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LEGO SPEAKER 第46報 ≪第45報 第47報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第46報
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1.はじめに |
前回報告したスーパートゥイーターを追加した55号機は高音域に関しては十分なレスポンスとなった。ところが、そのために周波数特性上のバランスは崩れ、相対的に低音域の不足がより感じられるようになってしまった。8cmフルレンジのコンパクトスピーカーシステムではしかたない? では低音はあきらめるのか?
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2.3D理論 |
今回は55号機の低音域改善手段としてサブウーハーシステムを製作する。かつて3D方式と呼ばれた(現在なら3Dは立体音響?)ウーハーシステムを左右で共通にして、高音域をサテライトスピーカーで再生する方式だ。
だが、この方式は個人的にはあまり好きではなかった。低音域だけが左右のスピーカーシステムと異なった場所から放射されるので音像定位や音場感に影響が出ると考えたからだ。しかし、低音域は定位にはあまり影響しないと言われており、メリットもいろいろと考えられる
<3D方式のメリット>
・ 低音域専用のエンクロージャを自由にセッティングできる
・ 床に直接設置することで低音域が増強される(低音反射を有効に利用できる)
・ 別のパワーアンプで駆動すれば低音域のレベルを任意に調整可能
検討図を描いて見た。(図1)
2本のウーハーユニットは左右のメインシステムに接続されるのでターミナルは2セットある。LEGOスピーカーとしてコンパクトに構成できるように10cmウーハーユニットを使用する。スピーカーユニット背面のバスレフ方式と、前面にもエンクロージャを設けてバスレフ方式とした「ASW」などと呼ばれる方式である。「ASW」は商品名なので、ここではツインバスレフ方式と呼称する。(一般的にはケルトン方式と言う)
図の構成で前面のバスレフ1がバスレフ周波数83Hz、背面のバスレフ2がバスレフ周波数99Hzでこの2点を中心に低音域を増強しようというサブウーハーシステムである。
<ツインバスレフ方式のメリット>
・ ウーハーユニットが露出しないアコーステックフィルターを構成しているので電気的なLPFが不要
・ このため効率が良く低音域の音質が向上する
・ バスレフ周波数を2点選択できるので低音の増強範囲が広い
だが、ひとつ気になる点がある。この2つのバスレフダクトから放射される低音の位相が反転しているのだ。文献を調べると、このため両者のバスレフ共振周波数を十分に離す必要があると記されている。また、ダクト位置も離す必要があるだろう。
それにしてもこの検討図のデザインでは面白みがないなぁ。
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3.設計 |
LEGOで造るからにはオリジナリティを出したいといつも考えている。ただのハコでは面白くないのだ。
サブウーハー56号機のコンセプトは・・・
・ コンパクトな3Dウーハーシステム
・ ツインバスレフ方式による広い低音域範囲での増強
・ もちろんエアサス・バスレフ方式採用
・ 完璧なシールを実現した高効率バスレフエンクロージャなのだ。
検討して描いた構成図を図2に示す。とても小さく見えるが、途中の部分を省略したためで実際は長さ48cmの細長い筒型デザインである。
2本の10cmウーハーユニットは向かい合わせに配置され、コーンがソロバンのタマのような形状で駆動されるように入力信号を左右チャンネルで位相反転して加える。
低音が左右チャンネルで異なるとレスポンスの低下や歪みを生じるが、ほとんどのソースでは低音に左右差は少ないという考え方である。
この設計ではバスレフ1は共振周波数60Hz、バスレフ2は100Hzとしてみた。バスレフ1側が約2倍の長さになっているのだ。
カーペットの床に直接置くことを想定して、3本のスパイクレッグを設けている。
この56号機ではいろいろと新たな試みをしているのだが、詳細は以下で解説してゆく。
