ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
「DJANGO」(2009.2.6)

 2月になってから、我が家をリフォームというほど大げさではないが、少しメンテナンスを始めた。始めてみると結構ごそごそとやることがあり忙しい。そこで今月は雑記帳を大幅にペースダウンすることにしました。
 ピアノとバイブのユニゾンでテーマが流れたあと、ミルト・ジャクソンのブルースフィーリングいっぱい溢れるビブラフォンのアドリブが始まる。微妙にテンポを変化させながら。聞いていると妙に心が切なくなってくる。ブリッジのあと今度はジョン・ルイスのピアノがシングルトーンでとても美しいメロディを弾きはじめる。音が上に、下に変化しながら。しばらくすると、ブロックコードに変わり音楽を盛り上げる。そしてまた音がゆっくりと沈んでゆく。テーマに戻り、エンディングを迎える。

 これはモダン・ジャズ・カルテットが「DJANGO」というアルバムで演奏したジャンゴという曲のことである。この曲はピアニストのジョン・ルイスが、1930年代にパリで活躍したジプシーのジャズ・ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトの死を悼んで作曲したものである。MJQはこれ以降何回もこの曲を演奏したアルバムを出しているが、ぼくはこのアルバムの演奏が一番好きである。この演奏を超えるようなジャンゴは聞いたことが無い。特にジョン・ルイスのピアノが唯一無二なのである。
 この曲は鎮魂曲と言うことになっているが、死者に対する鎮魂のみでなく、メランコリーな時のぼくの心にぴったりなのである。ぴったりすぎて哀しくなってしまう時もあるが、たいていは肯定的に聞いている。真夜中に、静かにこういう曲を聴くとジャズは哀愁であると思う。
モダン・ジャズ・カルテットというグループは、リーダのジョン・ルイスの個性を反映して、バッハのフーガの技法などを取り入れた、室内楽的な緻密な演奏を特徴にしているが、一方ではミルト・ジャクソンのブルース感覚溢れるアドリブもあり、両者の絶妙のバランス感覚が素晴らしいと思う。
「Concorde」というアルバムに入っている、朝日のようにさわやかに、とか、「黄昏のベニス」というアルバムに入っている、コルテージ、などがぼくの好きな曲である。コルテージは特に録音もよく、ドラマーのコニー・ケイが叩くハイハット・シンバルの音がとても澄んだ音で録音されている。貴重な録音としては、MJQと当時人気を二分していたデーブ・ブルーベック・カルテットのアルト奏者ポール・デスモンドと共演したニューヨークのタウンホールでのクリスマス・コンサート盤も好きである。


ケニー・バロンというピアニスト(2009.2.8)



 スタン・ゲッツの晩年のアルバム「ソウル・アイズ」('89年録音)に収録されているスローボート・トウ・チャイナやハッシャバイという曲で、僕の好きなピアニスト、デューク・ジョーダンのように跳ねるようにリズミカルで、ホットにスイングするピアノを聞いた。これがケニー・バロンである。スタン・ゲッツはバロンのピアノを好んでいたようで、丁度アート・ペッパーが晩年にジョージ・ケイブルスというピアニストと多く録音したように、晩年には彼と多くのレコーディングをしている。
 そんなケニー・バロンのリーダー・アルバムで、僕が最初に入手したのが、この「ランド・スケープ」(85年録音)というタイトルのCDである。曲も演奏もメロディアスで、リリカルで、大変気に入っている。しかし、正直言ってゲッツとの演奏のようなリリカルな中にもホットにスイングするといったイメージではなく、クールに聞こえるのである。その後彼のCDを数枚聴きこんだが、最初の印象と微妙に違う。音がメカニカルに聞えるのである。
 そのバロンがニューヨークのレザボアというジャズ専門のレーベルに、91年に録音したのが「ザ・モーメント」というこのアルバムである。録音エンジニアはバンゲルダーである。低音が大変良く採られており、僕の気に入った一枚である。
 これがきっかけで、彼のアルバムをさらに聞きこんだが、どうもバロンというピアニストはトリオで聞くよりも、ゲッツのような良く歌う人と競演した方が僕には合っている。
 思うにケニー・バロンという人は、とても器用なのではないか。そして知的ではないか。自分のアルバムではそれが前に出てくるが、ゲッツのようなミュージシャンと競演すると、ずっとストレートに音楽を表現してしまうのではないか。僕はそれが好きだ。
 極めつけは、スタン・ゲッツの最後の録音となった「ピープル・タイム」である。このアルバムはゲッツとバロンのデュオ演奏となっているが、こんなすごい演奏はなかなか聞けるものではない。2枚セットであるが、特に2枚目の「first song」は、切々と響きわたり、心を揺るがせてとまらない。


しっとりとしてダンディなレスター・ヤングのテナー(2009.2.9)

 だいぶ前の話になるが、スーパーエディターを自称していた、ジャズ好きの安原顕さんが亡くなった葬儀のときに、かけられた音楽がレスター・ヤングの「プレス・アンド・テディ」というアルバムの中よりルイーズという曲であったそうである。コールマン・ホーキンスがテナーの一方の雄であるならばレスター・ヤングはもう一方の雄であり、ホーキンスのテナーがビブラートのかかった直線的な太いテナーであるならば、ヤングはビブラートの少ないクールで独特のリズム感を持ったリリカルなプレーヤーである。
 ぼくの好きなレスター・ヤングのアルバムを紹介します。
 ★Lester Young 1943-1947
 ★Blue Lester 1944-1949
 ★The President Plays with Oscar Peterson 1952

 ★Press and Sweets 1955
 ★Press and Teddy 1956
 ★The Jazz Giants '56

★Lester Young in Washington D.C. 1956 Vol.1-5

 レスター・ヤングについて書かれたスイング・ジャーナル社の「新・世界ジャズ人名辞典」より一部を抜書きすると「ホーキンスが目立ったビブラート、男性的な音色を持っていたのに対し、レスターはすべて反対であった。しかし、最も重要なのはフレージングの違いであった。ホークの理論的で、雄弁なフレージングに対して、レスターのそれは切れるところで切れるといったものではない。停滞したり途切れたり、当然切るべきはずのところが切れずに続くといったフレージングである。・・・白人プレーヤーは、レスターの音色とフレージングの双方から影響を受けたのだが、黒人プレーヤーの場合は「音色はホーキンス、フレージングはレスター」といういき方をとった。・・・だが音色とフレージングを共に取り入れたプレーヤーが少なくとも一人いる。初期のマイルス・デイヴィスその人だ。・・・」
 ダンディなレスター・ヤングのテナーを楽しみましょう。




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