ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
朗々たるテナー奏者、デクスター・ゴードン(2009.1.20)

 バド・パウエルをモデルにしたといわれる映画「ラウンド・ミッドナイト」で主役を演じたテナー奏者がデクスター・ゴードンである。映画のワンシーンの中で、パリの若者が彼にオータム・イン・ニューヨークを演奏してくれとリクエストすると、彼は歌詞を忘れてしまったからできないといって断る。若者が歌いだすとそれを聞いて演奏を始める。そういった場面であったと思うが、デクスター・ゴードンは実際の演奏でも曲の歌詞を覚えて演奏したという。
 彼のテナーの特徴は、朗々と太い音で、良く歌うテナーである。これ以上遅れたら音楽がおかしくなるという、ギリギリの後乗りで、ぴんと張りつめたと言うより、むしろゆったりと力まずにスケールの大きい演奏をする。彼のバラードプレイを聞いていると、こちらも自然とリラックスしてしまう。ぼくが好きになる彼のアルバムの中には、必ず素晴らしいバラード曲が入ったものを選んでしまう。そんな彼のアルバムとその中に入っているこの1曲を紹介します。紹介は順不同です。





 ★Getting' Around 1965 Blue Note
 このアルバムでは1曲目に入っている「黒いオルフェ」で決まりである。この曲はボサノバ調のバラードであるが、まさに朗々と歌っている。'61年から'65年にかけてBNに10枚の素晴らしいリーダーアルバムを録音しているが、これはぼくの好きな1枚である。
 ★DADDY PLAYS THE HORN 1955 Bethlehem
 これは「ニューヨークの秋」で決まり。ぼくのオータム・イン・ニューヨークはデクスターのバラードプレイでイメージが出来上がった。
 ★GO 1962 Blue Note
 このアルバムはBNに録音した中でもっとも有名なアルバムであろう。もちろん決め曲は「CHEESE CAKE」である。ここでもデクスターらしいノンビブラートの太い音のテナーで朗々と歌っている。
 ★DEXTER BLOWS HOT and COOL 1955 Dootone
 ここでは有名な「Cry Me a River」を真っ先に聞く必要がある。そして次は「Tenderly」で閉める。これしかない。
 ★OUR MAN IN PARIS 1963 Blue Note
 さすがのバラード好きでも、これだけ聞いていると目先を変えたくなる。このアルバムはバド・パウエルとの共演盤で、デクスターが張り切ってアップテンポで演奏している。少しイメチェンしたデクスターというとこか。「A Night In Tunisia」あたりはどうでしょうか。
 ★THE MONTMARTRE COLLECTION 1967 Black Lion
 コペンハーゲンのカフェ・モンマルトルでのライブである。ワンホーンで自由闊達にテナーを吹いているデクスターがここにはいる。ビリー・ホリディの持ち歌「FOR ALL WE KNOW」を淡々と美しく歌い上げている。
 ★Homecoming :Live At The Village Vanguard 1976 Columbia
 デクスターがヨーロッパからアメリカに久々に戻って、ヴィレッジバンガードでのライブ録音である。テンションの高い演奏が聞かれるが「Fried Bananas」あたりは如何でしょうか。
 ★The Other Side Of Round Midnight 1985 Blue Note
 映画のサウンドトラック盤とは別に製作されたものであるが、ここでの「As Time Goes By」は素晴らしい。この曲をだれることなく演奏できるテナーマンはそうはいない。
 ★BALLADS 1961-78 Blue Note
 最後はオムニバス盤ではあるが、ブルーノートが編集したバラード集である。どれも素晴らしいが、ぼくの好きなのは「DON'T EXPLAIN(オリジナルはA SWINGIN' AFFAIR)」この深い情感には圧倒される。
 (タイトルに下線を引いたもののジャケットを載せている)

 以上、ぼくの独断と偏見で選んだデクスター・ゴードンの愛聴盤です。デクスターのテナーを聞くにはいつもよりヴォリュームを1目盛りか2目盛り上げて、音に浸りながら聴くと心地よい。したがってバラードを聴いても、深夜というわけにはいかない。


中古レコードの買い物「ファブリ世界名曲集」(2009.1.21)

 久しぶりにジャンクレコードを見に出かけた。あちこち眺めていたら、25cmのLPが10枚ばかり無造作に束ねてあった。平凡社が出版した全集物の1部のようで、見るからに古そうで、手を出すか・出さまいか一瞬迷ったが、値段を見て買う事にした。(1枚50円)それからLPを解説した本が2冊見つかった。以前紹介したRibertaシリーズのLP全集の中のJUPITERとAPOLLO編について解説したものである。これも安かった(1冊10円)ので買った。それからエルネスト・アンセルメが指揮するスイス・ロマンド管弦楽団のLPを3枚(1枚280円)とベートーベンのヴァイオリン協奏曲(シゲテイ)、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲(ミルシタイン)ワルター指揮ニューヨーク・フィル(100円)を買った。以上が今日の買い物である。
 家に帰ってから中身の分からない平凡社のLPを取り出して調べてみると、これは平凡社が1970年から73年にかけて、イタリアのファブリ社と提携して刊行した全60巻のレコード全集の中の1巻から10巻までと分かった。その収録されている内容は以下の通りである。


