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LEGO SPEAKER 第38報
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LEGOスピーカーの製作 第38報

 
     


写真1 エアサス・バスレフ方式研究初号機 48号機

 
  1. 画期的なミニスピーカーを造りたい

 写真2はテニスボールである。

今回は、これで新たな方式のミニスピーカーを造るのだ。

写真2 テニスボール? 写真3 35号機(失敗作)

 私のスピーカー製作の目標はコンパクトで良質な低音の出るシステムである。

 これはスピーカーエンジニアの共通の目標であろう。この実現に優れた方式としてパッシブラジエーター方式を何機種か採用してきた。確かにエンクロージャ容積に左右されないこの方式はコンパクトスピーカーに最適である。

 しかし、パッシブラジエーターユニットを別に装着しなければならず、45号機では背面に小型ユニットを取り付けたが、このような小型ユニットでは最低共振周波数foが高く、低音増強効果も低下してしまう。

 実際、写真3の35号機ではパッシブラジエーターユニットに平面振動板の小型ユニットを2本用いたが、foが164Hzと高く、失敗を経験した。

 コンパクトシステムの定番方式としてバスレフ方式があるが、理論的にはバスレフダクトの共振周波数はダクトを細長く設計すれば容積サイズによらずにいくらでも低く設定できる。だが、これは上手くいかない。まず、細長いダクトでは気流抵抗が大きい。

 さらに問題なのは容積が少ないと空気のバネ性が低下してバスレフの放射効率が低下するのだ。だからコンパクトなバスレフシステムは効果が低い。(FOSTEXの8cmフルレンジユニットの資料例では内容積6リットルを推奨)

 今回の48号機はこの問題を解決するシステムの研究モデルなのである。

 
  2. 理論の検討

 バスレフ方式の動作をごく単純な電気回路に置き換えると図1のようになる。 

 スピーカーユニットの駆動力をFとして、これによる振動速度をvとする。

 箱の容積の空気によるコンプライアンス(バネとしての働き)はコンデンサCaで表現される。ダクトの空気の等価質量はコイルMpで表現され、このLC並列共振がバスレフ共振である。Caは容積が大きいほど大きくなり、Mpはダクトが細長いほど大きくなる。

 共振周波数は1/(2π√(L・C))であり、例えば容積が小さくなったら、ダクトをより細長くすれば共振周波数を維持することができる。

 物理現象にはかならずロス(抵抗)があって、容積によるコンプライアンスCaにはバネ損失Rcが並列に接続し、ダクトの等価質量Mpには気流抵抗Rmが直列に接続される。

 容積を小さくするとCaが減ると同時にRcが増加すると考えられる。さらにMpを増やすとRmも増加し、ますます共振の強度であるQ値が低下してバスレフ効果も減少する。

 これがコンパクトスピーカーでバスレフが効かない理由である。

 そこで、回路に並列にコンデンサCaddを追加すれば共振周波数を下げるとともにRcの影響を抑えてQ値を向上することができる。

 このCaddは一般的には容積の付加であるが、Caがコンプライアンスであることから、直接空気のバネ性質を強化すれば良いのではないかと考えた。

 ・・・つまり気圧の高いボールを箱の内部に挿入するのである。

図1 バスレフ方式解説図 写真4 軟式テニスボール

 箱の中のボールはスピーカーユニットの背圧で変形し、復元力でバスレフダクトを駆動するのではないか?そう期待したのである。

 すると、このボールの変形特性が重要となる。つまり空気圧が高すぎると剛体に近くなり効果がない。逆に圧力が低くてもだめだろう。最適値があると予想される。

 先に紹介した硬式テニスボールは不向きかもしれない。早速、軟式テニスボール(写真4)を手配した。軟式テニスボールは空気入れで圧力を変えられるので実験には好都合である。
(空気が抜けていく問題があるが)

 しかし、そもそも、この考えは正しいのであろうか?

 ・ボールの挿入で内容積が減少するので逆効果ではないのか?

 ・復元力は背圧として作用してひずみを増加する懸念もある。

 ・バスレフダクトの共振周波数はどうなるのか?

従来の理論にはのらないので計算式もない。

 

 ・・・だからこそのLEGOスピーカーなのだ。

 造ってためしてみればよいのである。失敗も成果なのだ。経験こそが重要なのである。

 
  3. 構造設計

 48号機は35号機を改造して製作する。同一のミニサイズで低音改善を狙うのである。

 図2のように構造はシンプルなバスレフ方式である。内寸は128×64×99mmで、マグネットやバスレフのダクト構造で20%程度少なくなるとして、内容積は約0.65リットルしかない小さな箱である。

使用するスピーカーユニットは35号機からの9cmユニットVifa TG9FD10-04である。

 図2のCLB-402WYはもっともらしく型式で表記したが今回のキーパーツ、軟式テニスボールだ。

 バスレフダクトの設計はボールのない通常の計算でユニットのfo 113㎐ にあわせて109㎐ としてダクト長8cmとしたが、これは試聴にて調整したい。

 ダクトは底面を利用したスリットダクトで、開口は8×32mmだが16×32mmにも変更できる設計とした。

 ボールの入れ替えなどで頻繁に開けることになるので、フレームにウイークポイントを設けて開け易くしておく。工具無しで簡単にいじれるのも良いところである。

 

 ・・・さて、結果はどうなるかな?

