ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
「FMジャズ喫茶Pitch」12月3-4週放送分の収録(2017.11.20)

 ジャズ通で知られる作家の村上春樹氏が翻訳したジャズの本として、ビル・クロウが書いた「さよならバードランド」と「ジャズ・アネクドーツ」は、ぼくも読んでよく知っていた。しかしジェフ・ダイヤーが書いた「バット・ビューティフル」の翻訳書は知らなかった。バット・ビューティフルというフレーズはビル・エヴァンスとスタン・ゲッツが共演したアルバムのタイトルとして知っていたので中古店の本に目が留まり、しかも村上春樹氏の翻訳であれば何かありそうだと思い、本を手に取って目次を見てみると、レスター・ヤング、セロニアス・モンク、バド・パウエル、ベン・ウェブスター、チャールス・ミンガス、チェット・ベイカー、アート・ペッペーそれとデューク・エリントンの8人について語っている。
  ジェフ・ダイヤーという人は、1958年・英国生まれの作家で、小説よりはノンフィクションや評伝、批評のほうが高い評価を受けているようで、「バット・ビューティフル」は1992年度のサマセット・モーム賞を受けているようである。入手した本をパラパラっと読み始めたが、まるで当人が語っているような文体で、モンクについてはその日常の生活ぶりを切り取ったような書き方で生き生きと、アート・ペッパーについては薬に侵された生活の破綻ぶりが赤裸々に描かれている。ジャズの演奏だけでなく、演奏者をこのように見つめることの出来る思考の深さに驚いてしまう。しかしこのスタイルがどのくらいの人に受け入れられるかは判断に迷うが。やはりぼくは訥々と話すしかないだろう。今回は神谷マスター、ぼく(清水)、大橋店主の順でスタートである。

 

1)神谷:Memories Of You (7:18)
・Jaki Byard - The Jaki Byard Experience
・Prestige - PRST 7615
・Recorded September 17, 1968
  Bass - Richard Davis
  Drums - Alan Dawson
  Piano - Jaki Byard
  Tenor Saxophone - Roland Kirk

 今日の最初のアルバムは、マスターが持ち込んだThe Jaki Byard Experienceです。選曲したMemories Of Youはジャッキー・バイヤードとローランド・カークがデュオで演奏しています。まるでアート・テイタムとベン・ウェブスターの共演のような雰囲気で演奏が始まり、だんだんとミンガス楽団時代の二人の演奏を彷彿とさせるような演奏で締めくくっています。バイヤードとカークを楽しむ一枚です。

 

2)清水:Bweebida Bwobbida (6:40)
・Gerry Mulligan Quartet - Recorded In Boston At Storyville
・Pacific Jazz Records - PJ-1228
・Recorded live at the Storyville Club, Boston on December 6, 1956
  Baritone Saxophone, Piano - Gerry Mulligan
  Bass - Bill Crow
  Drums - Dave Bailey
  Valve Trombone - Bob Brookmeyer

 Gerry Mulligan Quartetと言えば、チェット・ベイカーが参加した白黒写真のジャケットのアルバムがよく知られているが、今回ぼくが持ってきたのは写真の構図はよく似ているが、カラー写真のボブ・ブルックマイヤーが参加したアルバムである。マリガンのバリトン・サックスはまるでアルト・サックスを演奏しているような軽やかなタッチでよく歌っている。そこにブルックマイヤーの柔らかなトロンボーンの音色が重なり、典型的なウエストコースト・サウンドとなっている。

 

3)大橋:Compared To What (8:18)
・Les McCann & Eddie Harris - Swiss Movement
・Atlantic - SD 1537
・Recorded live at the Montreux Jazz Festival in Montreux, Switzerland in June 1969br>   Bass - Leroy Vinnegar
  Drums - Donald Dean
  Piano - Les McCann
  Tenor Saxophone - Eddie Harris
  Trumpet - Benny Bailey

