by Y下 
第22回 20㎝フルレンジスピーカーを鳴らす!

 今回のコラムは私が最近購入した英国の名門スピーカーで20㎝ダブルコーンスピーカーWharfedaleのSuper8-RS/DDをご紹介します。

フルレンジスピーカーの楽しみ
フルレンジスピーカーの楽しみ

 このユニットは私が高校生の頃名古屋にあったヤマハのオーディオ売り場で見かた懐かしいユニットの一つです。私の記憶では20㎝のSuper8-RS/DD、GOODMANSのAXIOM-80は共にアルニコの赤いマグネットが実装された大変魅力的なユニットでウィンドーケースの中に展示してあったのを覚えている。
 当時のマニアはスピーカーと言えばユニット単体だけ購入してボックスを作って楽しんだ方も多いはず、スピーカーの原点はロク半もしくは8インチクラスのフルレンジユニットからスタートして最終的には4Way,5Wayのマルチに発展していくがそれでも悩みは尽きないと思う、
 最近のオーディオは20㎝クラスのスピーカーが脚光を浴びていると聞く、SUNVALLEY AUDIOさんも20㎝のフルレンジスピーカーでパンケーキが発売されますがマニアなら絶対買うべき、外観を見ただけでも良い音が出そうな雰囲気を持っている魅力たっぷりなスピーカーだ、
 オーディオの楽しみ方は人それぞれだが今回はイギリスのティストを感じさせるヴィンテージスピーカー、WharfedaleのSuper8-RS/DDの悲喜交々のプレゼンテーションです。

無理が通れば道理が引っ込む
無理が通れば道理が引っ込む

 前回にも書きましたが大橋氏が店主日記で「スピーカーは20㎝で始まって20㎝で終わる。これはスピーカーで苦労されたことがあるマニアであれば十分理解出来る。本格派のマニアのシステムを沢山聴くことがありますが装置が大掛かりになればなるほど悩みとお金が増えて行く、音楽をじっくりと心ゆくまで味あうのであればやはり究極のスピーカーは原点に戻って20㎝クラスのフルレンジに止めを刺す。このクラスになると奥が深く音に対しての「ワビ・さび」の世界、いかに上手く鳴らすかがその人の感性と技量と耳が問われるのではないだろうか、
 今迄30㎝クラスのコアキシャルや3WAYのスピーカーユニットで楽しんできたが20㎝クラスこそ一番バランスのとれた音になるはずです。
 一般論として狭い部屋の場合は20㎝サイズしか置けないと思うがバランスを考えたらこれで十分、大きな部屋があれば大掛かりなスピーカーシステムをメインで聴いているはずでそのような方は20㎝クラスの場合はセカンドスピーカー的な使い方になって部屋の片隅に置かれて時々聴く程度になってしまう、
 そこで一つのアイデアが浮かんだ、20㎝クラスのフルレンジユニットは50~70リッターぐらいのボックスで鳴らすのが普通だが250リッタークラスの大型のフロアータイプに実装してみたらどんな音になるのか、ひょっとして20㎝とは思えない30㎝クラスの重低音が出てきて体全体を包み込むようなスケール感のある鳴り方になるのか、オーディオこそやってみないと結果が生まれない世界、今回はオーディオの定説や概念を捻じ曲げて「無理が通れば道理が引っ込む」の考えを元に阿呆な発想と実験を兼ねたここだけの話、

おいらの偽タンノイ
おいらの偽タンノイ

 まずはスピーカーシステムの見て下さい。一瞬タンノイのGRFのように見える外観だが中身はタンノイではなくWharfedaleの20㎝ダブルコーンを実装した偽タンノイです。ボックスの材質は高級なフィンランドバーチの採用とウォールナットのツキ板仕様、ボックスの大きさから見るとユニットは小さく見えるが「山椒は小粒でピリッと辛い」がピッタリな感じである。
タンノイのコーナータイプのデザインは素晴らしい!音が悪くても部屋のインテリアとしては最高である。