今回使用するウーハーユニットはFOSTEXのFK10Wである(写真2)。これはコイズミ無線とのコラボ商品と言うことであるが、10cmサイズのウーハーユニットでは56号機には最適と思われるものである。
フレームは定番FE103と同一のようで、プレスだが固定しやすい。コーン紙も同じようなバナナ繊維入りパルプで、逆ドームのセンターキャップがデザインのポイント。マグネットも大きく頼もしい。foは64Hzでこのサイズでは十分である。
また、本機のようなメインシステムにぶら下がる接続のサブウーハーシステムでは8Ωであることも必須条件だ。
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4.検討事項 |
本機での新たな試み、その1はガスケットの採用である。前回の55号機では密閉性の改善に熱可塑性のシリコン樹脂を用いた。パテの様に利用できて有用だが、見た目が良くないのと作業時に火傷しそうでよろしくない。
エンクロージャ密閉のためにはフレームの内面にマスキングテープを貼ることで、この部分は解決できる。リアパネルやバッフルパネルもシンプルな形状の部分はこの方法でいけるだろう。問題はスピーカーユニットの固定部分やターミナルの穴、そして、リアパネルやバッフルパネルの接合部の気密性である。
このような接合部の気密性確保には一般的にはガスケットと呼ばれるパッキンを用いる。ゴムなどの弾性体を挟むことで密着させるのである。私はゴム素材の専門家ではないのでどのような素材が最適かわからない。そこで、3種類の薄いゴムシートを入手して試してみることにした。方法は0.5mmの粘着材付きゴムシートを1mm幅にカッター台で裁断し、LEGOブロック間に挟んでみた。(写真3)
入手したゴムシートはニトリルゴム(青)、クロロブレンゴム(黄)、エチレンプロピレンゴム(赤)である。ニトリルゴムは比較的硬質で作業性は良いが弾性は少ない。クロロブレンゴムはいかにもゴムといった感じの柔らかな素材でフニャフニャして作業性が良くない。においも気になる。エチレンプロピレンゴムは中間的な感じで作業は問題ないが接合部のコンプライアンスは増えてしまう。密閉性の確保には弾性が重要だが、この場合は緩みの原因となる。また、エンクロージャの強度低下も気になるところなので、弾性は少ないほうが適していると言える。したがって、ニトリルゴムを選択することにした。
このゴムガスケットを接合面に貼ることで密閉性を改善できるだろう。また、懸念していた0.5mmの厚さによるLEGOブロックの接合強度の緩みは問題ないことがわかった。 ニトリルゴムの経年変化やABS樹脂に対する侵食の心配はあるが、この素材を採用することにする。
世界でもLEGOブロックをガスケット付きで使用している人間は私くらいかな?
本機での新たな試み、その2。LEGOブロックは上面のポッチをタイルブロックで隠せば5面が化粧面となる。裏面にも使えるタイルブロックがあるが、きわめて高価で一般的でない。そこで、裏面を向かい合わせて固定して6面化粧面のエンクロージャを実現する。
写真4はスピーカーユニットを固定するスピーカーフレームであるが、裏面の2箇所に51号機(第41報)でも採用した写真赤丸の裏技ブロックが仕込んである。これでずれなく裏面どうしを装着できる。さらに先に示した構造図にあるように対向して2本のスピーカーユニットをボルトで締めるので固定は完璧である。
<56号機 基本仕様>
・ 形式:ツインバスレフサブウーハーシステム
・ 方式:対向配置エアサス・バスレフ方式
・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・ 使用ユニット:FOSTEX FK10W 10cmペーパーコーンウーハー
・ 外形寸法:W144mm H144mm D480mm(ターミナル部除く)
・ 実効内容積:1.98リットル、1.24リットル
・ バスレフダクト長:20cm、10cm
・ バスレフ共振周波数:60Hz、100Hz
・ 内蔵ボール:PS-2289 2個(7cmφスポンジ)
・ システムインピーダンス:8Ω
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5.製作 |
56号機の全部品を写真5に示す。個々の部品を解説する。
