LEGO SPEAKER 第20報

≪第19報 第21報≫

LEGOスピーカーの製作 第20報

LEGOスピーカー5周年記念モデル タンデムドライブ搭載28号機完成!
LEGOスピーカー5周年記念モデル
タンデムドライブ搭載28号機完成!

1. はじめに

 大橋チューンの24号機は今も素晴らしい音で鳴っている。このクオリティを超えることは容易ではない。しかし、常に上を目指さなければならないのだ。
 LEGOスピーカーの1号機は2007年の5月に完成した。それから5年、2012年の今年は5周年にあたる。この記念モデルが今回ご紹介する28号機なのである。LEGOスピーカー最高の音を追求した究極のニューモデル。それが28号機の開発コンセプトだ。今持てる最高の技術を集積して素晴らしい音のスピーカーを造りたい。今回もぼんぼるのだ。

2.これまでの系譜

 本報告も今回で第20報となる。いつもご覧いただき、ありがとうございます。
 第10報の時にもそれまでの経緯を振り返ったが、今回も簡単に過去の作品群をご紹介してみたい。
 表1~3にこれまでに製作した1号機から27号機の特徴と簡単なコメントをまとめてみた。

表1 LEGOスピーカー開発の歴史 その1
No 記載 形式・分類 コメント 評価
1 1報 タイプ:BH
ユニット:8FR
分類:T
記念すべきLEGOスピーカー1号機。
スリムなバックロードホーンだが低音増強効果は皆無。製作技術を確立し解体。
2 1報 タイプ:BH
ユニット:10FR
分類:T
大型化したバックロードホーン。ユニットの強化など改造を繰り返したがホーンロードがかからず失敗。記念品として保存される。 ×
3 1報 タイプ:共鳴管
ユニット:8FR
分類:T
3パイプによる共鳴管方式。3周波数共鳴は失敗したが効果は見出し、すぐに解体される。 ×
4 1報 タイプ:共鳴管
ユニット:10FR
分類:T
1.4mに大型化した共鳴管方式。LEGOスピーカー最大高さのモデル。低音に効果認め当時のメインシステムとして使用。後に26号機の素材となる。 ×
5 1報 タイプ:共鳴管
ユニット:8FR
分類:T
小型化した共鳴管方式。後にスパイラルホーンに改造。大きさの割には低音が出ず解体。 ×
6 1報 タイプ:密閉
ユニット:8FR
分類:T
活性炭吸音材を充填した密閉方式に挑戦。活性炭の高い効果を知る。10cmフルレンジに置換しスパイラルホーンに改造したが効果低く解体。 ×
7 1報 タイプ:バスレフ
ユニット:8FR
分類:T
三角錐デザインのバスレフ方式テストモデル。はじめてマトモな音が出た。評価を受けた記念すべきモデルで永久保存品。
8 2報 タイプ:バスレフ
ユニット:8FR
分類:R
コンパクトなバスレフ方式を実験。予想通り低音が出ず失敗。8cmフルレンジの標準ヘッドユニットをこのとき規格化。2モデル造ったが解体。 ×
9 3報 タイプ:BH
ユニット:8FR
分類:R
複雑なスパイラル構造を持つコンパクトバックロードホーン。しかしホーン長が短く低音は出ない。LEGOならではの構造で記念品として保存。 ×
10 4報 タイプ:BH
ユニット:8FR
分類:R
巻貝をイメージした大型のバックロードホーンを想定するも強度低くLEGOスピーカー最大の失敗作。グロテスクなデザインも×。すぐに解体。 ×

凡例 タイプ BH:バックロードホーン
ユニット 8FR:8cmフルレンジ 10FR:10cm
分類 T:テストモデル R:研究モデル Q:音質追求モデル
評価 -:評価不能 ×:失敗 △:効果あり ○:実用レベル ◎: 高い成果