ネットを外すと20㎝のワーフェデールのフルレンジが小さく見えますがスピーカーはこのクラスで十分で今はこれが私のメインスピーカーになった

英国伝統のダブルコーンでセンターにアルミの振動板を使ったメカニカル2Wayと思われる。高域の分割振動を抑えるためサブコーンの周りにスポンジが取り付けてあり緑色のフェルトが美しい、こんな20㎝のスピーカーでも重低音が出て来るとはびっくりである。

 私は外観がタンノイ風だからタンノイと偽って人を騙す悪趣味的なタイプではない、またオーディオの教授や師匠、先生、先輩と呼ばれるお偉い方には足元にもおよばない低レベルのオーディオ苦労人である。
 自分が欲しい音をつまり「心地よい大人のサウンド」を出したいそれだけを追求している貧乏マニア、残念ながらお金がないからメーカー製の高価なものは何一つ買えずプレーヤー、真空管アンプ、スピーカーまですべて手作りになってしまう、「これがY下だけのサウンドだ!凄いだろう」とは間違っても言えないし思ってもいない、

失敗は成功のもと
失敗は成功のもと

 昔から言われている格言に「失敗は成功のもと」以前のコラムで紹介したワーフェデールSuper12/RS-DDは私の技量の無さで売り払って大正解、他で平面バッフルに実装して聴いたが自分が失敗した時よりも鳴らし方を知らないから気の毒な音であった、
 今度のユニットは死に気で鳴らさなくては気が済まない、上手く鳴らなければスピーカーの趣味はTHE・ENDにするつもりだ、不思議なものでスピーカーユニットを実装して良い音が出て手放しで喜んでいても時間の経過と共に気になる部分が見え隠れしてくる。此処まで来てしまうとオーディオは泥沼なのか底なし沼なのか、もがいてものめり込んで抜け出せなくなってくる。
 その点、有名なメーカーの既製品の完成されたスピーカーシステムだと失敗するリスクは極めて少なく鳴って当たり前だが完成スピーカーはメーカーお仕着せのサウンドになって面白みに欠けるのとユニット交換等の改造ができない遊び心がないのが不満である。
 話を戻そう、失敗に終わった理由は低域の量感はあるが中低域のふくよかさが出てこない、原因はボックスの内容積、吸音材の量と材質、バスレフポートの開口面積とポートの長さなどが考えられるが内容積は約400リッターもあるからこの部分では問題なさそうだ、次に考えられるのはバスレフの開口面積が足らなかったのではないかと思っても今となってはユニットがないから後の祭り、今回はバスレフの開口面積を可変しながら調整すれば成功間違いなしと構想が浮かんだがフルレンジスピーカーを上手く鳴らせるには相当な耳のレベルとテクニックが必要で難しいのが先に来る。
 今迄の経験でヴィンテージスピーカーを上手く調教するには響きの良いボックスを使って箱鳴りを上手く伴って鳴らす方法が良いみたい、

フロアータイプでの音出し
フロアータイプでの音出し

 サブバッフルにユニットを実装して音出しを開始、出てきた音は低域が誇張されて付帯音が付いて回る。これを一言で言うなら「ドンシャリ」だがこれはバスレフの開口面積が大きすぎる原因だ、早速バスレフの開口部に週刊誌を少しづつ入れて耳で聴きながら調整すると音はどんどん変化してくるのがわかる。手元にある週刊誌で皆さんが愛読されている(週刊実話)を5冊重ねると使った週刊誌が良いのか素晴らしいピラミッドバランスに変身したのだが、まだダブルコーン特有の高域の暴れとタイトな硬さが少しあるのが気になる。これを押さえ込まない限り不満は解消されない、ツィーターを付けて2Wayにすれば簡単に解決するがそれではフルレンジのメリットが無くなる。この問題を解決された大分県別府市に在住するお互いオーディオの苦労人でメル友のS迫氏にアドバイスをお願いしたら「高域の暴れは吸音材で解決できる。吸音材は羽毛ふとんの中身を使うと効果あり」と教えを頂き早速羽毛ふとんの中身を抜いて木綿の袋に入れて実行に移したらこれが大正解、見事に高域の暴れが取れタイトな音も解消、有り難いアドバイスに感謝している。

