キット屋倶楽部
LEGO SPEAKER 第28報
  «番外編その4   第29報»  

LEGOスピーカーの製作 第28報

 
     


写真1 バックロードホーン方式LEGOスピーカー38号機

 
  1. 魔法の技術を手に入れたい!

 小さなスピーカーユニットと小型のエンクロージャから驚くべき低音域をひねり出す技術が存在する。私はこの研究のためにLEGOブロックを素材としてスピーカーシステムの製作を始めたのである。
 この魔法の技術とは「バックロードホーン」方式なのである。

 LEGOブロックでスピーカーシステムを造る以前の私のメインスピーカーシステムは長谷弘工業製のバックロードホーンスピーカーであった。大小さまざまな長谷弘バックロードホーンを愛用したが、どのモデルも驚くべき低音域のレスポンスを有していた。そして憧れのスピーカーシステムが長岡先生の設計した「スワン」と呼ばれるバックロードホーン方式のモデルであったのだ。
 ところが・・・、魔法のワザを手に入れることは容易ではなかった。

 
  2. LEGOスピーカーにおけるバックロードホーン失敗の歴史

<1号機>
 記念すべきLEGOスピーカー1号機は2007年の夏に完成した。
当初の目的から「スワン」をイメージしたバックロードホーンを計画したのであるが、LEGOブロックで造ったのは超スリムなノッポのバックロードホーンスピーカーで、LEGOブロックが十分に購入できなかったのでスリムになってしまったのである。今から考えると、こんなものではマトモな音は出ないとわかるのだが、その頃は知識も無く、造ることそのものが楽しかったのだ。この1号機はスカスカの音で低音がまったく出ず、見事に失敗作であった。

<2号機>
  1号機の失敗はスリムにしすぎたためだと反省し、それならば大型化だ!ということで4千個以上のLEGOブロックを購入して製作した大型のバックロードホーン方式モデルが2号機である。ところが、これもうまくいかず十分な低音とは言えなかった。
 この2号機はその後スピーカーユニットの交換を何度か行い、番外編その3で報告したように現在ではタンデムドライブ方式に改造してしまっている。バックロードホーン方式をあきらめたのである。

1号機 2号機

<9号機>
 バックロードホーン内部にスパイラル構造を仕込んだスパイラルホーンは理想的な方式だと考えていた。なめらかに広がる複雑な螺旋構造はLEGOでなければ製作できないもので、大変苦労して造った作品である。しかしホーンの長さ、大きさが足りずにまったく効果は得られなかった。

9号機

<10号機>
 9号機の失敗から大型のスパイラルホーンの製作に挑戦した。大量のLEGOブロックを使用し、大作に挑んだのであるが・・・この作品も大失敗であった。大型のLEGOブロック製のハコは強度が足りなく、ボコボコとだらしない音になってしまった。見た目がカッコ悪いという問題もあり、10号機はすぐに解体された。

<11号機>
 11号機は超コンパクトなスパイラルホーンにしてスピーカーユニットを4種類用意し、4台の音の違いを楽しむ計画であった。が、やはり低音がまったく出ずに失敗。

10号機 11号機

<19号機>
 とても複雑な構造のダブルスパイラルホーンを造ってみたが、これもホーンが細すぎて効率が悪く大失敗。

<20号機>
 スピーカーユニットの前面にもホーンを設けたフロント&バックロードホーン方式として設計した。デザインは個性的でLEGOでなければ造れない複雑な構造を持ったスピーカーシステムであるが、やはり失敗。

