ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
キーノート・ジャズ・シリーズ(2012.3.2)

 キイノート・レーベルというのは、1940年代の中期にバタビア出身のジャズ愛好家ハリー・リム氏が創設したマイナーレーベルで、レスター・ヤング、コールマン・ホーキンス、ロイ・エルドリッジ、チャーリー・シェヴァイヤーといったスイング派の巨人たちに十分な吹込みの機会を提供する一方、レニー・トリスターノ、チュビー・ジャクソン、ロッド・ロドニーと言った当時の若手モダニストにも門戸を開いて貴重な録音を多数残したが、LP時代に入ってからはついぞ満足な形で再発売されることなく・・・・(以上、このレコードのライナーノートの冒頭を書かれた粟村政昭氏の文より引用)
 このシリーズを企画したのは日本のスイング・ジャーナル編集長の児山紀芳さんと評論家の粟村政昭さんである。
 このキーノート・ジャズ・シリーズというのは全部で15枚発売され、ぼくの持っているのは以下のジャケットで示す5枚であるが、デザインはMunehiro Uchinichiさんという方が担当され、統一感のある素敵なジャケットで、本当に全部集めたくなるのである。そのあとコンプリート・キーノート・コレクションという21枚セットのアルバムが、児山紀芳さんの企画で発売されている。
・プレス・オン・キイノート/レスター・ヤング
・コールマン・ホーキンス・1944 Vol.2/コールマン・ホーキンス
・トランペット・テイル/チャーリー・シェイヴァース他
・幻のサクソフォーン/ベン・ウェブスター他
・レニー・トリスターノ・トリオ/レニー・トリスターノ

 中でも僕が好きなのが、レスター・ヤングとコールマン・ホーキンスのアルバムである。1940年代の若きジャズメンの溌剌としたプレイが、みずみずしく、それもかなりのクォリティの音で聞くことができる。


栄養成長と生殖成長(2012.3.4)

 すべての動植物は、それぞれの生活史の中で、個体維持と種族維持、遺伝性と変異性という2組の基本的な性質を備えている。そして、この2組の性質を環境の変化に対応して巧みに発揮させながら生き続けている。そこには、動植物たちの環境に対する様々な適応戦略がみられる。それを知ることは、栽培・飼育のしくみについての理解を深め、適切な管理を可能にする。動植物は、まず自らの体をつくる個体維持のための成長を行い、やがて子孫を残すための種族維持のための成長を開始する。植物では茎葉や根の成長に続いて、花芽を形成して開花・結実するが、前者を栄養成長、後者を生殖成長と呼んでいる。(以上、「農業の基礎」農文協、という農業高校の教科書より引用)
 以上のように、動物が個体の成熟に合わせて、栄養成長と生殖成長が同時に進行するため、あえてこういう言葉を用いて区別しないのに対して、植物は、まず栄養成長が進行し、個体の置かれた環境を認識して、条件が整った時に初めて生殖成長を開始する。逆に言えば、環境が整わなければいつまでも花芽を形成しないということが起こりうる。
 野菜の花芽形成の主要要因は何かということについて、以下の表に示す。
表は「野菜の発育と栽培」藤田、西尾、奥田著 農文協 より引用

3.野菜の花芽形成の主要要因

 こういった性質をふまえると、例えばホウレンソウであれば秋に播種して日長が短日の時は比較的育てやすいが、春に播種して日長が長日に向かう時に播種すると抽苔(俗にいうトウダチ)が早く食用に適さなくなる。あえて行う時は早取りするか、日長に鈍感な品種を選択する必要がある。というように、植え付けタイミングを誤ると途端に栽培が難しくなる。
 また、特にトマト、スイカ、サツマイモのような温度や日長に鈍感な野菜は、栄養に対して反応するので、初期の肥料の与え方に注意を要する。なかでも窒素肥料が多い栄養過多だと、茎や蔓ばかり大きくなり(俗にいう蔓ボケ)花芽やいもが大きくならない。トマトでは肥料と共に第1花房の花が咲いたときにトマトトーンなどのホルモン処理をして果実を着実につけるようにしたり、スイカでは人の手で人工授粉したりして、生殖成長を安定的に促すことが、野菜の収穫に大切となる。
 もちろん花芽形成は主要要因のみで説明できるほど単純ではなく、トマトやナス、ピーマンと言ったナス科の植物であっても日長や温度の影響もうける。
 生物は本来同じルーツから発生したと言っても、発達の過程でいろいろな生存戦略を獲得してきており、植物を育てるということは動物とは違った性質もあり、それをよく理解する事が大切である。


