LEGO SPEAKER 第35報

≪第34報 番外編その5≫

LEGOスピーカーの製作 第35報

写真1 パッシブラジエーター超コンパクトモデル45号機
写真1
パッシブラジエーター超コンパクトモデル45号機

1. 88mmしばり!

 話題のエレキットTU-H82を私も入手した。88mmキューブのとても小さなアルミ筐体に真空管のラインアンプ(バッファアンプ)とデジタルパワーアンプ、そしてUSB接続のD/Aコンバーターを内蔵したハイブリッドアンプキットである。ヘッドホン出力もあり、これは便利な製品だ。(写真2)
 キットといっても基板をネジ止めするだけなので簡単に完成してしまう。デジタルパワーアンプなのでとても効率が良く、こんなに小さいのにガンガンスピーカーシステムを駆動する。何よりも面白いのはラインアンプの真空管を差し替えることで音質の変化を楽しむことができる。
 私もさっそく4本の真空管を手に入れて差し替えて見た。
 ・ Electro-Harmonix 12AU7A/ECC82EH
  ワイドレンジでバランスが良く付属品だけあって好印象。だが、個性的ではない。
 ・ GoldenDragon 12AU7
  さらにワイドレンジになる。オーディオ的には最適な感じ。
  ダイナミックで迫力も出る。
 ・ JJ ECC82 GOLD
  大変明るく、高音がクリア。最も大きく音が変わった。だが、すこし軽い感じ。
 ・ RAYTHEON 12AU7
  ウォームでやわらかく、最も真空管らしいサウンド。作りも大変良い。USA製で高価なだけある。私はこれが気に入った。

写真2 エレキットTU-H82
写真2
エレキットTU-H82

 この結果はあくまで主観であり、エージングも行っていないので評価は正しくないかもしれない。しかし、想像以上に音が変わった。もちろん、音が悪くなったわけではなく、どの真空管でも楽しめる。ニュアンスが変化するのだ。これは大変面白いキットである。
 今回、45号機の挑戦はこのハイブリッドアンプとセットで使用する88mmキューブサイズの超コンパクトスピーカーシステムをLEGOで造ろうというものだ。 ・・・しかし88mmしばりはきつい。

2. 設計しよう

 これまでも超コンパクトシステムには何度か挑戦している。50mmスピーカーユニットを搭載したバスレフ方式の15号機、この改良型、バイブレーターを内蔵した21号機、25mmフルレンジユニット搭載のnanoブロックスピーカーなど。ただ、これらのモデルは音が出ていて面白いといったもので、正直に言って音楽を楽しむモデルではなかった。
 88mmキューブでは体積で0.68リットル、内容積ではがんばっても300ccくらいしかとれない。スピーカーユニットのマグネット体積を考えると実質的には250ccといったところだろう。これではスピーカーエンクロージャの内容積としては少なすぎる。
 88mmキューブサイズをLEGOブロックで製作するには、LEGOブロックの1ピッチが8mmなので11ピッチを並べるとちょうど88mmとなる。奥行きは1段が9.6mmなので9段で86.4mmだ。当然、フレームの厚さは1ポッチの8mm幅に抑えたい。これで十分な強度を得るには3.2mm厚さのプレートブロックでハコを構成する必要がある。
 技術的にはバスレフ方式では内容積が圧倒的に少ない。これまでの製作経験からパッシブラジエーター方式が最適だろう。
 使用するスピーカーユニットは8cmフルレンジユニットの固定は88mm幅では不可能だ。
これまで使用した50mmフルレンジユニットでは低音域の再生能力が期待できない。 いろいろと探してみたところ、65mmフルレンジユニットのDAYTON AUDIO ND65-8を発見した。このスピーカーユニットはこんなに小さいのになんと最低共振周波数foが80Hzである。80Hzとは8cmユニットでもめずらしく10cmユニットなみのスペックである。
がぜんやる気が出てきた。
 小振動板ユニットで低音をひねり出すには振動板のストロークが必要となる。このスペックであるXmaxは3.5mmであり、十分だ。しかし、強大な背圧は低音不足とひずみの原因となる。これを小容積で解決する技術がパッシブラジエーター方式なのだ。
このためのスピーカーユニットを背面に装着するが、リアパネルにはターミナルも取り付けるので、この65mmユニットも固定できない。ケーブルを直接出す方法もあるが、本機は本格スピーカーシステムである。きちんとターミナルを使う。すると50mmフルレンジユニットを用いるしかない。ただ、このパッシブラジエーターユニットは低音増強の効果よりも背圧対策なので、それほどスペックは重要ではないだろう。同じDAYTON AUDIOの50mmフルレンジユニットCE52P-4を選択した。各スピーカーユニットの仕様を示す。