19号機 20号機

 これらの失敗作を振り返ってみると、どのモデルもLEGOスピーカーの造形性を重視したオリジナリティを優先している。つまり、一般的な普通の構造のバックロードホーンシステムが存在しないのだ。まずは市販製品である長谷弘バックロードホーンを参考にしたモデルをLEGOブロックで製作して研究すべきではないのだろうか?
 バックロードホーンの製作には構造が複雑であるため、小型モデルであっても大量のLEGOブロックが必要となる。が、この点は問題ない。目の前には前報で31号機を解体したときに得られた大量の黄色いLEGOブロック1,500個の山が存在するのだ。
 長谷弘バックロードホーンのホーン開口からは風のように低音域の音圧が吹き出してくる。これが驚異的な低音域再生の源である。ホーンロード(ホーンプレッシャー)の十分にかかった低音域再生を私のLEGOスピーカーでも実現したい・・・。
 今回はこれまでの屈辱を払拭するリベンジの物語である。

 
  3.バックロードホーン方式

 バックロードホーン方式の動作原理については本報告でも何度も述べているが、スピーカーユニット背面の音圧を利用し、後部に設けたホーン形状の構造から音圧を放射して低音域再生特性の向上を実現する方式である。
 ホーン構造は次第に断面積が広がってゆく形状だが、いきなり広げると効果がなく、指数関数的に緩やかに広げる必要がある。ホーン構造の長さは1mから3m程度が必要であり、長く、ホーン開口径が大きなほど低音域の放射効果が大きくなる。だが、このためにはスピーカーユニットに相応の駆動力が必要である。
 ホーン構造は一種の音響インピーダンス変換器であり、スロートと呼ばれるホーン構造の入り口において小口径大振幅の音圧が、開口部で大口径小振幅の音圧に変換される。決して音圧が増幅されるわけではない。では、なぜ低音域の特性が向上するのか?
 そもそも、利用されないスピーカーユニット背面の低音域の音圧を再利用すればそれだけでも効果がある。この場合、音圧の位相変換が重要であり、そのままではスピーカーユニット背面の音圧は位相が180度反転しているので、前面の音圧とは打ち消しあってしまう。そこで、長さ1.7mの音道を介して合成すると100Hzにおいて同位相となり(音速は秒速340mなので100Hzでは1波長3.4m、位相差180度は1.7mである)音圧が増強する。しかし、この原理からすると50Hzでは逆位相に戻り打ち消しあってしまい、音圧は減少する。だが、100Hz付近が増加していれば聴感上は低音域が増強して感じるのである。また、200Hzでも逆位相となって打ち消すが、この影響は波長が短くなるために100Hzでの影響よりは少ない。しかし、周波数特性が乱れるのでホーン開口からはできるだけ中・高音域は放射しないことが望ましい。
 ホーン構造の変換機能により大口径小振幅となった音圧は低音域の放射には有利である。
これは大口径のウーハーユニットが低音域の再生に優れているように、音圧の放射効率が向上するからである。小口径のウーハーユニットの場合、低音域を強く放射するには振幅で音圧を増加するしかない。この場合、前面の空気は容易に横方向に逃げてしまうので振動板の振幅が音圧として放射される効率が低下するのだ。大口径振動板では逃げる空気が少なくなり、放射効率が改善する。したがって、同じ放射音圧を得るのに必要な振動板振幅が小さくて済み、これは歪みの低減にもつながる。バックロードホーンの大きな開口径は、その面積のウーハーユニットに匹敵する音圧を放射できると考えられる。さらに大口径ウーハーユニットの重い振動板(強度を得るためとスピーカーユニットの最低共振周波数foを下げるために一般的にウーハーユニットの振動板は重い)よりも空気を介したバックロードホーンの放射音の方がスピードも速く、トランジェントが良いと考えられる。
