LEGO SPEAKER 第32報

≪第31報 第33報≫

LEGOスピーカーの製作 第32報

写真1 42号機バーティカルツインホーンシステム
写真1
42号機バーティカルツインホーンシステム

1. はじめに

 前回の41号機で採用したSA/F80AMGというパワフルな8cmフルレンジユニットのパフォーマンスはミニバックロードホーンでは十分には活かされないのでは?と考えた。
もっと音道を伸ばしたいところだ。しかし、38号機(第28報)のように大型にするだけではつまらない。LEGOスピーカーとしては、お得意の造形性を活かして新しいデザインを追及したいのだ。そこで・・・
 42号機は奥行きを伸ばし、ホーンのスロート後端で音道を上下に分岐したツインバックロードホーンを思いついた。折り返して前面に開口した上下のホーンでスピーカーユニットを挟むことで、バーティカルツインの配置となりスピーカーユニット直接音の中・高音域とホーンから放射される低音域が一体となり、定位感の向上にも効果がある。と計画したのだ・・・が、現実は苦労の作品となったのである。

2. 設計過程

 まずは図1の構造をデザインした。奥行き387mmの細長い筐体に上下2本のホーン音道を納めたものだ。だが・・・
・奥行き約40cmのこのデザインでも音道は70cmほどしかない
・バーティカルツインではホーンからの干渉が大きく、240Hzのピーク、480Hzのディップが強く出そうだ(ホーン放射の同位相でピーク、逆位相でディップ)
・背面の接続ターミナルが中空になり不安定
・本体下部のスペースがムダ
といった問題が考えられた。これは再検討が必要である。

図1 初期構造図
図1
初期構造図

 次にこれを改良して図2のように下側の音道を下部スペースで3段折り返して130cmに伸ばしてデザインした。ピーク周波数を130Hzと240Hzに上下ホーンで分散する狙いである。音道の壁はLEGOの1ピッチ(8mm)厚さのブロックで造り、ムダなスペースを少なくしている。
 インシュレーターの貼り付け位置が前端と中央部で中途半端に見えるかもしれないが、これはスピーカースタンドに設置した際に足がはみ出さないための配慮である。これだけ複雑な音道構造が内部にあれば胴体部分が強度不足で折れてしまうことはないだろう。
 図3に前面図と音道の変化グラフを示す。正面からは41号機と大差ないミニスピーカーに見える。本当はもっとホーン開口を広げたいところなのだが、まとまりの良いところにとどめている。41号機の音道長は55cmだったが、本機は音道長130cmを確保したのがポイントである。
 ホーンの開口面積比は上下のホーンA、B合わせてスロート面積の6倍なのだが途中で分岐する構造なので、このグラフでは開口比は1ホーンで0.5から3と記している。
 上側の短いホーンAの音道長は図1と同じ70cmで、ホーンA、Bとも比較的なめらかなホーン形状となっていることがわかる。
 これは果たして上手く動作するのだろうか? 駆動の軽い上側のホーンAしか働かないかもしれないが・・・造って確かめるしかない。この研究心こそが本来の目的なのだ。

図2 採用構造図
図2
採用構造図
図3 前面図・音道の変化グラフ1
図3
前面図・音道の変化グラフ1

3. 製作過程

 写真2に全構成部品を示す。本機は比較的コンパクトなモデルだが複雑な構造のため部品数が多い。この複雑さこそがLEGOスピーカーの面目躍如なのだ。
 写真3はホーン開口部である。LEGO製なので複雑なパーツでも簡単に製作できる。
このホーン開口部はなめらかな階段状造形を実現するため、薄いプレートブロックだけで製作したのでブロックの密度が大きく、重く、極めて強度が高い。
 42号機のエンブレムと「Dual Horn System」のバッジを装着したが、今回のエンブレムはホワイトでモノトーンにしてみた。

写真2 全構成部品
写真2
全構成部品
写真3 ホーン開口部
写真3
ホーン開口部

 スピーカーユニットモジュールを写真4に示す。この部品は41号機とまったく同一なので製作過程は省略。
 写真5に胴体部分の前方に位置するフレームAを示す。内部が5本の音道に分かれている様子がわかる。
 写真6は中央のフレームBである。胴体部分は3分割して製作したが、これは作業性の点もあるが、音道長が長すぎてホーンの駆動力不足などの不具合が生じた場合に間のフレームを除いてショートヴァージョンを実験するための準備でもある。
 写真7が後ろに位置するフレームCである。良く見ると裏面は音道のリターン部分なので4室に分割されていることがわかる。

写真4 スピーカーユニットモジュール
写真4
スピーカーユニットモジュール
写真5 フレームA
写真5
フレームA
写真6 フレームB
写真6
フレームB
写真7 フレームC
写真7
フレームC