表2 LEGOスピーカー開発の歴史 その2
No 記載 形式・分類 コメント 評価
11 5報 タイプ:BH
ユニット:8FR
分類:R
簡易スパイラルホーンの小型研究モデル。4種類のユニットで製作したが音は良くない。1台のみ現存。 ×
12 6報 タイプ:BH
ユニット:10FR
分類:Q
ショートスパイラル4本のバックロードホーンだったが動作はバスレフに近く、後にスパイラルドバスレフと命名。初の音質追求モデル。
13 6報 タイプ:Sバスレフ
ユニット:10FR
分類:R
10cmフルレンジのヘッドユニットだけで造ってみたシステム。見た目は良くない。 ×
14 7報 タイプ:Sバスレフ
ユニット:8FR
分類:R
超コンパクトなバスレフモデル。低音は期待できないが使いやすいサイズでLEGOスピーカーの一つの到達点。後に27号機となる。
15 8報 タイプ:Sバスレフ
ユニット:5FR
分類:R
さらに超小型を目指した研究モデル。さすがにやりすぎて音は悪い。2種類造ったが21号機と27号機の部品となった。
16 9報 タイプ:Sバスレフ
ユニット:10FR
分類:R
スパイラルドバスレフの基礎研究用モデル。ポート長や容積変更、ユニット置換など実験を繰り返した。当時のリファレンスモデルで音も良い。
17 9報 タイプ:バスレフ
ユニット:8FR
分類:R
JSP方式という4本ダクトのバスレフの一種である構造を実験したモデル。確かに効果は確認できた。
18 10報 タイプ:バスレフ
ユニット:8FR
分類:R
JSP方式を2本ダクトにして小型化を実験したモデル。サイズの割には低音が出るが音が良いとはいえない。 ×
19 11報 タイプ:BH
ユニット:10FR
分類:R
スパイラルホーンをシンメトリックにデザインしたモデル。手間をかけて製作したのに全く低音増強できず大失敗。 ×
20 12報 タイプ:BH
ユニット:8FR
分類:R
フロントホーンの効果を実験したモデル。極めて内容積の少ないバックロードホーンなので低音は出ないが独特の音がする。デザイン良く保存品。

凡例 タイプ BH:バックロードホーン Sバスレフ:スパイラルドバスレフ
ユニット 5FR:5cmフルレンジ 8FR:8cm 10FR:10cm
分類 T:テストモデル R:研究モデル Q:音質追求モデル
評価 -:評価不能 ×:失敗 △:効果あり ○:実用レベル ◎:高い成果

表3 LEGOスピーカー開発の歴史 その3
No 記載 形式・分類 コメント 評価
21 13報 タイプ:バスレフ
ユニット:BW
分類:R
バイブレータと5cmフルレンジを搭載した変則2ウェイバスレフ型。超小型での低音再生をねらったが音は歪っぽい。しかし可能性は確認。
22 14報 タイプ:逆BH
ユニット:10FR
分類:R
逆バックロードホーンの研究モデル。意外に低音感がある。クセのない音も好印象。エレガントなデザインで意匠も追求。
23 15報 タイプ:バスレフ
ユニット:8FR
分類:T
LEGOの入手性に配慮し、セットパーツでの製作テストモデル。その結果、カラフルなデザインモデルとなった。小型パーツが多く強度不足。 ×
24 16報 タイプ:バスレフ
ユニット:10W
分類:Q
10cmウーハー+2.8cmトゥイーターによる初の本格2ウェイモデル。シンプルなネットワークと高強度エンクロージャで高音質を達成。
25 17報 タイプ:密閉
ユニット:18W
分類:Q
名機NS-10Mをオマージュした25号機記念作品。18cmウーハーによる密閉型2ウェイで最大容積のモデルだが強度不足の問題も顕在化。
26 18報 タイプ:TD
ユニット:10FR
分類:R
10cmフルレンジ2本を前後に配置したタンデムドライブ方式の研究モデル。高い低音増強効果を確認したがクセも強く、音質的には問題。
27 19報 タイプ:TD
ユニット:8FR
分類:R
14号機と15号機を合体して製作した超コンパクトタンデムドライブ搭載モデル。サイズからすれば立派な音と評価でき、これも到達点。

凡例 タイプ 逆BH:逆バックロードホーン TD:タンデムドライブ
ユニット BW:バイブレーションウーハー 10W:10cmウーハー 18W:18cm
分類 T:テストモデル R:研究モデル Q:音質追求モデル
評価 -:評価不能 ×:失敗 △:効果あり ○:実用レベル ◎:高い成果



