ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
John ColtraneのMy Favorite Things (2015.2.1)

 昨年暮れの”ようこそオーディオルーム“の番組に出演した時に、ジョン・コルトレーンのブルー・トレーンを聞いて、コルトレーンの代表曲は何か?といったことが話題となった。ぼくは演奏の回数から言ってMy Favorite Thingsではないかと答えた。確実な根拠ではなく、フィーリングで言ったのであるが、気にかかっていたので調べてみた。
 ネット上のJazz Discography Projectというところで、John ColtraneのDiscographyを調べ、My Favorite Thingsの演奏が載っているアルバムを抜き出して一覧にしたのが、下記の表である。

 1961年の10月にAtlanticにMy Favorite Thingsを、ソプラノサックスを使用して最初にスタジオ録音している。その後21回も録音しているが、すべてライブ録音である。Atlanticの録音でも、時間が14分近くかかっているが、ライブ録音はすべてそれよりも長く、1966年7月の日本録音ではなんと58分近く演奏をしている。
 ライブの演奏は、圧倒的に欧州の公演での録音が多いが、3~9の7枚のアルバムにはエリック・ドルフィーが参加している。年代的に興味を引くのは、1964年の録音がないことである。この年にコルトレーンはThe Complete Impulse! Studio Recordings (Impulse!)、Crescent (Impulse!)、A Love Supreme (Impulse!)の3枚しか録音を残していないのである。何があったのか?
 この中で、どれほど彼の演奏を聞いているかというと、せいぜい5~6枚程度であろう。ぼくが一番気に入っているのは、1963年7月のニューポートでのライブ録音Selflessness Featuring My Favorite Thingsである。ここでのロイ・ヘインズのドラムは圧巻である。コルトレーン自身もAtlanticの演奏ではソプラノサックスを丁寧にていねいに演奏している感があるが、ここではフルトーンで圧倒的にエネルギッシュに演奏している。1966年5月のビレッジ・ヴァンガードでのアリス等との新メンバーでのライブ演奏では、瞑想的な演奏にスタイルが大きく変化している。
 それにしても、こんな長い演奏時間の曲を、あと何曲聞くことが出来るのであろうか。

シャーリー・スコットのオルガンジャズ(2015.2.2)

 夜も更けてくると、ジャズを聞くにしてもステレオの音を絞って聞くことになる。そんな時にベイシーの演奏などをかけると、迫力の無さにイライラしてしまうので、こういうものは避けることになる。ビル・エヴァンスのYou Must Believe In Springなどは、こういう時にぴったりのアルバムである。でも今はシャーリー・スコットのSweet Soulというアルバムを聞いている。
 オルガンジャズというとジミー・スミスとかジャック・マクダフといった人の名前が上がり、彼らの演奏はソウルフルでコテコテな演奏が多く、聞くときには音量を上げて音を浴びるように聞くのが快感であるが、シャーリー・スコットのこのアルバムは、Shirley Scott (organ), Earl May (bass), Roy Brooks (drums)というメンバーで、ベースに名手アール・メイが参加し、まるでピアノトリオの演奏のように、きめ細やかな演奏をしており、静かに聞くのにもってこいのアルバムである。収録されている曲は、Happy Talk、Jitterbug Waltz、My Romance、Where or When、I Hear A Rhapsody、Sweet Slumberの6曲である。
 ぼくはシャーリー・スコットのアルバムは、このSweet Soul1枚しか持っていない。1962年にPrestigeが録音したこのアルバムの元のアルバム名はHappy Talkという。それがジャッケットも変えて再発されたようだ。確かにここに示したジャケットでは、見ていて購買意欲をそがれてしまいそうだ。しかし演奏はなかなかしっとりしていてぼくは気に入っている。
 夜遅く自分の部屋でこの演奏を聞くときには、使用するカートリッジもいつものテクニクス205CⅡからオーディオテクニカのAT5Vに変更する。205Cでは音圧が高すぎて、プリアンプのメモリが2でもAltec A7では音が大きすぎるし、低・高音が伸び過ぎる。AT5Vがピッタリである。それと真空管アンプを使用すると、音量を絞っても音が痩せないのが良い。これでSONY PS-X700のプレーヤーをRepeatにしておけば、音が途切れることなくシャーリー・スコットのオルガンジャズが演奏されている。
 だが、いつもいつもSweet Soulのみでは芸がないので、ぼくが利用している米国のMusicサイトで、Shirley Scottのアルバムを探してみると、Shirley Scott Jazz Boxというアルバムが見つかった。53曲が入って価格が一般のアルバムと同じである。さっそくダウンロードして曲の一覧表を作り、どういう素性のアルバムか調べてみた。どうやらPrestigeに録音したアルバムをリマスターしてボックス化したセット物のようである。曲名と時間を手掛かりに、彼女が出したPrestigeのアルバムと照合してみて、以下の7枚のアルバムが元の音源であることが分かった。
1.Shirley's Sounds  (Prestige PRLP 7195) George Duvivier (b) Arthur Edgehill (ds) ‘58
2.Great Scott!  (Prestige PRLP 7143) George Duvivier (b) Arthur Edgehill (ds) ‘58
3.Scottie  (Prestige PRLP 7155) George Duvivier (b) Arthur Edgehill (ds) ‘58
4.Scottie Plays The Duke  (Prestige PRLP 7163) George Duvivier (b) Arthur Edgehill (ds) ‘59
5.Soul Searching  (Prestige PRLP 7173) Wendell Marshall (b) Arthur Edgehill (ds) ‘59
6.Like Cozy  (Moodsville MVLP 19) George Duvivier (bass) Arthur Edgehill (drums) ‘60
7.Mucho, Mucho  (Prestige PRLP 7182) Gene Casey (p) Bill Ellington (b) Juan Amalbert (congas) Phil Diaz (bongos) Manny Ramos (timbales) ‘60
 シャーリー・スコットがベースのジョージ・デュヴィヴィエ、ドラムスのアーサー・エッジヒルと自らのトリオを結成し、Prestigeへ最初に録音したのがShirley’s Soundsというアルバムである。以降のPrestigeへのトリオでの録音を含めた7枚のアルバムで、すべてルディ・バン・ゲルダーが録音を担当している。ぼくの持っているSweet Soulは61年のShirley Scottの脂の乗った時期のPrestige録音のアルバムのようだ。素性が分かったので、53曲をこのアルバムの順に編集しなおして、彼女の演奏がどう変化したのか聞いてみることにする。
 それにしても、よくよく調べてみると、現在amazonのネットショップをのぞくと、7 Classic Albums Box setと名うって、7枚分のアルバムの演奏を4枚のディスクに収めて、一般のCDより低価格である。米国のデータ音源は、これのファイル版であるようだ。最初にこれが分かれば楽だったと思うのに!良かったかもしれないと思う事は、他の演奏者の7 Classic Albums Box setに対応するJazz Boxというファイル版音源がありそうだという事だ。(実際に確認したら、たくさん有りました)