 リアパネルを写真8に示す。皿状構造で丈夫にしてあり、ターミナルを付ける穴が2箇所ある。
 写真9はフレームC内の音道のリターン部分を塞ぐフタである。この部品は薄く造りすぎたので振動防止のために改良時に強化した。
 写真10の部品は胴体前端の下部をフタするためのパーツである。このような複雑な部品も自由自在に造れるのだ。
 その他の部品を写真11に示す。接続ケーブル、ターミナル、インシュレーターである。

写真8 リアパネル
写真8
リアパネル
写真9 音道リターンフタ
写真9
音道リターンフタ
写真10 胴体前端フタ
写真10
胴体前端フタ
写真11 その他の部品
写真11
その他の部品

 製作は胴体部分から行う。フレームBとフレームCを接合する。(写真12、13)

写真12 フレームBとC
写真12
フレームBとC
写真13 フレームB、C接合
写真13
フレームB、C接合

 同様にフレームAを前部に接合する。(写真14、15)
この部品はシンプルな箱型なので作業し易い。

写真14 胴体部分とフレームA
写真14
胴体部分とフレームA
写真15 フレームAの接合
写真15
フレームAの接合

 胴体前端フタを取り付ける。(写真16、17)

写真16 胴体部分と胴体前端フタ
写真16
胴体部分と胴体前端フタ
写真17 胴体前端フタの取り付け
写真17
胴体前端フタの取り付け

 前面のホーン開口部を取り付ける。複雑な構造だが上から押し付けてしっかりと接合することができる。(写真18、19)

写真18 ホーン開口部の取り付け
写真18
ホーン開口部の取り付け
写真19 ホーン開口部と胴体部分
写真19
ホーン開口部と胴体部分

 音道リターンフタを胴体部分の背面に取り付ける。(写真20、21)
また、小さなプレートブロックを2個、背面に付ける。このブロックを外しておいたのは胴体部分の背面を平らにして組み立ての作業性を確保するためである。

写真20 音道リターンフタの取り付け
写真20
音道リターンフタの取り付け
写真21 背面部の様子
写真21
背面部の様子

 リアパネルの組み立てを行う。(写真22、23)
ターミナルと接続ケーブルを固定する作業である。

写真22 リアパネルの組み立て
写真22
リアパネルの組み立て
写真23 リアパネルと接続ケーブル
写真23
リアパネルと接続ケーブル

 胴体部分の背面にリアパネルを取り付ける。(写真24、25)
このとき、接続ケーブルを上から2番目の音道に通しておく。ケーブルの長さは配線作業のための余裕を考えて60cmとしている。

写真24 リアパネルの取り付け
写真24
リアパネルの取り付け
写真25 組み上がった本体部分
写真25
組み上がった本体部分

 スピーカーユニットモジュールを取り付ける。(写真26、27)
このスピーカーユニットはフェライト製のマグネットがとても大きいので、バックキャビティの外壁を薄くする必要があった。この部分の隙間がないとスピーカーユニット背面の音圧がホーンのスロートに流れる際の気流抵抗となるのだ。写真26に見えるように外壁は1ピッチ8mmであるがサイズから見て強度は問題ないだろう。

写真26 スピーカーモジュールの取り付け
写真26
スピーカーモジュールの取り付け
写真27 組み上がった前面部分
写真27
組み上がった前面部分

 インシュレーターを底面の所定位置に貼り付けて組み立て完了である。
写真28~31に42号機の外観を示す。
 バーティカルツインのデュアルホーンを内蔵した特異の外形が特徴的である。本体の奥行き寸法が極めて大きなことが写真30で良くわかる。これは使用する上では不便ではあるが、前面寸法はとてもコンパクトなので威圧感はない。
 このアバンギャルドなデザイン性もLEGOスピーカーの楽しみの一つだ。

写真28 42号機外観
写真28
42号機外観
写真29 背面を見る
写真29
背面を見る
写真30 側面を見る
写真30
側面を見る
写真31 革新的デザイン
写真31
革新的デザイン

4. 試聴と評価

 組み上がった42号機・・・試聴開始。(写真32)
ところが・・・

写真32 試聴の様子
写真32
試聴の様子

低音がぜんぜん出ない!・・・ずっとコンパクトな41号機よりも弱いのだ。
42号機は失敗作なのか? この失敗の原因は何か?