 文字ばかりで見づらい表になってすみません。表中の略号は凡例に示した。
過去の本報告を見返すと、それぞれに結構高い評価を与えている。しかし、これは製作者のバイアスと言うか親ばかという状態であって、今聴きなおすと聴くに堪えないひどい音がするモデルも多い。もちろん、この5年で私の評価レベルも上がったわけで、つねにハードルは高くなっている。LEGOで造ったにしては・・・とか、このサイズにしては・・・といった条件の下では評価できても絶対的な高音質ではないのだ。今回は反省を込めて絶対的な評価をしてみた。だから表は×ばかりである。この5年何してきたんだろう・・・。
 1号機から7号機まではテストモデルの時代であり、造る事そのものが目的であった。
音が出ればうれしいと言う状態である。LEGOを製作素材として種々のタイプのスピーカー方式を試してみたが、6号機まではすべて失敗。スピーカー設計のノウハウも経験もないのだからしかたがないが、今思えばひどい設計も多い。しかし、この失敗が多くの経験を与えてくれた。もちろん、一般的なスピーカー製作の上ではなく、LEGOという特殊な素材のシステムでの経験である。
そして、7号機でついに満足のできる作品が完成して、大橋氏に評価いただいたことは第1報にも記載したとおりである。
 LEGOがスピーカーの製作素材として有効であるとわかると、さまざまな構造を造ってみた。これが8号機から23号機までの研究・実験の時代である。
 LEGOの創作性を活かして自由なデザインを検討してみた。改造も容易で何度でも造り直せるので失敗も怖くない(だから失敗ばかりなのだが・・・)。初期はスパイラルホーンに注目した。LEGOならではの複雑な造形である。これがダンプドバスレフの一種であるスパイラルドバスレフという技術に発展する。しかしながら今聴きなおすと、どのモデルも効率が悪く低音不足である。どちらかというと音質よりもLEGOらしさを求めていた。世界中のどこにもないオリジナリティにあふれたスピーカーシステムが造りたかったのである。
 もう一つの目標もあった。コンパクト化である。小さくて音の良いスピーカーシステムは製作者の夢。現実的にはLEGOが高価で大量の入手が困難であるという背景もあるが、この開発にも力をそそいだ。
 ・・・だが、結局学んだことはバスレフシステムなどの常識的な手法が一番だということだ。奇をてらうと失敗する。先人たちは偉大なのである。
 24号機からはそれまでの経験を活かして高いクオリティを追求した円熟の時代に入る。
2ウェイシステムに挑戦し、最大サイズの25号機、そして私としては最新の技術となるタンデムドライブの採用へと続く。
 24号機では調整の難しさに困惑しヘルプをいただいたが、結果的に素晴らしいシステムとなり現在のリファレンスモデルで最高クオリティを誇る。
 25号機はNS-10Mという名機を手本にコピーモデルを作成したが、LEGOの構造強度の問題を経験した。特に大面積のリアパネルは弱くなり、ウーハーの背部には補強柱も立てられない。サイズという限界を知ったのである。
 タンデムドライブ初採用の26号機は完成当初には充実した低音に酔っていたが、評価しなおすとブーミーな低音である。同種の10cmフルレンジユニットを2本使ったのが要因かもしれない。タンデムドライブの効果としては超コンパクトな27号機の方が高い。求めていた小型化への挑戦の一つの回答となった。
 ・・・さて、今回の28号機はどうするか?ハードルは高い。LEGOスピーカー最高の音の追求なのだから。