 数mの長いホーン構造を実用的なサイズのスピーカーシステムとしてまとめるには折り返し構造とするしかない。この折り返しホーン(フォールデッドホーン)構造は折り返し部分で乱反射が生じて音がにごり、独特のクセのあるホーン音になる。これは問題であるが、先に述べた中・高音域の減衰効果が得られるので必ずしも折り返しはデメリットだけではないだろう。いずれにせよアルプホルンのような直管構造は実現困難である。
 ホーン構造内の空気は剛体として作用し、トコロテンのように押し出される必要があるため、空気がバネのように弾性を持ってしまっては動作効率が低下する。押し出される空気の総容量の重さ(1リットルで約1.2g)が駆動するスピーカーユニットの振動板に等価質量となって加わり、振動板の重さが増加したような効果が生じる。これはスピーカーユニットの最低共振周波数foをより低下させる。(最低共振周波数は振動系質量と振動系支持のバネ性質により決まり、振動系が重いほど低くなる)
 バスレフ方式や密閉型のエンクロージャではスピーカーユニットを装着すると、スピーカーユニットの振動板にエンクロージャ内部の空気がバネとして影響し、振動板の動きを抑制するのでfoが上昇して低音域の再生特性が低下するが、バックロードホーンではスピーカーユニットそのものの低音域特性も向上するのである。さらに、スピーカーユニットに加わる背圧が少ない方式なので、振幅動作による抵抗が減少して歪み特性が改善される効果も期待できる。
 以上の働きによりバックロードホーンシステムは極めて効率の高い低音域再生が可能となり、小口径のスピーカーユニットであっても十分な再生帯域を実現できる。
 バックロードホーンの設計に重要なパラメーターとしては、ホーン構造における音道の長さ、広がり係数と呼ばれる断面積の増加形状、スロートの断面積と開口部の断面積、この比である開口面積比がある。ホーンの広がりはなめらかに次第に広がることが望ましく、スロートの断面積と音道長が決まると開口面積は決まってくる。
 また、スピーカーユニットの後部に設ける空気室(バックキャビティ)の容積も影響する。これが大きいとスピーカーユニット背面の音圧に対して空気のバネ性質が増加し、バックロードホーンの効果を低下させるが、小さすぎるとスロートに音圧が入っていく際の気流抵抗となる。適度な容積が必要であり、また、この容積を調整することで、スピーカーユニットに影響する背圧を変えることができる。
 このようにバックロードホーンシステムはバスレフ方式などと比較して検討するパラメーターが多く、設計が難しい。さらに、市販製品も少なく、設計資料もあまりない。要は造ってみなければわからない事が多いのだ。だが、これはLEGOスピーカーに適している性質であるとも言える。
 バックロードホーンでは使用するスピーカーユニットの特性が極めて重要である。一般的に駆動力の大きなマグネットの強力なスピーカーユニットが適していると言われている。
これはバックロードホーンシステムではスピーカーユニットの振動板の等価質量が増加し、最低共振周波数が下がり、背圧の影響が少ないので空気バネによる制動が効かないため、貧弱なマグネットのスピーカーユニットではフラフラになってしまうからだ。また、ホーン構造内の大量の空気を駆動しなければならないので強力な駆動力が要求される。さらに振動板にリニアリティの高い大きな振幅特性(最大振幅)も必要になる。
 以上のバックロードホーンの特性をまとめてみる。

