LEGO SPEAKER 第18報

≪第17報 第19報≫

LEGOスピーカーの製作 第18報

写真1 タンデムドライブ搭載 LEGOスピーカー26号機
写真1
タンデムドライブ搭載 LEGOスピーカー26号機

1. タンデムドライブの採用

1-1 フルレンジに回帰

 24号機、25号機と2ウェイのシステムを造ってきたが、久しぶりに昔のフルレンジユニットによるシステムを聴くとなぜかホッとする。フルレンジのスピーカーユニットの魅力はここでも何度も述べてきた。音源の集中だとか、デバイディングネットワークが不要とか要素は多くあるが一つの理想形であることは間違いない。問題は・・・10cm程度の小型スピーカーユニットでは十分な低音域が出ないことである。そのための努力を重ねてきたわけであるが、低音域の増強のやり方にはバスレフ方式などの音響共振を用いる手段やアンプでのトーンコントロールによるバスブーストなど電気的な手法もある。これらの方法は加算による増強方法であり効果は高いがクセが出たり歪が増えたりと弊害も多い。 
 そもそも何故低音域が不足するのかというと、その要因の一つとしてはスピーカーユニットの背圧の影響ではないかと考えている。巨大な密閉型エンクロージャや大きな平面バッフルで自由に鳴らしてやることができれば10cmの小型フルレンジスピーカーユニットでもそこそこの低音域の再生ができるのではないか?無理やりの増強によるクセや歪もなくクリアな音が期待できる・・・はずであるが現実的でない。だが、まだまだ方法は存在する。以前からトライしてみたい方式があった。タンデムドライブである。

1-2 タンデムドライブとは?

 タンデムドライブ方式は図1に示すように前面に配置したメインのスピーカーユニットの後面にサブのスピーカーユニットを取付けて同相(同じ動き)で駆動してメインユニットにより生じる密閉型の小型メインキャビティ(前方のハコ)の背圧を低減するという手法である。サブユニットの背面にはサブキャビティ(後方のハコ)が存在するが、こちらは密閉型やバスレフ方式も選択できる。今回は密閉型の素直な音調を実現したいのでサブキャビティにも密閉型を採用する。サブユニットには背圧を助ける手段がないので通常の密閉型の動作になるが、スピーカーエンクロージャに完全に内蔵されるので音質への影響は少ない。つまりタンデムドライブはメインユニットの背圧をアクティブに抜く事で巨大密閉型エンクロージャのような働きをするのである。なんというテクニカルな方式。私はこういった手法が大好きなのである。

図1 タンデムドライブ方式接続図
図1
タンデムドライブ方式接続図

1-3 タンデムドライブの考察

 とは言うもののメリットだけではないだろう。まずは得失を検討してみよう。なんでもそうだがあまり無理をすれば失敗する。おそらくメインユニットよりもサブユニットの音圧が高いと問題であろう。メインユニットが強制的にサブユニットの音圧で駆動されることは良くないと考える。あくまでメインユニットの背圧処理に徹するべきだ。まあ、サブユニットは密閉型のハコを背負っているのでメインユニットと同じスピーカーユニットを使用したとしても能率は下がるであろう。損得をまとめてみた。

<タンデムドライブのメリット>
 ・比較的小型の密閉型エンクロージャで十分な低音域の再生が可能
 ・外部には小型のフルレンジユニットしか存在しないのでこの利点が活かせる
 ・メインユニットに加わる背圧が低減されることで歪が改善する
 ・サブユニットの電気的な接続方法を変えることで低音域の再生効率を調整できる

<タンデムドライブのデメリット>
 ・サブユニットからの音圧放射があると音像定位に影響する
 ・効果を上げると(サブユニットの音圧を上げすぎると)低音域で歪が増える
 ・中~高音域では発音位置の違いで位相が反転し周波数特性が乱れる
 ・パワーアンプに対する負荷が増加する
 ・ユニット間の電気的干渉の問題