3.28号機の設計 ~基礎検討~

 これまでの機種は主に低音の再生能力に注目してきた。比較的小型のスピーカーシステムでは低音の再生が困難だからだ。だが、当然高音も重要だ。
 私は、以前いくつかのトゥイーターを評価してみたことがあるが、そのとき最も気に入ったものはリボントゥイーターであった。それからはリボントゥイーターのファンになり、LEGOスピーカーを製作する以前の私のシステムにはリボントゥイーターが乗っている。
 リボントゥイーターというものはアルミ箔などの単純なリボンを振動板として用いるトゥイーターで、このリボンに音声信号を流して強力な磁界中で振動させる方式である。リボンは空気程度と極めて軽く、大変高いトランジェント(過度特性)が得られる。通常のコーン型やドーム型の振動板と異なり全面が平行に駆動される点もポイントである。
 実際に再生された高音は透き通ったようなクリアで歪の感じられない素晴らしいものである。リボンは1ターンのコイルとして動作するが、このインダクタンスは大変小さい。このままではユニットのインピーダンスが0.1Ω以下というような使えない状態になるので入力端子にインピーダンスマッチングトランスを挿入する。インピーダンスマッチングトランスとはこの0.1Ωを8Ω程度に変換するパーツである。したがってこのトランスの性能も音質に大きく影響する。だから一般的にリボントゥイーターは高価だ。
 このリボントゥイーターの使いにくさを改良したものがプリントコイル方式である。薄膜にコイルパターンをプリントすることで軽い振動板と実用的なインダクタンスを得ている。アルミ箔のリボンと比較すれば振動板に質量があるのでトランジェントは低下するが、ドーム型よりはるかに優れている。製品ではフォステクスからFT7RPという製品があり、フォステクスはリボントゥイーターと呼ばずにRP(Regulated Phase)方式と呼んでいる。こうした方式のトゥイーターの中でも比較的安価であり、インピーダンスも8Ωと使いやすいので今回はこのトゥイーターの採用をまず決定した。
 話が前後するが28号機の方式は小型2ウェイとして考えた。25号機の製作経験からLEGOでは大きなエンクロージャは強度が不足するので問題である。当然3ウェイなどのマルチウェイはねらえない。そうかと言ってフルレンジユニットは高音再生には小型振動板、低音再生には大面積、と要求が異なるので折衷案にせざるを得なく、音質の追求には2ウェイが有利と判断した。
 トゥイーターから選定したのであるが低音はどうするか?低音の再生には大面積ウーハーが有利であるが、小型のエンクロージャには入らない。また、こんなに優れているのにリボントゥイーターを採用した市販スピーカーシステムがあまり多くないのは、その価格以外にハイトランジェントのトゥイーターにマッチしたレスポンスの良いウーハーが無いからだと認識している。ウーハーの振動板は大きく重いほうが低音の再生帯域は伸びる。だが重い振動板がリボンのレスポンスに追従するはずがなく、高音と低音のスピードが合わないのだ。以上の検討から28号機で採用するウーハーは比較的小口径で振動板の軽いペーパーコーンのモデルを選定することにした。
 一般的にウーハーのコーンに採用される素材としては紙の他にポリプロピレンなどの樹脂とアルミなどの金属がある。振動板に要求される性能として強度と内部損失があり、強度は当然金属が一番だが内部損失が低く金属音が出てくる。樹脂は中間的だが紙よりは重い。軽い振動板でレスポンスを優先するとペーパーコーンなのだ。
 24号機ではエンクロージャのサイズから10cmと小型のペーパーコーンウーハー、フォステクスのFW108Nを用いた。本機ではエンクロージャのサイズを拡大することで1クラス上のウーハーを検討し、このクラスのペーパーコーンウーハーとしてWavecorのWF152BD04という15cmウーハーを選択した。このモデルはWavecorが開発したBalanced Driveと呼ぶ、磁気回路の形状に工夫をして歪を低減する技術を搭載した注目ユニットである。
 このウーハーを納めるエンクロージャサイズとしてW200mm、H300mm、D200mm程度を考え、大型化して強度の不足が問題となるエンクロージャのリアパネルは階段状に絞り込む構造として対応する。この構造でリアパネルの面積を抑えることができるが、サイズの割に内容積は減少する。15cmウーハーの強力な背圧を処理するには10リットル程度は欲しいのだが、計算では6リットル程度になり明らかに内容積不足でバスレフ方式でも動作が不安だ。そこで、今回もタンデムドライブを採用することにした。26号機と27号機の経験から同種のユニットのタンデムドライブではクセが増強するが、メインのユニットよりも小型の内部サブユニットで背圧減少を目的に利用すれば良い結果が期待できると考えている。
 サブユニットには実装サイズの関係から10cmフルレンジユニットを選択する。本来は目的からするとサブユニットも低音の再生能力の高いウーハーの方が有利かもしれないが、空気の圧力負荷の大きな内部サブユニットのレスポンスが遅いと意味がないのでメインのユニットよりも高速に動作するようにフルレンジユニットとし、コストパフォーマンスからフォステクスの定番ユニットFE103Enを採用した。

