ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
コンテンポラリーのハンプトン・ホーズのアルバム(2014.5.25)

 ハンプトン・ホーズがコンテンポラリーに録音したアルバムはすべて素晴らしいと思っている。ハンプトン・ホーズ以外のメンバーはすべて固定ではなく、特にベーシストを意識すると、アルバムFor Real!(1958)ではスコット・ラファロ、The Sermon(1958) ではリロイ・ヴィネガー、The Green Leaves Of Summer(1964)ではモンク・モントゴメリー、Here And Now(1965)ではチャック・イスラエルが担当しているが、それ以外はレッド・ミッチェルである。
レッド・ミッチェルと共演した主なアルバムを挙げると、
・Hampton Hawes Trio Vol.1-3 1955-1956
・All Night Session Vol.1-3 1956
・Four! 1958
・The Seance 1966
 などがある。1958年から1964年まで録音が飛んでいるが、この間彼は麻薬治療のため第1戦から退いていた。カムバックして最初に録音したのがThe Green Leaves Of Summerというアルバムである。と、話が飛んだが、ぼくはハンプトン・ホーズがレッド・ミッチェルと録音したアルバムが特に素晴らしいと思っている。彼の少し乾いたような、良くスイングするピアノ演奏とレッド・ミッチェルの太くて、しかもよく弾むベースの組み合わせは、聴いていてたいへん心地よいのである。
 しかし、リロイ・ヴィネガーの重くて、地を這うようなウォーキングベースとの組み合わせや、ヴィネガーとミッチェルの中間のような音で、独特のメロディラインを紡ぐラファロのベースとの組み合わせも大変興味深い。またケネディ大統領の恩赦により、刑期半分で出所した後のThe Green Leaves Of Summer以降の演奏では、彼のピアノは少し内省的になり、そういう意味ではチャック・イスラエルの艶やかなベースとの組み合わせもなかなか良い。
 ぼくのベストアルバムを強いて挙げると、やはりHampton Hawes Trio Vol.1-3ということになるだろう。なかでも2,1,3の順番だろうか。

 以前はもう少し感情移入の強いピアニストの演奏が好みであったが、最近は彼のような少し覚めたところのある、洗練されたピアノの方が聴き易くなった。(年のせいかもしれない)またコンテンポラリーのRoy DuNannの明るい録音が、彼の演奏とピッタリの素晴らしい音である。(録音で言えば、1967年にドイツSABAMPS)で録音したHamp's Piano も素晴らしいと思う)
 社長のレスター・ケーニッヒが健在だったころのコンテンポラリーのジャズは、録音も含めて素晴らしい演奏が多い。


コンテンポラリー・レコードの録音(2014.5.28)

 コンテンポラリーというレーベルは米国西海岸で、レスター・ケーニッヒによって1949年にはじめられたジャズ・レーベルである。最初はグッド・タイム・ジャズ・レーベルとしてトラディショナル・ジャズを録音していたが、1951年にウエスト・コーストの白人を中心としたモダンジャズをコンテンポラリー・レーベルで録音し始めたのである。
 レスター・ケーニッヒは当時の最新技術であるステレオ録音に早くから関心を持ち、1956年にキャピトルよりロイ・デュナンを録音技師に迎え、ステレオ録音を開始した。社長のケーニッヒより最初に依頼された仕事の一つが、録音のたびにスタジオを借りたのでは、経費がかさみすぎるので、その節約のために自前のスタジオを作ることである。キャピトルでスタジオを作った経験のあるロイは、コンテンポラリーの倉庫を改造してスタジオとした。結果として、天井の高い、音の抜けの良いスタジオが完成したのである。そうやって音の良いスタジオでステレオ録音した第1号がシェリー・マンの「マイ・フェア・レディ」なのであり、1956817日の録音となっている。メンバーは、アンドレ・プレビン(p)、リロイ・ヴィネガー(b)、シェリー・マン(ds)で、プレビンのピーターソンを思わせるようなピアノ、マンの本当によく歌うブラシワークも素晴らしいが、ぼくの好きなヴィネガーの地を這うようなウォーキング・ベースが素晴らしい音で録音されている。
 ジャケットのテクニカル・データとして次のように書かれている。
 TECHNICAL DATA: 30-15000cycles. Multiple microphone technique featuring AKG C-12 condenser microphones. Multi-channel Ampex tape recorder. Mastering on Contemporary Records’ specially designed, electronically controlled, continuously variable pitch lathe. Westrex “Stereo Disk” cutting head. Heated stylus. Inner diameter quality equalization. RIAA playback curve. Custom-made, noise-free, vinylite “Gruve/ Gard” pressing.
 こうしてコンテンポラリーの「ぬけの良い、スカッとした」ステレオサウンドが登場したのである。他のメーカが、このコンテンポラリーのようなサウンドを真似しようとしても追従出来なかったのである。後にロイ・デュナンがそのサウンドの秘密の一端を語っている。AKGのコンデンサー・マイクC-12の性能をいかに引き出すかという事があり、そのためのミキシングコンソールを自作し、その出力をテープレコーダーに入力するようにしたり、Westrexのカッティング・ヘッドを動かすためのアンプを自作したりしたとかなり苦労したようである。またカッティングの際にはゲインを微妙に調整し、詳細なマスタリング・メモを残した。このメモを見なければ、オリジナルテープを入手してもアルバムの音を再現することは出来ないようである。ロイが当時使っていたドイツ/オーストリア製のコンデンサーマイク、ノイマン/テレフンケンU-47、AKG C-12等は、今の技術でもこれをしのぐ製品が出来ないようである。
 ヴァンゲルダーの録音でも、録音からカッテングまでにヴァンゲルダーが係ったRVGの刻印のあるレコードとそうでないものでは、音の鮮度がまるで異なるように、ロイ・デュナンがカッテングまでに係ったオリジナル盤とそうでないものは、やはり音の鮮度が異なる。聞き比べるとオリジナル盤の魅力(魔力)に取りつかれてしまう。
 Roy DuNannの録音した代表的アルバムを掲げておく。
 ・Barney Kessel, Ray Brown, Shelly Manne / The Poll Winners 1957
 ・Art Pepper / Art Pepper Meets the Rhythm Section 1957
 ・Shelly Mann & His Friends / My Fair Lady 1956
 ・Sonny Rollins / Way Out West 1957
 ・Hampton Hawes / All Night Session Vol.1-3 1956
 ・Ornette Coleman / Tomorrow Is The Question 1959
 これらの演奏を、オリジナル盤で聞くと、今でも第1級の録音であり、当時の録音の素晴らしさを感じる。