写真6は前述のスピーカーフレームを対向して接合した部品である。スピーカーユニットのフランジと接する部分はタイルブロックを貼って密閉性を保つ。固定穴位置の干渉部分はLEGO ブロックに加工を施している。細かな部分であるが、内面にはマスキングテープを貼って処理している。写真を良く見るとブロック上面の外周には1mm幅のガスケットが見える。対向構造を有するLEGOスピーカー初の部品である。
ミドルフレーム(写真7)はスピーカーユニットのマグネット収納空間であり2個使用する。ターミナルを取り付ける穴がそれぞれに2つ開いている。
内面のマスキングテープ処理とLEGOブロック上面の外周および内周の2周囲に1mmガスケットテープを貼り付ける。(写真8)
写真9はフレームリングであり、2種類ある。このフレームリングはミドルフレームのサイズを変更するためのもので、スロープブロックを使っている。レッグとなる突起が3箇所にあり、3点支持で本体を支持する。
ミドルフレームと同様にマスキング処理を行う。(写真10)
バスレフ空間となるフレームは長さの違うフレームAとフレームBがある。(写真11)
この部分にはバスレフダクトが仕込まれるが、写真のようにダクトはカドにあり断面積は32×16mmサイズである。マスキング処理を丁寧に行う。(写真12)
このフレームの長さを変えればバスレフダクト長と内容積を変更できるので、バスレフ周波数を調整することができる。LEGOスピーカーならではの仕様であるが、本体全長も変わるのであまり長くなると強度が問題になると考えられる。
フタとなるリッドパネルもA、Bの2枚。形状は同一だが片側の表面に56号機のエンブレムを付ける。(写真13)
バスレフポートはスロープを設けて風切り音を抑える狙いである。リッドパネルの裏面にもマスキングテープを貼る。(写真14)
写真15はその他の部品で、ターミナル、配線ケーブル、ネジ類、スポンジボールである。2つのウーハーユニットをスピーカーフレームモジュールで貫通して固定する40mmの長いボルトが専用手配部品だ。
組み立て作業を行う。スピーカーフレームモジュールに2本のスピーカーユニットを向かい合わせてボルトで固定する。(写真16、17)
ユニット付属のパッキンを用いて密閉性にも配慮した。この2本のスピーカーユニットは左右チャンネルの信号を逆位相で接続してプッシュプルに協調して駆動される、本機の特徴的なドライバーモジュールである。(写真18)
ミドルフレームにターミナルを固定して配線する。(写真19,20)
注目は片方のターミナル接続ケーブルを赤黒反転していることだ。逆相接続のためである。内面のマスキングテープはターミナル穴にも貼ってあり、ターミナルが破って固定することでこの部分の密閉性は完全である。
フレームリングと組み合わせる。(写真21、22)
ガスケットにより0.5mm程度浮いた固定となるが、硬いゴム素材を選択したので接合に弱い感じはない。
ドライブモジュールの両面にミドルフレームを取り付けて本体部分の組み立てができた。
スピーカーユニットへの配線も行う。(写真23、24)
本体部は3点支持でがたつきをなくし、足はカーペットの床設置を考慮してスパイク状に尖らせてある。(写真25)
フレームA、Bの中にスポンジボールを入れて本体部に接合する。(写真26、27)
リッドパネルでフタをすれば組み立ては完了である。(写真28)
本機は細長い形状だが、ガスケット挿入によるLEGOブロック接合力の低下は問題無く、しっかりと組み立てられた。マスキングテープの貼り付け効果もあり、叩くとコツコツと締まった音のする良質なエンクロージャができた。(写真29)
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6.試聴と評価 |
組み上がった56号機の外観を写真30、31に示す。
スピーカーユニットの露出しない独特の外観からは、これがスピーカーシステムであるとは思えないだろう。
56号機だけをパワーアンプにつないで早速音出し。
・・・意外にも中高音域まで出てくる。これは大丈夫かな? と思ったが、逆位相の定位のない中高音域なのでメインスピーカーの邪魔はしないだろう。
それよりも思ったほど低音域が出ていない。2箇所のバスレフダクトからは風が吹き出してくるのでちゃんとバスレフ方式は機能しているようである。
音量をさらに上げてみたらバタバタと異音が出てきた・・・これは失敗作なのか??