図1 28号機構造図1
図1
28号機構造図1
図2 28号機構造図2
図2
28号機構造図2

 以上の設計から描いた構造図を図1、図2に示す。
図1の様に15cmウーハーを固定するぎりぎりの幅サイズのバッフルパネルにオーソドックスな配置でトゥイーターを置き、内部を上下に2分割したインナーバッフルにサブユニットを固定する。サブユニットは下向き固定としてウーハーとは同相に接続。下向きの理由はサブユニットのマグネットによるメインキャビティの内容積減少を抑え、また、上側のサブキャビティには吸音材が入るので上向き固定ではサブユニットの振動板に接触して問題となるからだ。
 図2の上面図に示す様に後方への3段の階段状構造のため、マグネット体積も考慮した実効内容積はメインキャビティが約3.5リットル、サブキャビティが約3.1リットルとなり、15cmウーハーを納めるエンクロージャとしては圧倒的に少ない。タンデムドライブの効果に期待である。
 階段状構造はリアパネルの小面積化による強度向上の他にエンクロージャフレームの強度も増強し、単純な箱型形状と比較して固有共振の分散、さらには使用LEGOブロック数の削減といった利点もある。
 リアパネルには3つのスピーカーユニットからそれぞれに独立してターミナルを3組設け、調整を含めた接続の自由度を確保する。
 バッフルパネルには外観の特長としてグレーのスロープブロックでコーナーカットバッフルをデザインした。今回はカッコ良いデザインにも挑戦したい。
 使用するブロック数を見積もるために正確な組立図も描いた。図3に示す組立構造で概算のブロック数を計算し図2に記載した。2-4サイズの基本ブロック、4-4サイズのプレートブロック、化粧パネルなど1台でトータル約1,100個のLEGOブロックが必要になる。2台だと約2,200個で、価格はブロックの種類で異なるが1個約20円としてブロックの費用だけで約4万4千円かかる。6個のスピーカーユニットの価格は約5万円なのでその他部品を合わせて総部品価格は10万円程度になった。

図3
28号機組立図

4.28号機の設計 ~デバイディングネットワーク~

 2ウェイ方式で必要になるデバイディングネットワークの設計である。
本機も自作ならではのシンプルな回路としてスピーカーユニットの資質とキャラクターを活かしたものにしたい。ウーハーはアンプ直結としてダイナミックかつダイレクトなファンダメンタル帯域の表現を目指す。このWF152BD04というウーハーは仕様によると15cmサイズということもあり4kHz程度まで十分なレスポンスがある。8kHz付近に振動板の分割振動によるものと見られる特性の暴れがあり、本来はLPF(ローパスフィルター)でこのあたりを抑える必要があるのだがLPFのコイル素子は音質に与える影響が大きいと考えられるので無くしてしまう。メーカーの推奨クロスオーバー周波数fcは3.5kHz以下であるがLPFが無くてもユニットが破損することはない。
 ウーハーのインピーダンスは8Ωで能率は88.5dB/Wである。トゥイーターFT7RPのインピーダンスは8Ωだが能率は93dB/Wもあり、このままではつながらない。本当は入れたくは無いのだがトゥイーターには-3.5dBのアッテネーターを挿入してバランスを取る。アッテネーターの影響はユニットの逆起電力のほとんど無いトゥイーターではウーハーよりは少ないと考えられる。FT7RPの推奨クロスオーバー周波数は3.5kHz以上で、こちらは守らないとユニットを破損してしまう。シンプルにコンデンサー1本を直列に接続してHPF(ハイパスフィルター)とする。
 タンデムドライブのサブユニットFE103Enはウーハーに並列に同相で接続する。FE103Enのインピーダンスは8Ωで能率はウーハーと同等な89dB/Wである。サブユニットは内部に配置されてサブキャビティの内圧の影響を受け、実質的な能率は大きく低下するので並列接続でちょうど良いバランスであろう。26号機のようなサブユニットのアッテネーターは不要である。ウーハーとの合成インピーダンスは4Ωとなり、さらにトゥイーターが並列に接続されるがウーハーとは帯域が異なるのでシステムとしてのインピーダンスは4Ωで良いだろう。本機では3つのユニットが並列に接続され、アンプから見たインピーダンスの低下が負荷となるのでユニットは全て8Ωで選択したのだ。トゥイーターとウーハーの接続位相は24号機の失敗経験から同相とし、図4に示す接続図を描いた。
 本機はリアパネルにそれぞれのユニットからターミナルを独立に出してあるので接続の変更、実験は極めて容易に行える。15cmウーハーは比較的小口径なので高音域のレスポンスがかなりあると考えられ、クロスオーバー周波数を高く設定する必要が出てくるだろう。だが、せっかくのハイクオリティなトゥイーターをできるだけ広い帯域で使いたいので試聴による調整が重要である。
アッテネーターとしては-3.5dBと-2.0dBの2種類の抵抗値を用意し、クロスオーバー周波数はコンデンサーを3種類用意して評価することにした。抵抗器1本の簡易アッテネーターでは挿入した抵抗値でクロスオーバー周波数も影響を受ける点に注意が必要で、組合せで6種類のクロスオーバー周波数となる。