ジャズファンのためにグッドベイトのマスターが選んだピアノトリオ(2014.5.31)

 今年の1月に、SUNVALLEY AUDIOの大橋店主が主催する「ようこそオーディオルーム」というFM番組に、グッドベイトのマスターがゲスト出演した。その時にマスターが事前に選曲したのが、以下にリストアップした8枚のピアノトリオのアルバムである。実際の放送では1時間という制約もあり、4,7,8の3枚のアルバムは放送されなかった。
 ぼくが勝手に想像するマスターの演奏の好みは、セシル・テーラーのような少しアヴァンギャルドな演奏の方にあると思うが。最もビル・エヴァンスのYou Must Belive In Springのような、対極にあるようなアルバムも好みのようであり、懐の深さは計り知れないところがあるが。いずれにしてもマスターが今回選んだアルバムは、それぞれのピアニストの代表的名盤と言われるもので、しかも録音の良い(音の良い)LPのオリジナル盤もしくはそれに準ずるものばかりである。(実際の放送では、LPよりCD化して放送されたが、一部の音源はオーバーゲインでデジタル化され、歪んでいたのが残念であるが)代表的ピアノトリオの名盤を音の良い録音で、ジャズファンに聞いてもらいたいという意図でマスターが選曲したのであろう。とても楽しい放送であった。
データは、ピアノ奏者名、曲名、アルバム名、レーベル、録音年の順に記載する。
1. Herbie Hancock, Miles Tones, Herbie Hancock Trio, CBS-SONY, 1977
2. Tommy Flanagan, Relaxin’ At Camarillo & Chelsea Bridge, Overseas, Metronome、 1957
3. Hank Jones, Satin Doll, The Great Jazz Trio Direct From L.A. , EW, 1977
4. Jutta Hipp, Dear Old Stockholm, At The Hickory House Vol.1, Blue Note, 1955
5. Tete Montollu, Blues For Nuria, Piano For Nuria, SABA, 1968
6. Eddie Costa、 My Funny Valentine、 House Of Blue Lights, Dot, 1959
7. Martial Solal、 Jordu, Trio In Concert, Liberty, 1963
8. Oscar Peterson、 The Days Of Wine And Roses & My One And Only Love, We Get Request, Verve, 1964

 今回放送されなかった、ユタ・ヒップやマーシャル・ソラールの演奏はどこかで続きとして聞いてみたいと思う。オスカー・ピーターソンのアルバムはオーディオチェック用として定番のものであり、その音の良さをオリジナル盤で聞いてほしいと意図したと思われる。
 これ以外にも、マスターの書いたメモを覗いてみると、バド・パウエル/ハンプトン・ホーズ/ビル・エヴァンス/セロニアス・モンク/ハービー・ニコルズ/バリー・ハリス/ミシェル・ペトルチアーニ/ドン・ピューレン/セシル・テイラー/スティーブ・キューンなどの名前が書き連ねてあった。
 ぼくも以前この番組に参加させてもらい、レイ・ブライアント、レッド・ガーランドのピアノトリオ演奏やホレス・シルバー・クインテットの演奏を紹介したことがあるが、マスターならそれぞれのピアニストの代表曲に何を選択するのだろうかと想像すると、興味は尽きない。
 と同時に、ぼくの好みを考えてみると、以前と少し傾向が替わったことに気付いた。どこかでぼくも密かにリストを作ってみようか。



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