ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
ワルター・クリーンのモーツァルト(2013.9.3)

 ぼくは今「モーツァルト:三大ピアノソナタ(第11番トルコ行進曲つき、第15番、第8番)、ワルター・クリーン(ピアノ)」というLPのアルバムを聴きながらこの文章を書いている。彼の清楚で詩情をたたえたモーツァルトの演奏が何ともいえず良いのである。
 「世界のピアニスト」吉田秀和著、新潮文庫、を引用して彼のピアノの特徴を述べると、「クリーンの特徴と言えば、まず、ピアノの音の抜けるように綺麗なことだろう。これを(悪いけれど)例えばデームスと比べてごらんなさい。同じピアノで、こんなにちがうのかと思われるほど、クリーンのピアノの音は澄みきっている。タッチにも特徴があって、ちょと硬質の陶器のような、カチッとした手ごたえがある。それは単音でもそうだが、和音をひく時に特によくわかる。タッチというよりむしろ、アタックといったほうが正確かもしれない。透明で少しも曖昧でないのだが、少し冷たい感触を覚えるほどである。それに準じて、じつに整った、誇張のない演奏をする」
 確かに、いまさらぼくが吉田秀和氏の文章を引用してまでワルター・クリーンを紹介しなくても、クラシックのファンならワルター・クリーンを知っている人は多いと思う。ぼくの心情としては、美術館に出かけて、誰でも知っているような絵画、ピカソの描いたゲルニカを見て、そこに描かれた戦争による民衆の悲惨さ、悲しみ、怒りを感じ取り、感動した思いをあらためてどこかに書き留めたいと思うような気持である。(昔東京の美術館のゲルニカ展で鑑賞した。例えが、少しおおげさか)
 さらに、吉田秀和氏の言葉を引用して、第15番のソナタの部分を抜き出すと、「レコード屋で一曲だけ聞かせてもらえるとしたり、何をきくべきか?ときかれたら、私としては、例のソナチネ・アルバムにも入っている「ハ長調ソナタ」(K545)をおすすめする。これは、クリーンのモーツァルトの演奏の最大のサンプル―手引きであると同時に、もしかしたらその究極の達成であるかもしれぬ名演になっている。それは第1楽章の第18小節以下、左右の手が分散和音で交替する個所を聞いただけで分かる。特に20小節に入ってからの演奏は、弱音のポエジーとでもいうほかないもので、これこそ、このうえなく単純な個所からほのかに憂鬱な香りの漂ってくるというモーツァルトの音楽の不思議な魅惑の核心を、端的に指で押さえて見せたようなものである」ぼくのようなものが、これ以上言葉を付け加える必要のない的確な指摘がされていると思うが、あえて、ぼくなりに他の演奏者との比較で感じたことを言うと、クリーンの演奏は音の表情の変化がとてもこまやかで、変幻であり、この曲がこんなに表情豊かに聞こえるのにはうっとりさせられる。
 ワルター・クリーンはアメリカのVOXというマイナーレーベルに多くの録音を残しているので、モーツァルトのピアノ曲は輸入CDで入手できる。
・Mozart: Complete Variations and Other Works for Solo Piano/ Walter Klien (3CD)
・Mozart: Piano Sonatas, Vol. 1/ Walter Klien (2CD)
・Mozart: Piano Sonatas, Vol. 2 / Walter Klien (2CD)

 モーツァルトのピアノ・ソナタから話が少しそれますが、ワルター・クリーンが来日してNHK交響楽団とモーツァルトのピアノ協奏曲を録音したCDが発売されています。これも名演という評価の高い演奏です。
 ・N響85周年記念シリーズ:モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番、23番、24番、27番/ワルター・クリーン、ホルスト・シュタイン、若杉弘 (NHK Symphony Orchestra, Tokyo) [2CD]
 これも興味のある方はどうぞ!


オーディオ仲間訪問時のレコード(2013.9.10)

