by Y下 
第37回 門外不出!二管流アンプ武蔵誕生

 大変大げさな表題ですが今まで沢山の真空管アンプを作ってきましたがこのアンプは最後のフィナーレを飾る相応しいアンプになります。
 今回は私が名付けた二刀流または二管流アンプ「武蔵アンプ」は門外不出の秘伝アンプでこのコラムを読んで頂ける方だけの本邦初公開の真空管アンプになる。
 製作に当たり今後のことを考えてもしお金が必要なことに出くわしたらそれなりの価格で売れるのではと思い妥協せずに作ることにしました、
 このアンプがヤフオクに出品されることがありましたら是非入札に参加してくださいね、「Y下が金銭的に困っているから入札してあげよう」と云う気持ちがあるだけで感謝です。

二管流アンプ「武蔵」

WE-300BとVT52刻印の二刀流アンプ
WE-300BとVT52刻印の二刀流アンプ

 WE-300Bは巷では最高に人気がありますがVT52は300Bの陰に隠れて評価はイマイチですがWEのVT52刻印は上手く設計して良いパーツを使えば300B以上の音と云われています。
 音でVT52とよく似た球は同じウェスタンの300A、205Dがあります。この3種類の球こそウェスタンサウンドの象徴と云えるかも知れません。近年VT52はヨーロッパ、中国、ロシアでは生産されていませんからこの球を使った既成アンプはほとんど見かけないのと自作マニアでも300Bは製作してもVT52は作ったこともなくVT52のサウンドはほとんどの方は聴いていないと思います。
 今回は300BとVT52との直接対決できるようにそのように設計を行いました。球の聴き比べであれば同一回路と同一のパーツを使わないとまったくと云って意味も持ちません。アンプや回路、パーツが違えばおのずと音は違ってくる。またスピーカーとの相性もありますからこちらのが良いとは一概にも云えません。
 確かにメーカーの違う同等管の球の聴き比べならその違いはありますが真空管アンプは球よりもトランスの変化の方のが大きいですから球の聴き比べに固守するよりトランスの聴き比べをした方のが遥かにその差はでますから是非挑戦してください。
 今まで沢山のアンプを作ってきましたが良いパーツは価格に比例して良い音がします。上級のマニアならどれが良いパーツか熟知しています。今回は長年の経験から良い音のするパーツを選別して使用しました、
 今回の製作に関して真空管アンプの音はトランスが最大のキーパーソンを握っています。出力管の交換は同等管の場合大きな変化はありませんがトランスを交換しますと劇的な変化が認められますが最近は良いトランスがあっても価格が高く手に入れるのは至難の業かも、
 長い間自作マニアをやってこられた方はこの部分に非常に拘りを持っていますから良い音の出るアンプを作るのを知っています。面白い事にトランスにもお国柄がありこの部分の比較も面白いのではと思います。
 WE-300BとVT52の特性を比較しますと共通点が多く見られますから回路を変更すれば簡単に差し替えは可能で300BもVT52もソケットは同じですがプレート電圧、プレート電流、ヒーター電圧、ヒーター電流などの違いがありますから一つ間違えると大切な出力管を駄目にしますから一般的にはお薦めできない上級者向けになります。
 今回は製作途中でVT52と300Bも切り換えて聴けるように改造を施しましたがこれが大変な作業でした。完成後にVT52の音と300Bの音の違いがどのように現れるのか未体験ですから私も含めて皆さんも興味津々ではないでしょうか、

ウェスタンのVT52の謎
ウェスタンのVT52の謎

 ウェスタンのVT52は1940年代の初めごろ軍用機の通信管として開発されたらしくこの球に関しての特性表がありませんが規格の値を守れば超寿命の球の一つです。またヒーター電圧が6,3Vと7,0Vの2種類の規格がありますがどちらも正しいと思われます。
 一説によると航空機で飛行している時は7,0V、地上で待機している時は6,3Vで使われていたと云われていますがヒーター電圧が6,3Vと7,0Vでは必ず音は違うはずです、この部分での比較も考えて報告したいと思います。
VT52は1940年代の初めの頃軍用機の通信システムに搭載されていた、太平洋戦争中に米軍が日本を爆撃する時B-29が無線送信していたのなら好きになれない球ですが多分ヨーロッパ戦線で使用したのでは・・・・・
 自作マニアで特に音に拘りを持っているオーディオの達人なら300BよりVT52のが音は良いといいます。300A、205Dに良く似た音色はVT52と云われこの球も今後は手の届かない価格になると思いますから安く手に入るようであれば購入すべきですが回路図も読めないまともに組み立ても出来ない方は購入しても使いこなせないがコレクションとして持っていればいずれ高価になりますから買っても損はしない、
 近いうちにこの球も手の届かない高価格になるのは間違いありません、測定器をお持ちの方で自作に自信のある中級以上の方はお薦めします。またVT52のウェスタン球のプリントタイプもよく見かけますがどうも偽物臭い感じがあります。
 特にウェスタン球のトップマイカはおむすび型ですからすぐに見分けることが出来ます。VT52の刻印タイプは音が良いと云われますから刻印タイプを求めれば間違いありません。同じVT52もシルバニアや他メーカーでも出ていますがやはり本家のVT52刻印を聴きますと他メーカーのVT52は残念ながら音もさることながら価値観や魅力に欠けるがヴィンテージ管をヤフオクなどで購入される場合は特に注意しないと後で痛い目に合いますから気を付けてください。