4-1 考察
 まず、考えたのは音道を細長くしすぎたからではないか? ということである。これまでもLEGOブロックをケチって音道の太さが足りなくなり、バックロードホーンの製作で何度も失敗している。音道長を伸ばせば低音域が強化できると想定したのだが、音道の太さとのバランスが重要なのだろう。また、分岐した音道構造も問題かもしれない。音道内に気流抵抗の原因となる音道の大きな形状変化があると、スムーズな気流の流れが阻害され、内部の空気がバネ性を持ってしまう。ホーン動作では空気のバネ性は大敵で、低音域の放射効率が低下するのだ。
 ためしにリアパネルを外して分岐した下側のホーンBの入り口を一旦、ブロックの壁で塞いでホーンAのみの動作として見た。バランス的には41号機のサイズに近い。また、このとき、スロート内部でトグロを巻いていた、あまった接続ケーブルをホーンAの内部に押し込んだ。スロート内部のケーブルによる気流抵抗も問題となる。
 この結果は良好であった。ホーンロードもかかってきた。次にホーンBのみにしてみると、驚いたことに明らかに低音域が弱い。この太さで長さ130cmではバランスが悪いのだろうか?
 やはり130cmの音道にはそれに見合う断面積が必要なのか? 実際、成功した38号機は110cmの音道長だが、断面積は本機の1.5倍もある。このデュアルホーンでは効率が悪いほうに引っ張られるのか?
実験として胴体部分を7cm縮めたショートヴァージョンに改造して見ることにした。

4-2 ショートヴァージョンの評価
 図4に42号機ショートヴァージョンの構造図を図5に音道の変化グラフを示す。
音道長はホーンAが約55cm、ホーンBが約95cmに短縮され、ピーク周波数は310Hz、180Hzと計算された。
 結果は・・・驚くような低音ではないが、楽しめる音にはなった。やはりこのサイズでは欲張った低音再生は難しいのか? ショートサイズは使い易さの点では改良である。
 改造の作業時間はたったの10分であった。この柔軟性もLEGOスピーカーのベネフィットポイントなのである。(写真33、34)

図4 ショートヴァージョン構造図
図4
ショートヴァージョン構造図
図5 音道の変化グラフ2
図5
音道の変化グラフ2
写真33 ショートヴァージョン外観
写真33
ショートヴァージョン外観
写真34 ショートヴァージョン外観
写真34
ショートヴァージョン外観

4-3 さらなる改良
 実はショートヴァージョンの改造時に新たな問題点に気が付いた。
図2のオリジナル構造図を見ると音道の最もクリティカルな上下ホーンの分岐部でターミナルに接続したケーブルが音道を塞いでいるのだ。これは恥かしい初歩的ミスである。設計段階、製作の作業時にも気がつかなかった。
 ショートヴァージョン(図4)では分岐部のスペースを拡大してこの問題に対処したが、これによる改善を見込んで再び音道を伸ばして図6のように再改造してみた。
この42号機はロングボディの方がカッコ良いのだ。
 再改造した本機の音道長はホーンAが約67cm、ホーンBが118cmとなり、ピーク周波数は254Hz、144Hzと計算された。この音道の変化グラフを図7に示す。

図6 最終構造図
図6
最終構造図
図7 音道の変化グラフ3
図7
音道の変化グラフ3

 音は・・・意図した低音域の迫力が出てきた。インパクトのあるダイナミックな音楽が楽しめる作品になった。
 デュアルホーンの効果は確認が難しいが、確かにバーティカルツインの良好な音像定位が感じられる。特に前面サイズがコンパクトなので音場の広がりには有利だろう。
最終的な本機の仕様を以下に示す。

<42号機 基本仕様>(最終版)
・ 形式:バーティカルツインホーンスピーカーシステム
・ 方式:バックロードホーン方式
・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・ エンクロージャ方式:デュアルホーン方式
  ホーンA 1段フォールディングCW水平ホーンタイプ
  ホーンB 3段フォールディングCW水平ホーンタイプ
・ 使用ユニット:DIY AUDIO SA/F80AMG 8cmフルレンジマグネシウムコーン
・ 外形寸法:W96mm H224mm D388mm
・ ホーン音道長:約670mm + 1180mm
・ スロート断面積:10.2cm2
・ ホーン開口面積:61.4cm2(開口面積比 6倍)
・ バックキャビティ容積:約0.6リットル
・ ユニット最低共振周波数:89Hz
・ システムインピーダンス:8Ω

5. おわりに

 本機制作の後、38号機もSA/F80AMGに載せ変えて見た。さらに迫力のあるコンパクトバックロードホーンシステムとなった。42号機と比較して低音域のパワーは内容積の大きな38号機の方が優秀なようだ。
 やはり革新的発想の実現は容易ではない。

(2014.8.17)

写真35 SA/F80AMG バックロードホーン3部作 完成!
写真35
SA/F80AMG バックロードホーン3部作 完成!

第31報LEGOスピーカーの製作第33報

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