1 ヴィバルディⅠ
合奏協奏曲集「四季」/ズゼンネ・ラウテンバッハー(vn)イエルク・フェルバー指揮 ヴュルテンベルク室内管弦楽団

2 ヴィバルディⅡ
ヴァイオリンとオルガンのための協奏曲 ニ短調/ヨーゼフ・ドヴォルジャーチェク(vn)ラディスラフ・ヴァフルカ(or)
合奏協奏曲 イ長調、ソプラニーノ・リコーダーのための協奏曲 ハ長調、リコーダーのための協奏曲 ヘ長調/ロスラフ・クレメント(s.rec)ラディスラフ・ヴァフルカ指揮 プラハ合奏団

3 タルティーニ
ヴァイオリン・ソナタ ヘ長調 作品1-12/フランコ・グルリ(vn)アントニオ・ポカテルラ(vc)ブルーノ・カニーノ(cem)
ヴァイオリン・ソナタ ト短調「悪魔のトリル」/フランコ・グルリ(vn)エンリカ・カヴァルロ(p)

4 バッハⅠ
ブランデンブルク協奏曲第5番、第2番/ヴィルヘルム・ティッツェ(fr) アロイス・モースマン(vn) パウル・シュレルフ(cem)アルベルト・ツィーグラー(tp) オットー・シンマー(fr) リヒャルト・ザイツ(ob) アロイス・モースマン(vn)ヘルマン・ローデン指揮 プロ・ムジカ管弦楽団

5 バッハⅡ
パッサカリア ハ短調パッサカリア ハ短調/ヴァルター・クラフト(org)
平均率クラヴィア曲集第1集より2、4、6番、平均率クラヴィア曲集第2集より1、6番/マルティン・ガリング(cem)

6 バッハⅢ
ヴァイオリン協奏曲 第2番 BWV1042、ヴァイオリン協奏曲 第1番 BWV1041/ズザンネ・ラウテンバッハー(vn)ギュンター・ケール指揮 マインツ室内管弦楽団

7 ヘンデルⅠ
組曲「水上の音楽」(ハーティ編曲)全6曲/リヒャルト・シュルツェ指揮 テレマン協会管弦楽団
ハープ協奏曲 作品4-6、他/ルチアーノ・ロサーダ指揮 ミラノ・アンジェリクム室内管弦楽団

8 ヘンデルⅡ
組曲「王宮の花火の音楽」(序曲、ブーレ、平和-シチリアーナ風に幅広く、喜び、メヌエットⅠ、メヌエットⅡ)、他/オトマール・F・マーガ指揮 ニュルンベルク交響楽団

9 クープラン
パッサカーユ ロ短調、フランス風の謝肉祭または仮面舞踏会、プレリュード第3番 ト短調、プレリュード第7番 変ロ長調、ちょうちょう、恋のうぐいす、蚊、ティク・トック・ショック/エジーダ・ジョルダーニ・サルトーリ(hs)

10 ハイドンⅠ
弦楽四重奏曲「ひばり」ニ長調 作品64-5/ハンガリー弦楽四重奏団
トランペット協奏曲 変ホ長調/ヴァルター・グライスレ(tp)、ロルフ・ラインハルト指揮 シュトゥットガルト・プロ・ムジカ管弦楽団


 作曲家ではタルティーニやクープランを取り上げていたり、演奏ではヴュルテンベルク室内管弦楽団やズザンネ・ラウテンバッハー(vn)を取り上げていたりと、今ではなかなか聞けないような貴重な全集である。走り聞きした中では、ラウテンバッハーのヴァイオリンの音色に共感した。グリューミオのような美音ではないが、深い音色である。これがバッハの曲調と良くあっている。ヴィバルディの四季の演奏もイムジチのような明るさは無いが、いかにもドイツ的な少し重く切れ味の良い演奏である。全集物というと似たような内容になることが多いが、今回は特徴のある、他ではなかなか入手できないような内容である。
 予期せずしてこういうものを聞くことが出来るのは、やったぁ!と言う感じになる。


熱きテナー奏者・ジョージ・アダムス(2009.1.22)