トーンアームSME3009ⅡIMPROVEDの取り付け(2012.3.10)

 ぼくはCDよりもLPをよく聞くので、LPプレーヤーを数台持っている。DDではDENON DP-80にSAEC WE-407の組み合わせを、ベルトドライブではサンバレーのAD-2をメインに使用しているが、以前からターンテーブルにベルトドライブのTHORENS TD126 MKⅡを持っていたので、これにSMEのMODEL3009アームを取り付けることにしました。

 写真は取り付けを終了して、音だしをしているところです。ひとまずは安定した音が出ていて、これでしばらく様子を見ようと思っています。
 取り付けの寸法関係は、取り付け用のゲージを使用すれば思ったより簡単に加工できます。SME独特のアームベースの長円の穴あけも、39mm離した点を中心にホルソーで直径30mmの穴を二つあけて、外周をジグソーで切ってつなげれば難なく加工できます。
 しかし、そのあとの調整はかなりデリケートです。ヘッドシェルはSMEの8gのヘッドシェルを使用することが前提となっているが、最近のヘッドシェルでそのように軽いものはほとんどありません。たいていは10g以上の重さがあります。ぼくはよく似たP社のヘッドシェルを用いました。カートリッジも8g以下が前提です。したがって合わせて16g以下で使用するのが望ましいのです。カートリッジの方はSUREのV-15 TypeⅣを使用するので問題はなく、合わせて16g以下の条件を満足せることができました。
 この条件を満足させれば、バランスの調整も、バイアスの調整もきちんととることができ、針圧も1.0が基準ですが1.2gで調整しました。あとはカートリッジのオーバーハングの調整、アームの高さの調整、カートリッジの左右の傾きの調整などを行い、音だしをしています。
 取り付けた全体の印象ですが、日本製のアームは比較的がっちりと取り付けるのに対して、このアームは、アームベースにしてもヘッドシェルにしても締め付けすぎるなと、取扱い説明書に書いてあり、とてもデリケートな印象です。
 しかし驚いたのは、SUREの1.2gの針圧では従来のアームではトレースの難しかった、そりの大きいLPでトレースしたところ、大変よく追従し、安定した音で再生します。さすが軽針圧用に設計されたSMEのアームです。
 音の印象はまだ十分聞きこんでいませんが、繊細な音までよくひろい、しかも音が痩せず豊かに響きます。トーレンスのターンテーブルもなかなか優秀なので、これとの相乗効果かもしれません。
 これだけのことで3日間くらい楽しみました。知らないことを新しく経験できるのは、いくつになっても本当にわくわくするものですね。
 「追記」
 今日、縁あってマシュマロ・レコードの上不三男社長とお話しする機会がありました。偶然にも同じ年齢で、大阪のオーバーシーズにトミー・フラナガンのお話をされに行かれる途中で、この地の「グッド・ベイト」に立ち寄られたとのこと。ぼくもオーバーシーズの寺井珠重さんとはメールを交換させていただいたことがあるので、ご縁に不思議な気がしました。色々とジャズの楽しいお話を聞かせていただいたので、機会があれば触れてみたいと思います。


マシュマロ・レコード社長・上不三男さんのこと(2012.3.14)