グレン・グールドとゴールドベルク変奏曲(2015.2.28)

 3月の「ようこそオーディオルーム」は“バッハのピアノ曲による演奏家の聞き較べ”というテーマ放送することが決まり、取り上げる曲についてぼくが担当することとなった。収録は2月25日に終了しており、第1回の放送が3月7日(土)のPM10時からPitch FMでオンエアーとなる。まずは使用した音源の一覧表を示しておく。

 ぼくがバッハの鍵盤曲をピアノ演奏で体験したのが、グレン・グールドが1981年に2回目の録音をしたゴールドベルク変奏曲を聞いたのが始まりである。グールドの今まで聞いたことの無いようなバッハ演奏を体験し、グールドが演奏するバッハのピアノ曲を片っ端から聞いていったのである。今回の放送で取り上げたのは、グルードのデビューレコードとなった1955年録音の方である。
 グレン・グールドがアメリカにデビューしたのが1955年の始めで、ワシントンとニューヨークで演奏会を開催した。彼は、バッハの演奏に秀でている、古典から現代音楽までをこなせる、技巧的にも優れている、といった特別な演奏家であることを印象付けるために、次のような演奏プログラムを構成した。①オーランド・ギボンズのパヴァーヌ、②ヤン・ピエテルスゾーン・スウェーリンクの幻想曲ニ短調、③バッハのシンフォニア、パルティータ第5番、④ヴェーベルンの変奏曲先品27、⑤ベートーヴェンのピアノソナタ第30番、⑥アルバン・ベルクのピアノソナタ作品1
 ニューヨーク・タウンホールでの一般客の入りは少なかったが、ワシントンで行われた演奏会の素晴らしさが評判となり、多くの音楽関係者が聞きに来ていた。その中にコロンビアレコードのマスターワークス部門の責任者ディビッド・オッペンハイムがいた。彼はグールドの演奏を気に入り、一回の演奏を聴いただけで翌日にはグールドと専属契約を結び、最初に録音したのがゴールドベルク変奏曲である。この曲は従来地味で退屈なものであり、コンサートピアニストが取り上げるようなものではないとされていたが、グールドの生き生きとした演奏は発売されるとベストセラーとなったのである。
 グールドが録音したデビュー盤と晩年のレコードは随分と演奏の内容が異なる。デビュー盤は若々しく、自由奔放で、驚異的なテクニックを感じさせる。晩年のレコードは壮重で精密であり、録音も明晰である。(内容については、「グレン・グールド伝」ピーター・F・オストウォルド著、宮澤淳一訳、筑摩書房による)グレン・グールドはゴールドベルク変奏曲に始まり、ゴールドベルク変奏曲で終わり、世に名を遺した異端のピアニストと言われている。






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