 今月の末にオーディオ仲間のお宅に、久しぶりに音を聞かせてもらいに出かけることになりました。色々とチューニングをされて、以前訪問した時と比べて納得のいく音になったとのことです。どんな音かぼくも大変楽しみにしています。先回訪問した時は複数の仲間と一緒だったので、ぼくはジャズのLPだけを用意していったのですが、今回は一人なのでクラシックのLPも用意したいと思っています。
 こういう時は、自分の好きな演奏のなかで、比較的録音の良いものを準備すると思います。中にはいつも持っていく音源を固定していて、それでどういう聞こえ方をするか確認する人もいますが、ぼくはいつもその時々に聞いているものの中より選択するのですが、それはジャズだけでクラシックについてはそういう事をしたことがありません。
 そこで、ここ数日あれこれとクラシックのLPレコードを引っ張り出しては、聞いています。まず曲そのものが、自分が良いと思ったものを選ぶのが第1条件です。その中でその曲のイメージにぴったりの演奏を探します。それで録音が良ければ言うことは無いのですが、録音は並みでも演奏が感動的であればそちらを優先します。そうやってこのLPを持ってゆこうか、どうしようかと楽しんでいます。以下順不同で選んだ一部を紹介します。
 最初は、よく聞くモーツァルトから、
 ・モーツァルト:三大ピアノソナタ(第11番、第15番、第8番)/ワルター・クリーン、VOX
 ワルター・クリーンにつては、前の雑記帳に書いた通りです。
 ・Mozart : Divertimenti Nr.17 / The Vienna Octet , LONDON
  この曲の第6楽章のモーツァルトらしい軽やかさと、一抹の哀愁を含んだところが気に入っています。演奏としては小編成のウィーン八重奏団の軽快な演奏が好きです。
 ・モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番/グリュミオー、コリン・デイヴィス指揮、ロンドン交響楽団、PHILIPS
 何と言っても、グリュミオーのヴァイオリンの音色が魅力です。と、モーツァルトでピアノ、ヴァイオリン、合奏曲を選んでみました。
 次に交響曲で何を選ぶか、考えました。
 ・メンデルスゾーン:交響曲第3番「スコットランド」/ペーター・マーク指揮、ロンドン交響楽団、LONDON
  メンデルスゾーンの交響曲と言えば第4番「イタリア」、それもシャルル・ミュンシュ指揮の歯切れの良い演奏をよく聞いたが、今では第3番の第1楽章がぼくのお気に入りである。この楽章の雰囲気は、メンデルスゾーンが手紙に書いているように、スコットランドのエジンバラにある古城とその横に立つ廃墟となった教会を訪ねたときに、スコットランドの悲劇の女王メアリー・スチュワートに思いをはせて、着想したとあるように、とても美しくて幻想的な雰囲気を漂わせている。この演奏には、なんといっても弦のデリケートでクリアーな出だしが良くて、ペーター・マークのLPをいつも選択してしまう。これ以外にも2~3曲交響曲を選択しよう。
 次は管弦楽曲です。ここではオーディオ的に面白い曲を選ぼうと思っています。それでもチャイコフスキーの「1812年」とかストラヴィンスキーの「春の祭典」は、今回はパスします。
 ・レスピーギ:交響詩「ローマの松」/オーマンディ指揮、フィラデルフィア管弦楽団、RCA
  これも録音の良いアルバムはたくさんありますが、なんといっても管楽器のきらびやかなフィラデルフィア・サウンドが堪能できるのが良い。「ジャニコロの松」から「アッピア街道の松」のクライマックスが良い。
 管弦楽にはオーディオ的にも楽しめる演奏がたくさんあるので、もう少し探してみます。次はピアノ曲です。ホロヴィッツのショパンとかミケランジェリのドビュッシーとか、ぼくの好きなLPはたくさんありますが、今回はシューベルトです。
 ・シューベルト:ピアノ曲集 第13集(3つのピアノ曲)/ペーター・フランクル、VOX
  先日第九のIさんにお会いした時に、ぼくがその日に買ったシューベルトのピアノソナタ集(Andras SchiffとChristian Zachariasの演奏)をみて、3つのピアノ曲のなかの第2曲が私のお気に入りです。一度聞いてみてください。と紹介された。確かにシューベルトらしい歌心にあふれた曲である。シフの演奏よりも、たまたま家にあったLPのペーター・フランクルの演奏の方がぼくには好ましい。
 と、まぁ、こんな調子で、あれこれと楽しみながら、クラシックのLPの選曲を行っています。


大橋さんの「ようこそオーディオルーム!」(2013.8.18)

 SUNVALLEY AUDIO店主の大橋さんが、地元のFM局で「ようこそオーディオルーム!」という1時間番組を担当して6か月が過ぎました。4月に最初の放送を聞いたときに、大橋さんの思いは熱いのですが、言葉が浮いているような気がして、もっと地についた内容にしたらと、思わず余計なことを大橋さんに言ってしまいました。しかし、そんなことは余計な心配だったようで、回を追うごとになかなか楽しい番組になってきました。以下、記憶をたどって書くので、正確さにかけるかもしれませんが、
 4月:番組のスタート、オーディオと音楽のトークと、音の良いジャズ、クラシックの音楽。
 5月:大橋さんによるピアノ曲特集
 6月:村瀬さんをゲストに迎えて、対談とヴァイオリン曲特集
 7月:村瀬さんをゲストに迎えて、対談とジャズ・サックス特集
 8月:N饗の横山さんをゲストに迎えて、インタビューと音楽(プレビンのジャズピアノなど)
 9月:ペンション・ウインズに4人の真空管オーディオマニアを迎えての音楽談義
 以上のように、毎回大橋さんが知恵を絞って、番組を進めているのが良くわかります。是非この番組が長く続いてほしいと思っていますので、この雑記帳を読んでくれる皆さんの中に応援者が増えることを期待しています。
 ぼくもジャズとクラシックの音楽をよく聞くので、何かアイデアを出して、大橋さんを応援したいと思っています。


頭の整理(2013.9.24)

