ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
今月に入手した主なLPレコード(2013.1.15)

 音楽を聴くときに、最近のアルバムはCDを入手するが、LPが存在するものはLPで入手することに決めている。LPの場合は価格もピンからキリまでいろいろであるが、キリで割り切れば手も出しやすく、音楽を聞く幅も広がるというメリットもある。購入した動機は色々であるが、この2週間でジャズとクラシックのLPを合わせて40枚くらい入手した。まずジャズのLPで印象的だったものは、
・Art Pepper meets The Rhythm Section
 このアルバムは演奏も音も良く、一時期は耳タコのように聞いた。またオーディオチェックにも使用した。しかし今回入手したものはアメリカのAnalogue Productionsという会社が制作した45回転、2枚組LPで米国で50ドル、日本ではオーディオショップで1万円で売りに出された、オリジナル盤を超える高音質を売りにしたアルバムである。このシリーズのLPはブルーノートの音源で50枚、ファンタジーの音源で100枚製作されている。
 で、音はどうかというと、コンテンポラリーの名手ロイ・デュナンの録音であり、オリジナル盤で聞くと素晴らしいが、このLPもびっくりするほどエッジが立ってリアルで、特に抜けの良さと音像の実在感が素晴らしく、オリジナル盤をしのぐではないかと思われる。オリジナル盤では高価で手が出ない人でも、高音質を望むなら、米国から購入すれば50ドル+αで手に入る。
・BACK TO BACK / Duke Ellington and Johnny Hadges PLAY THE BLUES
 エリントンとホッジスが背中合わせに椅子に腰かけているジャケットが印象的なアルバムである。エリントンのスモールコンボでエリントン、ホッジス、それからハリー・エディソンのブルース演奏がたっぷり楽しめる。これもAnalogue Productionsの制作した高音質・重量盤である。ただし45回転盤ほどの迫力はない。
・Jazz at The Golden Circle / Marshmallow Export
 これは2008年にマシュマロレコードが制作したLPである。北欧スエーデンの本格的ジャズクラブ「ゴールデンサークル」で録音された音源より、デクスター・ゴードン、ケニー・ドーハム、ビル・エヴァンス、ベン・ウェブスター、エイエ・テリーンの出演した演奏が1曲ずつ取り上げられた大変貴重なライブ録音である。
・The Prophetic Herbie Nichols Vol.1 & Vol.2 / Blue Note
 セロニアス・モンク、アートテイタム、デューク・エリントンなどから影響を受け、セシル・テイラーなどに影響を与えた、孤高の天才ピアニスト、ハービー・ニコルスの数少ないブルーノート録音盤である。「ジャズ・ピアノ決定盤」音楽之友社、を書いた佐藤秀樹さんの文章を紹介すると、「ジャズ界には人並み以上の優れた才能を持ち合わせながら、何ら注目を浴びることなく不遇のままに終わったミュージシャンが何人かいるが、53年4月、白血病のために44歳の生涯を閉じたハービー・ニコルスも、そうした代表的な人物であった。もし生前に彼の才能が認められ、正当な評価を受けていたならば、おそらくはかなりの位置についたと思えるが、実際は最後まで世間に理解されることは無かった。・・・・」と記載している。
・Jimmy Jones Trio / SWING & Vogue
 BMGジャパンよりこの復刻盤が出るまではとんでもない高値のついた、幻の名盤と呼ばれていたアルバムである。レッド・ガーランドとはまた違ったタイプのブロックコードの名手の演奏が堪能できる1枚である。
・EIGHT BY EIGHT / DON FAGERQUIST OCTET / MODE RECORDS
 これはコレクターの間では人気の高いモード・レコードだ。しかし残念ながらオリジナル盤ではないが、Vapが発売した180gの重量盤であり、なかなかの音である。マーティ・ペイチの洗練されたアレンジとドン・ファーガキストのスタイリシュなトランペットが楽しめる。
・My One And Only Love / Franco D'Andrea / RED
 イタリアのジャズピアニスト、フランコ・ダンドレアのトリオによる演奏。ダンドレアは多くの欧州のジャズグループのサイドマン(フランコ・アンブロゼッティ、ジョルジオ・アゾリーニ、ガトー・バルビエリ、エラルド・ボロンテなど)でおなじみであるが、ここでは彼のオーソドックスで明快な演奏から、モード的、ややフリーキーな演奏まで、彼の趣味の良いピアノを満喫できる。
 と、まあこんな調子で手に入れ15枚のジャズLPについて主なところを書いたが、これ以上は退屈するといけないので止めとする。25枚のクラシックについては、またあらためてとする。


THE JAZZ LEGEND / Sir Charles Thompson (2013.1.16)

 ジャズの愛好家であればマシュマロレコードをご存知の方は多いと思うが、ここの上不三男社長は本当にジャズがお好きな方である。世界規模でジャズのネットワークを持っており、貴重な歴史的未発表音源を発掘してはアルバムを制作し、また実力が過小評価されているジャズマンにスポットを当てて、作品を制作する場を提供されて支援されている。しかもジャケットの写真を撮影したり、録音を自ら担当したり、解説を書いたりと、オールマイティに活躍され、しかも作品の制作にとどまらず、ミュージシャン個人に対しても色々な面で支援をされ、ジャズ界への貢献は大である。
 昨年縁あって上不社長とお会いして、ジャズについて色々とお話をお伺いする機会があり、年齢的にも同世代であり、よく聞くジャズについても共通のところがあり、時々気にかけて情報提供して頂いたりしている。そんなご縁で、上不さんより今度発売するサー・チャールス・トンプソンのTHE JAZZ LEGENDというアルバムについて解説を書いてみないかというお話を受け、大胆にもお引き受けしたのである。
 サー・チャールス・トンプソンは1918年3月オハイオ州スプリングフィールド生まれ。40年にライオネル・ハンプトン楽団に参加。42年にレスター・ヤングのコンボに参加。その後も多くのコンボに参加して活躍し、一方ではカウント・ベイシー、トミー・ドーシーなどの楽団に編曲を提供。50年代にはバック・クレイトンなどの中間派セッションで活躍。一時体調を崩し活動を停止するも70年代に復帰し、80年代後半からは東京を中心に演奏活動を行っている。今回のアルバムは2011年の録音で、トンプソン93才の演奏である。

