ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
「FMジャズ喫茶Pitch」2018年6月3-4週放送分の収録(2018.5.21)

 ぼくは今ではあまりジャズヴォーカルを聞かない。なぜ聞かないか理由はいろいろあるが、嘗て若いころは特定の歌手についてはよく聞いた。 今でもよく覚えているのが、高校時代にジャズの好きな先輩に連れられて名古屋のジャズ喫茶に行ったときに、そこで流れてきたのがAnita O'Day And The Three Sounds ‎というアルバムの冒頭の歌、When The World Was Youngである。 これを聞いてなんとかっこよい、粋な歌であるのだと思ったのだ。しかしこれよりも前に僕は1枚の女性歌手のEP盤を買っている。今でいえばジャケ買いをしたのだ。それが5 Big Hits・Chris Connorというアルバムである。 買って、聞いてみて、その時は個性的な歌を歌う人だな、くらいに思っていた。その中のLover Come Back To Meという歌について、あとになってミルドレッド・ベイリー、ビリー・ホリディ、 などの歌手と比べて聞いて、改めてクリスを見直したのと、このEP盤収録の5曲がChris In Personというアルバムからピックアップされたものだというのを知ったのだ。 (EP盤には、「ハスキーの女王クリス・コナーのベスト5曲を既発売の彼女のアルバムの中からすぐった魅力のレコードです」としか書かれていなかった)今回はEP盤とChris In Personの両方を持ってきました。  

 

1)神谷:Memphis Underground (7:07)
・Herbie Mann ‎– Memphis Underground
・Atlantic ‎– SD 1522
・1969 original recording.
  Bass – Mike Leech, Tommy Cogbill
  Drums – Gene Christman
  Electric Piano, Piano – Bobby Wood
  Flute – Herbie Mann
  Guitar – Larry Coryell, Reggie Young, Sonny Sharrock
  Organ – Bobby Emmons
  Vibraphone – Roy Ayers

 マスターがまた意表を突いたアルバムを持ってきた。このMemphis Undergroundというアルバムはジャズのアルバムとしてはややぬるく、日頃の過激なところのあるマスターのイメージが感じられないものだ。 だがよく話を聞いてみると、もともとマスターはロックを聞いていた人で、こういったメンフィス・サウンドといわれるR&B調の曲を聞いてジャズに入っていったようである。 ぼくもこの曲は一時はやった時にはよく耳にしていた。聞きどころとしてはSonny Sharrockのギターがかっこいいと、マスターが強調していた。

 

2)清水:Hallelujah I Love Him So & Lover Come Back To Me(5:34)
・Chris Connor ‎– Chris In Person
・Atlantic ‎– 8040
・Recorded at Village Vanguard, NYC, September 13, 1959
  Bass – Eddie De Haas
  Drums – Lex Humphries
  Guitar – Kenny Burrell
  Piano – Bill Rubenstein
  Vocals – Chris Connor

 ぼくのクリス・コナーとの最初の出会いについては冒頭に書いたが、ここではChris In Personという、ニューヨークのビレッジ・バンガードというジャズクラブでのライブアルバムを用意していた。 しかし大橋さんと話しているうちにせっかくであるから5 Big Hits・Chris Connorという思い出のEP盤を持ってきてかけたら、という話になり急遽そうすることにした。 ここで選曲したレイ・チャールスの作曲したHallelujah I Love Him Soと、思い出のLover Come Back To Meはぼくの好きな曲であるが、 Chris In Personというアルバムに入っているAll About Ronnieという曲が素晴らしいと評価する人も多いので、機会があればぜひ聞いてください。

 

3)大橋:Love Song (8:24)
・Anthony Williams ‎– Spring
・Blue Note ‎– BST 84216
・Recorded August 12, 1965
  Bass – Gary Peacock
  Drums – Anthony Williams
  Piano – Herbie Hancock
  Tenor Saxophone – Sam Rivers, Wayne Shorter

 トニー・ウィリアムスというドラマーは若き天才であり、マイルスがその才能を見出して、彼の年齢を偽ってメンバーに採用していた話は良くしられている。 そういうことでトニーの参加した演奏の代表を挙げるとすれば、マイルスとの一連のアルバムとか、マイルスのメンバーであったV・S・O・Pへの参加作品が思い浮かぶ。 大橋さんが取り上げたブルーノートに録音したSpringというアルバムは、彼の若きリーダー作としては妥当な物であり、Love Songという曲では、彼の溌剌としたドラミングが楽しめる。

 

4)神谷:El Matador (5:00)
・Kenny Dorham ‎– Matador
・United Artists Jazz ‎– UAJ 14007
・Recorded April 15, 1962
  Alto Saxophone – Jackie McLean
  Bass – Teddy Smith
  Drums – J.C. Moses
  Piano – Bobby Timmons
  Trumpet – Kenny Dorham

 ぼくはマスターの持ってきたKenny DorhamのMatadorというアルバムは、実はある1曲のために大好きである。それはBeautiful Loveという曲である。 このマイナー調の曲をジャッキー・マクリーンの泣き節アルトで演奏されるとグッとくるのである。でもマスターが選曲したのはEl Matadorという明るい曲調の演奏である。やはり人それぞれの感性である。

 

5)清水:Lester Leaps In (9:00)
・Jazz At The Philharmonic ‎– The Historic Recordings
・Verve Records ‎– VE-2-2504
・First JATP – Recorded on July 2, 1944
  Nat King Cole (p)
  Johnny Miller (b)
  Lee Young (ds)
  Illinois Jacquet (ts)
  Les Paul (g)
  JJ Johnson (tb)
  plus Billie Holiday's legendaryJATP recital

