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LEGO SPEAKER 第41報 ≪第40報 第42報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第41報

無指向性LEGOスピーカー51号機
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1. LEGOのピラミッド |
先日、私のFacebookページをご覧いただいている方からご意見を頂戴した。 「SPを意識しない置物のような感じのSPはどうでしょう。無指向性のSPです。
70年代のJBLにあったアクエリアス4を小型化した感じです。」 ご提案ありがとうございました。早速採用させていただきます。
JBL 109 AQUARIUS Ⅳは私も実物を一度オーディオフェアで聴いたことがあるが、と ても面白い構造のトールスタイルスピーカーシステムであった。 リフレクターと呼ばれる円錐の反射器で上向きのスピーカーユニットからの反射音を全周囲に放射する方式である。 実物は複雑な構造だが、これをシンプルにして51号機は製作してみたい。
無指向性システムはスピーカーの存在を忘れる独特の音場再生を可能にする。 無指向性スピーカーの製作でキーパーツとなるのはリフレクターであるが、LEGOでピラミッドを造ってみた(写真2)。本当は円錐形のコーンにしたいのだが、これは断念・・・。 なんとなく屋根っぽいのは、本来は屋根用のLEGOブロックだからである。だが、スロープ角度は45度で都合が良い、 さらに、このスロープブロックの表面には粒状性があり、良い感じの拡散効果になると思う。
ただ、一つ解決しなければならないことがあるのだ。
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2.51号機の設計 |
無指向性に近いコンセプトのスピーカーシステムは以前にも製作したことがある。 双指向特性コンパクトLEGOスピーカー34号機である。(LEGOスピーカーの製作 第25報参照)
このモデルはスピーカーユニットを前後に装着して双指向性を持たせたものであった。 さらに左右にパッシブラジエーターユニットも搭載して低音域では無指向性に近い動作を狙ってみた。 評価はやはり音場感に優れていたが、かなりコンパクトにしたので低音域の量感が不足していた。
おそらく、無指向性スピーカーシステムは定位の大切なボーカル曲よりはホールで演奏されるオーケストラ曲に マッチしていると思う。なので、低音域の量感がもっと欲しくなる。今回は大型のエンクロージャにしてみたい。
無指向性スピーカーシステム51号機の構造図を図1に示す。
横に描いているが、実際はこれを立てて使用する。8cmフルレンジユニット搭載の高さ435mmのコラムタイプデザインで、構造はシンプルなバスレフ方式のコラムに無指向性リフレクターを被せたものだ。
先に述べた一つ解決しなければならないこととは?・・・このリフレクターを下向きに取り付ける必要が あることなのだ。つまり、LEGOブロックの裏側、凹面どうしを固定しなければならない。この方法には裏技であるが、 写真3のように小さな三角タイルブロックを用いる。 これをLEGOブロック裏面の角にはめ込むと裏面どうしを付けることができるのである。 (レゴビルダー的にはマナー違反?)
内部にはソフトボールを3個入れた48号機からのエアサス・バスレフ方式。 (後で述べるが3個は入れすぎだった)
一般的に無指向性システムと言えば、このように上向きのスピーカーユニットの上部にリフレクターを 乗せたトールスタイルになるだろう。 久しぶりのLEGOブロック積み上げ作成によるバーティカルタイプのエンクロージャである。 バスレフダクトが四角いコラムの一角に収められているのが構造上の特徴である。 435mmと背の高いサイズのわりに内容積が1.2リットルしかないのは壁厚の厚いLEGOエンクロージャの欠点だ。
今回使用するスピーカーユニットはFOSTEXの定番8cmフルレンジユニットのFE83En(写真4)。 私が30年以上前、学生時代に始めてスピーカーシステムを自作したのも、このスピーカーユニット(旧バージョン)で あった。歴史のある、忘れられないスピーカーユニットなのだ。 プレスフレームだが、マグネットも大きく頼もしい。振動板コーンはバナナの繊維を含んだ紙で明るい音色が特徴。 しかし、最低共振周波数foは165Hzと8cmユニットにしては高く、エンクロージャを工夫しないと低音域が 出にくいのが少し難しいところである。