真空管アンプのルックスとワイヤリング
真空管アンプのルックスとワイヤリング

 自作の真空管アンプこそ芸術であるこれが私のコンセプトです。今回は最後のアンプですから特にパーツと外観には拘りを持って作りました、シャーシーは1.6tの鋼板にステンレスの鏡面パネルを乗せました、真空管アンプのキーパーソンは出力トランスですからこの部分には特に拘る必要があります。ましてや使用球がWE製VT52ですから本来はウェスタンを使いますが今回はドイツのシングルトランスを使いましたこのトランスもほとんど市場に出てこない大変レアなトランスでメーカー名はENGELでテレフンケン、ノイマン、シーメンスに納入している実績のあるトランスメーカーです。
 今回私も初めて使いますがドイツのサウンドはゲルマン民族らしい真面目で几帳面な音が特徴ですがその点米国のトランスはアメリカ人らしい豪快さがあり多少雑なところを持ち合わせている。また日本のトランスはビールで云うならコクとキレが薄い、やはりビールもトランスもドイツに限ります。 これはトランスに使用してあるコアと巻き線技術の差だと思う、その点ヨーロッパ系のトランスは質の良い鉄鉱石が採掘されていますから鉄鉱石の違いかも、WEのトランスは音が良いと云われていますがこのトランスもひょっとしたらヨーロッパのコア材を使っているのではと思いますが詳細は不明です。 トランスもお国柄がありどれが最高とは云えませんが自分がどんな音が好みなのか色々試して聴くのも面白い、

使用パーツと回路構成
使用パーツと回路構成

 今回は最後の自作アンプですから自分なりに拘ったパーツを採用しました、

出力トランス
ドイツENGEL社シングル10W
チョークコイル
ヒューレットパッカード社の5H250mmH
抵抗
リケンオーディオ抵抗
コンデンサー
カップリング スプラグ ブラックビューティー
カソードパスコン スプラグ 銀タンタルコンデンサー
ヒーター整流
東芝ショットキーバリアダイオード
スイッチ類
日本開閉器 トグルスイッチ
ボリューム
アーレンブラッドレー
初段はテレフンケンダイヤマーク ECC-802S
真空管
ドライバー管 NEC 12BH7A
出力管 WE-VT52刻印
整流管 WE-274B刻印

 回路構成は簡単なCR結合3段増幅でNFBは5dBの低帰還になります。NFBなしでもテストしましたが無しの場合は低域が多少ボン付く傾向がありますからここは多少でもNFBを掛ける必要があります。
アンプ内部はラグ板を一斉使わず自分で設計を施したパターン化した自作基板を製作しました、本来はラグ板にCR類を並べてオール手配線で製作しますが「武蔵アンプは」プリント基板がメインでラグ板は一斉使っていません。
難易度はオール手配線を遥かにしのぎます。写真を見てわかると思いますが内部引き回し配線は3D方式の立体配線です。内部レイアウトと基板が出来れば回路を頭に入れれば後は鼻歌交じりでの組み立てです。製作日数は約1か月を要しました、
 アンプの出力は3.5W×3.5Wです。もう少しIpを上げればPOWERが取れますが球の寿命を考えて低めに抑えて使用、ヒーター電圧VT52は7V、1.18A,300Bは5V,1.2Aの直流点火にしました、交流点火も考えたのですが7Vの交流点火ではハムが取れません。また300Bは私の作ったSV-91Bタイプに交流点火がありますからあえて交流点火にはしませんでした、直流点火にしたWE-300Bは本来の300Bの音とは違いますが今回のメインはVT52が主役です。遊び心で300Bも使えるようにしただけと金銭的に困った時にWE-300Bを予備球として付属してやればそれなりの価格で売れるのではないか、
 一度ヤフオクに出品すると果たしてどれくらいの価格で落札されるのか興味はあります。だいぶ前になりますが私の製作したLUXのSQ-38のパネルを使ったプリアンプをヤフオクに出品したところ本家のSQ-38より高い価格で落札された記憶があります、最近のヤフオクの真空管アンプは人気のある球を使用した自作アンプの場合予想以上の価格で落札されています。また自作の真空管アンプは外観だけでなく内部配線や使用パーツに拘ったアンプでないと評価が低い傾向になる。

