ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
「FMジャズ喫茶Pitch」2018年11月3-4週放送内容(10/22収録)(2018.11.7)

 クイズでも何でもないが、次の5つの「あう」という漢字はどのように使い分けるのだろうか。「会う、逢う、遭う、遇う、邂う」白川静さんの常用字解などを参考に漢字の意味を調べると、それぞれに次のようなニュアンスが含まれている。
 :元の字は蓋のある鍋の形。いろいろな食料を集めてごった煮のようなものを作っているので、「あつめる、あつまる、あう」の意味となる。
 :神異なもの(不思議なもの)にあうことをいう。
 :二人が道で出会うことをいう。
 :偶人のような神秘的で不思議なものに出会うことを遇うという。
 :思いがけなく出あう。
 小説家の宮城谷昌光さんは、小説を書くにあたり、表現方法を磨くために、疑問を持った漢字は一つ一つ丹念に白川静さんの辞書を引いて言葉の成り立ちから理解して、使い分けたとエッセイに書いておられる。プロとはそういうものかと、感心させられる。
 「大橋慎の真空管・オーディオ本当のはなし」Part1真空管アンプの基礎知識Part2真空管アンプの楽しみをやっと読み終えた。ここまで読んでぼくが印象的に思ったことを3つ言うと、一つは、どんな音がするかということを表現する手段がとても具体的でわかりやすいということである。料理を食べてどんな味がするかを第3者に伝えるのはプロの技だと思うが、音を聞いていない人に、もしくは放送で聞いた人に、言葉で的確に伝えるとこうなる、という表現がやはりプロであると感心する。自分が本を読みながらパワーアンプの球の差し替えを楽しんでいる気分にさせてくれる。二つ目は、大橋さん自身がアンプを作り、真空管を差し替え、失敗もし、成功もし、また色々なアンプの音も聞いて豊富な経験を積み重ねてきたことを感じます。それがなければ、真空管の音の特徴とか、カップリングコンデンサーの音の特徴とか、ここで語られていることが、こうまで明快にわかりやすく語られないと思います。三つめは、この本で大橋さんが語っているのは、真空管アンプで音楽を聞くと、こういった楽しみ方ができるよと提案しているのだと思います。何か球アンプは楽しいよと強調すると、石アンプはダメなのかと受け取るかもしれませんが、彼はそう言っているのではなく、石アンプは石アンプの楽しみ方があるだろうが、私は球アンプの楽しみ方を提案しています、と言っているのだと思います。プロと言われる人は、作家でも、オーディオ屋でも、話を聞いてみるとぼくの考えの及ばない発想なり、努力なりがあって、奥深い世界が広がっているのが垣間見えて大変興味深い。

 

1)神谷:New Bones 9:05
・Hamiet Bluiett - EBU
・Soul Note - SN 1088(release 1984)
・Recorded February 1, 2 and 13, 1984 at Classic Sound Studio, New York
  Baritone Saxophone, Alto Clarinet - Hamiet Bluiett
  Bass - Fred Hopkins
  Drums - Marvin "Smitty" Smith
  Piano - John Hicks

 マスターが取り上げたハミエット・ブルーイットという人は1972年に短期間ミンガスグループに参加していたので、そこで興味を持った人もいると思うが、その後にワールド・サキソフォン・カルテットに参加して活動している。EBUというアルバムは彼の代表作品であろう。バリトンサックスの男性的なトーンとしてはペッパー・アダムスが代表であり、柔らかいトーンとしてはジェリー・マリガンが代表であろう。しかしハミエット・ブルーイットの演奏はどちらとも異なり、ぼくが聞くとエリック・ドルフィーのバスクラのような音色がする。

 

2)清水:Autumn In New York 5:12
・Al Haig - Jazz Will-O-The-Wisp
・Counterpoint - CPT-551 (release 1957)
・Recorded in New York City, March 13th, 1954
  Bass - Bill Crow
  Drums - Lee Abrams
  Piano - Al Haig

 ぼくがアル・ヘイグの演奏するオータム・イン・ニューヨークを聞いたのは、確かフレッシュ・サウンドから発売されたCDであったと思う。その冒頭にこの曲が入っており、そのいぶし銀のような演奏にひどく魅かれた記憶がある。その当時ぼくは詩を書いており、その気分とあっていたのである。曲とのつながりのそんな思い出を語ったら、大橋さんがその詩集を持って来いと言ったので、今さらながら「高原の秋」という長野県の阿智村近辺に行ったときに作った詩を大橋さんに渡した。とんだ「ニューヨークの秋」になってしまった。

 

3)大橋:Sleeping Dancer Sleep On 8:05
・Art Blakey And The Jazz Messengers - Like Someone In Love
・Blue Note - BLP 4245 (release 1967)
・Recorded on August 7 & 14, 1960.
  Bass - Jymie Merritt
  Drums - Art Blakey
  Piano - Bobby Timmons
  Tenor Saxophone - Wayne Shorter
  Trumpet - Lee Morgan

 この選曲はいかにも大橋さん好みだと分かる。ゆったりとしたワルツのリズムにのって、バラード風にリー・モーガンやウェイン・ショーターがソロを取る。それがヴァン・ゲルダーの録音でくっきりと浮かび上がる。これでは、だれでも聞いている耳タコ盤!というキャッチフレーズを外れた、大橋慎の推薦曲になっている。

 

4)神谷:Out To Lunch 5:11
・The Lounge Lizards - Live From The Drunken Boat
・Europa Records - JP 2012(release 1983)
・Recorded in November 1982
  Bass - Tony Garnier
  Drums - Dougie Bowne
  Piano, Artwork By - Evan Lurie
  Saxophone [Alto] - John Lurie
  Trombone - Peter Zummo

 ぼくはこういうのは全く知らない。ソロ演奏を聞いているとジャズのような気もするが、リズムは異質に聞こえる。マスターによって色々なものを聞かしてもらえて本当にありがたい。でも疲れる。

 

5)清水:Borderline + Makin' Whoopie (8:14)
・Mel Powell Trio - Borderline
・Vanguard - VRS 8501 (release 1954)
・Recorded in U.S.A., 1954
  Drums - Bobby Donaldson
  Piano - Mel Powell
  Tenor Saxophone - Paul Quinichette

 Vanguardレーベルのレコードというだけで手に入れた1枚である。レーベルのイメージで、音がよさそうだ!中間派の演奏かな!そんなところが理由である。ベースの代わりにテナーサックスを入れたピアノ・トリオというのもおもしろそうだと思った。

 

 2017年の12月収録から約1年間お世話になった小川ディレクターが交代されることになりました。勝手なことをいろいろ注文する我々にいつも愛想よく対応していただいて本当に助かりました。ありがとうございました。(前に座っているのが小川ディレクター)小川ディレクターは東京に出られてさらに腕を磨くそうです。




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