 大橋さんが楽しいレコードを持ってきた。1969年モントルー・ジャズ・フェスティバルのライブ録音で、まるでラムゼイ・ルイスのジ・インクラウドのような雰囲気のLes McCannのCompared To Whatである。しかも彼の歌入りというおまけつきである。こういう楽しい演奏は、いつもいつも聞いているというものではないが、時折かかると気持ちよく乗れるのである。

 

4)神谷: I Remember You (5:37)
・Karin Krog / Warne Marsh / Red Mitchell - I Remember You
・Spotlite Records - SPJLP22
・Recorded April 8 & 9, 1980.
  Double Bass - Red Mitchell
  Tenor Saxophone - Warne Marsh
  Vocals - Karin Krog

 マスターのお気に入りの歌手の一人、カーリン・クローグのアルバムI Remember Youからタイトル曲である。レッド・ミッチェルのベースとウォーン・マーシュのテナーのデュオで演奏が始まり、その後ベースをバックにカーリン・クローグが歌い始めるが、その歌い方がウォーン・マーシュのテナーが置き換わったような楽器的な雰囲気である。ベースと歌のデュオである。大変洗練されたジャズ・ヴォーカルである。

 

5)清水:Daahoud (8:28)
・The Trumpet Summit Meets The Oscar Peterson Big 4
・Pablo Today - 2312-114
・Recorded at Group IV Studios, Hollywood, CA; March 10, 1980
  Bass - Ray Brown
  Drums - Bobby Durham
  Guitar - Joe Pass
  Piano - Oscar Peterson
  Trumpet - Clark Terry, Dizzy Gillespie, Freddie Hubbard

 ぼくが取り出したのはノーマン・グランツが企画したジャムセッションである。オスカー・ピーターソンのBig4をバックにフレディ・ハバード、クラーク・テリー、ディジー・ガレスピーといった3人のトランぺッターが、クリフォード・ブラウンが作曲演奏したDaahoudを演奏している。マイルスの奏法とは異なった高速・ハイノートのトランペットの演奏に耳を傾けてください。

 

6)神谷:Love For Sale (8:15)
・Cecil Taylor Trio And Quintet - Love For Sale
・United Artists Records - UAL 4046
・Recorded at Nola Studios, New York, New York on April 15, 1959
  Bass - Buell Neidlinger
  Drums - Rudy Collins
  Piano - Cecil Taylor
  Tenor Saxophone - Bill Barron
  Trumpet - Ted Curson

 セシル・テイラーというピアニストは、1960年代の中頃より無調性のアヴァンギャルドな演奏をするピアニストというイメージが強いが、マスターの持ってきたこのアルバムでは、A面はトリオの演奏、B面はトランペットまたはテナーを加えたカルテットの演奏で、Love For Saleという曲はピアノトリオの演奏である。バド・パウエル風のアタックの強い演奏で、ぼくでも違和感なく聞くことができる。

 

 冒頭でジェフ・ダイヤーの書いた「バット・ビューティフル」の話を書いたが、これとは対極的なジャズエッセイで面白いのが、植草甚一さんのスクラップブック・シリーズのジャズの本である。世界中のあらゆる雑誌情報を読んでいるのではないかと思わせる豊富な知識で、例えば「マイルスとコルトレーンの日々」が彼の目を通して描かれている。
 最近になって、日本人によるジャズの解説本がいろいろと出版されているが、どれもこれも似たような視点で、似たようなジャズのアルバムを教養主義的に紹介しているだけで個性のないものが多く、パラパラっと読んだだけで退屈してしまう。その点今ではなかなか入手しにくくなっているが、粟村正昭さんが書かれた「ジャズ・レコード・ブック」はジャズのガイドブックとしては最良の1冊と思う。もちろん現在でも原田和典さんのように、とても個性的で魅力ある文章を書く方もおられ、「元祖コテコテ・デラックス」「コルトレーンを聴け」「世界最高のジャズ」「原田和典のJAZZ徒然草 地の巻」などをぼくも愛読しています。




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