ジャズ・オーディオの雑記帳
 by 6041のS
「FMジャズ喫茶Pitch」2020年3月3-4週放送内容(2.18収録)(2020.3.10)

 マスターの好きなエリック・ドルフィーは、1958年にチコ・ハミルトン・クインテットに参加し、1年後にミンガスのグループに参加した。自己名義のアルバムを出したのは1960年に、31歳の時に録音したOutward Boundが最初であろう。彼はそれから4年後の1964年の6月に亡くなっている。この4年間という短い期間の中でいったいどれだけのアルバムを制作したのであろうか。
jazzdisco.orgのなかのEric Dolphy Discography Projectを覗いてみると、約130枚近くのアルバムがリストアップされている。年間30枚以上の作品を残していて、まさに驚異的である。今回もマスターがドルフィーの作品を紹介してくれる。

 

1)神谷:Miss Ann (4:15)
・Eric Dolphy With Booker Little – Far Cry
・New Jazz – NJ 8270 (release 1962)
・Recorded: Dec. 21, 1960
  Alto Saxophone, Bass Clarinet, Flute – Eric Dolphy
  Bass – Ron Carter
  Drums – Roy Haynes
  Piano – Jaki Byard
  Trumpet – Booker Little

 ドルフィーの作曲したMiss Annは、彼の速いパッセージのアルトの演奏も素晴らしいが、それに劣らないのがブッカー・リトルのトランペットである。この後ブッカー・リトルとはファイブスポットでのライブで素晴らしい演奏を残したが、このアルバムは彼との最初の共演である。

 

2)清水:Samba Mom-Mom (11:27), (7:30 F/O)
・Art Pepper – San Francisco Samba
・Contemporary Records – CCD-14086-2 (release 1997)
・Recorded live at the Keystone Korner, San Francisco, August 6-8, 1977
  Alto Saxophone – Art Pepper
  Bass – Michael Formanek
  Drums – Eddie Marshall
  Piano – George Cables

 アート・ペッパーが1977年の7月29日から30日にかけてビレッジ・ヴァンガードで3日間のライブ演奏を行った1週間後、8月の6~8日にかけて録音したのがこのSan Francisco Sambaというアルバムである。演奏を聞いてみると、ペッパーは見事なまでのハイテンションで、絶好調のように思える。ぼくの好きなペッパーのライブ演奏の中でも、特によく聞く1枚である。

 

3)吉武The Man I Love (15:16 )
・Norman Granz' Jazz At The Philharmonic – 1940s
・Verve Records – UMV 9070-2 Japan (release 1981)
・Track A1-B3/C3 recorded at Philharmonic Auditorium LA on Jan 28,1946
  (The Man I Love)
  Alto Saxophone – Willie Smith
  Double Bass – Billy Hadnott
  Drums – Lee Young
  Piano – Mel Powell
  Tenor Saxophone – Charlie Ventura, Lester Young
  Trumpet – Dizzy Gillespie

 吉武さんがレスター・ヤングを持ってきました。彼の演奏するThe Man I Loveという曲は、ビリー・ホリディの共演盤とか、ナット・キング・コールとの演奏のように、ほのぼのとした感じの演奏が良く知られていると思いますが。ここJATPでの演奏では、冒頭にガレスピーのハイノートなトランペットの演奏できりりと引き締まり、レスターの対照的な演奏を際立たせています。レスターのThe Man I Loveを持ち出すとは、やはり吉武さんは色々よく聞いておられます。

 

4)石川(リクエスト)Relaxin' At Camarillo (3:20 )
・Tommy Flanagan – Overseas
・Prestige – PRLP 7134 (release 1958)
・Recorded in Stockholm; August 15, 1957
  Bass – Wilbur Little
  Drums – Elvin Jones
  Piano – Tommy Flanagan

 1957年のJ. J. Johnson欧州ツアーに参加した3人が、リーダーに内緒でストックホルムで録音したのが、この名盤Overseasである。これをリクエストする石川さんの耳は確かだと思います。この曲は確かマスターも大好きで、いつかの番組でRelaxin' At Camarilloを、カミカミで紹介していたのを思い出します。
 余分な話を付け加えると、このツアーの後にJ. J. JohnsonはドラマーのElvin Jonesを首にしてしまいます。その理由が、リズムのキープが正確でないということでした。ニューヨークに戻り暇をしていたエルビンに声をかけたのがソニー・ロリンズで、ブルーノートの名盤「ビレッジ・ヴァンガードの夜」にエルビンが参加することになりました。

 

5)清水:Folks Who Live On The Hill (4:17)
・Stan Getz – At Large
・Verve Records – MG VS 68393-2
・Recorded in Bispebjerg Bio, Copenhagen, Denmark, January 14 & 15, 1960
  Bass – Dan Jordan
  Drums – William Schiøppfe
  Piano – Jan Johansson
  Tenor Saxophone – Stan Getz