このスピーカーユニットは端子がプラス、マイナスとも同じサイズであるが、 マイナス側が小さい端子のユニットも多い。接続時に間違えやすいのも気になる。 また、写真の様に接続端子がマグネットに接触してショートしないようにフェルトシールを貼った。
バスレフダクトの共振周波数は内容積1.2リットル、ダクト長11cmで70Hzとしたがユニットfoの165Hzには ちょっと低すぎるかもしれない。調整が必要になるだろう。 トップヘビーな構造なので転倒対策にベースプレートをひとまわり大きくしている。
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3.51号機の製作 |
準備した全部品を写真5に示す。カラフルなフレームパーツが目立っているが、 本機はLEGOブロック使用量も多いモデルだ。
写真6はトップパネルである。この下部にリフレクターが装着される。 細い4本柱の固定なのであまり強度は取れない。さらにスピーカーユニットとの干渉を避けるために接合面積も少なくなってしまった。この部分に力が加わらないように注意して使用する必要がある。
スピーカーユニットフレーム(写真7)はスピーカーユニットの固定空間を確保するために1ピッチ8mmで造る。 4隅にネジ止めのためのツバを付け、上面のタイルブロックの一部がスピーカーユニットに接触するため 角落とし処理をしている。リフレクターモジュールを乗せるための上面4角にはタイルブロックを付けない。
写真8のベースプレートにはバスレフポートとターミナルの固定穴を設ける。 裏面には足となるプレートブロックを付け、4点支持なので薄いウレタンシールを貼りガタ防止とすべり止めとする。ベースプレートの高さ4段である。
本機はオブジェとしてのデザインコンセプトから、フレームとなるコラム部分はカラーブロックを用いて カラフルにデザインした。ランダムなボーダーカラーである。
下側フレーム(写真9)にはバスレフダクトを一角部分に造りこんであり、ダクトのサイズは16×16mmで、 ダクト部の長さは10段96mmである。さらにダクトの入り口に3段を追加して全長は13段124.8mmとなる。
上側フレーム(写真10)はただの枠構造で、長さは20段192mm。
その他の部品はソフトボール、ターミナル、配線ケーブル、ネジ類である。(写真11)
組み立てはまずリフレクターモジュールを造る。(写真12)
51号機のキーとなるパーツである。この下にスピーカーユニットを上向きに取り付けて、 ピラミッド形状のリフレクターが四方に音を反射して無指向性の音を放射する。
効率良く反射できるのは中高音の音域だと考えられるので、低音域、高音域の減衰が予想されるが、 低音域はバスレフ方式で強化したい。
「裏技」でピラミッドをしっかりと固定する。(写真13)
スピーカーユニットフレームにスピーカーユニットを取り付ける。(写真14、15) M4ボルト4本で確実に固定したい。
ベースプレートにターミナルを固定する。(写真16)
さらにターミナルに配線する。(写真17)
ベースプレートに下側フレームを取り付ける。(写真18、写真19)
このとき、バスレフダクトの向きが合うように注意する。バスレフダクトの位置は左右で変えてあるのだ。
上側フレームをつないで(写真20、21)、フレームの中にソフトボールを3個入れる(写真22)。 中はソフトボールでいっぱいになっている。そして、スピーカーユニットモジュールを取り付ける。 (写真23、24)
組み立て時はベースプレートの足を一旦外して、しっかりと上から押し付け固定した。
最上段にリフレクターモジュールを取り付けて組み立ては完了である。(写真25)
51号機の外観はトールスタイルのコラムデザインで、オブジェのような雰囲気を醸し出している。(写真26,27)
正面からスピーカーユニットが見えないというシステムも面白い。 あえて言わなければ、だれもこれがスピーカーシステムであるとは思わないだろう。さあ音はどうだろうか?
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4.試聴と調整 |
お楽しみの試聴・・・ところが、さっそくトラブル発生!
