ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
NHKスーパーピアノレッスン・アンコール(2010.8.1)

 NHKスーパーピアノレッスン・アンコール「シフと挑むベートーベンの協奏曲」という番組が、7月の26日から31日の6日間、深夜1時頃から連続放映された。2008年12月から2009年3月にかけて放映された番組の再放送であり、アンコールとつけられている。
 プロデビューしている5人の若手ピアニストに、ベートーベンのピアノ協奏曲第1番から5番までをシフがレッスンするのである。日本からは小菅優さんが参加して、5番を担当し、シフからレッスンを受けた。
 ぼくはベートーベンのピアノ協奏曲はどれも大好きなので、毎日寝不足になりながら夢中で見ていたが、残念ながらビデオ録音をしていなかったので、細部まで覚えていない。しかし逆に言うとぼくが印象的だと思ったことは頭に残っているので、それを忘れないうちに整理しておく。
 ピアノの練習曲を使ってピアノ奏法を練習するのと、作曲家によって作曲された音楽を演奏する事の違いは、後者の場合は音符より作曲家の意図を汲み取って、何かを音によって表現するという明確な意志が必要だということである。シフは若い頃にベートーベンのピアノ協奏曲の演奏をしたが、作曲家の意図を上手く汲み取れず、それ以来演奏をしてこなかったが、年を経て、それなりの人生の経験をつみ、勉強もし、最近になって、ベートーベンのコンチェルトを上手く表現できるようになったのだという。
 表現には3大要素があり、一つはドラマチックな物語の要素、二つ目はファンタジーすなわち叙情的な要素、三つ目はユーモアの要素、この三つを意識して音楽を解釈する必要がある、とレッスンの中で語っている。
 そして、個々の曲のレッスンの中では、例えば5番の第1楽章の出だしのカデンツァでは、この曲は皇帝という名がついているが、まさに皇帝にふさわしく、早すぎず威風堂々と表現しなさい、但し髭を生やすほどふんぞり返る必要はない。とか、第4番の中で、この曲はルドルフ大公に奉げられているが、彼はハプスブルグ家の1員であると同時に軍人であった。このリズムは行進曲風のリズムを意識するように、またある箇所では、ここでは歌うのではなく、語りかけるように表現しなさい。またある箇所では、ここはモーツァルトではなくシューベルトのようにシンプルに、とか、ここを表現するにはバッハを研究すると良い、またあるパートでは、ここはオーボエが歌っているように、ここはチェロがリズムを刻んでいるようになどといって、まるで1台のピアノがオーケストラを表現しているように説明している。
 こういったシフの指導を受けると、ピアノの演奏技術は確かではあるが、ともするとメカニカルに聞こえる若手の演奏が、見違えるように表現力が豊かになるのである。
 演奏家が音楽を表現するためには、楽譜に書かれていない作曲家の意図をどの位汲み取って、楽譜を解釈するかということであろうが、その為には、時代的背景とか、作曲家そのひとの生き様とか、他の作曲家との違いとか、色々な事を勉強し、さらに自分の生きてきた経験を踏まえて解釈するということであろうか。もちろんもう一方では、その意図どおりに音を出せる、技術力が必要であるが。
 しばらくはベートーベンのピアノ協奏曲を聞く日が続きそうである。


Live At Smalls (2010.8.10)

 ニューヨークのグリニッチ・ヴィレッジにあるジャズクラブといえば、ヴィレッジ・ヴァンガードが有名であるが、もう一つ熱いジャズを演奏しているのが、ジャズクラブ「スモールズ」である。この店では固定カメラをセットして、ジャズのライブをインターネットで中継しており、ホームページのLive Videoにアクセスすれば日本でもライブを見る事が出来る。但しニューヨーク時間の午後7時30分から午前3時頃までの間である。
 また同じように固定マイクでライブを録音し、ライブシリーズとしてCD化している。ちなみにアマゾンでLive At Smallsと入力してCDを検索すると20枚前後登録されている。店の方針として、ライブ録音する企画はすべてミュージシャンの任せているようで、多くはライブならではのホットなジャズを聞くことが出来る。
 ぼくは例によってe-musicにアクセスし、Live At Smallsでアルバムを検索したら16枚登録されていた。その演奏を試聴して次の7枚を入手した。
 