 メリットから見てみよう。小型のエンクロージャで低音域再生が可能なのは最大のメリットであるが2重構造のエンクロージャを造らなければならず、前後のハコにそれなりに内容積が必要だからあまり小型にはできない。同じサイズの単純な密閉型エンクロージャと比較して低音域再生の効果が少なかったら意味がない。このあたりは実験で確かめよう。
 外部からは完全に内蔵されたサブユニットは見えない。説明しなければ普通のフルレンジ密閉型に見えるだろう。このため、フルレンジシステムの利点が期待できる。また、メインユニットの背圧が低減できればこれによる歪も少なくなるだろう。これは音質向上につながる。メリットとは言えないがメインとサブユニットのターミナルをそれぞれ独立して設けておけば電気的接続を容易に変更できるので実験にはうってつけである。
 では、デメリットは・・・一番の心配はサブユニットからの音圧放射である。エンクロージャに内蔵されているので直接の放射はないが低音域ではエンクロージャが振動して筐体放射が起きる。ただし、これは低音域の増強につながり問題ではないかもしれない。問題なのは中~高音域の放射である。メインユニットのコーンを通して中~高音域が漏洩する可能性がある。この音はエンクロージャ内部からの歪んだ音であり、メインユニットの中~高音域とは位相が異なるので明らかに問題だ。メインキャビティに十分に吸音材を入れて吸収してしまうことも考えられるが、せっかくの低音域でのアクティブな背圧低減効果に影響しそうである。
 今回の設計ではサブユニットはメインユニットの12cm後方に装着する予定である。この12cmの位置差はおよそ1.4kHzで逆位相となる。つまり、サブユニットはメインユニットの1.4kHzを打消すように作用してしまう。だが、空気を媒介とした作用なので、おそらくこの程度の周波数では空気は剛体ではなくバネのようにふるまい問題にはならないと考える。しかしながら多少はサブユニットの中~高音域がシステムの周波数特性に与える影響はあるだろう。以上から言えることはサブユニットによる背圧低減もやりすぎは禁物ということ。不要な音圧放射を避ける目的からもサブユニットの能率はある程度に抑えることが重要だろう。タンデムドライブの効率からは相反することなので試聴による調整が必要である。
 これは本質的な問題ではないのであるが、今回の26号機に使用するスピーカーユニットはメインユニット、サブユニットともに所有の関係からインピーダンスが6Ωの物を選択した。この場合、並列に両者を接続すると合成インピーダンスが3Ωになってしまい一般的なパワーアンプの許容負荷である4Ω以下となり具合が悪い。そこで図1に示すようにメインユニットとサブユニットの各ターミナル間に抵抗器を挿入することで合成インピーダンスの上昇とサブユニットの能率調整を行うことにした。抵抗器の挿入は位相変化(抵抗とスピーカーユニットのインダクタンスで位相が回る)などの問題もあるが必要な低音域では影響は少ないだろう。
 図1の表を見ていただきたい。Aは実験モードでターミナルをオープンにしてメインユニットだけにした場合である。厳密にはメインキャビティとサブキャビティの間に存在するサブユニットの機械的な音響作用の影響を受けるがほぼ密閉型の動作となる。これが比較基準の音だ。また、この状態でサブユニットのターミナルをショートするとサブユニットに電磁ブレーキがかかりユニットの動きが制限されるので内容積の減少した密閉型エンクロージャとして作用すると考えられる。モードBはR1に4Ω、R2に2Ωを挿入してシステムの合成インピーダンスを4Ωとした場合である。サブユニットに与える減衰量はユニットのインピーダンスと同じ6Ωなのでー6dB(電圧で半分)であり、能率は電力なので4分の1に低下する。ちょっと低すぎかな。モードCはR1のみに4Ωを挿入したもので合成インピーダンス3.75Ω、減衰量ー4.5dBでパワーアンプの許容負荷としては少々低いがまあ許せるだろう。このモードCをデフォルトの接続としたい。実験的に他のモードも試してみよう。ただし、サブユニット直結のモードDでは合成インピーダンスが3Ωとなるので危険である。また、理想的なパワーアンプであればスピーカーユニットが並列に接続されたことによる影響はないはずであるが、現実にはパワーアンプの出力インピーダンスはゼロではないのでサブユニットの逆起電力やインピーダンスの周波数による変化がメインユニットの入力信号に影響することもありうる。メインとサブのスピーカーユニット間の抵抗接続はこの影響を低減する効果も期待できると考えられる。

