出
   来ますのでリモコン付き真空管アンプとしての利便性も好都合
   ではないでしょうか。」
 との意見を頂き早速に樽アンプを購入しました。
 しかし、考えてみれば半田ゴテを握るなんてカレコレ30数年前の技
 術授業のラジオ作製以来です。頼みの綱のK村さんは、「今回口は出
 すけど手は絶対出さない」との優しい?言葉で一層不安がつのります・・・。
 いざ始めて見ると半田付け、シールド線処理の難しい事、先の工程ま
 で見越しての線の取り回し等・・・もうグーの根が出そうです。
 組み立て中は作る楽しみよりも苦しみのほうが絶対に勝っていました。
 でも、K村さん達の心温まるサポートのお陰で素人にしては思った以
 上に早く完成させることが出来ました。
 緊張の音だしの瞬間・・・鳴っています。何の問題も無く一発OK!
 感激です。自分で組み立てた真空管アンプの音は一層素晴らしく綺麗
 な音に聴こえます。毎日自分の作った真空管の音を聴いていると不思
 議なもので、また作って見ようかなと思っている自分が居ることに、
 チョッチ驚きです。何故みんながキットにはまるか、少し皆さんの気
 持ちが解った様な気がします。次回は樽プリに挑戦して、また苦しみ
 と楽しみを味わってみたいと思っています。
        

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