<65mmフルレンジユニット DAYTON AUDIO ND65-8>
 ・ インピーダンス:8Ω
 ・ 効率:78.3dB(/1W/1m)
 ・ 耐入力:15W(RMS)
 ・ 最低共振周波数:80.8Hz
 ・ 周波数レンジ:80Hz~20kHz
 ・ Qts:0.62
 ・ Xmax:3.5mm
 ・ マグネット:ネオジウム

<50㎜フルレンジユニット DAYTON AUDIO CE52P-4>
 ・ インピーダンス:4Ω
 ・ 効率:83dB(/1W/1m)
 ・ 耐入力:3W(RMS)
 ・ 最低共振周波数:226Hz
 ・ 周波数レンジ:220Hz~20kHz
 ・ Qts:1.02
 ・ Xmax:1.0mm
 ・ マグネット:ネオジウム

 この仕様を見るとND65-8は能率が78.3dBと極端に低い。50mmユニットのCE52P-4でも83dBあるのに、これはつまり振動板を重くして能率を犠牲にして最低共振周波数を下げているのだろう。高効率のデジタルパワーアンプでも大音量再生は難しいかもしれないが、もともと、利用シーンは寝室でのBGMシステムを想定しているので問題はない。
 45号機の構造図を図1に示す。キューブスピーカーシステムといえば、デザインのイメージはAURATONE 5Cである。有名モニタースピーカーのあちらは12.5cmユニットなのでサイズは2倍違うが、このベビー版のイメージで設計した。だから43号機から継承するバッフルパネルのレトロなエッジデザインが重要である。ただでさえ内容積が少ないのだが、これはデザインへのこだわりだ。
 小口径ユニットの固定は今回の最大の難所である。固定は小さいほど余裕がないので難しくなる。なにしろLEGOブロックは基本的に8mmピッチでしか処理できないのだ。 バッフルパネルには7ピッチ56mmのマド穴を開けて、この角にいつものようにワッシャで引っ掛けてM4ボルトで固定するが、図1でわかるように4隅にわずかに隙間が空いてしまう。ここにはウレタンシールを貼って対処しよう。なにごとも臨機応変な対応が必要である。
 リアパネルにはパッシブラジエーターユニットとターミナルを取り付けるが、スピーカーユニットは中央には固定できないので右上にオフセットする。これまで、スピーカーユニットの背面固定には逆タイルブロックを用いて密閉度を確保していたが、今回はサイズ的に6ピッチ48mmのマド穴で、ちょうど良くLEGOブロック裏面のエッジがスピーカーユニットのフランジにかかるので逆タイルブロックは使用しない。このリアスピーカーユニットの固定もマド穴の角にワッシャで固定するが、M3ボルトを使用する。図1からこの2つのスピーカーユニット間のマグネット間隔は約10mmとれることがわかる。
 45号機はどんな音がするだろうか? ・・・私はこういう小さいのが大好きだったりする。

図1 45号機構造図
図1
45号機構造図

製作しよう

 45号機の全部品を写真3に示す。超コンパクトモデルなのでパーツも少ない。
それでは個別に部品を解説しよう。
 写真4はバッフルパネルである。11ピッチ88mmの枠構造でマド穴は7ピッチ56mm、厚さはプレートブロック3枚の枠に2枚のエッジと表面のタイルブロックで19.2mmである。このサイズでエッジを付けたので十分な強度がある。マド穴の4隅にはスピーカーユニットフランジとの隙間を埋める2mm厚さのウレタンシール片が貼ってある。右上のエンブレムはゴールドレタリング。