2.設計と仕様

2-1 基本仕様の検討

 26号機はメインとサブの2つの密閉型キャビティを持つ10cmフルレンジユニットを2発搭載したタンデムドライブ方式のシステムである。さすがにエンクロージャが2つもあるので製作には大量のLEGOブロックが必要となる。今回は1.3mのトールサイズの大型共鳴管方式4号機を解体して大量のブロック素材を得た。4号機がイエローカラーだったのでこの26号機もイエローである。本当は小型で低音の出るシステムとしたかったが、結果は4号機の全部品に予備のブロックも全て使い果たした大型のモデルとなってしまった。基本仕様を以下に示す。

<26号機 基本仕様> 
 ・形式:タンデムドライブ方式フルレンジ密閉型
 ・組立方法:ホリゾンタルタイプ(水平組立)
 ・エンクロージャ方式:複合密閉型
 ・メインユニット:TangBand W4-927SE(10cmフルレンジ ポリプロピレンコーン)
 ・サブユニット:TangBand W4-930SG(10cmフルレンジ ペーパーコーン) 
 ・外形寸法:W416×H160×D380mm(本体部分)
 ・内容積:メインキャビティ約3.4リットル、サブキャビティ約3.8リットル
 ・サブユニットアッテネータ:-4.5dB(調整値)
 ・システムインピーダンス:3.75Ω(調整値)

 タンデムドライブは市販製品にあまり例がなく設計資料も少ない。バスレフ方式のような設計公式もないので適当に考えるしかない。いくら密閉型エンクロージャの背圧をアクティブに抜くとは言ってもある程度の内容積がメインキャビティには必要であろう。全体のサイズもあるのでここは3リットル程度と考えた。サブキャビティはサブユニットの背圧がかかるのでやはり内容積が欲しい。4リットル程度確保しよう。トータル約7リットルサイズのエンクロージャとなった。
 使用するスピーカーユニットは手持の10cmフルレンジスピーカーユニットから選んだ。メインユニットはTangBand W4-927SEである。これは当初2号機に搭載するために購入したものであるが、その後6号機に搭載されたが先の25号機製作時に6号機が解体され在庫となったものである。10cmの強化されたポリプロピレンコーンを採用しアルミのフェイズプラグが特徴的なスピーカーユニットでクリアな音調が気に入っている。フェイズプラグの効果で高音域のレスポンスも良い。インピーダンスは先に記したとおり6Ω、能率は87dBである。マグネットが小型のネオジウムである点も密閉型のエンクロージャには好ましい。サブユニットは同じくTangBandのW4-930SGである。10cmペーパーコーンのフルレンジユニットで最初の登場は10号機のテスト用、次に12号機の暫定使用、その後搭載した13号機が解体されて16号機に、そしてユニットが置換されて在庫となった歴戦の勇士である。ペーパーコーンのナチュラルな音調は良いのだが見てくれがかっこ良くないので今回は内蔵ユニットとして起用した。ちょっと不遇である。インピーダンスは6Ω、能率はペーパーコーンが軽いので89dBある。やはりネオジウムのマグネットも好ましい。メインとサブのスピーカーユニット間に能率差が2dBあるので先ほど検討した接続モードCで総合能率差がー2.5dBとなり音圧が半分程度でちょうど良いバランスである。

