第20回 もう一度アナログの世界に挑戦だ!パートⅡ
皆さんこんにちは、前回の「アナログの世界に挑戦だ!」はいかがでしたか、今回はパートⅡになります。今回も私のエピソードを交えながらのアナログ関連のコラムになりますが前回はNEAT音響とGRACE(品川無線)を書かせて頂きました、今回は続編のパートⅡになりますが先日東京都は武蔵野にあります吉祥寺の音楽喫茶バロックに行ってきましたのでそれも合わせて随筆させて頂きます。
吉祥寺の喫茶バロックの音
喫茶バロックは全国的に有名なクラシック音楽を聴かせる私語禁止の老舗の喫茶店ですが此処で使用されているスピーカーは私も愛用しているヴァイタボックスになります。ここのヴァイタボックスは191コーナーホーンになり同じヴァイタボックスの愛用者としての親近感もありどんな音で鳴っているのか私自身非常に興味がありました。問題の音であるがあくまで私の主観ですが残念ながら本来のヴァイタボックスとは程遠い音になっていたのが残念だが音は別として店内の雰囲気感は音楽喫茶の老舗を感じる貴重なお店でこれからも長く続けてほしいものである。
彗星のごとく登場したまぼろしのカートリッジ
表題からするとまぼろしのカートリッジの話になりますが、私にとっての「まぼろし」でも皆さんにとってはありきたりのカートリッジかも知れませんが退屈せずにお読みください。
オーディオテクニカ株式会社と言えば今や世界のオーディオテクニカとも言われていますがこのメーカーの最初のスタートは彗星のごとく登場したカートリッジがあります。型式はAT-1でムービングマグネットタイプのカートリッジ、このカートリッジを設計製作された方は初代テクニカの代表で松下秀雄氏、このお方は自他共に許す超が付くほどのオーディオマニアでご自身みずからカートリッジを作った天才的な方であります。AT-1はオーディオテクニカの社運をかけてスタートした第一号機でその後に出したAT-3、が大ヒットになりました。
AT-1雑誌での試聴評価
1962年(昭和32年)私がまだ中学生のころ当時の雑誌で多分ラジオ技術誌であったと記憶しているが内外カートリッジの鳴き比べの特集がありました。カートリッジは5機種を用意されて最高得点は5点満点でのランク付けの評価でこの中にオルトフォンのSPU-GとオーディオテクニカのAT-1も含まれていた、この鳴き比べには松下秀雄氏自ら出席されての試聴で松下氏の意気込みが感じ取れる試聴内容であったのではないかと憶測している。
この時のカートリッジの鳴き比べ試聴結果ではオルトフォンが5.0ポイントの最高得点で次にオーディオテクニカのAT-1が4.9ポイントを獲得、他のカートリッジは3.0ポイントぐらいであったのを頭の中に今でも鮮明に覚えている。
オルトフォンとの鳴き比べではほぼ互角であったと言うことは松下氏がこのカートリッジを開発した意気込みと情熱には相当のものではなかったか、その後AT-1発売後に改良型の後継機AT-3が発売された。このカートリッジはワンタッチでの針交換ができるプラグインタイプに変更されたためAT-1は製品抹消されたと思うのだがこの件に関してテクニカにお勤めの方で詳しくご存じであれば教えてほしい、AT-1は当時販売されても数が少なくマニアの方もほとんど持っていないのではないか、ショップやヤオフクのオークションでもほとんど見かけないタイプで仮にあったとしてもカンチレバーが曲がってしまっているか針が折れてしまったので廃棄処分してしまったのでは、そう思うと「まぼろし」のカートリッジの一つではないだろうか、もし巷に少数しか現存しないとなればテレビの人気番組「なんでも鑑定団」に出品してもおかしくは無いと思うのだが、ひょっとすると現役の方が俺も「持っているぞ」と言われるかも・・・・
日本のオーディオ界のトッププランナーとしてリードしてきた松下秀雄氏の情熱とバイタリティーには凄さを感じます。松下秀雄氏は現役を退かれてもこの方の偉大さは後世に残るものでいつまでも長生きしてほしいと切に願う一人です。
オーディオテクニカ AT-1,AT-3の音
早速このカートリッジの試聴になります。このカートリッジの発売が1962年11月ですから完全な「アンティーク・カートリッジ」ですね、当時のステレオの音はどんな音が流行していたのだろうか・・・・
※AT-1,AT-3カートリッジは「オーディオテクニカのあゆみ」の第一ページに写真付きで載っていますから一度検索して下さい。
今回使用したプレーヤーはみなさんがお持ち高級プレーヤーではなく前回のコラムに掲載したヤマハを使っての試聴になります。また比較試聴は同じオーディオテクニカのAT-3になります。
使用機材は
- プレーヤー
- ヤマハ GTシリーズ
- トンアーム
- パイオニア PA-70
- プリアンプ
- マランツ#7(Y下バージョン)
- メインアンプ
- PP5-400シングルアンプ、
- スピーカー
- ヴァイタボックス DU-120 30㎝コアキシャル
- SPボックス
- フィンランドバーチを採用したタンノイGRFタイプ
- 試聴レコード
- ヨーヨー・マ バッハ無伴奏チェロ、
ブレンデル バッハイタリア協奏曲
時を超えて聴くオーディオテクニカの音
50年の時を超えて早速AT-1,AT-3の比較試聴になります。まずはAT-3から試聴しました、ヨーヨー・マのチェロの響きと胴鳴りが大変心地よく鳴り押し出しの強い鳴り方には感動すら覚えます。ブレンデルのバッハはピアノの余韻とフェルト感も見事に再生されます。音は一言で言うと中低域に厚みのある芳醇な鳴り方で多少繊細感が少ないMM型らしい音作りでクラシックもジャズもベストマッチします。高域はあまり伸びていなくて多少ナローなところもありますが現代でも十分使えそうですがただ一つの難点としては本体のみを上から見ますと「俺の大嫌いなゴキブリ」に見える感じがしないでもない、これが欠点だ!