図4 デバイディングネットワーク接続図
図4
デバイディングネットワーク接続図

 以上の検討から設計した本機の基本仕様を以下に示す。

<28号機 基本仕様> (調整後)
・方式:タンデムドライブ方式2ウェイ密閉型 
・組立方法:ホリゾンタルタイプ(水平組立)
・エンクロージャ方式:2キャビティ複合密閉型
・使用ユニット:ウーハー WF152BD04(15cmペーパーコーン)
  トゥイーター FT7RP(RP方式)
  サブユニット FE103En(10cmフルレンジ)
・外形寸法:W192mm H320mm D205mm
・内容積:メインキャビティ約3.5リットル、サブキャビティ約3.1リットル
・クロスオーバー周波数:8.8kHz(調整値)
・トゥイーターアッテネーター:-3.5dB(調整値)
・システムインピーダンス:4Ω
・質量:5.5kg(1台)

5.構成部品の解説

 28号機の全構成部品は写真2である。これで1台分だがスピーカーユニットが3個あるのが特徴である。
 ウーハーモジュールを写真3、写真4に示す。サイドがスロープしたバッフルパネルは厚さがあり極めて強固。また、ウーハーユニットも4本のM4ボルト&ナットでガッチリと固定され強度は十分に高い。このWF152BD04というユニットは背面もきれいに処理され、わずかにラウンドしたコーン紙もダンプ材が塗布されているようで性能に期待の持てる良質なウーハーである。
 ウーハーモジュールのバッフルパネルにNo28のエンブレムを付けた。

写真2 28号機全構成部品(1台分)
写真2
28号機全構成部品(1台分)
写真3 ウーハーモジュール(前面)
写真3
ウーハーモジュール(前面)
写真4 ウーハーモジュール(裏面)
写真4
ウーハーモジュール(裏面)

 トゥイーターモジュールを写真5、写真6に示す。
このトゥイーターFT7RPは四角形状なので取付けが行いやすい。四角窓を開けたバッフルにM4ボルト&ナットで固定し、こちらも強度は高い。破損しやすい振動膜はメッシュのプロテクターで守られ、ショートホーンの前面形状と縦長の全面駆動振動膜で指向性も良いだろう。マッチングトランスを抱いていないので小型軽量である。

写真5 トゥイーターモジュール(前面)
写真5
トゥイーターモジュール(前面)
写真6 トゥイーターモジュール(裏面)
写真6
トゥイーターモジュール(裏面)

 写真7、写真8にサブユニットモジュールを示す。インナーバッフルにサブユニットFE103EnがM4ボルト&ナットで固定されている。このモジュールは内部に水平に配置されるのでユニットの取付けはバーティカルタイプ(垂直組立)である。FE103Enはマグネットも大きく10cmフルレンジの定番らしく高性能も確認済みである。

写真7 サブユニットモジュール(前面)
写真7
サブユニットモジュール(前面)
写真8 サブユニットモジュール(裏面)
写真8
サブユニットモジュール(裏面)

 フレームAを写真9、写真10に、フレームBを写真11、写真12に、フレームCを写真13、写真14にそれぞれ示す。この3つのフレームを組合せて3段の階段状エンクロージャフレームが完成する。
 フレームAにはウーハー部分のサイドに補強柱が付いている。これによりウーハーモジュールと強く結合できる。フレームBはサイドが1段小さくなる構造である。写真の様にプレートブロック3枚厚さの板状の部品を利用することで26号機の製作で苦労したような2重構造にしなくても充分な強度の階段状構造が得られる。
 フレームCは2段の階段状であり、中央付近に上下分割のインナーバッフル固定枠がある。外側周囲の12個の支柱は組立時の一時補強ジグである。

写真9 フレームA(前面)
写真9
フレームA(前面)
写真10 フレームA(裏面)
写真10
フレームA(裏面)
写真11 フレームB(前面
写真11
フレームB(前面)
写真12 フレームB(裏面)
写真12
フレームB(裏面)
写真13 フレームC(前面
写真13
フレームC(前面)
写真14 フレームC(裏面)
写真14
フレームC(裏面)

 リアパネルを写真15、写真16に示す。ターミナルが3組付けてあり、写真16では見えにくいがトゥイーター用のプラスターミナル(赤)には誤接続防止のために穴埋め処理がしてある。トゥイーターからのケーブルがダイレクトに接続されるのでアンプを誤ってここに接続するとトゥイーターを破損するからだ。
 3段に小さくなるのでリアパネルは面積が小さく、インナーバッフル部分も補強になるので25号機のようなリアパネル強度不足の問題は無いだろう。

写真15 リアパネル(前面)
写真15
リアパネル(前面)
写真16 リアパネル(裏面
写真16
リアパネル(裏面)