2-2 エンクロージャの構造設計

 エンクロージャは密閉型ということで強度が重要である。前回の25号機の製作でも強度不足が問題となったので徹底した補強を考える。まずは四角い箱型形状をやめる。また、特に弱くなる板状の広いリアパネルを廃止しピラミット状の構造体とする。最も重要なのは前面のバッフルであるが、ここはスピーカーユニットが固定されて補強になるので有利だ。さらに補強柱を前後に通して強化しよう。一般的な立方体の構造では共振周波数が顕著に現れる問題があり、さらに6面の面積が大きくなるので特にLEGO製では強度が不足するのだ。
 検討の結果描いた構造図を図2に示す。今回のエンクロージャの形状はひし形である。この形状では側方からの力には強いが上下方向には弱くなる。ここはステーを4箇所に入れて対処する。サブユニットの固定されるサブバッフルはエンクロージャの中央、メインバッフルの12cm奥にある。これを貫通して2本の補強柱をリアの構造体まで通し前後方向の補強とする。このサブバッフルの存在がエンクロージャ全体の補強にもなっている。 
 リアのピラミット状構造体(リアモジュール)は23号機で同様の構造をブロック1列で作成して強度が不足したので贅沢にも2重である。これは内容積が犠牲になるが強度は抜群だ。この構造部分だけでもかなりのLEGOブロックが必要になる。最後部には小型のリアパネルを装着するが、ここを独立したのは将来的にポート付きのパネルと交換してサブキャビティをバスレフ方式に変更できる構造としたためである。ターミナルはメインとサブのスピーカーユニットから独立してそれぞれのキャビティ上部に設ける。上面接続は見た目が良くないが接続変更には便利である。

図2 26号機構造図
図2
26号機構造図

2-3 組立方法の検討

 いつも構造設計を行うと同時に組立の方法も検討している。LEGOで造る場合、力をかけて接合する必要があり十分な固定が必要だ。いつもはリアパネルから組立、エンクロージャを完成して最後にスピーカーユニットの付いたフロントバッフルを接合する。こうすることでスピーカーユニットを作業中の破損から保護することもできる。だが、今回は後面がピラミット状のリアモジュールであるために固定ができない。そこでフロント面から組立てることにした。この場合スピーカーユニットを保護するためにバッフル面にエッジ(縁)が必要になる。1ブロック分(10mm)のエッジを設けた。本当はバッフル面にはこのようなエッジ付加は音質的に好ましくないのだが、デザインのアクセントにもなるので採用である。また、組立はあらかじめ各モジュールを造っておいて最終的にモジュールの組合せで完成する。モジュール単位の分割はメイン、サブのキャビティなどのセクションごとに行うが、接合のやり易さもポイントである。

3.製作過程

3-1 モジュール解説

 製作に入ろう。はじめに各モジュールを説明する。全構成部品を写真2と写真3に示す。今回も大型のシステムなので1枚の写真に納まらない。写真2はメインとサブのバッフル、それにリアパネルである。この26号機ではブラックカラーはこれらのパーツだけである。それぞれのバッフルにはスピーカーユニットが装着されている。今回もホリゾンタルタイプ(水平組立)でスピーカーユニットの固定は慣れたものである。
 写真3はイエローカラーのメイン、サブのキャビティフレームとリアモジュールである。それぞれのフレームにターミナルと構造強度を上下に補強するステーが見える。
 写真4にメインバッフルを示す。LEGOのプレートブロック3枚重ね10mmの板にメインユニットをボルトで装着。組立に必要なエッジが付けてある。前面は化粧パネルで仕上げ下部中央にNo26のエンブレムが光る。バッフル面積は比較的大きいが補強柱とひし形の形状、エッジの補強もあり強度は問題ないだろう。
 写真5はサブバッフル。同様にサブユニットを装着する。こちらは内蔵されるので化粧パネルは必要ないがスピーカーユニットの装着部分のみ隙間を塞ぐために化粧パネルが付いている。

