スピーカー設計製作ログ
バックロードホーンの設計製作

令和元年8月

 定年後の趣味で以前から興味のあったオーディオにのめり込んだ。まずは若い頃に使っていたスピーカーやレコードプレーヤーなど使えそうなものを引っ張り出し、次に昔欲しかったヤマハのNS-1000Mや、サンスイのAU-D907Fをヤフオクで落札した。音は結構良かったと思うが鳴らしていると満足できず、興味が湧いたJBLの4312Bや、高価だったがラックスマンのL-507uxもヤフオクで落札した。またヤマハのサブウーファーNS-SW300を中古店で購入したりした。その後4312Bは売却したが、また興味が湧いて4311Aを落札した。ここまでで、かなりいい音が鳴るようになった様な気がするが、興味は更に湧き続ける。

 次に真空管アンプに強い興味を持った。YouTubeで知ったSUNVALLEY社にメールを送った所、店主の大橋慎さんから直接メールが届いて試聴させていただく事になった。試聴したその場でSV-P1616D/KT150の購入を決めた。モノ作りは好きな方なのでキットを購入して4日ほどで組み立てた。LUXMANのL-507uxも良い音がするが、SV-P1616D/KT150は更にちょっと友達に聞かせたくなるような雰囲気の音で鳴る。千葉にいる旧友に話をして今年初めに帰省した時に自宅に呼んで音を聞いてもらった。マンション住まいの友人はこの音を鳴らせる環境をとても羨んでくれた。

 更に興味は湧いてくる。一番音に影響するユニットはスピーカーだ。それまでの現状では密閉式は低音が重くて伸びが悪いと感じられ、NS1000Mもその傾向を感じた。バスレフの低音は軽くて伸びやかで4312Bや4311Aもその音は好きだけれど再生限界周波数が満足できない。そこで、密閉式にしてもバスレフにしてもパイプオルガンなどを聞く時はサブウーファーを追加して欲求を満たした。これである程度満足できる音が出る様になったが、何か音がすっきりしない。しかし、これ以上の物を求めるとしても6畳の狭い部屋と限られた予算では大きい製品や高級品には手が出ない。
 そこで興味を持って期待したのがバックロードホーンの自作だった。これは、オーディオへの興味と物作りの興味とが満たされる絶好のアプローチだと思った。先ずはネットで情報を集めた。調べていると、「カノン5Dの資料室」(http://kanon5d.web.fc2.com/)というサイトがあった。その中の「初心者の自作スピーカー講座」の第14回から第23回にバックロードホーンの設計方法が詳しく書かれている。先ずはこれを一通り読んだ。この資料はなかなか素晴らしい内容だと思う。素人なので、1回読んだだけでは完璧には理解できないが、それでもこれでやってみようと決心できた。使用するフルレンジスピーカーも色々ある中で、どうやらFOSTEXが圧倒的に種類と流通量があり、中古品も結構多いことが分かったので、その中から選ぶことにした。私の目標は「良い低音を出したい」という事なので、フルレンジユニットは8cm、10cm、12cm、16cm、20cmなどの種類のある中から、やはり低音再生に有利と思われる20cmユニットを第1に選ぶことにした。しかしまた小口径でも充分低音が出るらしいという事であったのでそれにも興味がわいた。そこで、20cmユニットと10cmユニットを続けて1ペアずつヤフオクで落札した。購入したユニットは購入順に下記の通り。

  1. 20cmフルレンジユニット;FOSTEX FE208Σ(未使用貯蔵品、布エッジ塗布剤風化)
  2. 10cmフルレンジユニット;FOSTEX FE108Σ(中古品、布エッジ塗布剤風化、コーン紙変色)
  3. 16cmフルレンジユニット;FOSTEX FE166E(中古品、布エッジ塗布剤風化、コーン紙変色)