 その他の使用部品を写真17、写真18に示す。
写真17は内部の接続ケーブル、ターミナル間のジャンパーケーブル、コンデンサーと抵抗器である。3本の内部接続ケーブルは端末にM4圧着端子とギボシ端子、ジャンパーケーブルはM8のY端子を付けた。ジャンパーケーブルはウーハーターミナルとサブユニットターミナルをつなぐ物で2本ある。
 HPFのフィルムコンデンサは3.3uF、2.2uF、1.5uFの3種類を抵抗器は3.9Ω、2.2Ωの2種類を用意したが、調整で選択するので実際に使用するのはそれぞれ1種類である。
 写真18の吸音材は上部のサブキャビティにはいつもの活性炭を5個挿入するが、ウーハー背面のメインキャビティは積極的な低音の吸音は不要であり、空間の確保が重要と考え、活性炭は入れない。ただし、サブユニットの高音域は吸収したいので厚手の布を入れることにした。インシュレーターもいつものオーディオテクニカ製である。

写真17 ケーブルと調整パーツ
写真17
ケーブルと調整パーツ
写真18 吸音材とインシュレーター
写真18
吸音材とインシュレーター

6.製作過程

 まずはフレームAとフレームBを組合せる。(写真19、写真20)
写真20でフレームAの補強柱の取付け具合が見えるが段の部分に乗ることでウーハーモジュールの固定をより強くできる。
 サブユニットモジュールを内部に固定する。(写真21、写真22)
サブユニットモジュールのインナーバッフルが内蔵されることでフレームの強度が一段と高まる。スピーカーユニットにはあらかじめケーブルを付けておく。

写真19 フレームAとフレームB
写真19
フレームAとフレームB
写真20 フレームの組立
写真20
フレームの組立
写真21 フレームとサブユニット
写真21
フレームとサブユニット
写真22 サブユニット取付け
写真22
サブユニット取付け

 この状態でウーハーモジュールを取付けてしまう。(写真23、写真24、写真25)
通常はエンクロージャが完成してからスピーカーユニットを取付けるのだが、今回のエンクロージャは階段状なので安定が悪いためフレームにウーハーモジュールを強く固定するにはこのタイミングなのである。組立の手順検討も大切なノウハウである。
ウーハーモジュールが付くとフレームはさらに強固になる(写真24)。裏面から見るとサブユニットとの配置関係が良くわかる(写真25)。

写真23 フレームとウーハーモジュール
写真23
フレームとウーハーモジュール
写真24 ウーハーモジュールの取付け
写真24
ウーハーモジュールの取付け
写真25 ウーハー裏面の様子
写真25
ウーハー裏面の様子

 次にトゥイーターモジュールをフレームに取付ける。(写真26、写真27、写真28)
ウーハーのような強力な振動は無いのでトゥイーターモジュールの部分には補強柱はない。
 3個のスピーカーユニットが固定されてメインキャビティからウーハーのケーブル、サブキャビティからトゥイーターとサブユニットのケーブルが出る。

写真26 フレームとトゥイーターモジュール
写真26
フレームとトゥイーターモジュール
写真27 バッフル面の完成
写真27
バッフル面の完成
写真28 内部の様子
写真28
内部の様子

 フレームCを取付ける。(写真29、写真30 写真31)
先ほど述べたように階段状のエンクロージャ構造だと前方から押付けた場合、後方が狭くなっているためブロックを充分に結合することができない。前面にはスピーカーユニットがすでに付いているのでこちらを下にはできない。LEGOブロックは1個では簡単に付け外しができるが巨大なモジュール同士では接合の面積が大きいためにかなりの力が必要で、組立時の力の入れ方を考えておく必要がある。フレームCに付いている12個の組立支柱はこのためのもので、これにより強固に取付けることができる。
 写真32はフレームC取付け後にこの支柱を外した様子である。また、ここでインシュレーターを底面に貼り付ける。
 吸音材は前述のとおりメインキャビティ底面に厚手の布を敷きサブユニットの高音域がウーハーユニットのコーン紙から漏れないように吸音する。これは高音域の吸音なので布で充分である。サブキャビティには活性炭を5個挿入し、体積では内容積の30%くらいになる。サブキャビティの内圧を低減する必要があるので適量を挿入した。(写真33)

写真29 フレームCの取付け
写真29
フレームCの取付け
写真30 フレームC組立支柱の様子
写真30
フレームC組立支柱の様子
写真31 上面から見る
写真31
上面から見る
写真32 支柱の取外し
写真32
支柱の取外し
写真33 吸音材の挿入
写真33
吸音材の挿入