バックロードホーンのメリット
 (1) コンパクトな小口径スピーカーユニットで大口径ウーハーのような低音域再生
 (2) スピーカーユニットの背圧が少なく歪が減る
 (3) 小口径振動板によるスピードが早くトランジェントの良い再生音
 (4) 背面の音圧も利用するので効率が高く小信号再生にも追従が良い
 (5) 広帯域をフルレンジユニットで実現して定位感に優れる

バックロードホーンのデメリット
 (1) 複雑な構造で製作が困難(コンパクトにまとめることが難しい)
 (2) 折り返しホーン構造の歪み音(ホーン音)が出る
 (3) スピーカーユニット前面音とホーンの放射音が干渉して周波数特性が乱れる
 (4) ホーンから遅れた中音域が出ると音質に影響する(洞窟音)
 (5) スピーカーユニットに大きな駆動力を要求する

 
  4.設計過程

 バックロードホーンの設計で最も重要なものは音道(ホーン)長であると考えている。これが十分に長くないと効果が期待できない。まずは音道長を1.7mとして構造をデザインして見た。使用するスピーカーユニットは8cmフルレンジとしてコンパクトサイズのバックロードホーンシステムを造る。大型サイズはLEGOブロックでは強度的に製作困難であるし、手持ちの黄色いブロックで造れるサイズとしたい。コンパクトサイズから十分な低音域が出るからうれしいのだ。
 図1は5段フォールディングのホーン構造で音道長は奥行きで稼ぎ、約1.7mである。
開口端は横に広げて行くタイプでLEGO製ならではの複雑な内部構造を持つ・・・のだが、なんとも不恰好なデザインになってしまった。これはボツ。
 図2はホーン開口をサイドに配置した案。デザイン的には悪くはないが、音道を左右に分割する最終折り返し部分で気流抵抗が大きそうだ。また、ホーン開口がメインユニットと接近していると音響迷路動作による位相変換音圧との干渉が顕著になる可能性がある。長すぎる奥行きも実用面で問題。うーん、これもダメか。

図1 構造案1 図2 構造案2

 思案の結果、38号機は図3に示すオーソドックスなバックロードホーンのスタイルとなった。
 実用的な寸法に奥行きを短くしたので5段フォールディングの音道長は約1.1mに妥協した。ちょっと短いが位相反転して同相となる周波数は約150Hzで8cmフルレンジユニット駆動としては悪くはないだろう。なお、ホーンを水平に折りたたんだので、水平ホーン構造と呼ぶことにする。
 コンパクトなエンクロージャに納めたのでホーンの開口面積比も5.5倍に抑えている。それでもこの開口面積は15cmウーハーの振動板面積に匹敵する。旧31号機は大型モデルだが、ただのハコ構造であったので大量のLEGOブロックが有るとはいえども、複雑な本機では相当な数を使ってしまうだろう。
 先述のバックロードホーンの設計に重要なパラメーターは、この音道長、ホーン開口面積のほかにスロート断面積、バックキャビティ容量、ホーンの広がり係数がある。
 スロート断面積はこれまでの(失敗)経験からすると、広すぎると駆動するスピーカーユニットの負荷が大きくなり十分に駆動できない。ある程度細いほうが駆動効率は向上すると考えられる。ただし、細すぎても気流抵抗が増加して効率は低下する。要するに最適なサイズがある。今回は構造上から12×2ピッチ(96mm×16mm)のスロット形状としたが、このスロートの形状は本来、円形または正方形が望ましいとも思われる。このあたりは今後の課題としたい。
 バックキャビティ容積は音道とのやりくりから実効容積(スピーカーユニットのマグネット体積などを除いた値)は約0.6リットルと見積もった。8cmフルレンジユニットを納めるには十分であろう。スピーカーユニットの外形寸法からするとエンクロージャの幅をさらに小さくもできるが、ホーンの開口サイズを大きくしたかったことと、バックキャビティの横幅が広くないとスロートに入る気流抵抗が増大すると判断してこのサイズとした。
 重要なホーンの広がり形状はLEGOブロックといえども理想的な指数関数曲線に近づけることは難しい。階段状になってしまうことはやむを得ないが、できるだけなめらかになるように工夫した。構造図からわかるように音道の幅が一定で高さのみが広がって行くコンスタントワイズタイプのホーン構造である。
 ホーンのなめらかさを検証するために図4のホーン断面積の変化グラフを描いて見た。
横軸はホーン音道のcm単位のポジション、縦軸はスロート断面積で正規化した断面積比である。ある程度は広がり形状が不連続となってしまったが、概ねエクスポネンシャルホーンのカーブになっていると思う。
 このグラフからわかるようにホーン長110cmでの開口端の断面積比は5.5倍である。ただし、ホーン端は広がりがきついので実質的には4倍程度、13cmウーハークラスの放射効率であると考えられる。
 図3には使用するスピーカーユニットとしてTangBandのW3-1318SAを示しているが、この8cmフルレンジユニットは竹繊維混入コーンの新機種であり、外径36mmの大型ネオジウムマグネットに強化された注目のユニットである。強化されたマグネットがバックロードホーンに適しているのではないかとの判断で採用してみることにした。
 ターミナルはリアパネルの上方に付け、スロート部分を通して配線する。図には描いていないが、吸音材に関してはバックロードホーンでは背圧を有効に利用する方式なので低音域の吸音は不要と考える。むしろバックキャビティの気流抵抗になると問題である。しかしながら、LEGOブロックの表面は平滑であり、極めて中・高音域での反射が大きいのでバックキャビティの内面に薄手のフェルトシートを入れることにした。
 以下に38号機の基本仕様を示す。