武蔵アンプの外観と内部の写真を沢山載せましたが自作マニアには参考にならないかも知れませんがその点をご了承下さい。

武蔵のリアパネル、リアパネルは真鍮をあしらいすべて彫刻での刻印
VT52とWE-300Bの切り換えモードで操作ミスを防ぐためロック式の
トグルスイッチを採用、これで不用意にスイッチの切り換えが出来なくなっている。
内部配線及び部品レイアウト、左上のボードはショットキーバリアダイオードを
採用した直流点火ボードで下側はB電圧整流ボード、右側は信号回路ボード
少しピンボケですがWE-300Bを実装
ウェスタンの刻印VT52を実装
ウェスタンのVT52とWE300Bの比較VT52は一回り小さい
幻の整流管WE-274B刻印

試聴用システムの紹介
試聴用システムの紹介

 今回はアナログでの試聴にしました、

アナログ
 
フォノモーター
ヤマハGT-1000
アーム
GRACE G-565F
カートリッジ
オルトフォン SL-15E
昇圧トランス
ウェスタンエレクトリック WE-618B
AWA オーストラリア
ブリアンプ
マランツ#7
スピーカー
ヴァイタボックス 30cmフルレンジ
試聴用アナログ
キースジャレット ケルンコンサート、バッハ、無伴奏チェロの1番
比較アンプ
PP5/400シングルアンプ

VT52/WE-300Bのサウンド
VT52/WE-300Bのサウンド

 すべてのセッティングが終了して早速VT52シングルアンプの電源を立ち上げた、調整中にハムバランサーは最少の位置に設定してありますからスピーカーからはほとんどハムは聞えません。
最初にキースジャレットのケルンコンサートの試聴から開始、出てきた音に愕然、ピアノの粒立ち奥行感を伴ったホールトーンの響きとスピーカーの存在感が消える素晴らしい空気感のある音、音色もこれがウェスタンを強調するようなサウンドには参った!これは使ってあるVT52だけでなくトランスがドイツ製だからアメリカ的な明るいサウンドを抑えて伸びやかに音楽を聞かせてくれる。
 このような音になるのは勿論昇圧トランスのWE-618B、テレフンケンECC-802S高信頼管とWE-274B刻印が寄与しているのは間違いない、次に試聴したマイスキーの無伴奏チェロも奥行感を伴った小ホールで聴く雰囲気たっぷりのあるサウンドになった、

WE-VT52は凄い!
WE-VT52は凄い!

 ウェスタンマニアがウェスタンは最高と云っていますがまんざら嘘ではない、このVT52に対抗できるのは205Dか300Aしかないのでは、それだけ素晴らしい球なのに情報量が少ないのか音を聴いたことがないのかわからないのか一度体感してみるとその良さがわかるのではないだろうか、この球こそコクとキレに音楽性をプラスしたサウンドには偽りはない、VT52恐るべき!