AT-1の後継機、AT-3です。
これがまぼろしのカートリッジでAT-1になります。出力電圧は5mmVで大変使いやすいカートリッジ、針圧は2~3gでプラスチックのモールドタイプになりますがこの当時の製品としては良く出来ていると関心しています。
AT-1の試聴
私が拝読した雑誌のカートリッジの比較試聴で高得点を挙げたと評価されたのは本当なのだろうか、もし偽りなら50年近く騙されてきたのか、不安と期待を交えながら早速トンアームにセットして試聴を開始した、
50年近くの時を超えて出てきた音は腰の強い押し出し感のある見事な音で先程紹介したAT-3とは音の鳴り方が若干異なる、ヨーヨー・マのバッハの音はAT-1とAT-3を比較するとAT-3はどちらかと言えば低域と高域を持ちあげたドンシャリ傾向だが俗に言う低域と高域が伸びているような印象になりその点AT-1は大人しく鳴るがドンシャリとは違う素直な音で欠点という欠点は見当たらない素晴らしい!ブレンデルのピアノも自然体な鳴り方で誇張性は感じないのと躍動感に満ち溢れ指先の動きが再現されあたかも目の前で弾いているような錯覚にとらわれるカートリッジの一つで申し分ない、AT-3以降はどちらかと言えば音の傾向は時代の流れでドンシャリが流行し始めたのかも?私の好みとしてはAT-1に軍配があがるが他の方が聴けば評価は逆転するのでは・・・・
確かにAT-1は素晴らしいカートリッジの一つで超が付くほどのレア性を秘めているので私個人としては大変貴重な物になるので交換針まで入手できたので末長く愛用したいと思っている。
このカートリッジに関して当時の松下氏の執念とも思える魂のこもったカートリッジで音作りは現代のカートリッジと音の世界が違っていた、このAT-1も珍しい珍品だ、ヴィンテージショップで尋ねても一度も扱っかったこともないらしいからこれをヴィンテージショップに持っていったら二束三文で買い取り高額で販売するから間違っても絶対売らないぞ!
このカートリッジも先のAT-3と同様で音は良いのだがパッと見た目がゴキブリに見えるのが見た目の欠点だ!
※後にオルトフォンSPU-GEとDENONを交えたAT-1の対決では面白い結果が出そうだ!
伝説のカートリッジメーカー
伝説のカートリッジメーカーと言えば皆さんご存知のサテン音響ではないだろうか、京都に本社を置くこのサテン音響の創始者は塚本謙吉氏になります。この方も松下氏と同じ超が付くオーディオマニアと聞いています。塚本氏が考案したオルトフォンに代表される鉄とゴムを使わない独創的なアイデアとMCカートリッジで針交換ができしかも高出力のある画期的なカートリッジだ、
国内、海外に沢山の特許も取得したのは有名である。私も過去にNEAT音響のVS-1000Dを使用した経験がありますがこのカートリッジがサテン(SATIN)とは知りませんでした、今回ご紹介しますのはSATINのM-14Eカートリッジになります。早速このM-14Eを試聴しました、
ヨーヨー・マのチェロは非常に歪感の少ない爽やかな音でシルクの肌触りがぴったりなMCカートリッジらしいソフトな響き、またブレンデルのピアノも自然体な鳴り方で好みとしては二重丸!あたかもそこで演奏しているような錯覚さえ感じられる。ソースはどちらかと言えばクラシックに合いそうで特に室内楽や声楽は逸品モノ、このカートリッジには正直「参りました!」の一言、このSATINカートリッジを試聴すると現代の法外な価格のMCカートリッジが異常とも思える。これはスピーカーに関しても当てはまる。
最近の海外スピーカーは外観や知名度で購買力をそそるがボックスの中を見ると貧弱なネットワークと「どら焼き」のようなお粗末なフェライトマグネットを採用しているのにも係わらずあたかも高級感を装っているのが多すぎる。高級スピーカーならチコナルとは言わないがアルニコマグネットぐらい実装したらどうなのか、
カートリッジに関してはオーディオテクニカやDENONなどの良心的な価格帯があるがこれが普通ではないだろうか、名ばかりな高級カートリッジはダイヤモンドや純金を使ったジュエリーカートリッジなら価格がべらぼうに高くても当然だが、どうせ法外な価格で販売するならダイヤモンドを散りばめたり、純金のボディを使った豪華絢爛なカートリッジを出せば面白いかも?