 ぼくも古い歴史的なアルバムを持ち出した。ノーマン・グランツが企画したJATPの演奏会の1944年に最初に録音されたものである。 メンバーは当時活躍していた有名人を集め、中でも珍しいのはNat King Coleがピアニストとして参加している。

 

 放送の中で時々話題になるのがぼくの年齢である。今年は6回目の年男なので、誕生日が来ると72歳となる。 息子に頼まれて、孫を保育園に迎えに行くことがあるが、家から徒歩でも10分くらいの所なので、今の時期は陽気も良いので徒歩で迎えに行く。 孫が元気に走り出すと付いて行くのが大変で疲れてしまう。この年になると走るというのは重労働である。 それでもジャズで気に入った新しい演奏者を発見したとか、農業で新しい野菜作りに挑戦するとか、今までに経験したことのないことにチャレンジするのは、心がワクワクする。

ジャズのガイドブックの紹介(2018.6.3)

ぼくがあまりよく知らないジャズマンに出会って、その演奏を聞いて興味を持った時には、主に次に掲げる①~④のガイドブックを調べることが多い。 ①と②はジャズマンの簡単なバイオグラフィーと共に年代順に発売されたアルバムが紹介されており、それに1~5の評価がつけられている。 ①は米国での出版、②は英国での出版で、紹介されるジャズメンが多少異なり、アルバムの評価はかなり異なる。 ③は作品の紹介の仕方が年代順ではなく、まず代表的アルバムはこれとこれ、次に聞くアルバムはこれとこれ、こういう作品は避けたほうが良い、 こういう作品はなかなか面白い、といったような分類で紹介している。 ④はバイオグラフィー主体に書かれており、作品の紹介は代表アルバム1~3枚程度に抑えてある。


例えばJohn Klemmerの作品(最近ぼくが聞き出した)についての記述を①~④で比較すると、

① 紹介されたリーダーアルバムは1968年から1997年にかけての22枚。代表的なアルバム(高評価)はConstant Throb / Aug.12、1971 / Impulse、 Waterfalls / Jun.17、1972 / Impulse、 Nexus One (for Trane) / 1979 / Bluebird、 Nexus for Duo and Trio / 1979 / Novus
② 紹介されたアルバムは3枚のみ。(Priceless Jazz Collection、 The Best Of John Klemmer Vol. One、 Simpatico)
③ 紹介されたリーダーアルバムは1972年から1997年にかけての12枚。代表的なアルバムはWaterfalls、 Blowin’ Gold、 Nexus for Duo and Trio
④ 代表アルバムとしてWaterfalls、 Barefoot、 Nexus for Duo and Trioを挙げている。

All Music Guide to Jazz: The Experts' Guide to the Best Jazz Recordings (All Music Guide to Jazz, 3rd Edition):1378頁
The Penguin Guide to Jazz on CD: Fifth Edition:1725頁
Musichound Jazz: The Essential Album Guide (MisicHound):1390頁
Jazz The Rough Guide:754頁

(写真は左から順に①~④、Amazonからの引用で②と③は新しい版のもの)
Jazz The Rough Guideという本は20年前にカナダのバンクーバー空港の書店で買ったもので、スイングジャーナル社のジャズ人名事典と同程度の内容。 The Penguin Guide to Jazzの第4版をイギリスのバーミンガムの書店で購入し、その後第5版をAmazonで購入。All Music Guide to JazzとMusichound JazzはAmazonで購入。
John Klemmerの作品についての評価の一覧を以下の表にまとめる。

No Album Title Year Label
1 Priceless Jazz Collection 1967 GRP     2.5  
2 Involvement 1968 Cadet 3      
3 Blowin' Gold 1969 Cadet 3   4  
4 All The Children Cried 1969 Cadet 3      
5 Eruptions 1970 Cadet 4      
6 Constant Throb 1971 Impulse 5      
7 Waterfalls 1972 Impulse 5   3.5
8 Intensity 1973 Impulse 4      
9 Magic and Movement 1973 Impulse 3      
10 Fresh Feathers 1974 ABC     2  
11 Mosaic:The Best Of John Klemmer 1975 GRP 3 2 1  
12 Barefoot Ballet 1976 MCA 4   1.5
13 Touch 1975 MCA 4   1.5  
14 Arabesque 1977 MCA 3   1  
15 Lifestyle 1977 MCA 2      
16 Solo Saxophone 1978 ABC 4      
17 Hush 1978 Elektra 3      
18 Nexus One 1979 Bluebird    5      
19 Nexus for Duo and Trio 1979 Novus 5   4
20 Brazilia 1979 MCA 3   1  
21 Finesse 1980 Elektra 2      
22 Solo Saxophone Ⅱ 1981 Elektra 4      
23 Music 1989 MCA 1      
24 Simpatico 1997 JVC 4 3 2  

John Klemmerの作品について①~④のガイドブックを見比べて気づいたことを整理すると、

① イギリスのガイドブックThe Penguin Guide to JazzにはJohn Klemmerは詳しく紹介されていない。(欧州ではあまり知られていないか?)
② All Music Guide to JazzとMusichound Jazzでは、評価の傾向が異なる。
③ Jazz The Rough Guideで取り上げられている3枚のアルバムについて比較してみると、Nexus for Duo and TrioとWaterfallsはいずれも評価が高いが、Barefoot Balletについては評価が分かれている。
④ Barefoot BalletというアルバムはDave Grusin(p)、Larry Carlton(g)、John Guerin(ds)といったメンバーで製作されたもっともよく知られたFusion Jazzである。
こういったガイドブックを調べることで、良く知らない演奏者の色々な情報を得ることができるが、最後の判断は自分で演奏を聞いてどう感じたかである。 (ぼくの好みは、Nexus for Duo and Trioというアルバムのような、Fusionを離れた演奏が断然良いと思う)




ページトップへ