LEGO SPEAKER 第14報

≪第13報 第15報≫

LEGOスピーカーの製作 第14報

写真1 22号機 エレガントな逆ホーン搭載モデル
写真1
22号機 エレガントな逆ホーン搭載モデル

1. スピーカーユニット本来の音を聴きたい

 これまでさまざまなタイプのスピーカーエンクロージャをLEGOで製作してきた。
バックロードホーンやバスレフ方式などテクニックで低音増強するシステムは、その効率を高めて低音感を増やすほど低音のクセが大きくなる。そもそも、駆動源となるスピーカーユニットは10cmフルレンジではfoが約70Hzである。70Hzといえば十分な低音域だ。こんなテクニックに頼らなくてもスピーカーの直接放射音だけでも低音再生は可能なはずではないのか?・・・実際は扱いやすいコンパクトなエンクロージャにスピーカーユニットを納めてしまうと低音域が影響を受けてレスポンスが低下する。つまりは、この低下分を補うためにさまざまなテクニックがあるのだ。したがって、ほとんどのスピーカーシステムは特に低音域においてはスピーカーユニット単体の音ではなくエンクロージャの影響を受けた音を聴いている。(現実にはリスニングルームの影響も甚大であるが)
 なんとか、スピーカーユニット本来の低音を聴けないものだろうか?きっとピュアで早くてきれいな低音なんだろうな。教科書的には無限大バッフルの登場である。無限大では非現実的なので、大きな平面バッフルとなる。スピーカーユニット背面から放射された低音をこの大きなバッフルで遮って、さらにスピーカーユニットに負荷をかけないという考え方である。が、これが難しい。大きな板は素材が何であれ極めて容易に振動してしまう。スピーカーユニット単体の音のつもりが、バッフル板の振動音を聴いているようなものである。徹底補強すれば可能性はあるが、どんなものだろうか?昔、大地にスピーカーシステムを埋めて特性測定していたメーカーがあったっけ。
 そこで密閉型である。臭い物にはフタをということで、背面の音圧を閉じ込めて出てこなくすればスピーカーユニット単体のピュアな低音が聴けるはず・・・。と、これがまた困難である。閉じ込めた空気はバネの性質を持つ。ものすごく大きな内容積の箱では話は別であろうが、現実的なサイズではこの空気バネがスピーカーユニットに働いて肝心のfoを上昇させてしまう。(最低共振周波数foはスピーカーユニットの振動板実効質量と環境を含めた振動系のバネ定数から決まる)
 さらに、閉じ込められた背圧の力はとんでもなく大きい。容易にエンクロージャ全体を呼吸運動のように体積の増減方向に振動させて低音の筐体放射が起こる。私にはこのため、密閉型のスピーカーシステムには低音域において独特のゴムマリ音が聴こえてならない。
 理想は振動しない強固なエンクロージャを持った密閉型で、内部音圧を十分に処理してスピーカーユニットに負荷をかけない方式である。こんなものあるのか?・・・
あるのだ。逆ホーン方式である。

2.逆ホーンの理論

 逆ホーンとはバックロードホーンのホーンの向きを逆にして背面の低音域を効率的に処理してしまおうという方式なのだが、調べてみてもあまり情報がない。製品の採用例としては大変高価な海外製超大型システムが思いだせるくらいである。
 ホーンの動作はここでも何度か記しているが、小面積大振幅と大面積小振幅の音響変換器である。これ自身に増幅効果や減衰効果はない。とはいえ現実には気柱共鳴を伴うのでホーン長に応じた共鳴管動作や位相遅延、ホーン内部の振動の影響、ホーン損失などの複雑な効果の総合動作となる。バックロードホーンではスピーカーユニット背面の音圧を細長いスロートに導いて、この大振幅をなめらかに広がるホーンで大面積小振幅に変換してから外部に放射する。こうすると、あたかも大型のスピーカーユニットのように効率良く低音域で空気を駆動できるのである。このとき、重要なのはホーンの形状と長さである。利用する周波数に応じた十分な長さ(内容積)がないと内部の空気が思うように押し出せない。ホーンロードがかからないのである。
 逆ホーンはどういった動作なのか?スピーカーユニット背面の音圧をホーンで絞って振動板よりも小面積大振幅に変換する。こうすると少ない体積の吸音材で効率良く音圧を熱エネルギーに変換して吸収できるというのである。本当か?あまり採用例がないのはうまく行かないからなのではないか?・・・
 これこそLEGOスピーカーの研究テーマにふさわしい。どんとこいです。