 いずれも古いものだったで、布エッジの塗布剤が無くなってスカスカになっていたり、コーン紙にはその布エッジの塗布剤が茶色に滲んでいたりしていたが、色々調べて修理して使用した。この修理も意外と楽しかった。布エッジにはユタカメイク社の「液体ゴム」が素人でも素晴らしい仕上がりになったし、また、塗布剤が滲んだコーン紙には、クラフト社のフラフト染料(黒)を使ったところ、コーン紙の質量をあまり増加させることなく素人でも綺麗に黒く染まった。いずれも水溶性なので扱いが楽だった。これらの補修材は、他の方も古いスピーカーのレストアする際に大きな威力を発揮すると思う。
 次ページにレストアしたスピーカーのビフォー&アフターの写真を示す。

 20cmフルレンジユニットのBHが完成して、300Bのシングルアンプで鳴らしたい欲求が無性に湧いてきた。その購入試聴を兼ねて、SUNVALLEY社に道場破りのスピーカー持ち込みを行い、大橋慎氏にご評価いただくことができた。そこで良いご評価を頂いたので無上の喜びを感じた。現在はそのの時購入を決めたSV-S1616D/300Bで毎日音楽を楽しんで聞いている。このアンプはBHととても相性が良いと思う。

<写真a>スピーカーユニットのレストア(FE108Σ)

さて、本題のエンクロージャーの設計方針だが、次のようなことを考えて設計した。

  1. 形状は出来るだけ場所を取らないCW型とする
  2. 側板の大きさは三六合板1枚で2台分取れるギリギリの大きさとすること
  3. 音道の曲がり回数を増やしても内容積を出来るだけ効率的に使うこと
  4. 音道の曲がり角の外コーナーは音道幅の起伏が少なくなる様にコーナー板を付けること
  5. 音道の曲がり角の内コーナーの板の角もRを付けて干渉波の発生を抑えること
  6. 定在波対策として出来るだけ平行面には少なくとも一方に吸音材を貼ること
  7. ホーンの共鳴周波数を出来れば35Hz以下とするため音道の長さは2.5m以上をめざすこと
  8. スロート面積比は使用するユニットの特性を考慮して振動板面積の80%とすること
  9. 空気室の容量はクロスオーバー周波数が200Hz付近となる様にすること
  10. ホーン広がり係数(m)はエンクロージャーの容積が大きくなり過ぎないように出口付近まで余り大きくせず、後半にはできるだけ大きく末広がりにすること
  11. 音道を長く取ろうとすると、どうしてもエンクロージャーの容積的に開口部が大きくできないため、追加のホーン(AddHorn)を別途設計して、開口部に追加延長して取り付けられる構造とすること

 最初に設計した20cmユニットのエンクロージャーの設計図とデータ表を次ページ以降に示す。このエンクロージャーの名称は「FE208Σ25W1AD」とした。FE208Σ用の25cm幅(W)1号機でAddHorn付き (AD)という意味。

 この「AddHorn」というのは自身の命名だが、どうしてもエンクロージャー本体だけでは十分に開口面積を取ることが難しいため、後付けで大開口にするための追加延長ホーンだ。このホーンは開口角度の設定が難しかったが、左右の開口角度が大体75度程度で良い効果が得られた。着けるとf特が変わり低音部の音圧が上がった。音道も少し長くなるので共鳴周波数もほんの少しだが下がることになる。開口角度が大きすぎると効果が少なく90度では開き過ぎの感があったので、後で75度に狭めたのでややこしい形になった。60度でも試したが少し癖が強いと感じた。

<設計図1>FE208Σ25W1AD 本体

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<設計図2>FE208Σ25W1AD AddHorn部

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<設計データ1>FE208Σ25W1AD ホーン断面積

ホーンの広がり係数「m」は、長岡鉄男氏の文献では広がり係数は「k」となっており、その値は、
式;k=Exp(m/10) で換算できる。
したがって
  m=0.3 のとき k=1.030
  m=0.7 のとき k=1.072
  m=0.9 のとき k=1.094
となる。