写真2 構成部品1
写真2
構成部品1
写真3 構成部品2
写真3
構成部品2
写真4 メインバッフル
写真4
メインバッフル
写真5 サブバッフル
写真5
サブバッフル

 写真6がメインキャビティのフレームである。これと写真7のサブキャビティフレームは良く似ているがターミナルの取付け位置が異なっていることに注意されたい。ターミナル同士が近づいて接続を容易にしている。中央の上下に入るステーは2本で補強柱がこのステーを挟む形でシステムを貫通する。
 リアモジュール(写真8)は前回の25号機の反省から生まれた構造であるが2重になっており十分な強度がある。ずしりと重く、大量のLEGOブロックで構成されている。ピラミット形状は自己共振もなく音響的にも有利である。
 写真9がリアパネルである。先のリアモジュールの先端を塞ぐが、この部品をバスレフポートの穴あきタイプと交換することでサブキャビティをバスレフ方式にも変更できる。プレートブロック3枚にブロック1段で厚さ20mm。

写真6 メインキャビティフレーム
写真6
メインキャビティフレーム
写真7 サブキャビティフレーム
写真7
サブキャビティフレーム
写真8 リアモジュール
写真8
リアモジュール
写真9 リアパネル
写真9
リアパネル

 その他の部品を写真10に示す。補強柱は長さの異なる3種類。スピーカーユニットが4個使われるので端末処理した接続ケーブルも4本。インシュレータはいつものオーディオテクニカ製の真鍮タイプ。ユニット間の接続はモードCで考えているので3.9Ωの10W酸化金属皮膜抵抗とジャンパーケーブルを用意した。吸音材はいつもの活性炭であるが、この26号機ではアクティブな背圧処理が期待できるので少なめに1キャビティあたり2個とした。

写真10 その他の部品
写真10
その他の部品
写真11 メインモジュール組立
写真11
メインモジュール組立

3-2 組立過程

 メインバッフルとメインキャビティフレームを接合する(写真11)。補強柱がステーを挟んで2箇所に固定されている。ターミナルとメインユニットの端子をケーブルで接続する。この後面にサブユニットが装着されるのでケーブルがあたらないように注意した。
 サブモジュールを組立てる(写真12)。バッフルにエッジがあるので強固に組立てできる。リアモジュールにつながる補強柱は長いが組立中は一時的に外しておいた方が作業性は良い。この2本の補強柱がステーを挟んでシステムの前後に走るので補強に効果的であろう。
 メインキャビティに吸音材を入れる。左右の空間に2個挿入した(写真13)。
 メインとサブのモジュールを結合する。だいぶ形状が見えてきた(写真14)。ブラックとイエローのコントラストがスポーティなイメージである。
 忘れずにサブキャビティにも吸音材を入れ(写真15)、リアモジュールと組合せる(写真16)。かなりの大型のシステムである。

写真12 サブモジュール組立
写真12
サブモジュール組立
写真13 吸音材挿入1
写真13
吸音材挿入1
写真14 モジュール組合せ
写真14
モジュール組合せ
写真15 吸音材挿入2
写真15
吸音材挿入2
写真16 リアモジュール組合せ
写真16
リアモジュール組合せ
写真17 リアパネル装着
写真17
リアパネル装着

 リアパネルの装着(写真17)。背面の穴から補強柱が正確に接合されていることを確認する。
 インシュレータを下面に貼付けて完成(写真18)。ターミナルが上面に4個もあるのは目立つが結線作業はやり易い。後面から見るとLEGO丸出しである(写真19)。エンクロージャの各所を叩いて見るとフロントバッフルは補強柱が効いて強固な印象。メインキャビティ部分も体積が小さいので締まった音である。サブキャビティは若干尾を引く音がするがヤワな感じはない。