図3 構造図 図4 ホーンの断面積変化

<38号機 基本仕様>(設計時)
 ・ 形式:バックロードホーン・コンパクトスピーカーシステム
 ・ 方式:バックロードホーン方式
 ・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
 ・ エンクロージャ方式:5段フォールディングCW水平ホーンタイプ
 ・ 使用ユニット:TangBand W3-1318SA 8cmフルレンジ竹繊維混入コーン
 ・ 外形寸法:W128mm H288mm D234mm
 ・ ホーン音道長:約1,100mm
 ・ スロート断面積:15.4cm2
 ・ ホーン開口面積:84.5cm2(開口面積比 5.5倍)
 ・ バックキャビティ容積:約0.6リットル
 ・ ユニット最低共振周波数:105Hz
 ・ システムインピーダンス:8Ω

 
  5.部品解説

 1台分の構成部品を写真2に示す。本機はホーン構造を造るために複雑な構造であり、LEGOブロックによる部品も比較的多い。基本的にはフレームをフロントパネルとリアパネルで挟む構造であるが、フレームの中央にインナーパネルが入るため、フレームが前後に2分割されている。
 写真3はフロントパネルである。最近流行の一体成形モールドパーツ風のバスタブ構造。スピーカーユニット取り付け部分は、四角い穴に干渉部分を取り除いた形状で若干のLEGOブロック加工を行っている。使用するスピーカーユニットはアルミダイキャストのフレームが比較的大きく、頼もしいのだが干渉が大きかった。
 下部にホーン開口部があり、ブロック2段の厚さがあるため、開口端の1ピッチ(8mm)分の広がり構造を上端に有している。
 裏面には音道の折り返し構造の一部となる音道ガイドが造られている。このガイドと周囲の枠構造により強度を高めている。
 表面には38号機のゴールドエンブレムが付き、左右端の黄色いカーブスロープブロックによりカーブドエッジバッフルをデザインしている。このデザインは高音域のバッフルエッジでの反射現象を抑えて反射音との干渉歪みを低減する効果があり、黄色のラインで見た目のスマートさも演出している。

写真2 構成部品 写真3 フロントパネル

 前側のフレームAを写真4に示す。このフレームにはバックキャビティとホーン開口部、音道の一部が形成されている。4部屋の音道構造が補強となり、極めて強度も高い。使用しているLEGOブロック量も見た目よりも多い部品である。バックロードホーン構造はエンクロージャの強化にもなり、不要共振を伴う箱形構造にないメリットの一つだ。
 表面にはホーン開口部から見える段差にタイルブロックで化粧を行い、音道の折り返し部分での厚さ調整のための黒いプレートブロックが付けられている。裏面にはインナープレートを入れる溝があり、インナープレートが外側から見えないようにしている。
 後側のフレームBを写真5に示す。厚さ12段のこのフレームBとフレームAを組み合わせるとフレームの厚さは21段(201.6mm)となる。
 フレームBにはスロートの部分と音道構造の折り返しが前側5室、後側3室あり、より複雑な構造となっている。特にLEGOブロック裏面のポッチの入る穴は音道内で気流抵抗の生じる原因となるので音道折り返し部分で黒いプレートブロックにより塞いでいる。この部品も重く、極めて強度が高い。
 フレームAとBは小型の部品であるが、2台で千個以上のLEGOブロックを使用して造られているのである。