1. What's New
2. Good-bye
3. Indiana
4. I Surrender Dear
5. Blue Skies
6. Everything Happens To Me
7. I Found A New Baby

8. I'm A Fool To Want You
9. What A Wonderful World
10. Russian Lullaby
11. Stella By Starlight
12. Dark Eyes
13. Robbins' Nest


 サー・チャールス・トンプソン(p)、ジャンボ小野(b)、酒井一郎(b)、近藤和紀(ds)
 演奏に取り上げた曲はいずれもよく知られたスタンダード曲で、彼が長年弾きこなしてきた珠玉である。どちらかといえばゆっくりとしたテンポでリラックスして楽しめるものであり、いぶし銀のようなトンプソンワールドを楽しむためにお奨めしたいアルバムである。マシュマロレコードにはこれ以外に、
・LIVE IN YOKOHAMA
・WHATS' NEW
・MAGICAL L・I・V・E
 (ハービー・ステュワードとの共演)
 といったアルバムが発売されている。


「クリフォードの想い出」(2013.2.1)

 「クリフォードの思い出」とタイトルしたが、英語でI Remember Cliffordと言えばピンとくる方も多いと思う。ジャズマンの死を追悼して書かれた名曲と言えば、ジョン・ルイスが天才ギタリスト、ジャンゴ・ラインハルトを追悼して書いた「ジャンゴ」がMJQの名演と共にとく知られているが、この「クリフォードの想い出」は1956年6月26日、25歳の若さで亡くなった天才トランぺッター、クリフォード・ブラウンの死を悼んで、ベニー・ゴルソンが作曲した名曲である。その高潔で温厚な人柄で誰からも愛されたクリフォード・ブラウンに相応しい、大変メロディーラインの美しく清らかなバラードである。
 当時のことをベニー・ゴルソンはこう語っている。
 「その日,私たちはアポロ劇場で演奏していた。演奏が終わって,休憩となり,私たちはステージを降りた。そして,休み時間が終わって,みんながもう一度,舞台に集まりだした時だった。ピアニストのウォルター・デイビス Jr. 泣きながら舞台に駆け込んできた。そして,ウォルターはみんなに泣き声でこうふれて回ったんだ。『きいたかい! きいたかい! ブラウニーが昨夜死んだんだ!』ってね。その瞬間,舞台を歩いていたミュージシャンたちはみんな一瞬,耳を疑った。『オー,ノー!』と顔を手でふさいだミュージシャンもいたし,みんなその場に釘づけになった。『クリフォード・ブラウンが昨夜,自動車事故で死んだ! ピアニストのリッチー・パウエルと夫人も死んだ!』。ウォルターは涙をポロポロ流しながらみんなにそう伝えた。私はいいしれないショックを受けた。その場にへなへなと身体が崩れてしまいそうだった。あんなに素晴らしいミュージシャンが雨でスリップして,自動車事故で死ぬなんて!(『月刊 スイングジャーナル』1982年5月号)より」
 ベニー・ゴルソンは作曲当時ディジー・ガレスビーの楽団に所属しており、同僚のトランペッター、リー・モーガンにこの曲を提供し、ブルーノートに録音した。リー・モーガンは当時まだ18歳であった。所属していたガレスビーの楽団ではニューポート・ジャズ・フェステヴァルでこの曲を取り上げた。その後二人が移籍したアート・ブレイキーのジャズ・メッセンジャーズで、パリ・オランピア劇場でのライブ録音を行った。ベニー・ゴルソンはトランペッターのアート・ファーマーを高く評価していたようで、ミルト・ジャクソンのグループと二人で共演した。そしてジャズテットを結成しこの曲を演奏した。後にジョン・ヘンドリックスが歌詞をつけ、カーメン・マクレイやマンハッタン・トランスファーが歌っている。この中でベニー・ゴルソンが演奏に参加した5枚のアルバムは一度は聞いておきたいI Remember Cliffordの演奏である。
・Lee Morgan Vol.3 / Blue Note / 1957.3
・Dizzy Gillespie At Newport / Verve / 1957.7
・1958 Paris Olympia / Jazz Messengers / Fontana / 1958.11
・Bags Opus / Milt Jackson / United Artists / 1958.12
・Meet The Jazztet / Argo / 1960.2

 ぼくの手元には、I Remember Cliffordを演奏したものが40曲ほどあるが、トランペットではライアン・カイザー、ワーレン・ヴァシェ、ランディ・ブレッカーなどが、テナーサックスではJR・モンテローズ、ソニー・ロリンズ、スタン・ゲッツなどが、歌物では上記以外にヘレン・メリル、アネスティン・アンダーソン、リリアン・テリーなどが、ピアノではキース・ジャレット、バド・パウエル、そしてMJQの演奏などが含まれている。なかでも、ぼくの好きなのはこれである。
・People Time / Stan Getz - Kenny Barron / Emarcy / 1991.3






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