3.設計と仕様

 逆ホーン方式実験機、22号機の構造を図1のように検討した。
使用するスピーカーユニットは単体で低音が出ていないと意味がないので、今回は10cmフルレンジとしよう。以前、14号機で採用して評価の高かった竹繊維混入コーンを使用したTang Bandの新型10cmフルレンジ W4-1320SJ を採用する。中高音域にも竹繊維混入コーンのピュアな音が期待できる。マグネットもネオジウムの強力タイプでポイントが高い。
 エンクロージャサイズはスパイラルド・バスレフのリファレンスモデル16号機を参考に、より奥行きを小型にしてコンパクトを目指す。
 図1の内部構造で逆ホーンを構成する。3段フォールデッドのホーン部分の音道長は80cmくらいか?ちょっと短い感じだが、ホーンの放射音を直接利用する方式ではないのでまあ良いか。逆ホーンで絞られた音道は後面に装着したリアチェンバーに入る。ここには吸音材を入れて音圧を処理する。吸音材はもちろんいつもの活性炭である。低音域の吸音効率には実績がある。リアチェンバーのサイズは活性炭1個分である。
スピーカーユニットの背部にも活性炭を1個挿入した。ホーンの動作原理からすると、ここに吸音材によるコンプライアンス(弾性)を持たせることは間違いなのだが、LEGOは表面がツルツルなのでスピーカーユニット背部の空間で中高域の定在波が生じやすい。この寸法では数kHzといういやな周波数でピークを生じる恐れがあり、やかましくなるので経験的にここに吸音材を入れたいのだ。
 諸先輩の逆ホーン作品を見ると音圧を処理するホーン末端にポートを設けている例が多い。本来、ここは密閉して外に音圧を放射することはしたくないのだが、現実は活性炭1個では最低音(70Hz付近、超低音とは記さない)の吸音は無理であろう。息抜き程度のポートは必要かもしれない。ここは実験としてリアポートの有り無しで聴き比べたい。

<22号機 基本仕様>
・方式:10cmフルレンジ逆ホーン
・組立方法:ホリゾンタルタイプ(水平組立)
・エンクロージャ方式:3段フォールデッド逆ホーン内蔵
  (リアチェンバーのポート開放可能)
・使用ユニット:TangBand W4-1320SJ(竹繊維混入コーン)
・外形寸法:W128mm H224mm D163mm
・逆ホーン音道長:約800mm
・吸音材:活性炭2個(リアチェンバー1個)

図1 22号機構造図
図1
22号機構造図

4.製作過程

 写真2に全構成部品を示す。比較的シンプルな構成部品である。今回もオーディオテクニカのインシュレータを用意した。見栄え向上にも効果が高い。
 写真3にスピーカーユニット部を示す。このサイズの10cmフルレンジはフランジの取付け穴位置が共通なので製作しやすい。今回のユニットはマグネットが巨大ではないので干渉せずに済んだ。巨大マグネットは音質的にはマルなのだが製作する上では骨が折れる。コーンの竹繊維が良い味を出している。
 写真4はメインフレーム。黄色をあしらってみた。10段10cmの奥行きで内容積を確保する。前後のパネルを合わせてメインボックスの奥行きは12cmとなるが手ごろなサイズである。

写真2 22号機全構成部品
写真2
22号機全構成部品
写真3 スピーカーユニット部
写真3
スピーカーユニット部

 このブルーが今回のキーパーツ、逆ホーン構造である(写真5)。2枚厚さのプレートパーツで複雑なホーン構造をメインボックス内に構成する。前後パネルの結合とメインボックスの振動抑制、強度向上の役目も持つ。
 写真6はリアパネルである。ターミナルとリアチェンバーにつながる穴がある。プレート3枚重ねで強固な板構造。ターミナルの取付け位置は逆ホーン構造と干渉しない位置としてある。
 フロントパネル(写真7)。化粧タイルで仕上げた。22号機のエンブレムが光る。左右のタブはメンテナンス用であるが、今回も助けられた。

写真4 メインフレーム
写真4
メインフレーム
写真5 逆ホーン構造
写真5
逆ホーン構造
写真6 リアパネル
写真6
リアパネル
写真7 フロントパネル
写真7
フロントパネル

 写真8はリアチェンバー部品である。まずはリアポートの無い密閉構造とした。この部分のサイズは内寸で112mm×64mm×30mm。

 組立はリアチェンバーから行う(写真9)。単なるマス構造である。
このマスに活性炭を入れ、リアパネルに組付ける(写真10)。
 できたリア構造に逆ホーン構造を取付ける(写真11)。

写真8 リアチェンバー部品
写真8
リアチェンバー部品
写真9 リアチェンバーの組立
写真9
リアチェンバーの組立
写真10 リアパネル組立
写真10
リアパネル組立
写真11 逆ホーン構造の取付け
写真11
逆ホーン構造の取付け