 スタン・ゲッツのバラード演奏における、メロディーラインの美しさときりっとした緊張感は、だれにもまねの出来ない独特の素晴らしいものだと思っている。代表的な演奏としてアルバムStan Getz & Bob Brookmeyer Recorded Fall 1961におけるA Nightingale Sang In Berkeley Squareとか、アルバムStan Getz In Paris Live(1966)におけるWhen The World Was Young、さらにRoyal RoostのThe Getz Age(1950-1952)におけるAutumn Leavesなどが挙げられる。ここではそれと同列の美しいバラード、Folks Who Live On The Hillを聞いてください。この曲については、Stan Getz in Polandというアルバムでも演奏しているが、ここではLPがぼくの手元にあるAt Largeよりの演奏です。

 

6)神谷:Good Bait (12:07)
・John Coltrane With Red Garland – Soultrane
・Prestige – 7142 (release 1958)
・Recorded in New York City; February 7, 1958
  Bass – Paul Chambers
  Drums – Art Taylor
  Piano – Red Garland
  Tenor Saxophone – John Coltrane

 放送の最終のトリを飾るのが、この番組のテーマ音楽でもあった、John ColtraneのアルバムSoultraneよりGood Baitである。マスターのお店の名前もこの曲に由来すると聞いています。baitという言葉の意味を英語辞典で引いてみると、①food used for attracting fish, animals, or birds so that you can catch them ②something you use in order to try to make someone do something or buy somethingと説明していますが、マスターとしては皆さんの憩いの場所となるように、店を開いたようです。この曲は誰が作曲したのかGood Bait – Wikipediaで調べてみると、"Good Bait" is a jazz composition written by American jazz piano player and composer Tadd Dameron and by band leader Count Basieと書いてあります。タッド・ダメロンがカウント・ベイシー楽団に参加した時に、一緒に作曲したと言っています。この曲はマスターの持ってきたコルトレーンの演奏が決定盤だと思いますが、Art Pepper with Duke Jordan in Copenhagen 1981というアルバムでのペッパーのクラリネットによる演奏もぼくは好きです。最後ということでごちゃごちゃ書きましたが、コルトレーンの演奏をじっくり聞きながらお別れしましょう。

 


 ★放送をここでいったん閉めるにあたっての、ぼくの私的感想。
 まず思うことは大橋さんに機会を与えていただいて、参加して良かったということが第1です。最初からうまくいったとは思いませんが、いろいろ経験させていただいて、放送でお喋りしてリスナーに聴いていただくとはどういうことか、少し分かりかけてきました。
 3年半も続けて選曲も狭まって来たなと思った時期もありましたが、冷静に眺めてみると、それは自分のジャズに対する視野がまだまだ狭いだけのことで、まだまだ素晴らしい演奏が山のように存在していることが分かりました。具体的に1つ言うと、The New York Times Essential Library Jazz、A Critic's Guide to The 100Most Important Recordingsと名うった本が出ています。この中で紹介されているアルバムを見ていても、知らない演奏が沢山あるのです。まだまだ探求することは沢山あることを、この放送を経験して知ることが出来ました。
 それから、これだけの期間放送に参加させていただいたので、楽しんで聞いてもらえる皆さんもでき、そうした人たちと意見交換とか、交流する機会が出来たことも良かったと思っています。とにかく参加してマイナスのイメージはありません。製作する側、聞いていただいた皆さん、大橋さん、神谷さん、そして関係各位の皆さん、ありがとうございました。

 

★神谷マスターから「この3年5カ月を振り返って」というメッセージをいただきました。

 私は、ジャズはアドリブだと思って、あまり事前準備もせずに放送に臨みました。清水さんや大橋さんが念入りな下調べをして放送に臨んでいることをあまり知りませんでした。清水さんはアルバムや演奏者に関する基礎的なデータ・リストを毎回作成されて、提供してもらい助かりました。大橋さんは番組の進行に関する原稿を、毎回10枚以上書かれて放送に臨んでおられました。このことを私は全く知らなくて、3月の最終回の収録の記念に、大橋さんからその原稿をいただいて初めて知りました。
 振り返ってみると、放送半ばまでは、清水さん、大橋さんに失礼だと思えるようなことも随分と言いました。お詫びを申し上げたいし、お二人からお許しいただけると思っています。番組が当初予定を上回る3年と5カ月続いたのも、お二人の努力が大きかったと思っております。また、この番組を熱心に聞いてくださり、わたくしにメッセージを送ってくださったリスナーの皆さんにも、大いに刺激され、感謝したいと思います。
放送関係者の方には、また新たなJazz番組を作ってくださることを望んでいます。私も貴重な経験をさせて頂いて、感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。

ジャズ喫茶「グッド・ベイト」 店主 神谷年幸




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