写真18 完成した26号機
写真18
完成した26号機
写真19 後面から見る
写真19
後面から見る

4.試聴と調整

4-1 ファーストインプレッション

 それでは聴いてみよう(写真20)。
 一聴して気に入った。スピーカーユニットのエージングも十分なのでなんともクリアな音色である。10cmフルレンジとは思えない低音感が出ている。タンデムドライブの効果で、あたかも巨大エンクロージャに取付けたような印象である。以前、ゴムマリ音などと表現した密閉型独特の音がしないのだ。もちろん低音の増強はないのでそれに起因するクセもない。クリアに聴こえるのは中~高音域の歪が少ないからか?第16報でフルレンジユニットの問題点として分割振動による歪の発生を挙げたが、実はこの歪は低音域の背圧の影響でピストンモーションが阻害されて生じていたのかもしれない。確かにスピーカーユニットが動きたいのに動けないという状況が良いはずはない。それが歪発生の原因となる可能性も十分にある。タンデムドライブはこの歪の低減にも効果があるのではないかと感じる。心配していたサブユニットからの音圧放射の悪影響は感じられない。実際、サブユニットのみに入力して放射音を聴いてみたが、こもった小さな音であった。十分に遮音されていることが確認できた。
 ・・・今回も大成功である。

4-2 タンデムドライブの効果検証

 ところが、この26号機はずいぶん大型になってしまった。実は密閉型エンクロージャの内容積が十分にあるために改善しただけではないのか?これは接続モードを変更して試聴し、検証する必要がある。写真21はサブのターミナルをオープンにした状態、モードAである。この状態と比較試聴すれば効果を検証できる。参考までに写真22のようにサブユニットのターミナルをショートしたモードA'も聴いてみよう。密閉型エンクロージャの内容積が減少したようにふるまうはずなので低音域が低下するはずだ。写真23はターミナル間に2本の抵抗器(2.2Ωと3.9Ω)を挿入したモードB、写真24の接続が推奨のモードC(3.9Ωのみ)である。写真25の直結並列接続モードDはパワーアンプに過負荷となるので試聴は行わなかったがパワフルなパワーアンプを用いれば可能かもしれない。
 これまでは定性的に低音域が十分に出ているなどと記してきたが、やはりエンジニアリング的には測定したいところである。だが、私のリスニングルームでは肝心の低音域に部屋の定在波の影響があり何を測定しているのかわからなくなってしまう。そこで今回は低音が十分に鳴っている音楽の一部(20秒間)の周波数レスポンスを測定して各条件で比較してみることにした。絶対的な周波数レスポンスの測定は困難でも相対比較ならば可能という判断である。測定系と測定結果を以下に示す。

写真20 試聴の様子
写真20
試聴の様子
写真21 接続モードA
写真21
接続モードA
写真22 接続モードA'
写真22
接続モードA'
写真23 接続モードB
写真23
接続モードB
写真24 接続モードC
写真24
接続モードC
写真25 接続モードD
写真25
接続モードD

<測定系>
 ・音源:SONY ハードディスクレコーダー HAR-LH500(光デジタル出力使用)
 ・D/Aコンバータ:SV-192S(可変出力使用)
 ・マスタークロックジェネレーター:MUTEC MC-3
 ・パワーアンプ:TRIODE TRV-A300(4Ω出力)
 ・スペクトラムアナライザ:BEHRINGER DEQ2496 2台(ライン、マイク)
 ・測定用マイク:BEHRINGER ECM8000

