スピーカー設計製作ログ
10cm/16cmユニット・バックロードホーンの問題点と改良

令和元年9月

 SUNVALLEYで7月に購入したSV-S1616D/300Bがお盆前に完成した。以前から製作を始めていた16cmユニットBHも直前に完成していたし、10cmユニットBHのAddHornも改良できたので、SUNVALLEY店主の大橋慎さんにご連絡して、ご無理を言ったところ、SUNVALLEYのリスニングルームでの2度目の道場破りをさせていただく事が出来た。持ち込ませて頂いたのは、次の3つ。

  1. SV-S1616D/300B
  2. 16cmユニットBH
  3. 10cmユニットBH

 SUNVALLEYのリスニングルームではどんな音が鳴るのか期待と不安を抱きながら車を走らせた。高速道路の渋滞でお約束の時間を30分遅刻して到着したが、大橋さんは笑顔で迎えてくださり、荷物をどんどん運び入れてセッティングまでして頂いた。感謝。
 このSV-S1616D/300Bは夢中になってほぼ丸2日で組み上げた。以前に一度経験があったので、間違いも無かった。カップリングコンデンサーは、出力段に大橋様お奨めのJensen製銅箔オイルペーパー、初段はDel Ritmo製オイルペーパーに、それぞれグレードアップした。真空管はPrime 300B Ver.4で、初段は、Mullardの12AT7と12AU7に差し替えた。このMullardは直前にオークションで安く入手したもので本物かどうかは確証がないが、音の立ち上がりが良く持続音の響きも豊かで潤いを感じる。弦を弾く音・パーカッション類・ピアノの音が明快で潤いのある響きがすると思う。
 私は自作BHを300Bシングルアンプで鳴らしたいという衝動が抑えられなくなって購入に至ったのだが、シングルアンプはBHと相性が良いと思う。以前に組んだプッシュプルアンプは力強いオーケストラ演奏を鳴らすのに向いていると思うし、シングルアンプは楽器の数が少ない演奏を鳴らすのに向いていると思う。

 さて、セッティング後ひと息ついて、持ち込んだCDを一枚一枚聴き始めた。以前持ち込んだ20cmユニットBHと比べると、今回持ち込んだBHは両方とも少し癖が強いと思っていたが、SUNVALLEYの広いリスニングルームで、大音量で鳴らすと、自宅の狭い6畳間で、中音量以下で聴いていた音とはどうも鳴り方が違う。
 16cmユニットBHは中音から低音にかけてブーミーで音が重い感じだ。自宅でも何となく感じていたが、大音量で聴くとはっきりと癖が感じられる。私の目標は「軽くて伸びやかな低音」なので、この鳴り方は出来ればちょっと直したい。
 10cmユニットBHはというと、こちらも自宅でも何となく感じていたが、大音量で聴くとはっきりと癖が感じられる。こちらは中音域が張り出している。大橋さんは中音域にホーンロードが掛かり過ぎているように聞こえるとおっしゃった。大橋さんにこの素晴らしい機会をいただいてこのを聴いたら、ちょっと手を加えないわけにはいかないと思った。
 その日、帰り道から寝るまで考えていた。そして、原因かどうか自信があったわけではないが、思い当たる問題点が見つかった。それは、空気室の容積だった。以前に書いたの製作レポートの仕様表をご覧になった方の中には気付かれた方もいるかもしれない。実は、設計をした時に空気室の容積は大きめに設計していた。これは、「カノン5D」さんのお奨めの手法だ。小さ過ぎると後で修正が効かないが、大きめに設計しておけば後で詰め物をすれば自由に修正が効く。
 クロスオーバー周波数を目標の200Hzにするためには、16cmユニットBHの空気室の適正容積は5Lである。しかし、設計では5.78Lある。このため、クロスオーバー周波数は186Hzになっていた。また10cmユニットBHの方も空気室の適正容積は2Lであるが、設計では2.41Lあり、クロスオーバー周波数はこちらも184Hzと低めになっていた。
 設計時点では、後で調整すればよいと思っていたが、いつの間にかすっかり忘れていまい、今まで気にもかけていなかった。気付いたからには、ここは、見直さないわけにはいかないと思った。
 対策をどうするか考えるうちに、一つ仮説を立ててやってみることにした。ユニットが小さくなるにしたがってクロスオーバー周波数を上げるべきではないかと考えた。これはマルチウェイスピーカーのネットワークに当てはめると当たり前の様にも思えた。ホーン部がウーファーと思えば良い。
 次の日、概算で詰め物の形と大きさを決め、対策部品を製作した。ツーバイフォー材(断面38㎜x89㎜)が余っていたのでこれを使うことにした。