VT52とWE-300Bの対決
VT52とWE-300Bの対決

 「知らぬが仏」と云うことわざがあります。これをオーディオに当てはめると「聴かぬが仏」つまり良いアンプを聴いてしまうと悪いアンプは聴けなくなる。自分のアンプに満足しているのならば聴かない方のが自分の為と思う、
 最初に書きましたように同等管なら差し替えて比較できますが球の種類が違う場合同じ回路同じパーツを使ってこそ球の比較が出来るのですが残念ながらアンプも違えば使ってある出力トランス、回路が別の場合は比較としての意味は持ちません。やはりここは同一パーツと同じ回路を使わない限り正確な答えにはなりません。
 WE-300Bは巷では最高峰の真空管として君臨していますがではVT52と比較したらどんな結果になるのか、今回は私個人の比較試聴とこのアンプを大阪の今田氏宅に持ち込んで聴いて頂いた、
 早速VT52を接続しての試聴です。スピーカーはRCAのLS12フルレンジを使用、このスピーカーは30cmタイプなのに高域が良く伸びています。出てきた音は空気感を伴った懐の深いサウンド、長時間聴いても疲れにくくトップクラスの音だ、RCAはアルテック、JBLとは異なる大変渋いサウンドで私が愛用しているヴァイタボックスとは少し表現力が違いますがジャズもボーカルもOKだ、
 VT52を堪能した後300Bに交換して10分後に同じトラックからの試聴開始、出てきた音は300Bマニアには申し訳ないがVT52と比較しますと300Bは先ほどの深みとコクが薄くなり少し派手やかな明るいサウンドが特徴で音の渋さが後退してしまう、それに対してVT52は絵画で例えるなら水彩画を見るようなイメージとしっとり感とシルクの肌触りがありオールド的な雰囲気を持ち合わせている。WE-300Bも決して悪くない球だがVT52を聴いてしまうと興味が薄れてしまう、
 VT52を聴かずに300Bだけで聴いていますとまったく不満がなくさすが300Bは最高の球だと頷けます。これこそ「知らぬが仏」になります。
 ウェスタンフリークは300Bには関心を示さず205Dや300Aしか興味湧か湧かないのが理解できる。
同聴して頂いた今田氏も300Bにはガッカリ、二回と300Bを聴こうとしなかったのが印象に残こった、今田氏も大変ショックを受けオーディオ仲間に今回のVT52の良さを話したら仲間曰く300Bでは勝ち目がなく対抗できる球は205Dしかないと云っていた、

PP5/400とVT52武蔵との対決
PP5/400とVT52武蔵との対決

PP5/400シングルアンプは今田氏に譲ったアンプで回路、パーツ類はほぼ同じものを使っていますがトランスだけは台湾のジェームスです。
ジェームスは台湾のメーカーでトランスのコアは日本製のオリエントHi-Bコアを使ったトランスで大変知名度があり自作マニアが良く使うトランスです。
 早速比較の為に接続を変えて試聴開始、出てきた音は甲高なサウンドであまりにもVT52とは違いなさ過ぎて私もショックだった、英国の名出力管がこんなはずではない、
 違うのはトランスと整流管だけですからトランスを変えれば違った意味での良さが出るはずだがこのアンプをVT52に改造するのは簡単ですが肝心の出力トランスがありませんからこのアンプはこれで良しにすべきと思う、
このPP5/400も以前有名なメーカーの845PPと鳴き比べした時、圧倒的な表現力の差が出た良いアンプであったがVT52と比較すると残念ながらその差歴然だ、
 PP5/400は自分が作ったアンプですからどちらが良くても不満はないがメーカー製のアンプや自作アンプとの鳴き比べはご法度であるのとモラルの問題ですから今後は門外不出にして道場破り、他流試合はやらないことにした、

私が製作した名出力管PP5/400とVT52武蔵アンプ

6.3Vと7.0Vのヒーター電圧の比較
6.3Vと7.0Vのヒーター電圧の比較

 VT52のヒーター電圧の違いを比較しました、6.3Vでは多少音の潤い感とハリがなくなり7.0Vにしますと「これがウェスタンだ」と云えるサウンドになりました、今後は変更せずに7.0Vで使い切りますが今は武蔵を聴くのがもったいなくて外野席でお休み中です。

グッドアイデア
グッドアイデア

 これからは試聴に来られるマニアにはWE-300Bと5U4GBの組み合わせで聴かそう、帰った後こっそりとVT52,274B刻印に戻して自分だけで良いサウンドを楽しもう、マニアには申し訳ないが極上の組み合わせを聴かせるのがもったいない、こんなこと書くとあいつは性格が悪すぎる!汚ねぇ男だ、」性格の悪さを通り越して悪趣味なマニアだ、あんな性格だから病気も逃げて元気なはずだ!都合が悪くなると認知症になる。本当にあいつはタチが悪い、どおりでいつまでも長生きできるはず!何時までもこのように言われたい、

あとがき
あとがき

 VT52の実力を堪能した、世の中知らないだけでもっと良い球はあるはずです。お金をかけずに良いアンプを作りたいのだがもう自作アンプは卒業してこれからは製作の楽なキットアンプに挑戦しょう、自作アンプは部品集めから始まり穴加工して製作するのだがこの作業は大変でこれからは失敗のないキットアンプのが遥かに楽しく作れます。もう一度初心に帰ってキットアンプの製作の醍醐味を味わいたい、

次回予告
次回予告

 次回は再度アナログに挑戦でカートリッジと昇圧トランスを題材にしたいと思います。私のシステムで聴くウェスタン・エレクトリックの618B昇圧トランスの実力は凄いのか?

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