ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
スタン・ゲッツ-音楽を生きる(2021.3.10)

 昨年の秋頃に「スタン・ゲッツ-音楽を生きる」ドナルド・L・マギン、村上春樹訳、新潮社という本を買って読み始めた。ゲッツの音楽性と共にドラックや酒におぼれ、暴力沙汰を起こすという生々しい人生が赤裸々に語られ、読み進めるのが疲れる本であった。ちょうど半分にあたる300ページまで読み進めたところで中断していた。
 このところ音楽と言えばクラシックを聞くことが多かったが、そろそろジャズを聞きたくなり、録音の新しいLPという理由でPure Getzというアルバムを取り出して聴いている。このアルバムについてブログ上でどんな話が語られているかとパソコンを覗いていたら、「スタン・ゲッツ-音楽を生きる」という本の441頁からこのPure Getzというアルバムのことが書いてあるという情報を得た。それがきっかけで301頁から最後まで頁をパラパラとめくっていった。その中で印象的だったことを書き記す。

一つはアルバムPure Getzについて、

・The Stan Getz Quartet ‎– Pure Getz
・Concord Jazz ‎– CJ-188
・Recorded at San Francisco, California, January 1982
 Bass – Marc Johnson
 Drums – Billy Hart (tracks: A3, B1, B2),
       Victor Lewis (tracks: A1, A2, A4, B3)
 Piano – James McNeely
 Tenor Saxophone – Stan Getz
A1 On The Up And Up 8:10
A2 Blood Count 3:34
A3 Very Early 7:05
A4 Sipping At Bell's 5:02
B1 I Wish I Knew 7:52
B2 Come Rain Or Come Shine 8:07
B3 Tempus Fugit 7:17

 ぼくはこのアルバムの中でゲッツらしくて良いなと思ったのは、1曲目のOn The Up And Upである。ゲッツのメロディアスなプレイのみでなく、マーク・ジョンソンのベースプレイも良く歌っているし、ジェームス・マクニーリーのピアノもリリカルである。だけどゲッツ自身の評価と思うが、作者が強調しているのが、A面2曲目のBlood CountとB面3曲目のTempus Fugitである。以下本よりの引用をすると、「スタンの「テンパス・フュジット」における火を噴くようなソロは、ほとんど狂気を含むまでに激しく人生を肯定するが、同時にまた命の短さについての強い痛みを感じさせる。・・・・・「ブラッド・カウント」・・即興演奏の感情的ピークにあって、彼はその骨の髄まで凍りつくような叫びを、柔らかくブルージーな呻きにすっと取り替える。そうやって聴き手を、曲の内側にある痛切な核心へと導くのだ」テンパス・フュジットはバド・パウエルの曲であり、ブラッド・カウントはビリー・ストレイホーンが死の床で作曲した最後の曲である。ここでの「ブラッド・カウント」の演奏が、ゲッツの死後、彼の骨を海に散骨するときに、船上で使用されたようである。

 

二つ目の話はPeople Timeというアルバムについての話である。

・Stan Getz - Kenny Barron ‎– People Time
・Verve Records ‎– 314 510 823-2
・Recorded live on March 3-6, 1991 at the Café Montmartre, Copenhagen
  Piano – Kenny Barron
  Saxophone [Tenor] – Stan Getz
1-1 East Of The Sun (And West Of The Moon) 9:29
1-2 Night And Day 8:16
1-3 I'm Okay 5:24
1-4 Like Someone In Love 8:02
1-5 Stablemates 8:46
1-6 I Remember Clifford 9:03
1-7 Gone With The Wind 7:11
2-1 First Song (For Ruth) 9:55
2-2 (There Is) No Greater Love 8:36
2-3 The Surrey With The Fringe On Top 9:21
2-4 People Time 6:14
2-5 Softly, As In A Morning Sunrise 7:54
2-6 Hush-A-Bye 9:32
2-7 Soul Eyes 7:32

 ピープル・タイムはスタン・ゲッツとケニー・バロンのデュオによる最後となったアルバムで、ここでの演奏はどれも素晴らしいが、中でもチャーリー・ヘイデンが作曲したファースト・ソングという曲は凄いと思う。このアルバムについてのこの本の記述を紹介する。「ピープル・タイムでケニー・バロンは、このアルバムでソロの機会を得ると、様々なスタイルの演奏を惜しげもなく見事に披露する。「ノー・グレイター・ラブ」では1920年代のハーレム風ストライド・ピアノを、「飾りのついた四輪馬車」「朝日のごとく爽やかに」ではハイスピードのバップスタイルを、「クリフォードの思い出」「アイム・オーケー」ではブラームス風のロマンティシズムを。
 このCDにおけるバラードのハイライトは「ファースト・ソング」だ。スタンとバロンは、この曲の奥にある深い悲しみと切望を、目先の感傷に安易に耽ることなく着実に前に推し進めていく。
 この2時間におよぶレコーディングを通してミュージシャンたちがリスナーに伝える重要な感情は悦びだ。名人芸の喜び、聴衆と一体になることの悦び、創り出すことの悦び、スイングする悦びだ。」