 先日、ジャズ喫茶「グッド・ベイト」で上不さんとお会いしたことを日記に書きました。上不さんは、大阪のジャズ・クラブOver Seasが毎月の第2土曜日に開催している恒例のイベント「トミー・フラナガンの足跡を辿る」の3月の開催で、マシュマロ・レコードが発売している、J.J.ジョンソン5でのスエーデン公演の模様を収録したアルバム「J.J. JOHNSON In Sweden 1957 」がテーマに取り上げられる関係もあって、大阪を訪れる途中でこの地に寄られたという事です。皆さんもよくご存じのトミー・フラナガンの傑作「Over Seas」はこの時のメンバーで録音されたものです。
 大阪のジャズ・クラブOver Seasの寺井尚之さんはトミー・フラナガンの唯一のお弟子さんで、トミー・フラナガンの誕生と亡くなった月である3月と11月には毎年トリビュート・コンサートを開催されています。詳しくは、奥さんの珠重さんが書かれているブログをご覧ください。興味を持たれた皆さんは一度Over Seasをぜひ訪れてみてください。ぼくも機会を作って訪れてみたいと思っています。
 マシュマロ・レコードの上不さんは、最近のあるジャズの月刊誌に、原田和典さんと共にジャズ・ピアニスト、デューク・ジョーダンのことについて書いておられます。そのなかで好きなピアニストとしてバド・パウエル、テディ・ウィルソン、トミー・フラナガン・・・等の名前を挙げておられますが、最も好きなピアニストとしてデューク・ジョーダンの名前を挙げておられます。
 お会いした時に、35年間で85枚もアルバムを制作してきたとお話しされていました。ぼくもマシュマロ・レコードが制作するアルバムには注目していて、時々購入しています。ここで製作されるレコードは、日本ではなかなか入手することが困難な歴史的名盤を発掘したり、一方では、必ずしもなかなかレコードの制作の機会に恵まれないジャズメンに光を当てて、自らプロデュースや録音をして応援されているからです。ぼくの好きなデューク・ジョーダンについても6枚のアルバムを制作されており、本人からも、最も信頼する人間の一人が上不さんと言われる関係を築かれ、彼が亡くなった後もお墓を訪れ、好きだった桜の苗木を植える費用を負担なさったりしています。
 お会いした時も、デューク・ジョーダンとバド・パウエルにまつわるエピソードを直接デューク・ジョーダンから聞いた話とか、サー・チャールス・トンプソンの最近の演奏とか、自ら手掛けておられる録音の苦労話とか、ベーシストの楽器にまつわる話とか、グッド・ベイトのマスターとのエリック・ドルフィ談義とか、大変興味あるお話が次から次へと飛び出し、自ら体験なさったお話を楽しく聞かせていただきました。また、あるレコード・コンサートでチャーリー・パーカーについて解説されることになり、毎日5時間づつ数日にわたって、改めて準備なされたりして、ジャズに対する真摯な情熱はとても印象的でした。上不さんのジャズに対する興味深いお話は、マシュマロ・レコードの上不さんのエッセイ(Column)をぜひご覧ください。
 良い機会なので、ぼくの持っているマシュマロ・レコードのCDの中より、好きなものを数枚紹介します。

1)What's New / Sir Charles Thompson
 いつだったか、正確な年代を思い出せないがNHKのFM放送でジャズを今よりももっと熱心に取り上げていた頃に、モダンジャズ特集という番組があり、サー・チャールス・トンプソンが演奏とインタビューを受けていた。それがぼくが彼の演奏に興味を持った最初であった。そしてヴァンガードのアルバムやRobbins' Nestなどのアルバムを聞きだしたが、ぼくが最も好きなのが、このアルバムである。特に3曲目のBei Mir Bist Du Schon(素敵な貴方)という演奏は、何回聞いても飽きない。この人はスイング系のピアニストであると思うが、大変モダンな感覚も持っている。何回聞いてもハッピーである。

2)Magical Live / Herbie Steward = Sir Charles Thompson
 アルバム、What's Newのライナーノーツを書かれた岡村融さんが、最後に「アッそうだ上不さん、リトル・ジョンでのハービー・ステュアードとのセッション絶対にCD化してくださいよ。楽しみに待っています」と言っておられたのが、実現化したのがこのアルバムである。これも3曲目のI Surrender Dearが素晴らしい。とくにハービーの切々と吹くテナーも心にしみるが、トンプソンのアドリブはそれを上回ってため息が出るほどである。

3)Herbie's Here / Herbie Steward
 ウッディ・ハーマンのセカンド・ハード時代の4ブラザーズの一人がハービー・ステュアードである。ぼくはスタン・ゲッツもズート・シムズも大好きであるが、このアルバムでのハービーの演奏を聞くと、全曲にわたって、しみじみとした歌心は大変素晴らしい。また、8曲目のHerbie's Hereでのジーン・ディノヴィのピアノ・プレイはとてもリリカルで、たいへん良いピアニストである。

4)Live In Paris / Duke Jordan
 デューク・ジョーダンについては、以前「バルネ」というアルバムを紹介した時にいろいろと述べたが、このパリでのライブ演奏、Everything Happens To Me、All Of Me、Jorduなどを聞くと、かれのいぶし銀のようなピアノが聴ける。

5)Charade / Jan Lundgaard
 ヤン・ラングレンについては、SittelのSwedish Standardsが出た時から聞いている。今ぼくがこの雑記帳を書いているのは、夜もだいぶ更けているが、こういう時に彼の演奏するNature Boy、Hush-A-Bye、Lullaby Of The Leavesなどのスタンダード曲を聞いていると、疲れも取れてしまう。

 マシュマロ・レコードの録音は、音が自然でとても聞きやすいが、自ら録音も手掛ける上不さんが「録音は機材も技術も大切だが、最後はハートですよ。演奏者の表現するピアニシモからフォルテまでをいかに素直に録音できるかですよ」と言っておられたのが思い出されます。




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