図2 48号機構造図

<48号機 基本仕様>

 ・ 形式:バスレフ方式ミニスピーカーシステム

 ・ 方式:エアサス・バスレフ方式

 ・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)

 ・ 使用ユニット:Vifa TG9FD10-04 9cmグラスファイバーコーンフルレンジ

 ・ 外形寸法:W96mm H160mm D124.8mm(ターミナル部除く)

 ・ 実効内容積:約0.65リットル

 ・ バスレフダクト長:8cm

 ・ バスレフ共振周波数:109㎐

 ・ 内蔵ボール:CLB-402WY 1個 (互換:PS-2289)

 ・システムインピーダンス:4Ω

 
  4. 製作過程

 48号機の全部品を写真5に示す。今回は35号機の部品を再利用した改造作品なので比較的製作は簡単だ。ミニサイズなので部品も少ない。

 写真6はスピーカーユニットモジュールである。スピーカーユニットVifa TG9FD10-04は公称9cmフルレンジユニットなので若干サイズが大きい。この部分のフレームは8mm厚さの1ピッチで造る必要があった。スピーカーユニットのfoは113㎐ 、インピーダンスは4Ω であり、独自の編みこまれた白いグラスファイバーコーンは内部損失が大きく、きれいな高音域が特徴の優れたスピーカーユニットである。

写真5 全部品 写真6 スピーカーユニットモジュール

 写真7はフロントモジュールである。バスレフダクトの開口部は16×32mmに大きく造ってあり、ダクトサイズの大型化にも対応できる。スピーカーユニットモジュールと同じ32mmの厚さ。

 写真8はリアパネルである。ターミナルを設けた板構造だが、周囲に1段エッジを付けて強化し、フレームとの接合は周囲1ピッチに制限して取り外しを容易にした。この48号機は研究機なのでメンテナンスリッドとして頻繁に開閉するので外し易くしているのだ。

写真7 フロントモジュール 写真8 リアパネル

 フレームを写真9に示す。青地に黄色いラインは実験用機種の証。

 このサイズのフレームを2ピッチ16mmの厚さのブロックで造ると強度は申し分ないのだが内容積がとても少ない。

 写真10はバスレフダクトパーツである。底面を使用したダクトなのでコの字型の部品でダクトを構成する。容易に長さを調整することができ、デフォルトは8段、約80mmにした。1ピッチ分がダクト開口部にはまり込む形なのでダクトの内寸は32×8mmである。

写真9 フレーム 写真10 バスレフダクトパーツ

 組み立てを行う。まずはフレームにフロントモジュールを固定する(写真11)。

 次にバスレフダクトを内部から組み込む(写真12)。スピーカーユニットモジュールを取り付けて(写真13)、リアパネルに配線すれば組み立ては終了である。(写真14)

写真11 フロントモジュール取り付け 写真12 バスレフダクト組み込み
写真13 スピーカーユニット取り付け 写真14 リアパネル配線

 テニスボールは写真15のように挿入する。1個入れるのにちょうど良いサイズだ。

 バスレフダクトは内寸32×8mmで 6cm、8cm、10cmを造ってみた。また、内寸32×16mmのダクトでも試して見よう(写真16)。

写真15 ボール挿入の様子 写真16 バスレフダクトバリエーション

 組み立ての終了した48号機を写真17に示す。8cmクラスフルレンジスピーカーを使用したミニLEGOスピーカーの定番サイズである。

写真17 48号機外観
 
  5. 試聴と考察

 正直に言うと、この48号機はあまり期待していなかった。

 ボールの挿入で肝心な内容積が減少するし、気圧の高いボールはコンプライアンスをむしろ低下させるとも考えられる。つまり、バスレフダクトの共振周波数が上昇して失敗する。
と、普通は考えるだろう。

 ところが・・・明らかに低音が改善したのだ。これはどういうことだろうか?
それどころかカラの状態よりも歪みも少なく聴こえる。

 これは慎重に評価する必要がでてきた。(写真18)

写真18 視聴の様子 写真19 内部が空の状態

 スピーカーシステムの音の評価は難しい。再生する音楽や環境、再生機器でも評価は異なるし、その日の体調も影響するだろう。

 A、B比較はもっと難しい。再生しながらスイッチで切り替えれば良くわかるか? というとそうでもない。切り替えても再生音楽のフレーズが異なるし、音量差が少しでもあれば音の大きいほうの評価が高くなる。先に聴いたほうが有利でもある。食べ物と同じで空腹の方がおいしく感じるのだ。

 だから私は音の評価はじっくりと聴いて楽しめるかどうかで判断している。良い音は評価中でも音楽を楽しめるのだ。

 

(1)48号機の中が空の状態(写真19)

 これで音楽を聴く。うーん・・・楽しめる音ではない。

 低音域はこのサイズにしては意外と出ているのだが、高音が歪っぽい。ケバのある音だ。

 音が軽い感じで重みがない。いかにもミニスピーカーの再生音という印象である。

 

(2)軟式テニスボール(以下ソフトボールと記す)を挿入(写真20)

 ・・・驚いたことに音が一変した。まず、音量が下がり、高音域が静かになった。

 歪み感も低減し、やわらかくクリアな音に変化した。低音域は量感が増し、アタックも向上してダイナミックな再生音になったと感じる。つまり、音楽を楽しめる音に改善したのだ。この変化はどうしてだろうか?