 図1を参照いただきたいが、逆ホーン構造はスピーカーユニット背部の空間が上方に折れて左右に2分割されて狭められ、次に下方に折れてさらに狭められた後、2つが合成されて上方に狭められてリアパネルの穴から出て行くという構造である(写真12)。逆ホーン構造の中心には補強柱が立ち、前後パネルの構造を強化する。
 この構造体をメインフレームに挿入する(写真13)。

写真12 逆ホーン構造の様子
写真12
逆ホーン構造の様子
写真13 メインフレームに挿入
写真13
メインフレームに挿入

 スピーカーユニット部を取付ける(写真14)。吸音材も1個挿入。
このスピーカーユニットはフランジが円形でなく変形しているのでデザイン的にどうかな?と思っていたが良い感じである。
 フロントパネルを装着して(写真15)、インシュレータを貼付けて完成(写真16)。
 背面にリアチェンバーを背負ってはいるが、スマートなエンクロージャデザインになった。逆ホーン方式が見えない外観である(写真17)。

写真14 スピーカーユニット部装着
写真14
スピーカーユニット部装着
写真15 フロントパネルの取付け
写真15
フロントパネルの取付け
写真16 22号機の完成
写真16
22号機の完成
写真17 22号機外観
写真17
22号機外観

5.試聴と調整

 完成した逆ホーン実験機22号機(写真18、19)は黄色いカラーリングがとてもおしゃれで海外製小型システムを彷彿とさせるエレガントな佇まいである。(←自画自賛)
早速聴いてみよう。 ・・・ん? なんかビリつく? これはおかしい。調べてみたら補強柱とスピーカーユニットの端子板が接触していた。なんという初歩的ミス。反省反省。フロントパネルにメンテタブ付けといて良かったなあ。
 気を取り直して再度試聴・・・。
 スピーカーシステムというものは料理と違い出来たては音が悪い。まずスピーカーユニットのエージングが行われていない。スピーカーユニットは出来たてはパーツの接着状態に偏りがあったり、内部に生産時の応力が残っており、しばらく稼動しないと歪みの多い汚い音なのである。同様にエンクロージャも木製の一般的なものでは出来たては接着歪みやネジ止めの応力などで歪っぽいが、だんだんエージングが進むと音がこなれてくる。LEGOスピーカーにおいても同じ事を経験している。造りたては内部応力のかたまりであるLEGOブロックのエンクロージャはかん高い歪み感が少なからず感じられるが、一晩置くと落ち着いてくる。今回は先のトラブルもあり、一晩置いてからの落ち着いた試聴となった。
 ・・・これは美音である。とても柔らかい音がする。中高音域に竹繊維混入コーンの良さが活かされている。直接放射音のみの特長である音像定位の良さや広がり感も特筆できる。しかし、残念ながら低音が弱い。良く聴くと最低音域に密閉型独特のゴムマリ音も感じられる。やはり逆ホーンでも完全密閉では背圧の影響は避けられないのか。
ではリアポートを開放しよう。ポートといっても32mm×10mmの穴で息抜き用である。

写真18 試聴中の22号機
写真18
試聴中の22号機
写真19 試聴中の22号機
写真19
試聴中の22号機

 低音が出てきた。こちらの方が明らかにバランスが良い。
リアポートの開放はどういう動作になるのだろう。フォールデッドがきついし吸音材のダンプ効果もあるので共鳴管効果は無いだろう。リアポートに手を当ててみると低音域のアタック時に音圧を感じるが、バスレフポートほどの積極的なものではない。可能性としてはラビリンス(音響迷路)としての動作は考えられる。この場合、音道長は約80cmなので、おおよそ200Hzの音が正相となって増強するはずであるが、バックロードホーンの開口の様な面積も無いのでこの音圧放射の影響は少ないと考えられる。
それよりもスピーカーユニットに加わる負荷の低減の方がはるかに効果が大きい。先ほどの密閉感が無くなり(密閉していないのであたりまえであるが)ゴムマリ音も解消した。
 このモデルは大成功である。実験機と言うより十分に実用機である。また楽しめる作品が完成した。

6.まとめ

 半信半疑で製作した逆ホーン方式の22号機であるが高い評価のできる、優れた方式であると理解できた。チューニングの要素が少ないのでこれが最適設計であるかはわからないが満足の行く結果である。リアポートを開放したので密閉型には分類できないがスピーカーユニットの背圧をあたかも自動車のマフラーのように活性炭で消音した方式のように思える。
 同様なサイズのスパイラルド・バスレフモデル16号機と比較すると16号機はバスレスのクセを低減することを目的としたスピーカーシステムであり、今回の22号機は密閉型のクセを低減したスピーカーシステムと言える。ともに自然な低音再生を目指したコンパクトスピーカーシステムなのである。

(2010.7.11)

写真20 16号機と22号機
写真20
16号機と22号機

第13報LEGOスピーカーの製作第15報

ページトップへ