写真4 フレームA 写真5 フレームB

 リアパネルを写真6に示す。このパネルはプレートブロック3枚重ねで9.6mm厚、バスタブ構造ではないが、フレームの音道構造と接合するので強度は問題ない。
 上部にターミナルの取り付け穴2箇所と表面下部にホーン開口部の音道ガイドが付いている立体的なパネルである。
 インナーパネルを写真7に示す。厚さ9.6mm、14×10ピッチサイズのプレートブロックによる板である。フレームAの溝に入りバックキャビティの裏板となる。
 スピーカーユニットW3-1318SAを写真8に示す。竹繊維混入コーンの8cmフルレンジユニットであるが、竹繊維ペーパーコーンはクセのない音質が気に入っている。
 ダイキャストフレームとアルミのフェイズプラグに高級感があり、強化されて大型となったネオジウムマグネットが魅力のスピーカーユニットである。事前の検討からマグネットが強力なユニットを選択したのだが、フェライトマグネットのモデルではバックキャビティがいっぱいになってしまい、容積の減少とユニット背面の気流抵抗が問題になると考えたのでコンパクトで強力なネオジウムマグネットのモデルを選んだ。ネオジウム磁石の強度はフェライト磁石の10倍もあるのだ。
 その他の部品を写真9に示す。吸音用のフェルトシート、配線ケーブル、ターミナル、インシュレーター、ネジ類である。このシステムはフルレンジユニットなのでデバイディングネットワークのパーツが無く、シンプルである。これは音質的にも有利な点だ。

写真6 リアパネル 写真7 インナーパネル
写真8 スピーカーユニット 写真9 その他の部品
 
  6.製作過程

 まずはフロントパネルにスピーカーユニットを取り付ける。(写真10、11)
固定方法はいつものようにM4ボルト&ダブルナット、ワッシャによる4隅のエッジ固定である。デザインとしてフロントパネルのスピーカーユニット固定部分の厚さが1プレートブロック分の3.2mm厚くなっており、より強固な固定が行える。
 後側のフレームB前面にインナーパネルを固定する。(写真12、13)
フレームAの溝に入る位置に注意して固定するが、インナーパネルを先にフレームAの溝に取り付けないのは、フレームBの接合面積の方がより大きいからであり、強固に固定するためである。
 リアパネルにターミナルを取り付け、準備しておく。(写真14、15)

写真10 フロントパネル組み立て 写真11 スピーカーユニット固定
写真12 フレームBとインナーパネル 写真13 インナーパネル固定
写真14 リアパネルとターミナル 写真15 ターミナル固定

 フレームAとフレームBを組み合わせる。(写真16、17)
フレームが完成すると音道の様子が見えてくる。LEGOブロックの密度が高いのでずっしりと重い。この重さは音響的にも有利なはずだ。

写真16 フレームの組み立て 写真17 フレーム外観

 写真18のようにスロートの入り口を塞がないように吸音材を挿入する。
このフェルトシートは粘着材が付いているが、変更に配慮して挿入するだけにした。
 次にフロントパネルをフレームに固定する。(写真19)
スピーカーユニットにケーブルを配線しておき、ケーブルがスロート内で丸まって気流抵抗とならないように注意する。

写真18 吸音材挿入 写真19 フロントパネルの取り付け

 組み上がった本体のスロートからケーブルを引き出し(写真20)、ターミナルに配線したリアパネルを取り付ける。(写真21)
インシュレーターを貼り付けて組み立て完了である。
 38号機の外観を写真22に示す。黄色と黒のコントラストの利いたスマートなデザインに仕上がった。大型モデルの31号機では黄色は不似合いであったが、コンパクトな本機ではポップで良いイメージだ。
 ホーン開口内部も黄色いので、ホーンが強調されて面白い雰囲気になっている。
8cmフルレンジモデルとしては比較的大きなエンクロージャになってしまったが、フロントパネル左右の黄色いカーブスロープブロックの効果でスマートに感じる。
 リアパネルはターミナルのみとシンプル。(写真23)
リアパネルの固定強度も非常に高く、どこをたたいてみても締まった音がする。フレーム部分も含めてとても頑丈なエンクロージャである。