リフレクターとコーン紙のクリアランスを3mmほどに取っていたが、大音量の振幅で接触してしまった。 センターキャップが凹んでしまい・・・トホホ。
思っていたよりも振動板の振幅は大きいようだ。クリアランスを6mmに増やして再度試聴開始。(写真28)
またまた、問題発生! バスレフが十分に機能していない・・・。
低音が明らかに弱いのである。下側フレームを切り詰めてダクト長を短くし、共振周波数を上げて見たが効果が無い。(写真29)
どうやらコラムの内部にソフトボールを3個も詰め込んだので、気流抵抗が大きく、 バスレフ動作に影響を与えているようだ。ボールのサイズはコラムの内壁ぎりぎりなので、 4隅しか空間が空いていない。エアサス・バスレフどころか、恥ずかしながらこれは基本的なミスである。
図2に示すように、ボールを1個に減らすとともに、空気抜けの問題の無いスポンジボールに変更した。 また、挿入位置もコラムの下部にして気流抵抗の影響が生じないように改良し、高さも5cm延長して486mmとして、 内容積を1.5リットルに増加した。さらにバスレフ共振周波数も低すぎたので、ダクト長を7cmに縮めて76Hzに 調整している。 この改良後の51号機を写真30、31に示す。一見、あまり変化はないが、よりトールスタイルになった。
改良後の音はバスレフ動作が改善して、低音域も良くなってきた。
このスピーカーシステムはとても個性的で面白い音がする。
だが、文句を言えばきりがない。
・ 低音域の量感が充分とは言えない
・ 中高音が強くてキレのある高音が出ない
・ 大音量でスピーカーユニットがバタついて破綻する
・ 音像定位が不明確
ボーカル曲を聴くと、シンガーの口が大きく感じられてしまう。ところが、クラシック、特にバロックや 室内楽がとても良い。なんとも心地のよい音。
・・・この、音に、音楽に包まれる感じ。どこかで体験したことあるな? と思ったら、コンサートホールで聴く 演奏会の音だ。演奏会では視覚があるから音像はシャープに定位するが、目を閉じると音に包まれていると感じる。 楽器の多くは指向性が無く、ホール中に音を飛ばしている。反射波の割合がとても多いのである。 無指向性システムはこのホールの音を再現する手段であると思える。51号機を聴いたあとで 普通のスピーカーシステムに戻すと、スピーカーの存在が明確に認識されてしまい、違和感を生じるほどである。 高い効果の得られる音楽は限られるが、無指向性システムはキワモノではなく、むしろ正しい音なのではないかと 感じた。
これは、1台は持っていたいスピーカーシステムだ。
<51号機 基本仕様>
・ 形式:無指向性スピーカーシステム
・ 方式:リフレクター放射&エアサス・バスレフ方式
・ 組み立て方法:バーティカルタイプ(垂直組み立て)
・ 使用ユニット:FOSTEX FE83En 8cmペーパーコーンフルレンジ
・ 外形寸法:W128mm H486mm D128mm(ターミナル部除く)
・ 実効内容積:約1.5リットル
・ バスレフダクト長:7cm
・ バスレフ共振周波数:76Hz
・ 内蔵ボール:PS-2289 1個(7cmφスポンジ)
・ システムインピーダンス:8Ω
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5.さらなる改良 |
本機はクラシック音楽のリスニングに適している。だが、そうするともっと低音が欲しくなる。 フルオーケストラのスケール感がどうも出ない。
その理由はコンパクトなエンクロージャ内容積の影響もあるが、最低共振周波数foが165Hzと高めの フルレンジユニットを採用したことも理由の一つであると考えられる。 このスピーカーユニットは、本来もっと大きな箱が必要なのだ。そこで、低音域の再生に定評のある DIY AUDIOのフルレンジユニットSA/F80AMG(写真32)に載せ変えてみることにした。8cmマグネシウム合金の 振動板による、こちらのスピーカーユニットのfoは89.3Hzと十分に低く期待できる。
しかし、マグネットが非常に大きいので高さをさらに5段分延長して収納スペースを確保することが必要となった。 この結果、高さは534mmとますますトールスタイルになった。
スピーカーユニットを交換した51号機の音は低音域の迫力も強化され、メタルコーンだがクセの少ない 高音域とともに、とても魅力的なスピーカーシステムに変貌した。(写真33)
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6.おわりに |
部屋中に音楽が満ち溢れ、ゆったりとオーケストラ曲を楽しむ至福の時間。
リスニングポイントが限定されないので自由に音楽を楽しむことができる。
無指向性スピーカーシステム51号機はその独自のスタイルも、ランダムボーダーな色彩も面白い オブジェスピーカーシステムとして完成した。なによりその音が視覚的とともに、スピーカーシステムを リスナーに意識させない点がとても良いのである。
(2016.1.2)

意識されないオブジェスピーカーシステム