ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
「FMジャズ喫茶Pitch」2019年2月3-4週放送内容(1/21収録)(2019.2.10)

 今回は少し楽屋裏の話をします。毎回収録(原則第3月曜日)の前1週間くらいの中で、どんな曲を選定したかを、ぼくとマスターに大橋さんからヒヤリングがあります。その中よりキーワードを拾って、大橋さんが話の進行を考えているようです。その時に大橋さんからもこんな選曲を考えているというリストが示されます。特に詳しい説明はありません。
 そんな中で、今回大橋さんが持ってきたBuddy BregmanのKicks Is In Loveという曲をちらっと聞いて、ぼくとマスターがこれはジャズというにはピアノが頭打ちで演奏しているし、リズムにタメがなく普通のポピュラー音楽に近いと感想を洩らしてしまいました。
  家に帰ってもう一度聞いてみると、打ち合わせで感じたこと以外に、このバラードを演奏しているテナーの音が、演奏にタメもあり、意外と良いじゃないかと思い、だれが演奏しているか調べてみるとベン・ウェブスターでした。大橋さんの前であまり良くないと言ったことと、それほど悪くないと後から思い直したこととの間で、収録本番で物議をかもすことになりました。

 

1)神谷:Relaxin' At Camarillo (3:20 )
・Tommy Flanagan – Overseas
・Prestige – PRLP 7134 (release 1958)
・Recorded in Stockholm; August 15, 1957
  Bass – Wilbur Little
  Drums – Elvin Jones
  Piano – Tommy Flanagan

 これはピアノトリオの大名盤であり、どの曲を聞いても感動します。ピアノのトミフラもそうですが、ドラムのエルビンがブラシを使いながら切れの良いリズムをたたき出しているところも、大変スリリングです。

 

2)清水:Romance In The Dark (6:55)
・Ruby Braff – Ruby Braff Special
・Vanguard – VRS 8504 (release 1973)
・Recorded in New York City, October 17th 1955
  Double Bass – Walter Page
  Drums – Jo Jones
  Piano – Nat Pierce
  Tenor Saxophone, Clarinet – Sam Margolis
  Trombone – Vic Dickenson
  Trumpet – Ruby Braff

 Vanguard レーベルは中間派と言われるスタイルのジャズを取り上げて録音しています。Jo Jones SpecialとかVic Dickenson Showcaseといったアルバムがよく知られていますが、このRuby Braff Specialも同じようなスタイルの演奏です。参加しているメンバーもJo JonesとかVic Dickensonも演奏に参加しています。

 

 

3)大橋:①Kicks Is In Love (3:18)+ ②A Handful Of Stars (3:17)
①Buddy Bregman And His Orchestra – Swinging Kicks
・Verve Records – MGV 2042 (release 1957)
・Recorded December 1956
  Alto Saxophone – Bud Shank, Herb Geller
  Baritone Saxophone – Jimmy Giuffre
  Bass – Joe Mondragon
  Drums – Alvin Stoller
  Guitar – Al Hendrickson
  Piano – André Previn
  Tenor Saxophone – Ben Webster
  Trombone – Frank Rosolino, George Roberts, Lloyd Ulyate, Milt Bernhart
  Trumpet –Maynard Ferguson, Pete Candoli, Ray Linn


②Stan Getz – And The "Cool" Sounds
・Verve Records – MGV-8200 (release 1957)
・Recorded August 19, 1955
  Bass –Leroy Vinnegar
  Drums –Shelly Manne
  Piano –Lou Levy
  Tenor Saxophone – Stan Getz

 大橋さんが何やら企画してきました。これはジャズから少しずれていると事前に言った曲と、これはジャズだと言った曲を、2曲比較してコメントせよと言いたいようです。どんな話になったか放送を聞いてください。いつも笑顔を忘れずに、と言っていたぼくが、笑顔を忘れそうになってゴチャ、ゴチャ言っています。些細なことにこだわらなくても良いのにと、あとから思っています。

 

4)神谷:Anthropology (1st Vers) (7:35)
・Konitz - Solal – European Episode
・Campi Records – SJG 12002 (release 1969)
・Recorded in Rome 10-12-1968
  Alto Saxophone – Lee Konitz
  Bass – Henri Texier
  Drums – Daniel Humair
  Piano – Martial Solal

 リー・コニッツがヨーロッパのジャズ・フェスティバルに参加した後で、ヨーロッパのジャズメンを指名してローマで録音したアルバムです。コニッツの即興演奏はイマジネーション豊かで、唯一無二のものだと思うが、そのクールで、知的なところが、ときには冷たく感じて、聞いているほうがホットになれないと感じることもあるが、それでもコニッツは一流である。

 

5)清水:Flamingo (8:05 )
・Stan Getz – At The Shrine
・Verve Records – MGV 8188-2 (release 1956)
・Recorded: Concert, Shrine Auditorium, LA, November 8, 1954,
  Bass – Bill Anthony
  Drums – Art Mardigan
  Piano – John Williams
  Tenor Saxophone – Stan Getz
  Valve Trombone – Bob Brookmeyer

 ゲッツが1954年にLAでライブ録音した演奏である。1940年代にWoody Herman楽団でZoot Sims, Serge Chaloff, Herbie Steward, Stan GetzのFour Brothersで売り出して、人気が出た後の録音である。クールな音色と、軽いサブトーンを使ってレスター・ヤング風のスタイルで演奏している。

 

 

 最近の3人の議論の中で、ウィントンは素晴らしいとか、いやコマーシャルな演奏としては素晴らしいけれど、ジャズとしては物足りない、といった会話がされているが、それではジャズとは何だろうということになります。これが大変定義が難かしく、厳密にいえば一人一人の感性によって許容の幅が違ってくることもある。とりあえずジャズ評論の大家、ヨアヒム・ベーレントの“ジャズ―その歴史と鑑賞”油井正一訳を引用して定義しよう。
 「ジャズには3つの要素から成り立っている。①アフタービートと言われるスイング感。②インプロヴィゼーションによる自発的なヴァイタリティ。③演奏者の個性を反映するサウンドとフレージング。そしてその演奏が定型化(マンネリ化)せずに生きていることが大切。ジャズで始められるすべてがたちまちコマーシャルな音楽に使われてしまうので、ジャズミュージシャンは常に新しいものを作り出してゆかねばならない宿命を背負っている」と言っている。
 今から数年前にデューク・エリントン・オーケストラの名古屋公演があり、期待して出かけた。演奏は音楽的には素晴らしかったが、あまりにもエリントンが生きていた時の演奏とぴったりで、即興演奏も当時の演奏をなぞっているように聞こえ、自発的な即興によるスリリングな演奏とはならず、物足りなさを覚えたことを思い出す。
 今回の放送で議論が白熱したBuddy Bregman And His OrchestraのKicks Is In Loveという曲の演奏についても、Ben Websterの独特なテナーサックスのサウンドとフレージングが非常に個性的であり、ここに価値を見出せば素晴らしいジャズと思うし、ビートがジャズらしくなく、編曲が勝り即興性が弱いと思うと、物足りないジャズということになる。




ページトップへ