ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
「FMジャズ喫茶Pitch」11月3-4週放送分の収録 (2017.10.30)

 「FMジャズ喫茶Pitch」もスタート当初は、マスターが世に知られざる名盤の紹介、ぼくがそれぞれの演奏者の代表と言える名盤、大橋さんが誰にでも良く知られた名盤の紹介と、何か役割分担して選曲してみたり、ジャズのレーベル別代表盤の紹介をしたりと、何か企画して収録に臨んだ。
 レーベル別シリーズが一段落したところで、9月からは3人がそれぞれ勝手に好きな選曲をして収録に臨んではということになり、今回に至っている。3人ともにあまり四苦八苦せずに、むしろ楽しんで選曲し、収録に臨んでいるので、このスタイルで当分続けることになろう。今回は、大橋、神谷、清水の順でスタートです。

1)大橋 : Lonely Woman (4:59)
・Ornette Coleman - The Shape Of Jazz To Come
・Atlantic - SD 1317
・Recorded in Los Angeles, CA, May 22, 1959
  Alto Saxophone - Ornette Coleman
  Cornet - Don Cherry
  Double Bass - Charlie Haden
  Drums - Billy Higgins

 トップバッターの大橋さんが、ぼくの予想もしなかった演奏を用意してきました。オーネット・コールマンの“ジャズ来るべきもの”というアルバムよりロンリー・ウーマンという曲です。音楽を聴くことにより揺り動かされる感情を、喜・怒・哀・楽・というならば、この演奏はどれにも当てはまらないような不安が付きまとうような、少し変わった演奏です。アヴァンギャルドなオーネット・コールマンの初期の話題となったアルバムです。ジャズをいろいろ聞いていると、こういう表現も時にはいいなと思うようになりますが、最初聞いた時は衝撃でした。大橋さんの引き出しがずいぶん大きくなったのには驚きです。

2)神谷:There's No Business Like Show Business (6:17)
・Sonny Rollins - Work Time
・Prestige - LP 7020
・Recorded in Hackensack, NJ; December 2, 1955.
  Bass - George Morrow
  Drums - Max Roach
  Piano - Ray Bryant
  Tenor Saxophone - Sonny Rollins

 ソニー・ロリンズの名作Saxophone Colossusが録音されたのが1956年の6月で、その半年前に録音されたのが、マスターが取り上げたアルバムWork Timeである。両アルバム共にロリンズの1ホーン・カルテットであり、ベースとピアノのメンバーが異なるが、ロリンズは実ののびのびと演奏しておりWork Timeもサキコロに劣らない名作である。中でもよく歌っているのがThere's No Business Like Show Businessという曲であり、マスターの持ってきたオリジナル盤の音はバン・ゲルダーの録音と相まって素晴らしい。それにしてもマスターの“王道”シリーズがいつまで続くのだろうか。

3)清水:Impressions (8:52)
・John Klemmer, Carl Burnett, Bob Magnusson - Nexus
・Arista Novus - AN2 3500
・Recorded 1979
  Bass - Bob Magnusson
  Drums - Carl Burnett
  Tenor Saxophone - John Klemmer

 大橋さんがオーネット・コールマンを取り上げ、マスターがソニー・ロリンズと従来と立ち位置が逆転した選曲が続いたが、マスターに言わせれば、ぼくがジョン・クレーマーを取り上げるのも同じらしい。彼のイメージはフュージョンを演奏する人であり、ぼくはどちらかと言えば避けてきたが、先月の放送でBirds & Balladsというアルバムを取り上げて、その中でクレーマーの演奏する‘Round Midnightを選曲し、ぼく自身その演奏にしびれていた。その時にマスターからもう一枚Nexusというアルバムで彼が同じような素晴らしい演奏をしているよと紹介され、さっそく今日はそれを取り上げたものである。

4)大橋:The Man I Love (Take 2) (7:56)
・Miles Davis - Miles Davis And The Modern Jazz Giants
・Prestige - PRLP 7150
・Recorded on December 24, 1954 and October 26, 1956
  Bass - Percy Heath
  Drums - Kenny Clarke
  Piano - Thelonious Monk
  Trumpet - Miles Davis
  Vibraphone - Milt Jackson

 このアルバムは、1曲を覘いて954年12月24日に録音された、クリスマスセッションと呼ばれている演奏である。また俗にケンカセッションともいわれ、大橋さんが選曲したThe Man I Love (Take 2)の演奏の時に、俺のバックでピアノを弾くな、とマイルスが言い、怒ったモンクがこの曲のソロの途中で弾くのを止めてしまったというもの。しかし、真相は単に音楽的な理由からバッキングを断り、モンクもそうしたというだけだとマイルスは語っています。
 と、話題性のある曲ですが、もうひとつ話題となったのは、この演奏の音がきりりと引き締まり、音の輪郭も明確で、オリジナル盤のような音がしています。本人に確認したところ、オリジナル盤ではないとのことです。そういえば今回に限り大橋さんがLPを持ち込まずに、自宅で再生した音源を録音して持ち込んでいるので、再生に使用したカートリッジとイコライザーアンプに何か秘密がありそうです。

5)神谷:Round About Midnight (5:14)
・Thelonious Monk - Round About Midnight
・Vogue - YX-8015, YX-4057(mono)
・Paris, June 7, 1954
  Piano, Soloist - Thelonious Monk

 マスターのお気に入りのピアニスト、モンクの登場である。VogueのこのアルバムRound About Midnightというタイトルは、日本発売のタイトルであり、フランスVogueで1954年に発売された最初の10インチ盤のタイトルはPiano Soloというものである。次にフランスで1962年に発売されたLPのタイトルはThe Prophetとなっている。また日本でもその後に発売された時のタイトルはSolo On Vogueとなっている。このアルバムは各国で変幻自在のタイトルがついていると言ったら言い過ぎだろうか。取り上げた曲Round About Midnightは彼の作曲した曲で、彼の演奏の典型であろう。この曲はのちに歌詞がBernie Hanighenによって添えられ、その時にAboutが省略され、Round Midnightとして歌われるようになり、Monk自身も初期のアルバム以外ではRound Midnightを使用している。

6)清水:The Man I Love (8:15)
・Illinois Jacquet With Wild Bill Davis vol. 2
・Black And Blue - 33.082
・Recorded in France, Jan 15 & 16, 1973.
  Drum - Al Bartee
  Organ - Wild Bill Davis
  Tenor Saxophone - Illinois Jacquet

 ぼくは原田和典さんが書いた「元祖コテコテ デラックス」ジャズ批評ブックスを愛読しながら、こてこてジャズを時々聞いている。このアルバムはコテコテテナーの代表者、イリノイ・ジャケーがコテコテ楽器のオルガンと組んで演奏したThe Man I Loveである。このアルバムはフランスのBlack And Blueで発売されたもので、日本の国内盤は発売されていない珍しいアルバムである。ぼくはこういう開放的な演奏にカタルシスを感じます。

 最後に少しさみしい報告ですが、この番組の最初から1年間にわたりディレクターを務めていただいた I さんが、新しい番組を担当されることになり、この番組とはお別れということになりました。特に私を含めてわがままなオヤジ二人に対して、いつも笑顔で対応していただき、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。さらなる活躍を期待しています。次回からは新しいディレクターの方が担当されます。




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