写真3 全構成部品
写真3
全構成部品
写真4 バッフルパネル
写真4
バッフルパネル

 リアパネルを写真5に示す。ターミナル用の穴2箇所とパッシブラジエーターユニット固定用の6ピッチ48mmのマド穴がある。マド穴の4隅には同様にウレタンシール片を貼る。厚さはプレートブロック3枚で9.6mm。
 これまでの製作ではフレームの壁厚はコンパクトモデルであっても2ピッチの16mm幅で製作してきた。1ピッチ8mm幅ではLEGOブロックの接合が1ポッチ列しかなくフニャフニャになってしまうからだが、今回はなんとか1ピッチにしたい。そこで、3.2mm厚さの1列のプレートブロック棒で製作してみた。これでパーツ密度が3倍となり、十分な強度が得られた。これならばエンクロージャフレームとして申し分ない。贅沢なLEGOブロックの使い方ではあるが、重さもあり音響的にも頼もしい構造である。45号機は小さいが本格モデルなのだ(写真6)。

写真5 リアパネル
写真5
リアパネル
写真6 フレーム
写真6
フレーム

 メインスピーカーユニットのDAYTON AUDIO ND65-8を写真7に示す。アルミ逆ドームコーンの65mmフルレンジユニットである。ゴムエッジもストロークがとれそうでfo80Hzも納得、
ネオジウムのマグネットも大きな本格スピーカーユニット。プレスフレームだが、小さいので強度は大きい。ただ、接続端子が窮屈に付いているので、今回はギボシ端子を使わずに直接ケーブルをハンダ付けしよう。この端子板がバッフルパネルのマド穴に当たると異音を生じるおそれがあるのでフェルトシールを貼ってある。
 パッシブラジエーター用のDAYTON AUDIO CE52P-4を写真8に示す。良く似たデザインだが、こちらはペーパーコーンの50mmフルレンジユニットである。さすがにfoは220Hzと普通の性能。同様に端子板にフェルトシールを貼った。

写真7 メインスピーカーユニット
写真7
メインスピーカーユニット
写真8 パッシブラジエーターユニット
写真8
パッシブラジエーターユニット

 その他の部品を写真9に示す。内部配線ケーブル、ターミナル、ゴム足、ダンピング抵抗器、ネジ類である。

写真9 その他の部品
写真9
その他の部品

 製作はまずはスピーカーユニットの下準備から始める(写真10、11)。 メインスピーカーユニットにハンダ付け配線し、パッシブラジエーターユニットに100Ωの抵抗器を付ける。抵抗器の接続によりパッシブラジエーターユニットの動きがダンプされ、締まった低音の再現になる。また、この動き制限はスピーカーユニットを保護する意味でも必要である。
 このダンピング抵抗に関しては番外編その4に詳しいので参照いただきたい。

写真10 スピーカーユニット準備
写真10
スピーカーユニット準備
写真11 ハンダ付け処理
写真11
ハンダ付け処理

 リアパネルにターミナルを取り付ける(写真12、13)。
超コンパクトサイズなのでターミナルが大きく見える。
 次にパッシブラジエーターユニットをリアパネルに固定する(写真14、15)。 ボルト&ナットはM3だがワッシャは大きさが必要なのでM4を用いている。もちろんダブルナットで強固に固定する。角の引っ掛け固定にはすこしコツが必要であり、固定位置がマド穴の中央になり、フランジとの隙間ができないように注意して作業する。

写真12 リアパネルとターミナル
写真12
リアパネルとターミナル
写真13 ターミナル固定
写真13
ターミナル固定
写真14 リアユニット取り付け
写真14
リアユニット取り付け
写真15 リアパネル組み立て完了
写真15
リアパネル組み立て完了

 バッフルパネルにメインスピーカーユニットを取り付ける(写真16、17)。
ここで、工夫が必要になった。M4の大型ワッシャだけではM4ボルトとマド穴角との隙間が大きくて良好な固定ができないのだ。そこで、写真にあるLEGOブロックの特殊パーツである丸い穴あきプレートブロックを用意した。この部品をワッシャとして利用することでダブルナットでの強固な固定をすることができた。
 さらに、スピーカーユニットの端子板がマド穴の縁に当たって0.5mmほど固定位置が偏ることがわかった。大きな問題ではないが、正確に中央に固定したかったのでニッパでLEGOブロックを若干加工して対処している。
 組み上がったバッフルパネルをフレームに取り付ける(写真18、19)。 とても小さなサイズなのでこのマス構造でも十分な強度が得られている。内部の背圧エネルギーはパッシブラジエーターで消費されるので吸音材は使用しない。

写真16 メインユニット取り付け
写真16
メインユニット取り付け
写真17 バッフルパネル組み立て完了
写真17
バッフルパネル組み立て完了
写真18 バッフルパネルとフレーム
写真18
バッフルパネルとフレーム
写真19 バッフルパネル固定の様子
写真19
バッフルパネル固定の様子

