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レーベル別特集も7回目を迎え、今回はContemporary特集です。この会社は1949年にレスター・ケーニッヒにより始められた西海岸の、パシフィック・ジャズと並ぶ名門ジャズレーベルである。Contemporaryの代表的なジャズ・ミュージシャンと言えば、アート・ペッパー、ハンプトン・ホーズ、バーニー・ケッセル、シェリー・マンなどが挙げられるが、ベーシストに注目すると、リロイ・ヴィネガー、レッド・ミッチェル、レイ・ブラウン、カーティス・カウンスなど、ぼくの好きなベーシストが沢山いる。そしてもう一つの注目は録音の素晴らしさであろう。ジャズの録音と言えば、第1に名前が出てくるのがルディイ・バンゲルダーであるが、それと並び称されるロイ・デュナンがContemporaryの録音を担当しているのである。それでは今回の放送に使った音源を紹介する。
No | 選曲者 | 演奏リーダー | 曲名 | アルバム名 |
---|---|---|---|---|
1 | 大橋 | Art Pepper | You'd Be So Nice To Come Home To | Meets The Rhythm Section |
2 | 神谷 | The Poll Winners | Mean To Me | The Poll Winners |
3 | 清水 | Sonny Rollins | I'm An Old Cowhand | Way Out West |
4 | 神谷 | Ornette Coleman | Invisible & The Blessing | Something Else |
5 | 清水 | Shelly Manne | Get Me To The Church On Time | My Fair Lady |
6 | 神谷 | Prince Lasha & Sonny Simmons | Psalm Of Solomon | Firebirds |

大橋さんの選んだ第1曲目は、Contemporaryの大名盤である。レッド・ガーランド(p)、ポール・チェンバース(b)、フィリー・ジョーンズ(ds)という当時のイースト・コーストのトップコンボであるマイルス・ディヴィスのリズム隊をバックに、ウエスト・コーストの代表的アーティストであるアート・ペッパーがノリの良い天才的なアドリブを展開している1957年録音の傑作アルバムで、収録されている音も素晴らしく、このLPは発売当時からオーディオ・チェック用としてもよく利用された。
マスターが選んだ2曲目は、The Poll Winnersというアルバムである。ギターのバーニー・ケッセル、ベースのレイ・ブラウン、ドラムスのシェリー・マンの3人が、いずれもそれぞれの楽器分野の投票でNo1となったことよりこのネーミングとなり、アルバムのジャケットもこれに引っ掛けて3人がそれぞれポールを握っている。マスターがこのアルバムのMean To Meという曲を選んだのは、昔ドラムスの練習をするにあたり、この曲をかけてシェリー・マンの小粋な演奏を何とかマスターしたいと、繰り返しの練習に使用した思い出があるそうである。これも1957年のロイ・デュナンの録音で大変切れ味の良い音である。
ぼくが選んだ3曲目は、ソニー・ロリンズのWay Out Westという彼を代表するアルバムの1枚である。イースト・コーストのロリンズが、ウエスト・コーストを代表するレイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds)をバックに、いかにもウエスト・コーストらしいウエスタン調の曲想の「おいらは老カーボーイ(I’m An Old Coehand)」を軽やかに演奏する1957年録音のアルバムである。前年に録音されたSaxophone Colossusと並び称される彼の傑作である。
ここでもロリンズはピアノレスのトリオ編成としており、通常ではピアノがいないことにより色彩感が減少するが、ロリンズはかえって自由奔放で豪快に演奏し、自分のアドリブを際立たせている。
マスターが4曲目に選んだのがオーネット・コールマン(as)のSomething Elseというアルバムである。このアルバムはオーネット・コールマンの1958年録音の初リーダー作である。オーネットと言えばフリージャズの旗手であるが、彼が本領発揮するのはAtlantic Recordsに録音するようになってからとぼくは思う。このアルバムでもドラムスにビリー・ヒギンズ、トランペットにドン・チェリーとAtlantic時代のいわばレギュラーメンバーが参加しているが、ここでの演奏の内容を見ると、オーネット以外はバップスタイルで演奏しているようにぼくには聞こえる。オーネットの入門レコードとしては良いかもしれない。
ぼくが5番目に取り上げたのはシェリー・マンのMy Fair LadyよりGet Me To The Church On Timeという曲である。実は別の曲を予定していたのだが、1曲目から3曲目まで1957年録音のContemporaryのロイ・デュナン技師の名ステレオ録音がかかったので、どうしても初ステレオ録音のアルバムをということで1956年初ステレオ録音のこのアルバムを取り上げることになった。 レスター・ケーニッヒは当時の最新技術であるステレオ録音に早くから関心を持ち、1956年にキャピトルよりロイ・デュナンを録音技師に迎え、ステレオ録音を開始した。社長のケーニッヒより最初に依頼された仕事の一つが、録音のたびにスタジオを借りたのでは、経費がかさみすぎるので、その節約のために自前のスタジオを作ることである。キャピトルでスタジオを作った経験のあるロイは、コンテンポラリーの倉庫を改造してスタジオとした。結果として、天井の高い、音の抜けの良いスタジオが完成したのである。そうやって音の良いスタジオでステレオ録音した第1号がシェリー・マンの「マイ・フェア・レディ」なのであり、1956年8月17日の録音となっている。メンバーは、アンドレ・プレビン(p)、リロイ・ヴィネガー(b)、シェリー・マン(ds)で、プレビンのピーターソンを思わせるようなピアノ、マンの本当によく歌うブラシワークも素晴らしいが、ぼくの好きなヴィネガーの地を這うようなウォーキング・ベースが素晴らしい音で録音されている。

最後となる6曲目にマスターが取り上げたのはPrince Lasha & Sonny Simmons の双頭コンボによるFirebirds というアルバムよりPsalm Of Solomon である。こういう少しフリー系のジャズについて、マスターにマイクを向けると滔々と話し出すが、ぼくにはあまり言葉がない。ただ聞いているとヴィブラホーンのボビー・ハッチャーソンがいい味を出しているように思う。
最後にコンテンポラリーの「最初からのぬけの良い、スカッとした」ステレオサウンドについて触れておく。他のメーカが、このコンテンポラリーのようなサウンドを真似しようとしても追従出来なかったのである。後にロイ・デュナンがそのサウンドの秘密の一端を語っている。AKGのコンデンサー・マイクC-12の性能をいかに引き出すかという事があり、そのためのミキシングコンソールを自作し、その出力をテープレコーダーに入力するようにしたり、Westrexのカッティング・ヘッドを動かすためのアンプを自作したりしたとかなり苦労したようである。またカッティングの際にはゲインを微妙に調整し、詳細なマスタリング・メモを残した。 このメモを見なければ、オリジナルテープを入手してもアルバムの音を再現することは出来ないようである。ロイが当時使っていたドイツ/オーストリア製のコンデンサーマイク、ノイマン/テレフンケンU-47、AKG C-12等は、今の技術でもこれをしのぐ製品が出来ないようである。
ヴァンゲルダーの録音でも、録音からカッテングまでにヴァンゲルダーが係ったRVGの刻印のあるレコードとそうでないものでは、音の鮮度がまるで異なるように、ロイ・デュナンがカッテングまでに係ったオリジナル盤とそうでないものは、やはり音の鮮度が異なる。聞き比べるとオリジナル盤の魅力(魔力)に取りつかれてしまう。
今回の放送では、1,2,3,5曲でこの代表的な名録音を取り上げたので、そういう観点からも是非聞いていただきたい。