 以下に改良結果を記載する。先ずは10cmユニットBHから。

<設計図8> FE108Σ16W1AD2改

(クリックで拡大

 空気室の後面上部に角材を取り付けた。構造上、音道が35㎜長くなる改造となるが、これは大勢に影響はない様に思う。

<FE108Σ16W1AD2改> 詰め物の角材と吸音材

 38㎜x85㎜x160㎜の角材を2分割した形にして挿入、両面テープ+木ネジ留めにした。ツーバイフォー材は38㎜x89㎜なので4㎜だけ削るのがちょっと面倒だった。

 吸音材は多めに追加した。理由は後述。

 吸音材として使用している水槽用フィルター。以前のレポートで紹介した「カノン5D」さんお奨めの物のひとつ。6枚入りは約20㎜厚で、10枚入りは約10㎜厚。場所によって両面テープやタッカーステープルで止めた。

<設計データ9> 108Σ16W1AD2改 仕様表

 空気室容積を2.41Lから一気に0.79L減らし1.62Lにした。その結果、クロスオーバー周波数は184Hzから289Hzまで上昇した。ちょっと上がり過ぎかとも思ったが、あとでも修正できるし、第一にこの方が作り易かった。この方法では構造上、音道が35㎜延びる形になったがこれは大勢に影響はないと思った。仮組で試聴したところ、中音の張り出しが少なくなり、相対的に低音が上手く出てきた感じがする。癖の出ていたピーク周波数が上がった感じがする。
 しかし、そのピーク周波数あたりが耳障りだった。その原因を推測してみた。空気室内の音が反射してコーンやエッジから漏れ出ているのではないかと推測した。そして、空気室内に吸音材を追加してみることにした。それが、前掲の吸音材を多めに詰め直した写真の理由。
 幸運にも結果は上手くいった。高音域の濁りが無くなり透明感が出た感じがする。トータル音量は少なくなった感じがする。その分、低音が押し出してきた感じがする。改良前とは驚くほど違いがある様に感じる。個々の楽器音や音声が聞き取りやすいと感じる。響きや余韻も少し豊かになったようにも感じる。これは思った以上に満足できる結果と思った。

 つぎに、16cmユニットBHの改良。

<設計図9> FE166E25W1AD改

(クリックで拡大

 空気室の後面下部に角材を取り付けた。こちらは音道への影響はない。38㎜x89㎜x250㎜角材を2分割した形にして挿入、両面テープ+木ネジ留めにした。角材の写真を撮り忘れたが、10cmユニットBHの場合と取付場所がちょっと違うだけで、ほぼ同じイメージである。

<FE166E25W1AD改> 詰め物の角材と吸音材

 こちらも吸音材は多めに追加した。理由は10cmユニットBHと同じ。

<設計データ10> FE166E25W1AD改 仕様表

 空気室の容積を5.78Lから0.84L減らし4.94Lにした。その結果、クロスオーバー周波数が元の186Hzから220Hzに上った。試聴したところ、中音から低音にかけてのブーミーさが減って、低音が少し軽い音質になった感じがする。こちらも癖の出ているピーク周波数が上がった感じがする。そして、そのピーク周波数あたりがちょっと耳障りな感じがする。
 この原因も、おそらく吸音材不足で空気室内の音がコーンやエッジから漏れ出ていると推測した。そこで、こちらも空気室内に吸音材を追加してみた。
 こちらも幸運にも結果は上手くいった。10cmユニットBHと同じ様に高音域の濁りが無くなり透明感が出た感じがする。こちらもトータル音量は小さくなった感じがする。低音は元々出ていたので出過ぎることを心配したが、ブーミーな感じが少なくなっただけで心配した低音の増加感はなかった。こちらも全体に改良前とは驚くほど違いがある様に感じる。個々の楽器音や音声が聞き取りやすいし、響きも余韻も豊かになった様に感じる。こちらも期待した以上に満足できる結果となった。

 今回設計したBHについての問題点の改良をまとめると次のようになる。

  1. 空気室の容積は、クロスオーバー周波数が200Hzもしくは少し高い周波数にすると良かった。
  2. クロスオーバー周波数は、使用するユニットが小さいほど高い周波数にすると良い結果が出た。
  3. 空気室の吸音材を多めにすると音の濁りが無くなり透明感が出た。

 この問題点解決体験からBHの完成度を上げるための重要なポイントをまとめる。

  1. クロスオーバー周波数を決める空気室の容積設定の重要性
    スピーカーのf特に対してクロスオーバー周波数が低すぎると中低音に癖(ピーク)が出ることがある。特にホーンロードが良くかかっているBHではピークが顕著に出やすいと思われる。
  2. 空気室の吸音材の量の重要性
    空気室内の反射音が強いとスピーカーの前面からの音に混ざって出て来るので音を濁すことがある。対策としては吸音材を効果的に使う事で空気室からの反射音を減少させることができる。

 特に空気室の吸音材の量の違いは、音の透明感が「見(聞き)違えるほど」に良くなると感じた。これは、BH自作派の方で空気室の吸音材効果を未経験の方にはちょっとお試しいただく価値があると思えるような鮮烈な印象があった。

 SUNVALLEY店主の大橋慎様には、商売にならない道場破りの場を提供していただき改良の重要なヒントを与えてくださったことに感謝している。もし3度目の道場破りの機会があり、改良したBHの音をご評価いただければこれ以上の喜びはないと思う。

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