 リアパネルに配線した後フタをして(写真20)、ゴム足を貼り付けて組み立て完了である(写真21)。
LEGOブロックによるハコ構造は精度がとても高いので、4本足でもがたつきがなく気持ちが良い。

写真20 リアパネル取り付け
写真20
リアパネル取り付け
写真21 ゴム足貼り付け
写真21
ゴム足貼り付け

 組み上がった45号機の外観を写真22、23に示す。88mmの黒いキューブデザインが精悍でなかなかカッコ良い。スピーカーユニット2個と高密度フレームで意外にずっしりと重い。これは音にも期待ができる。

写真22 45号機外観
写真22
45号機外観
写真23 45号機背面の様子
写真23
45号機背面の様子

4.聴いてみよう

 ・・・試聴で聴き入ってしまった。高音の定位や音像感に優れることはこのサイズから当然として、低音域の量感がかなりあるのだ。foの80Hzは伊達ではない。背面のパッシブラジエーターユニットも十分に機能している。よく見ると大きく振動していることがわかる。高音域の音質も金属振動板のキャラクターもなく、柔らかな音質である。
 だが、予想どおり音量が小さい。ハイブリッドデジタルアンプTU-H82は6.5W+6.5Wで十分なパワーがあるが、さすがに駆動が厳しく、大音量ではデジタルパワーアンプがハードクリップしてしまう。音量が上げられないのが残念なところだ。まあ、適正音量で楽しもう。
 大出力パワーアンプにつなぎ変えてみると、さらにパフォーマンスが向上した。パワーアンプの駆動力と制動力の効果が感じられる。しかし、この場合でも大音量ではスピーカーユニットがばたつき出した。適正音量が必要である。だが、このパフォーマンスならば寝室のBGM用ではもったいない。十分にリスニングに使用できる。
 TU-H82をお持ちでない方は45号機の小ささがわからないと思うので、自社比で申し訳ないが43号機と比較した写真24を示す。
 このモデルはオーディオの音がするLEGOスピーカー史上最小の本格スピーカーシステムなのである。

写真24 43号機との比較
写真24
43号機との比較

5.おまけ

 しかし、この65mmフルレンジユニットDAYTON AUDIO ND65-8はすごい。このような優秀なスピーカーユニットを見つけるのも楽しみの一つである。
 45号機の優れたパフォーマンスは使用したND65-8に因るところが大きいと考えられる。これを確認するために同じサイズでシンプルなバスレフ方式のエンクロージャも造ってみることにした。さらに、フレームの強度を確保するために奢った高密度のプレートブロック構造もやめて安価に製作してみる。これで影響が少なければ大幅なコストダウンが図れるのだ。
 図2にバスレフ方式の構造図を示す。バスレフダクトはリアパネルに沿わせた上方開口のスリットダクトで共振周波数は127Hzに設定した。この内容積ではダクトサイズがとても細くなるので放射効率は期待できないだろう。息抜きが目的である。
 写真25に完成品を示す。フレームには44号機の製作であまったカラフルなLEGOブロックを使用している。外観はポップで楽しいイメージになった。上面にバスレフポートが見える。
 45号機のバリエーションモデルの音はどうか?
当初は大きな背圧のために歪み感が大きかった。そこで内部に活性炭吸音材を挿入したところ、音が一変した。これは聴ける音である。やはりND65-8というユニットはマイクロバスレフエンクロージャでも高いパフォーマンスを示した。
 だが、じっくり聴き比べて見るとやはりパッシブラジエーターの効果は大きい。明らかにオリジナル45号機の方が低音に迫力があり、背圧の低減による歪み改善も認められる。
やはりかけたコストだけの価値はあるのだ。

図2 バスレフ方式構造図
図2
バスレフ方式構造図
写真25 45号機シリーズ
写真25
45号機シリーズ

6.おわりに

 ほとんどお遊びで始めた45号機の製作であったが、そのパフォーマンスには驚いた。
こんなに小さいのに本格的な音なのだ。
 これだからスピーカー製作はやめられない。LEGOスピーカーにはこういったセグメントがぴったりだと思う。

(2015.1.12)

写真26 45号機バリエーションモデル
写真26
45号機バリエーションモデル

第34報LEGOスピーカーの製作番外編その5

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