・Live at Small's by Mark Elf
Recorded live at Smalls, New York on October 20 & 21, 1995
このギターは大変ホットである。タル・ファーロウを連想させるようなシンプルトーンでありながら、ハードにスイングしている。

・THE STEVE DAVIS QUINTET FEAT. LARRY WILLIS Live at Smalls
Recorded on January 7th & 8th, 2009 live at SMALLS JAZZ CLUB, NYC.
このトロンボーンもハードバッパーである。ぼくはこういう演奏が好きである。

・THE PETER BERNSTEIN QUINTET FEAT. JIMMY COBB Live at Smalls
Recorded on December 17th & 18th, 2008 live at SMALLS JAZZ CLUB, NYC.
これまたギターアルバムであるが、大変良くスイングする演奏であり、心地よい。

・THE KEVIN HAYS TRIO Live at Smalls
Recorded on August 13th & 14th, 2008 live at SMALLS JAZZ CLUB, NYC.
ダグ・ワイス(b)、ビル・スチュアート(d)とアルバム制作を始めて10年以上が経過しているが、彼の演奏は常にフレッシュである。


・THE RYAN KISOR QUINTET Live at Smalls
Recorded on May 16th & 17th, 2008 live at SMALLS JAZZ CLUB, NYC.
これまたハードでホットな演奏である。ライアン・カイザーは凄い。
 

・THE DAVE KIKOSKI TRIO Live at Smalls
Recorded on November 18th & 19th, 2008 live at SMALLS JAZZ CLUB, NYC.
キコスキーのテンションの高いピアノ演奏は、最後まで続き、心地よい疲れを感じる。
 

・THE IAN HENDRICKSON-SMITH GROUP Live at Smalls
Recorded on February 8th & 9th, 2008 live at SMALLS JAZZ CLUB, NYC.
このテナーは、懐かしいファンキーな香りがぷんぷんする演奏である。しかも高尚でなく庶民的な臭いがする。

 ジャズクラブ「スモールズ」での、若手とベテランが織り成すジャズの演奏は、ライブということもあって、本当に熱い。現代にこういう演奏が聞けるのは嬉しいと思う。日本時間の朝8時30分より午後の4時ごろまで、毎日スモールズのライブをネットで見る事が出来ますよ。


Monster Solo (2010.8.13)

 アメリカで出版された、Music Hound Jazz The Essential Album Guideという本があります。このガイドブックも、ミュージシャン別にアルバムを紹介しているが、他と異なるところは、①What to buy、②Best of the rest、③What to buy next、④Worth searching for、⑤What to avoidという風にアルバムを層別して紹介していることだろう。
 そして、これとは別にMonster Soloというのをコラム的に取り上げて紹介している。演奏者と、Monster Soloの入った曲目と、アルバム名、レーベル名、録音年のみが紹介されていて、何が、どうMonster Solo何かの解説は一切ないが、とても興味があるので紹介する。


Clifford Brown
 I'll remember April

 Clifford Brown and Max Roach at Basin Street
 EmArcy 1956

Kenny Burrell
 It Don't Mean a Thing

 Ellington Is Forever Vol.1
 Fantasy 1975

Eddie Lockjaw Davis
 The Stolen Moment

 Trane Whistle
 Prestige 1961

Eric Dolphy
 The Prophet

 The Complete Prestige Recordings
 Prestige 1961

Stan Getz
 The Peacocks

 But Beautiful
 Milestone 1974

Wardell Gray
 Twisted

 Wardell Gray Memorial Vol.1
 Prestige 1949

Coleman Hawkins
 Body and Soul

 A Retrospective
 RCA 1939

Scott RaFaro
 Solar

 Sunday at the Village Vanguard
 Riverside 1961

 まだまだ、Monster Soloの紹介は続いていますが、この中の曲を聞いてなるほどこれはすごいソロだなと思ったのはありますか。
 以前にも紹介したと思いますが、例えばスタン・ゲッツのピーコック。ここではビル・エヴァンスとのデュオで演奏していますが。両者のピンと張りつめた緊張感の中でのソロは他で聴けるものではありません。スコット・ラファロの演奏もドラムがリズムをキープする中で、ピアノとベースによる対位法のような演奏は、まさにベース奏法の革命のようです。
 この続きはまた紹介します。




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