図3 周波数レスポンス測定結果
図3
周波数レスポンス測定結果

 図3の測定結果を解説する。測定したモードはメインユニットのみのモードA、サブユニットをショートしたモードA'、サブユニット-6dB減衰のモードB、-4.5dB減衰のモードCの4種類である。スペクトラムアナライザ写真の上段(Out put)がスピーカーシステムの再生音であるマイク入力、下段(In put)がパワーアンプの入力信号であるライン入力であり、この周波数レスポンスは20秒間再生時のピーク値をホールドしたものである。周波数のスケールは20Hz~20kHz、中心が630Hzの対数表示、縦軸のレスポンス〔dB〕の表示値そのものに意味はないが各測定でアンプのボリューム位置が同一なので相対的に音量差を表している。
 マイクのセッティングはスピーカーシステムの間隔が1.2mで、その中心から1.8m離れたリスニングポジションに設置した。
 下段のライン入力では30Hz以下にも盛大に超低音域の信号が入っているがマイク入力の上段では63Hz程度が再生限界である。ちょっと寂しいが10cmのフルレンジシステムではこんなものであろう。モードAのマイク入力に20Hzまでのレスポンスがあるが、これは再生音ではなく車の音などの暗騒音である。また、各ライン入力には1kHz以上のレスポンスに差異があるが、これは再生をホールドしたタイミングが若干狂ったためで1kHz以下のレスポンスは同一なのでこの測定は成り立っており無視していただきたい。
 さて、結果を検証しよう。写真上段の各モードの周波数レスポンスを確認するとタンデムドライブを有効にしたモードBとモードCで低音域の再生音圧が上昇しているように見える。写真では見にくいと思うので図3に63Hz、80Hz、100Hz、400Hzの読み値を表にまとめた。
 400Hzのレスポンスでは本来はタンデムドライブの効果は少なく、各モードによる差異は無いはずであるがタンデムドライブのモードB、モードCで出力音圧が若干低下している。この理由は、おそらくパワーアンプに対する負荷が増加して出力が低下したためだと考えられる。サブユニットから放射される400Hzはほとんど外に出て来ないので合成インピーダンスが下がった影響であろう。低音域のレスポンスの比較はこの全体の感度低下も考慮しなければならない。そこでカッコ内に400Hzの読み値で正規化した値を記した。
 まず、モードAとモードA'を比較すると確かにモードA'の方が100Hz以下の低音域のレスポンスが低下している。予想どおりに内容積の減少による低下であろう。
 次に、モードAを基準にしてタンデムドライブのモードBとモードCを比較すると100Hz以下の低音域の音圧が上昇していることが解る。試聴したモードCでは総じて+3dB程度の向上である。つまり低音域の音量が2倍になったのである。聴感上も明らかに向上を認めた。また、特定の周波数に共振作用などの増強がないことからクセの問題もないことが解る。80Hz以下をマスクして見てみるとライン入力に対する忠実度が向上していると言えるだろう。しかし、残念ながら一部のレスポンスが上昇しただけで再生限界周波数が低音域に伸びたわけではない。これはタンデムドライブのサブユニットにメインと同じ10cmのフルレンジユニットを用いて構成したこともあり順当な結果ではある。
 +3dBの低音域上昇だけではアンプのトーンコントロールでバスブーストしたことと同様ではないかと指摘されるかもしれない。だが、重要なのは低音域の質でありバスブーストでは場合によっては強制駆動されて歪が増えたり締りが無くなったりするのである。
 この測定は周波数ドメインであり定常音のレスポンスは評価できるがアタック音などの時間レスポンスは見えない。群遅延特性などのタイムドメインの測定ができればこの差を明確に表現できるのだろうが、要するに聴感上は低音域のキレが違うのである。

5.おわりに

 最近は完成したばかりの26号機でずっと音楽を聴いている。少しデザインとカラーが宇宙空間から飛来してきそうで落ち着かないが、タンデムドライブのその音は楽しめる。密閉型であることを感じさせない音。クリアな高音域とパワフルな低音域。とかくテクニックに偏ったシステムは問題が多いが、このタンデムドライブは低音域のレスポンス向上に効果が高いと確認できた。さらに、メリットには記したが当初は高音域の歪感の改善にも効果があるとは考えていなかったのである。まだまだやれることはたくさんありそうだ。スピーカー研究の道は長い。

(2011.4.20)

写真26 26号機リスニング風景
写真26
26号機リスニング風景

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