 ネガティブな予測としては以下を考えていた。

 ・ボールの挿入で内容積が減少してバスレフの共振周波数が上昇するとともに動作効率が低下する

 ・背圧が大きくなり歪みが増える

 ・ノンリニアな変形素材の影響で音にクセがでる

 ところが実際は良い効果を得たのである。この理由について考察してみたい。

 

①中高音域の音量が抑えられた理由

 これは単純に吸音材の効果と推定される。LEGOブロック表面は平滑面で高音域の反射が大きいので吸音材のない状態ではエンクロージャ内部は乱反射が生じている。
前面ダクトのバスレフ方式では、この内部音がダクトから放射され、歪みのある中高音域が出てしまう。この影響がソフトボールの吸音効果で抑えられたのではないか?

 

②歪みの低減

 上記の効果でも歪が低減し、さらに、ソフトボールは内部いっぱいに入っており、フレームの側面に接している。このためフレームの不要振動が制振され、歪みのある筐体放射音が抑えられたと考えられる。

 

③低音域の増強効果

 ソフトボールの球体の体積はおよそ0.18リットルであり、内容積が0.45リットル程度に減少する。この結果バスレフ共振周波数は130㎐ ほどに上昇する可能性がある。
スピーカーユニットにとって、この高めの共振ダクトは駆動し易く、むしろ効率は向上したのかもしれない。本当の低音ではないが低音感は増強すると思われる。

 

 もともと、前面ダクトのバスレフエンクロージャを吸音材無しで使うことが間違いだとも思うが、本当にソフトボールの効果はただの吸音材としての作用だろうか?

 特に③の影響を確認するために硬式テニスボール(以下ハードボールと記す)を挿入して見た。1.8気圧のこのボールはとても硬く、背圧による弾性変形はほとんど無いと思われる。 つまり、フェルト製の球体吸音材としての効果である。

 その音は・・・文字どおりハードな音になった。

 ソフトボールのような柔らかな音質変化はなく、低音の増強もあまり感じられない。つまり楽しめる音ではない。やはりソフトボールには吸音作用以上の効果があるのではないだろうか?

 

(3)活性炭を挿入(写真21)

 吸音材といえば、私はLEGOスピーカーには活性炭(冷蔵庫の消臭用)をよく利用している。活性炭の表面の細かな穴構造が低音域を吸収すると言われている。
ためしにこれを一袋挿入して見た。

 音はソリッドに締まった音になった。悪い音ではないのだが低音の豊かさの増強には寄与していない感じである。高音域の騒がしさは抑えられるので相対的に低音域が良くなる。
これまで、吸音材の働きは内部の定在波の防止やエンクロージャの制振を目的と考えていたが、積極的な音作りに利用できるものかもしれない。

 先入観もあるが、中に挿入した素材の音に変化するように感じるのである。だからソフトなボールを挿入すれば音がマイルドになるのである。

写真20 ソフトボール挿入 写真21 活性炭挿入

 バスレフのダクト長に関しては、いろいろと試してみたが、デフォルトの8cm、109㎐ が最適であると判断している。これ以上の長さではリアパネルに近づきすぎる問題があり、また、短いとバスレフ周波数が上昇して効果も少ない。

 

 ソフトボールは吸音材として有効であると考えているが、一つ問題点がある。
このボールは一晩で空気が抜けてボコボコになってしまうのだ。本来、試合の前に空気を入れて使うボールなのでリスニングの前に空気を入れる作業が必要になる。
アナログレコードのディスククリーニングみたいに儀式と考えれば良いのだが・・・。

 この傾向は安全バルブ式も針式も同様で若干だが針式のボールの方が抜けにくいようである。空気を入れないノンプレッシャーボールというものもあるが、しなやかさに欠け、ハードボールに弾性が近い。(この評価のためにいくつテニスボールを購入したことか!)

 ボールの空気入れ作業はなんともめんどうくさいし、いちいちメンテナンスリッドを開けていては信頼性にも問題がある。

 そこで、スポンジボールを試して見た。子供用の練習球である。

 弾性はソフトボールに近いが、質感がいかにも吸音体であるところが異なっている。

 この効果は・・・ソフトボールよりは若干後退するが、悪くない。

 これは使えそうだ。(写真22)

 
  6. おわりに

 ソフトボールを弾性体吸音材として利用する目論見は成功したのではないかと思える。
この方式を「air suspension bass reflex」「エアサス・バスレフ」と呼称することにする。
しかし、1機種造っただけでは評価が足りない。次の49号機もこの方式の実験を続けたい。エアサス・バスレフ研究機、弐号機の開発スタートである。

(2015.8.16)

     


写真22 48号機とスポンジボール

 
 
 
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