SATINのM-14Eカートリッジで歪を追放するためゴムと鉄芯を使わないMCとしては付加価値が高い、
その点SATINのような独創的なアイデアを取り入れるような次世代のカートリッジを出して見ろ!と言いたくもなる。このSATINのM-14Eをじっくり試聴するとそのような印象が痛切に感じられ.塚本氏のMCカートリッジへの執念がひしひしと伝わってくるのは私だけではない、SATINカートリッジこそ日本を代表する「オーディオの遺産」ではなかろうか、これもオルトフォンSPUとDENONのMCカートリッジのトリプル対決が楽しみだ、
※この後SATINのM8-45を手に入れて試聴しましたがこれは一言凄い!カートリッジで音質、音色ともに素晴らしい、オルトフォンのSPUと甲乙をつけがたいSATINの初期型カートリッジである。発売は1965年ごろで当時の価格が何と!「32,000円」高いですねぇ
昭和38年からタイムスリップしたカートリッジ
今回、最後にご紹介しますのは昭和38年ごろに発売され過去の名声を持つSONOVOX社のMMカートリッジで型番は「SX-2」になります。まずは写真を見て下さい。
当時の状態で元箱、ケースホルダー、交換針、本体がセットされたものです。カートリッジ本体も非常に良い極上品で前のオーナーが大切に保管されていたのではないか、またこのカートリッジのマニュアル書もありこの中でもうお亡くなりになりました有名な「池田圭氏」のコンプライアンスについての論文が名前入りで載っている大変貴重なマニュアル書です。
SX-2の詳細は当時の特許取得済みのリング状マグネットを採用したのとスーパーパーマロイを使ってのノイズ低減を図ったらしい、
交換針は残念ながら針先チップが欠けていたがオリジナルの交換針はもう手に入れることは不可能に近いが、この針先チップだけを「JICO」にお願いしてチップ交換しました、これで余程の事がない限り一生使えるのではないか、
カートリッジ本体も私の好きなゴールド仕上げで大きな傷は見当たらなく40数年の時を超えてタイムスリップしたような錯覚さえ感じますがこんなレアな元箱付きのカートリッジは見たことがありません。このような物はオーディオ博物館やカートリッジコレクターでもまず持っていないのではないか、皆さんはこれをネットオークションに出品したら相当な金額で落札になるぞ!と思われますが残念ながら超大切に保管します。まぁカートリッジは音を聴いてなんぼの世界ですけどね・・・・・
早速このSONOVOX SX-2を試聴してみました、音はずばり!ゴリゴリ感の特徴のある豪快な音ですが室内楽特にチェロやピアノを聴きますと絶品です。またジャズにも合う押し出しのある音で現代のカートリッジとは一線を引くレトロ色の強い音色です。このカートリッジをオーディオ博物館などが展示をしたいと依頼があれば喜んで寄付したいと思っています。
珍しく元箱まであるソノボックスのカートリッジですが残念ながらパッケージが破れてしまっていますがこれだけでも十分価値があるのではないか、
大変状態の良いものでこのカートリッジは「懐かしいオーディオ機器CM・写真集カートリッジ編1」にも掲載されています。
本体を収容するケースも美品状態で付いています。またオリジナルの交換針も付属で付いている。
元箱、ケース、交換針、マニュアル書の4点セットですがこのような当時の状態を維持しているのは驚異でもあります。
次回のコラム予定
今回は4つのレアなカートリッジの試聴でしたが当時はほしくても少ない給料では買えない時代であったが、今このような当時の製品が小遣いの範囲内で買えるのは有り難いことである。カートリッジ、スピーカーは1960~1970年代に完成の域に達していると思うが最新のハイテクの素材を使った高価なカートリッジも1960年代と設計の基本は同じだ、一世を風靡した当時の製品にはノスタルジーを感じます。次回は最近購入した現行品のハイテクカートリッジでDENONのフラグシップモデル最高級カートリッジ「DL-S1」の音と歴代の兵(つわもの)カートリッジとの新旧の鳴き比べをやります。
また前回のコラムで良いトランスが手に入らなければMCはやらないと書きましたが極上サウンドで鳴るMCトランスが安く手に入りましたので合わせてご報告させていただきます。お楽しみに!