 2007年の10月より「ジャズ・オーディオの雑記帳」というタイトルで、これを初めて6年が立ちました。書いていることは雑記帳であり、思いつくままにいろいろなことを書き留めてきましたが、やはり多いのはジャズに関することでした。すべてではありませんが、ここ数年何を書いたかチェックしてみました。その傾向を分類すると、
 1. ジャズ・メンを個人別に書き綴る。
 2. 同じ曲を誰が演奏しているか、調べる。
 3. 楽器の分野別に好きなジャズ・メンについて語る。
 4. その他(買ったLP,その時の出来事、ジャズ本など)
みたいな項目で書きなぐっています。
 ・ジャズ・メンでは

1 ピアニスト
ビル・エヴァンス、トミー・フラナガン、レイ・ブライアント、デイブ・ブルーベック、バリー・ハリス、フィニアス・ニューボーンJr、ボビー・ティモンズ、ケニー・バロン、アル・ヘイグ、デューク・ジョーダン、サー・チャールス・トンプソンなどを取り上げており、数としては一番多い。

2 テナーサックス
ズート・シムズ、スタン・ゲッツ、コールマン・ホーキンズ、デクスター・ゴードン、ジョージ・アダムス、レスター・ヤング、バルネ・ウィランなどを取り上げているが、コルトレーンとかロリンズに触れていないのは意外であった。

3 アルトサックス
ソニー・クリス、アート・ペッパー、チャーリー・パーカー、オーネット・コールマン、キャノンボール・アダレイ、ジャッキー・マクリーンなどを取り上げている。エリック・ドルフィ、リー・コーニッツ、ソニー・スティットなども、もっと知りたいと思っている。

4 トランペット
マイルス・ディビス、クリフォード・ブラウン、ケニー・ドーハム、バック・クレイトン、クラーク・テリーなどを取り上げている。マイルスを別格とすれば、ぼくは圧倒的にクリフォード・ブラウン系のトランペッターが好きである。

5 その他
大好きなカウント・ベイシー、ギターのフレディ・グリーン、ベースのスコット・ラファロ、リロイ・ヴィネガー、歌手のジュリー・ロンドンなど

・好きな曲では、
 ディア・オールド・ストックホルム、スター・クロスト・ラヴァーズ、クリフォードの想いで、マイ・ファニー・バレンタイン、クレオパトラの夢、ドナリー、ブルー・ボッサなどの曲を取り上げて好きな演奏者を紹介している。一番多いのはサマー・タイムという曲の演奏であるが、これはまだ紹介していない。
 ぼくが思いつくままに書いたものを、整理するとこうなるが、では書いたものと、書かないものの差は何か。やはり演奏を聴いて何か感ずるところがあり、今まで知らなかった新しいことを知り、それを書き留めたいと思うかどうかである。
 2007年12月8日の雑記帳にズート・シムズのことをこのように書いている。
  ・ズートが言葉に窮するということはまずなかった。一人のファンに「そんなに酔っぱらってよく演奏できますね」と言われたとき、ズートはこう答えた。「それはね、普段から酔っ払って練習してるからさ!」
 ・ズートはある日の午後、ダーク・スーツを着てジム・アンド・アンディーズ・バーに現れた。白いシャツにネクタイをしめている。ズートは昼間、いつもはコーデュロイのズボンに野球のジャケットといった格好をしているのだ。「ようズート」と誰かが尋ねた。「こんな真っ昼間からめかし込んで、いったいどうしたんだよ?」ズートはネクタイをしめ直し、隙間のあいた歯をにっと見せて笑った。「俺にもわからないよ。目が覚めたらこんな格好だったんだ」

 上の二つの文は、ビル・クロウが書いた「ジャズ・アネクドーツ」村上春樹訳に載っている、ズート・シムズに関する逸話の一部である。ズート・シムズは酒さえ飲んでいればご機嫌の、たいへんひとの良いジャズマンで、作曲とか、編曲、バンドのリーダといった事には関心がなく、テナー・サックス1本でジャズを吹いてきた。その演奏は、彼の人柄を反映してたいへん暖かい。まさにテナーを吹くことが生きがいの職人である。そんな彼の演奏を聴くと、ぼくはリラックスできるのである。ズートのアルバムはどれもこれもみな好きであるが、ぼくが好んで聞く曲が入っている彼のアルバムを紹介する。・・・・・』と書いて、アルバム・クッキンの中より「枯葉」、アルバム・ズートより「9:20スペシャル」「ボヘミア・アフター・ダーク」、アルバム・イフ・アイム・ラッキーより「イフ・アイム・ラッキー」「ユー・アー・マイ・エヴリシング」、アルバム・ガーシュインブラザーズより「サマー・タイム」、アルバム・ユタ・ヒップ・ウィズ・ズート・シムズより「コートにすみれ」という曲を紹介している。これは今でもぼくの好きな曲である。

 もちろんこれ以外にも、まだまだそういう感動は得られるはずと思っており、それが出来ていないのは、ぼくの理解が足りないからだと思っている。そう思うと、これからもまだこの雑記帳は続けれると思うが、一方でそのためにはエネルギーが必要であり、年齢との戦いもありそうだ。






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