 リアパネルを取付ける。(写真34、写真35)
3個のスピーカーユニットはすべて同相に配線する。リアパネルは写真の様にスピーカー本体を立てた状態で取付けるが、リアパネルはある程度しなるので部分的に少しずつ接合してゆく。写真ではわかりにくいがリアパネル下部の隅にキリカキが設けてあり、メンテナンス時に外しやすくしてある。こういった細かな点もノウハウなのである。

写真34 リアパネルの取付け
写真34
リアパネルの取付け
写真35 スピーカーケーブル配線
写真35
スピーカーケーブル配線

 完成した28号機。(写真36、写真37)
前面のデザインはスピーカーシステムらしいオーソドックスなものである。この内部に第3のユニットがありタンデムドライブ方式であることはわからない。バッフルサイドのグレーのコーナーカットもデザインのアクセントになっている。
 背面は強度を高める階段状エンクロージャ構造によりリアパネルの面積が小さく、ターミナルが3組あることからサブユニットの存在がわかる。
エンクロージャのどこを叩いてもコツコツと締まった音がして強度に不安は無い。音に期待の持てるエンクロージャが出来た。

写真36 完成した28号機
写真36
完成した28号機
写真37 28号機の背面
写真37
28号機の背面

7.試聴と評価

 音を聴いてみよう。デバイディングネットワークのコンデンサーと抵抗器それにジャンパーケーブルを図4の回路となるように写真38、写真39の様に接続する。
 まずはジャンパーケーブルを外してウーハーユニットだけで聴いてみる。・・・意外に高音域まで出ている。軽いペーパーコーンのユニットを選択したのはレスポンスを重視したためなのだから期待どおりなのだが、やはりクロスオーバー周波数は高く設定する必要がありそうだ。
 アッテネーターを-3.5dBにしてコンデンサーに3.3uFを付けてみる。これではまだ高音がきつい。ウーハーの高音域にトゥイーターが被っているのだ。結局、コンデンサーは1.5uFにしてクロスオーバー周波数を8.8kHzとした。さらにコンデンサーの容量を減らしてクロスオーバー周波数を高めても良いが、高性能トゥイーターの音を聴きたいのでこのくらいに調整しておこう。

写真38 ネットワーク部品の接続
写真38
ネットワーク部品の接続
写真39 接続の変更も容易
写真39
接続の変更も容易

 タンデムドライブの効果で低音のレスポンスは充分である。26号機のようなブーミーさは無い。さすがに15cmウーハーは強力で、小型のエンクロージャなのに密閉型特有の圧迫感も無いのびのびとした低音の鳴りである。また、音楽で大切な中域の歪感も少ない。これはパワーアンプ直結のダイレクト接続の効果もあるが、ウーハーの背圧の影響が低減されて歪が少ないためであると思う。
 高音はハイトランジェントな高性能トゥイーター独特の大変さわやかな音調である。45kHzまでレスポンスする軽量振動膜の歪の少なさが感じられる。
心配していたトゥイーターとウーハーのつながりも問題ない。タンデムドライブ方式はサブユニットが協調してウーハーの動作を助けるのでレスポンスも向上するのだろう。
 高性能なウーハーユニットとシンプルな回路の採用で音楽のスケール感が得られ、そして微妙なニュアンスを再現する軽量振動膜トゥイーターのメリットが感じられるワイドな再生音である。もちろんLEGOによる高剛性なエンクロージャの効果も大きい。
 製作者のバイアスもあるだろう。音の評価は絶対的なものでなく、どうしても気持ちが入ってしまう。それを含めても間違いなくこの28号機はLEGOスピーカーのBESTモデルだと思う。24号機を越えた作品の完成である。

写真40 28号機試聴の様子
写真40
28号機試聴の様子
写真41 5th Anniversaryエンブレム
写真41
5th Anniversaryエンブレム
写真42 25号機とのサイズ比較
写真42
25号機とのサイズ比較

8.おわりに

 完成した28号機は約10万円のコストがかかった。10万円あれば音の良い立派な市販スピーカーシステムが購入できる。本当にLEGOで製作する意味があるのだろうか?・・・といつも思う。結局、私は音だけではなく自分で造り上げたという達成感が欲しくて製作を続けているのだ。そして作品が増えるたびに確実に経験というお金では買えない知識が得られる。これが次の作品の糧となり、より高いレベルの製作につながる。だから面白くてやめられないのである。

(2012.1.3)

写真43 新たに導入したSV-2300SEで聴く
写真43
新たに導入したSV-2300SEで聴く

第19報LEGOスピーカーの製作第21報

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