<設計データ2>FE208Σ25W1AD 仕様表

令和元年9月 訂正版

注)8月23日公開時点の仕様表は、黄色枠内の数値が間違っていましたので訂正しました。

<写真1>FE208Σ25W1AD製作途中

 使用した板厚は15㎜とやや薄めなので、エンクロージャー本体が鳴っているのが良く分かる。しかし、定在波対策をある程度しているので、共振する特定周波数は抑えられている様だ。どの周波数でも全体に響いている感じで、良く言えば、チェロの様な楽器の筐体が響いている様な効果があるのではないかと思う。この結果から、エンクロージャーは必ずしも頑丈な箱である必要はない様だ。
この写真の後、側板内側の音道部にも吸音材を貼った。吸音材は裏側ゴム引きのカーペット材をタッカーステープルで止めた。開口部の開き方が気に入らなかったので、このあと設計図の様に開口部の上面に音道の面積を変える部品を追加したが、このままの方が良かったかも知れない。空気室には水槽用のフィルターを使用した。前述のカノン5Dおすすめの材料だ。定在波を恐れて結構多めに入れた。

<写真2> FE208Σ25W1AD完成品

 仕上げはウレタンニス塗装。コーン紙に触れると危ないので安いグリルカバーを探して着けた。固定用のプラスチック枠が安っぽかったので黒つや消し塗装をした。スーパーツイーターもオークションで購入して追加した。T90Aは効率が高いのでアッテネータでゲインを下げている。コンデンサーは1.5μFでクロスオーバー周波数を13kHzに設定。FE208Σのf特からみても妥当と思われるし、クロスオーバー周波数はこの辺が一番艶やかな音になると思った。コンデンサーはメーカが違うと微妙に音が変わると思う。
なお、AddHornは運搬時等には取り外せる。

 本体が仮組できた時に鳴らしてみた。その音に思わず感動した。それは、軽快で伸びやかな低音と、優しくよく響く中高音だった。評価などで目にしていた「音像の定位の良さ」という表現もこの時初めて実感できたような気がした。これこそ自分が求めていた音だと思った。

 製作途中での変更も多かった。AddHornも一旦完成してからの追加だった。本体の完成後に「長岡鉄男のオリジナルスピーカー設計術(基礎知識編)」を購入して読んだ。この本の24頁に重要な改良ヒントが書いてあった。それは、<バックロードホーンでは音道の入口と出口で6~10倍ぐらいに広げる> ということだった。そして、開口部は<かるく末広がりにした方が開口部での空振りが多少減るだろう>と書いてあった。自分の設計を見直してみると、本体だけでは開口面積がスロート面積の5倍しかない。そして、確かに低音が不足しているように思えた。そこで思い付いたのが写真で見たことのある横に広がるイチョウ型のホーンだった。これなら自分のCW型エンクロージャー本体の開口部にも着けやすそうだと考えた。直ぐに製作し、鳴らしてみた所、これはいけると思った。低音の押し出しが良くなった。既に書いたが、AddHornの開口角度は敏感に特性に影響を与える様で、色々試した結果、左右の板の開口角度は大体75度前後が良い様に思えた。今回の設計ではスペースの制約も考えてAddHornの長さは実質11.5cm程度とした。なお、開口角度は最初設計した90度では開き過ぎのため単なるバッフル板に近くなってしまうと考えられ、また、60度ではちょっと癖が強く出てしまう様な気がした。