 ぼくはジョージ・アダムスというテナー奏者を一時期誤解していた。というのも、最初に彼を知ったのが、東芝が出した「ナイチンゲール」「アメリカ」というアルバムを通してであった。スイング・ジャーナルがゴールデンディスクに指定していた。これらのアルバムでアダムスはスタンダード曲をメロディアスに、ソウルフルに歌っているが、それ以上ではなかった。今から思うと、東芝がアダムスに、聞きやすいイージーリスニングジャズをやらせていたのである。ぼくはこのCDを通勤時の車の中で良く聞いていたが、そのうちに聞くこともなくなった。
 しばらくして手に入れたのが、コペンハーゲンのクラブ・モンマルトルでのライブ演奏である。これを聞いてイメージが一新した。このときのメンバーは、ジョージ・アダムスのテナー、ドン・ピューレンのピアノ、カメロン・ブラウンのベース、ダニー・リッチモンドのドラムという不動のカルテットにギターのジョン・スコフィールドが参加したものである。この演奏はとにかく熱い。ジョン・スコフィールドが加わったので8ビートの演奏もあるが、アダムスのテナーがまるでドルフィーのバスクラを髣髴とさせるように咆哮する。ドン・ピューレンのピアノも熱い。こういう演奏を聞くと、彼等からエネルギーを受け取ることが出来る。
 ジョージ・アダムスは1940年にジョージア州のコビントンに生まれ、1968年にニューヨークにやって来てギル・エヴァンスのオーケストラに加わり、その後チャールス・ミングス、マッコイ・タイナーのグループなどでの活動を経て、1980年から自己のグループを結成した。特にピアニストのドン・ピューレンとの双頭コンボでの活動が素晴らしかった。1992年にニューヨークで52歳の時に亡くなった。
 ということで、今ではジョージ・アダムスとドン・ピューレンの双頭カルテットの演奏を、ぼくは好んで聞いている。ぼくが良く聞いているアルバムについて紹介します。

★LIVE At MONTMARTRE/ George Adams/Don Pullen Quartet&John Scofield/1985

★CITY GATES/ George Adams/Don Pullen Quartet/1983

★DECISIONS/ George Adams/Don Pullen Quartet/1984

★LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD/ George Adams/Don Pullen Quartet/1983

★BREAKTHROUGH/ Don Pullen/George Adams Quartet/1986

★NIGHTINGALE/ George Adams/1988

皆さんもジョージ・アダムスの熱いテナーを楽しんでください。最後の1枚「NIGHTINGALE」は、ほっと一息つくときに彼のブルースフィーリング溢れるソウルフルなバラードプレイでリラックスしてください。


スモカメ(仮称)さんのレコード(2009.1.25)

 何かのきっかけで、他人が所有していたLPをすべて譲り受けると、それぞれの人の歴史が詰まっているのが見えてくることがある。例えば、クラシックが夫婦共に好きで、誕生日とか結婚記念日などに必ずLPをプレゼントしていたとか。独身の頃にはダンスが好きで、ダンス音楽ばかりを集めていたとか。
 今回も縁あってスモカメさんからLPを譲り受けた。その中の大部分が以下に紹介する蒸気機関車のサウンドを録音したLPである。



 ★汽笛よ永遠に‐国鉄動態保存機の記録/東芝TW‐7005~06
 ★汽笛 汽笛 汽笛‐レールウェイ・ダイナミックス/東芝TW‐8007
 ★汽笛よ永遠に‐SLさよなら運転特集/東芝TW-8014
 ★蒸気機関車D51-D51のすべて/東芝TW-8016
 東芝は、当時の国鉄と協力してテーマを決めてはSLを録音していたようだ。
 ★ボタ山にひびく汽笛‐北九州のSL/キングSKD(H)48
 ★南九州SLの旅/キングSKD(H)74
 ★北海道SLの旅(中)/キングSKD(H)147
 ★中部SLの旅/キングSKD(H)150
 キングではステレオ・ドキュメンタリー・シリーズとしてLSの旅シリーズを出して各地で録音している。
 ★日本の鉄道「下」/ビクターSJV-1111~2
 ★大いなる旅路‐栄光の蒸気機関車C622/ポリドールMR3206
 ★蒸気機関車のリズム‐アーゴ・トランザコード録音/ロンドンSLC902
 これ以外にもキングのドキュメンタリー・シリーズ‐日本の鉄道より「奥中山の3重連」「C62重連急行ニセコ/ていね」「常磐線の蒸気機関車」「花輪線のハチロク」「小海線のC56」「美唄の4110と美流渡の8100」というEP盤もある。
 一体どうしてスモカメさんはこんなに沢山の蒸気機関車を録音したLPを持っているのか。それは彼の趣味を聞いて納得した。スモカメさんはカメラと録音機を担いで、南は九州から北は北海道までを旅して、おびただしい数のSLの撮影とサウンドの生録を趣味にしていたのである。近年は、生録は止めてカメラに集中し、新幹線などの鉄道や山の風景、花などを撮影していたのだ。
 確かにこういう趣味があって、SLのLPを聞けば色々と思いを巡らせて楽しいのではと想像できる。譲り受けたぼくはLPを聞いて何に思いを巡らす事が出来るのだろうか。高校時代に友人と名古屋から中央線のSLに乗り信州の旅した折に、トンネルに入ったときに窓を閉め忘れ、抜け出た時にお互いの顔が真っ黒だったことを思い出すことが出来た!




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