メインのスピーカーシステムを接続していなかったのでパワーアンプの出力を上げすぎていたようだ。適切な音量ではバタつき音は出ない。だが、明らかに低音の量感が少ない。
この試聴はサブウーハーをテーブル上に設置して鳴らしていたが、床に直接設置すべきである。この方が低音再生には圧倒的に有利である。
ためしにコンパクトスピーカーシステムでも床に置くと低音の反射が増え、低音感が増す。さらに壁際に置くとますます低音が出てくる。最も効果的なのは部屋のカド隅で、すごい低音になる。この検証は簡単に行える。部屋の隅で音楽を聴くと低音がたまっていることがわかる。だからここにスピーカーを設置すると低音域が増強されるのである。
だが、普通はスピーカーシステムを床や部屋の隅に設置することはできない。大切な高音域のバランスが悪くなり、音像定位や音場感が損なわれるからである。
・・・そうなのだ、サブウーハーシステムはこの低音放射に有利な自由な設置が可能であることこそが最大のメリットなのである。
特性の測定を行おう。本機のインピーダンス特性を測定するにあたり悩んでしまった。この56号機は左右のメインスピーカーシステムに並列に接続して使用する。つまり左右チャンネルのパワーアンプで駆動されるわけだ。ここでインピーダンス特性を片側の入力端子で測定したのでは正しい結果は出ない。もう一方のスピーカーユニットが機械的な負荷になってしまうのだ。そこで、2組ある入力端子を互いに接続して同時駆動状態で測定することにした。
インピーダンス測定結果を図3に示すが、この測定方法のためにインピーダンス値が4Ωになっている。
測定結果からわかることは、まず、本来64Hzであったスピーカーユニットのfoが80Hz程度に上昇しているようである。これは内容積の小さなエンクロージャに閉じ込めたためにコンプライアンスが変化したのであろう。
バスレフ共振周波数は100Hz付近の一点しか見えない。設計では60Hzにもう一点のバスレフ共振周波数が存在するはずであるが、100Hz点の共振に対して共振効率が低いためか特性には現れていない。あるいはバスレフ共振のためのエネルギーが100Hz点にほとんど食われてしまっているのかもしれない。
しかし、残念なのはバスレフ共振のQ値が思ったほど高くないことである。デップが深くないのだ。まだまだエア漏れを完全には防げていない。新たなガスケット方式も不十分であった・・・本当に完全な密閉化は困難である。
参考までにあえて方チャンネルの入力極性を入れ替えて、同相駆動で測定したインピーダンス特性を図4に示す。低音域の共振特性が相殺されて消えている。動作は正常であると判断できる。
周波数特性の測定にあたっても悩んでしまった。通常のようにスピーカースタンドに乗せてスピーカーユニット軸上50cmの位置に測定マイクをセッティングしたのでは本来の低音域特性とはならない。高音域の漏洩も大きいだろう。そもそもこのシステムにはスピーカーユニットの正面がない。
そこで、リスニングルームで試聴位置にマイクをセッティングして測定することにした。 実際のリスニング状態と同様にテーブルの左右にメインスピーカーシステムである55号機+スーパートゥイーターを置き、その中央床面に本56号機サブウーハーシステムをセットした状態での測定である。このため、これまでの周波数測定結果と異なり部屋の壁面反射による特性影響が違った結果となっている。しかし、今回はサブウーハーの有無での相対比較なので問題はないだろう。
この測定結果を見ると、赤ラインの55号機単体特性と比較して青ラインの総合特性では200Hz程度から下の低音域のレスポンスが改善されていることがわかる。
100Hzで+4dB、80Hzで+5dBといったところである。1kHzに対する-10dB再生帯域は75Hzから70Hzに5Hzほど伸びている。
まあ、これほどの仕掛けを用意してこの程度かと言う感じではあるが、聴感上では明らかに低音域特性が改善しているのだ。
緑ラインのサブウーハー単体の周波数特性を見ると、90Hz付近を中心にしたレスポンスがあり、70Hz付近でのレスポンスもあることから100Hzのバスレフダクト2のみではなく、60Hzのバスレフダクト1も効いているものと考えられる。
バスレフダクト1の共振周波数はもっと高くても良さそうだが、ダクト2との干渉も避けたいところだ。また、音像定位に影響する中高音域の漏洩は十分に抑えられていることがわかる。
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7.まとめ |
スーパートゥイーターオプション付きの55号機+56号機のフルシステムで気に入った音楽を聴く。やっぱり低音の充実は効果的だ。もうサブウーハーシステム56号機なしでは聴けなくなる。
もちろん、定位感への影響や低音の遅れも感じることもある。ただ、最後の胡椒の一振り、これがないと味気がないのだ。
サブウーハーシステムのセッティング状態で低音域の再生効率も変化するので結構大変だが、これも本機の面白みの一つと言える。
何より極小の55号機を目の前にして、このワイドレンジ再生がなんとも痛快なのである。
(2017.1.9)