 それに加えて、低音の押し出しには開口面積がある程度大きくないといけないと感じた。それは、このあと製作した、10cmユニットのBHや16cmユニットのBHで感じたもので、特に16cmユニットのBHでは音道を3mにも伸ばして制作したが、開口面積は20cmユニットのBHと比較するとまだ少しだけ小さいので、何となく20cmユニットのBHには音が及ばないような気もする。したがって、音道を少し短くしても、もっと広がり係数を重視して開口面積を大きくする工夫が必要かもしれない。開口面積が大きくなれば空振りが起こりにくいからである。製作した20cmユニットのBHの開口面積は1,333㎠で、これはちょうど40cmウーファーの面積に一致する。16cmユニットのBHの開口面積は1,148㎠で38cmウーファー並み、10cmユニットのBHの開口面積は276㎠しかないので18cmウーファー並みとなる。と、ここまで書いたが、疑問として残るのは、小さなフルレンジユニットで大きな開口部のBHを製作しても、空気を十分ドライブする力があるかどうかということだ。スピーカー個々の性能にもよると思うが、自作の10cmユニットのBHでこれから調べたいと思う。

 20cmユニットBHのあとで製作した10cmユニットBHと、16cmユニットBHの、それぞれの設計データと写真を併せて以下に掲載する。この16cmユニットBHも充実した音で鳴るが20cmユニットBHとは一味違う。これは、ユニットの違い、音道の形や長さの違い、開口部の面積の違いなどによるものだが、BHらしさは同じようにしっかりと出ていて求めている音から決して外れてはいない。10cmユニットのBHは多分音道の吸音材不足があるので癖が出ているのだと推測する。それに明らかに低音不足なので、今後AddHornの改良で改善が出来るかどうかが興味深い。

<設計図3>FE166E25W1AD 本体

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<設計図4>FE166E25W1AD AddHorn部

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<設計データ3>FE166E25W1AD ホーン断面積

 2.8m~2.9m付近のホーン断面が徐々に広がっていない所が良くなかった。ここは修正が不可能な場所だった。かなり音に影響しているかもしれない。実際、少し癖がある様な気がするのは、ここの形状の影響かも知れない。

<設計データ4>FE166E25W1AD 仕様表

<写真3>FE166E25W1AD製作途中

 20cmユニットのBHと同様に、平行面の吸音対策、コーナー部の処理を徹底した。反省点としては開口部手前の音道が徐々に広がっていない部分で、ここは設計が良くなかった。

<写真4> FE166E25W1AD完成品

 仕上げは20cmユニットBHとほぼ同じ。ウレタンニス塗装。安いグリルカバーを探して着けたが、ちょうど良いグリルカバーが無かったので小さめの物にして5.5㎜厚のシナ合板をスペーサーとして挟んでいる。こちらもオークションでスーパーツイーターを購入して追加した。こちらはFT17Hで効率はちょうど良いのでアッテネータは不要だったがゲインを下げられる様にしてある。コンデンサーは1.2μFでクロスオーバー周波数は16.5kHzに設定。FE166Eのf特は高音まで伸びているので少し高めに設定した。FT17Hは柔らかい音なのでコンデンサー容量の選択は余りシビアではないと思う。こちらもコンデンサーのメーカで微妙に音が変わる様に思った。
 こちらも、AddHornは運搬時等には取り外せる。

<設計図5>FE108Σ16W1AD 本体

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<設計図6>FE108Σ16W1AD AddHorn部

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<設計データ5>108Σ16W1AD ホーン断面積

<設計データ6>FE108Σ16W1AD 仕様表

<写真5>FE108Σ16W1AD製作途中

 コーナー部の処理は他のBHと同様に徹底したが、音道の幅が狭いので、吸音材の設置が面倒になり、思い切って音道の吸音材は無しにしてみた。結果は、中音に癖が出てあまり良くなかった。そこで後ろのバッフル板の音道部分の側面片側に後で苦労して吸音材を入れた。これで中音域の強い癖が少し和らいだように思う。

<写真6> FE108Σ16W1AD完成品

 仕上げは20cmユニットBHとほぼ同じ。ウレタンニス塗装。安いグリルカバーを探して着けた。こちらはツイーター無し。

 これもAddHornは運搬時等には取り外せる。前述の様に、このAddHornは効果が弱いので、開口面積をもう少し広げるために改良の余地がある。

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