写真20 吸音材挿入 写真21 リアパネル固定
写真22 38号機外観 写真23 裏面の様子
 
  7.試聴と評価

 試聴ポジションに設置して期待の音出しを行う。(写真24)
カーブドエッジバッフルと側面の黒いラインがデザインのポイントである。(写真25)
さーて、音はどうかな?
・・・やったぁ!! ついにホーンロードがかかった。8cmユニット搭載機とは思えない十分な低音が出ている。ホーン開口から長谷弘バックロードホーンと同じような風が吹き出してくる。LEGOスピーカー研究6年目にして、やっと念願のバックロードホーンを造ったぞ!・・・。(とは言っても、基本に忠実に組み上げただけなのだが)
 これまでの作品の失敗はオリジナリティにこだわって無理な設計をしていたことが根本原因のようだ。うれしいリスニングと行きたい所だが、新たな問題発覚・・・完成は容易ではないなぁ。

写真24 試聴セッティング 写真25 フロントパネル意匠

 問題とはスピーカーユニットの駆動力(制動力?)不足である。大音量の再生でヴィブラートのような振動音が乗り、歪んだ低音になってしまった。さらに音量を上げると振動板が底に当たるようなバタバタと異音を発している。
 やはりバックロードホーンはスピーカーユニットを選ぶ。好みのユニットというだけではダメであった。マグネットは強力なので期待していたのであるが・・・。
 8cmフルレンジユニットで強力タイプのTangBand W3-1231SN(写真26)を倉庫の9号機から外して来た。このW3-1231SNは長谷弘バックロードホーンにも採用された実績のあるチタンコーンの強力スピーカーユニットである。姉妹スピーカーユニットなのでフレームも同一でそのまま交換が可能だ。したがって、マグネットサイズも同一なのだが実力はどうか?

写真26 TangBand W3-1231SN

 早速、交換してみた。(写真27)
意匠的にはフェイズプラグがカッコ良いW3-1318SAの方が好みなのだが・・・。

写真27 ユニット交換した38号機 写真28 試聴の様子

 ようやく完成した38号機。(写真28)
こんなに小さいのにちゃんとバックロードホーンの音がする・・・感無量である。
ホーンロードがかかり、サイズからは予想外の低音域が再生されている。
 8cmフルレンジユニットの小バッフルなので定位感、音像感が良いのは当然として、尾を引かないスピード感のある低音がとても良い。そうそう、バックロードホーンってこういう音なのだ。低音域の解像感、ダイナミックレンジがすごくいい。音楽がクリアに聴こえてくる。
 デバイディングネットワークが、ユニットにかかる背圧が、低音域の吸音材が無いことから再現できる微小信号の再現性の賜物である。今後のLEGOスピーカー製作の方向性が決まった気がする。