 「スタン・ゲッツ-音楽を生きる」という本では、このような調子で、それぞれの時代を代表するような重要なアルバムについての評論を入れているので、ぼくには音楽を聞くうえで大変参考になる。翻訳者の村上春樹はスタン・ゲッツの演奏アルバムのオリジナル完全コレクションを目指した収集家であり、演奏のよき理解者である。ジャズについての造詣はプロ級の深さであり、優れた翻訳をされているので大変読みやすい。

 

やっと謎解きが出来たスタン・ゲッツ・ジャズ・ガラ’80(2021.3.15)

 ぼくがe-musicという音楽の有料ダウンロードサイトより、Stan GetzのJazz Café Presents Stan Getz : Record January 23rd, 1980 Cannes, Franceというアルバムを入手して聞いているが、このアルバムの位置付けがGetzのディスコグラフィでどうもはっきりしない。こういう時の調査によく利用するDiscogsというデータベースにアクセスして調査すると、ヒットはするが、この項目には56のバージョンが登録されている。アルバムのタイトルも曲目も統一感が全くないように思え、頭がこんがらがってしまう。例えば、日本では1980年にGood Friends ‎– Jazz Gala 1980 Vol. 2というタイトルでLPが発売され、それとは別にStan Getz ‎– Jazz Gala 1980 - White HeatというタイトルでLPが発売されている、という登録がある。収録されている曲目も全く異なる。ぼくの持っているJazz Café Presents Stan Getzというアルバムは2001年にEuropeでCDとして発売された。これらのアルバムの曲目を比較すると下のような表となる。

 アルバムJazz Café Presentsが前の2枚よりの編集かと思うと、Billie’s Bounceという新しい曲が入っておりそうとも言い切れない。他のアルバムと比較しても謎が解けそうもない。しばらくイライラしていたが、Jazz Discography ProjectのJazz Gala '80 Catalog - album indexというサイトを見てやっと頭の整理がついた。Jazz Gala '80 Catalog - album indexというタイトルで"Palm Beach Casino", Cannes, France, January 23, 1980というゲッツが参加した録音が、以下の3枚のアルバムで発売されているようだ。

(1)Stan Getz, Paul Horn, Mike Garson - Midem Live '80 (Personal Choice Records PC-51002)
 このアルバムでゲッツが参加した収録曲は、・Heartplace、・Kali-Au、・Chappaqua、・Nature Boyの4曲で、これ以外にゲッツが参加しない・Impropture、・Samba De Orfeu、・Work Songの3曲が入っておりアルバムとしては合計7曲が収録されている。

(2)Stan Getz, Joe Farrell, Paul Horn, Mike Garson, Sugar Blue, Gayle Moran, Patrick Artero - The Great Jazz Gala '80: Live At Palm Beach Casino, Cannes 1980 (Personal Choice Records PC-51003)
 このアルバムでゲッツが参加した収録曲は、・Time After Time、・Lady Day、・Autumn Leaves、・Intro—Spoken、・Billie's Bounceの5曲で、これ以外にゲッツが参加しない・Sonny's Blues、・500 Miles High、・Here's That Rainy Day、・Christmas Song、・I'm Here For You、・Magic Spell、・Rhapsody In Blue、・Hits Medleyの8曲が入っておりアルバムとしては合計13曲が収録されている。

(3)Stan Getz - Live At Palm Beach Casino Cannes 1980 (Bellaphon (G) BID 155.504)
このアルバムでのゲッツの参加曲は・Empty Shellsの1曲のみである。

さらにゲッツの参加しないアルバムが2枚発売されたようだ。

(1)Paul Horn - Live At Palm Beach Casino Cannes 1980 (Bellaphon (G) BID 155.505)
 収録曲は、・Things Ain't What They Used To Be1曲である。

(2)Stan Getz, Joe Farrell, Paul Horn, Mike Garson, Sugar Blue, Gayle Moran, Patrick Artero - The Great Jazz Gala '80 (Bellaphon (G) 32 07 002)
 収録曲は、・Blues Medley、・Circeio、・Jacasseries In Timeの3曲である。

 どうやらDiscogsというデータベースに登録されている色々なバージョンのLPやCDは、この5つのアルバムに収録されている25曲中より、それぞれが取捨選択して独自のアルバムを制作しているように思える。そう考えると頭の整理がつくのである。考えてみれば、どうでも良い様な事に頭を悩ましていたにすぎないかもしれないが。




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