Wharfedale音
Wharfedale音

 アンプは私の愛用しているマランツ#7、メインアンプは英国の直熱三極管でマニアの間で名球と言われているPP5-400シングルアンプを使用、音源はいつも試聴で使っているデジタルCDでアンヌ・ケフェレックのピアノでバッハの小品集とマイスキーのバッハ無伴奏チェロ、冨田勲の源氏物語交響絵巻の3枚を使用、
 ケフェレックのピアノ曲の音はエンクロージャーのせいなのか20㎝とは思えない低域の量感とスケール感としっとり感が見事に出ているのにはびっくり、また源氏物語の冒頭の奥の方から音が展開して聞こえてくる明珍火箸の音や琵琶の音色はアナログレコードでは再現できない細かいニュアンスが十分聴き取れる。
 マイスキーのバッハのチェロも音像が大きくならず小ホールの特等席で聴いているようなホールトーンの効いた奥行き感のある鳴り方は大変グッドである
 アナログレコードの場合は過去の演奏家ばかりで新鮮味に欠けるのと録音の良し悪しが多すぎる。高いオリジナル盤なら音が良いと言うが1枚が5万円とか10万円で流通されていると聞くがそこまでアナログにはまる気は無い、こんな大金があれば私はオーディオに投資する。
 アナログ派は頭からCDは音が悪いと決めつけデジタルCD嫌いの方が沢山いますがそのような方に限ってアナログ機器には莫大な費用をかけるがCDPやD/A関連はお粗末な方が多い、上手く鳴らせばCDもアナログレコードと互角かそれ以上に良い音で鳴るからあえて私はアナログオンリーにならない、

スーパーマニアの評価
スーパーマニアの評価

 私の友人で究極のオールウェスタンとウェストレックスのアンプで楽しんでおられる石川県の小松市に住むスーパーマニアの中さんが久しぶりに名古屋に来られて早速このスピーカーを厳しいウェスタンの耳で評価をして頂いた、
 中さん曰く「20㎝のダブルコーンとは思えない豊な響きと枯れた音色が魅力的だ、特にピアノと声楽が素晴らしく他のスピーカーではこの音は出ない、同じイギリスのタンノイとは音色的な傾向と出音は随分違うけどこれこそが紛れもない英国サウンドの音ではないだろうか」また「自分が使っているウェスタンに近い音色を持ち合わせているから今後はワーフェデールを見習ってウェスタンも同じようにしっとりとした(いぶし銀)のサウンドを出したい」とウェスタンレベルの目線で評価して頂いたがやはり当時のワーフェデールもHMV蓄音機やロンドンウェスタンの流れを汲む音色の一端が見え隠れするような気がする。今回の実験は恥ずかしながら100%とまでは行かなかったが多分80%ぐらい成功したと思っていますがスピーカーユニットとボックスの(DNA)が一致するまでは時間がかかりそうだ、
 スピーカーに関しては今迄色んな英国ヴィンテージスピーカーを購入して聴いてきましたが現代のハーベスやスペンドール等の同じ英国スピーカーのブックシェルフタイプはどちらかと言えばフロアータイプと比べるとこじんまり纏めた鳴り方で能率も低く個性のない無色透明なスタジオのモニター的な音が特徴ですが同じ英国のヴィンテージスピーカーは一応に能率が高くメーカーのサウンドポリシーが前面に出て個性が主張されているのが面白い、

たかが20㎝されど20㎝
たかが20㎝されど20㎝

 今回は特に手こずった、たかが20㎝されど20㎝、ユニットの取り付け方、大きなバッフル板を外して吸音材の交換、サブバッフルの加工とバスレフの調整、内部配線材の交換などで大変体力と神経を消耗したが巷の名器と言われるユニットはボックスにポンと入れただけでは良い音で鳴ってくれない、スピーカーと悪戦苦闘し悩みと苦しみを味わった者だけが名器の片燐を垣間見る事が出来るのではないだろうか、

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