 
  8.スピーカーユニットの考察

 しかし、マグネットサイズが同一なこの2つのスピーカーユニットの違いは何なのか?疑問になった。
 実は私はこれまで、スピーカーユニットはサイズと振動板素材とデザインだけで選択していた。性能仕様を重視していなかったのである。これはスピーカーユニットの個性として音を楽しんでいたからなのであるが、どうも、バックロードホーン方式の場合はスピーカーユニットの特性によっては使用が困難なものもあるようだ。これまでの失敗の原因の一つかもしれない。
 スピーカーユニットの特性について考えて見よう。表1にW3-1318SAとW3-1231SNの代表的な仕様を比較する。この表にはないが、サイズ、取り付け寸法、ユニットフレーム、マグネットは2機種とも同一である。
 振動板素材は音質に最も影響するものである。好みではメタル系振動板よりもペーパーコーンが好きなのだが、バックロードホーンには軽い振動板が適していると言われている。
 インピーダンスの違いはボイスコイルの巻き方の違いであろう。出力音圧レベルは1Wの信号入力時の1m離れた位置での音圧レベルであるが、計算すると、効率100%のスピーカーユニットが存在したとして112dBとなる。つまり、必ずこれ以下の値になり、その差が損失である。仕様はチタン振動板のW3-1231SNの方が能率は高い。表の下にある振動板質量は同一なので駆動力に差があるようだ。やはりチタンという素材は優れている。
 周波数特性や最低共振周波数は大差ない。ボイスコイルサイズは同一。ただし、W3-1318SAはセンターにフェイズプラグが有る分、振動板面積がもともと小さく、ボイスコイルの大型化に伴い従来品より振動板面積がさらに減少しているのが気になる点である。
 最大許容入力は同一。マグネット素材もネオジウムで同一であるが、マグネット強度とボイスコイル巻線長の積であるBlが異なるのがわかる。マグネット強度は同じなので、W3-1231SNの方がコイルの巻き線が多く、これが能率の違いの原因であろう。それにしてはインピーダンスが低いのが面白いところだ。
 注目したいのは最大振幅X-maxである。これは振動板の最大リニア稼動量なのだが、これが0.4mm、1.25mmと3倍以上も異なる、つまり、W3-1318SAは大振幅には弱いスピーカーユニットであったのだ。背圧が少なく、ホーンの駆動に大振幅が要求されるバックロードホーン方式にとって、このスペックは重要であると考えられる。完全に私の勉強不足であった。W3-1318SAはバスレフ方式などのエンクロージャで十分に背圧をかけて使うスピーカーユニットとして設計されているのであると思う。
 等価コンプライアンス体積とはスピーカーユニットの振動系が有するバネ定数と等価なエンクロージャ内の空気バネ体積を示している。つまり、この値が大きいほどフラフラのハイコンプライアンスユニットであり小さな箱が適していると言える。
 バックロードホーン方式に適したユニットとしてマグネットが強力であることが必要であると先に述べた。これは駆動力に直結するからであるが、逆に制動力にもつながり、マグネットが強力すぎると、むしろ振動板が動きにくくなり、主に低音域のレスポンスが低下する。一般的なバスレフ方式などのエンクロージャではマグネットが強力すぎても良くないのだ。このマグネットの強さを示す仕様としてスピーカーユニットのQ値がある。
 スピーカーユニットの最低共振周波数foにおける共振振動の先鋭度を表すこのQ値Qtsは、正確には機械的作用によるQmsと電気的作用によるQesの合成である。機械的なQmsは主に振動板に付いたエッジやダンパーなどの支持材の硬さによって決まり、硬く固定するとQ値Qmsは低下する。(機械的ブレーキとして作用して振動しにくくなる)
 重要なのは電気的Q値Qesであり、これは番外編その4で説明した電磁ブレーキ作用の大きさを示している。すなわちマグネットが強力で電磁ブレーキ作用が強ければQesが低下するのだ。だから、バックロードホーンにはスピーカーユニットのQ値、実際はQesの小さなものを選択することがセオリーになっている。また、この値は0.3程度が目安となる。
 表1を見ると、W3-1231SNはQ値が0.3と低く、Qesも0.36と十分に低い。つまり、マグネットが強力であり、その磁界中のボイスコイルが強力に力を受けて振動がダンピングされていることがわかる。まさにバックロードホーン用に設計されたスピーカーユニットなのである。

 
  9.まとめ

 バックロードホーンの開放的な鳴りっぷり、共鳴感のないハイスピードな低音。
この音が好きで、何とか構造の複雑なバックロードホーンを簡単に造れないものかと始めたのがLEGOスピーカーであった。
 やっと、この目的を達成することができた。LEGOブロックならば複雑な内部構造も容易に製作できる。失敗しても何度でも造り直せるのだ。
 ついに私も「魔法の技術」を手に入れることができたのである。
(2013.12.8)  

 
     


「新生バックロードホーン LEGO☆スピーカー38号機」爆誕!

 
 
番外編その4 «  LEGOスピーカーの製作 第29報
 
キット屋倶楽部のTOPに戻る