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LEGO SPEAKER 第13報 ≪番外編 第14報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第13報

21号機 バイブレーションウーハー搭載!「ハイパースマート」
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1. 超低音再生への道 |
インナーイヤータイプのイヤホンで音楽を聴いていると、意外に低い音が聞こえてきて驚くことがある。発音のモードが異なるために普通のスピーカーシステムと違い、イヤホンは低音域のレスポンスが良いのである。このCDこんな低音が入っていたのか?
スピーカーシステムでこの低音を聴いていないとすると演奏家が意図した本来の音楽を聴いていないことになるな・・・ちょっと損した気分である。
スピーカーシステムの自作をする者にとっての一つの夢は、贅を尽くした大型スピーカーシステムでのワイドレンジ再生であろう。しかし、現実にはコストがかかり過ぎ、実際に造ってもこういったシステムをマトモに使うには大きなリスニングルームが必要になる・・・。私もバックロードホーンの大型システムを使っているが、スピーカーシステムには申し訳ないが最適なセッティングはできていない。もしも最適なセッティングをするとなると他のスピーカー群との共存は難しい。つまり一つのシステムを選択しなければならず、移り気な私にはできそうにない。かといって重たいシステムを聴く度にセッティングし直すなんて・・・。
もう一つのスピーカー製作者の夢・・・それはコンパクトシステムでの低音再生である。大型システムの豊かな低音をコンパクトなシステムで再生できないものか?これができればデスクトップで気軽に本来の音楽を楽しむことができるのだ。
低音といっても私は2種類あると感じている。いわゆる低い音とはズンズン、ボンボンと響く音域であって、周波数的には100Hz程度の帯域であろう。この帯域をバスレフシステムなどの手法で増強するといかにも低音が出ているという気分になる。しかし、ここで問題としたいのはもっと低い音、50Hz付近の帯域である。よく重低音などと表現されるが低音とは軽くあるべきだと思うので超低音と呼ぶことにする。
超低音とはどんな音なのか?・・・音と言うよりも圧力? 風? 空気感のようなもの?コンサートホールに入るとフワッ!と圧力を感じることがある。広い空間で極めて低い周波数の音圧が定在波を生じているのではないだろうか。
超低音が再生できないと音楽再生においてどういった問題となるのか?たとえばコントラバスの編成が少なくなるようなものか?・・・違うと思う。88鍵ピアノの最低音は約27Hzだがこんなに低い音なのに楽器の音として聞こえるのは広い帯域に高調波が分布しているからである。ファンダメンタルと言われる音楽の基音は数百Hz~数キロHzの帯域であり、この部分と高調波がきちんと再生できれば音楽を楽しむことはできる。ではヴァイオリンなどの高音域楽器の再生には超低音は必要ないのか?
手を叩いた音などのインパルス音を解析すると超低音の音域にもレスポンスがあることがわかる。持続する定常音では問題はないが、ヴァイオリンにおいても弾きだすアタック音の再現には超低音が必要なのだ。つまり超低音が再生できないと演奏家の気迫のようなものが再現できないのではないかと思っている。
能書が長くなった。今回は手に乗るほどのコンパクトなスピーカーシステムで超低音を再生しようという挑戦のストーリーなのである。(こんなに苦労するとは思わなかった・・・)
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2.「ハイパースマート」プロジェクト |
私のLEGOスピーカー最小のモデルは第8報で報告した15号機「スマート」である。
5cmフルレンジユニットを搭載したスパイラルド・バスレフ方式のシステムであるが、お世辞にも低音が出ているとは言えない。まあ、5cmではこんなものかと思い聴いていた。
今回はこの15号機のコンパクトサイズで低音限界に挑戦しよう。ニックネームは「ハイパースマート」である。
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2-1 低音再生限界とは |
小型スピーカーシステムで超低音が再生できないのはなぜか?
(1)小型スピーカーユニットでは振動板面積が小さいので低音域の放射効率が低い
低音の音圧を得るには大量の空気をゆっくりと駆動する必要があるが、小さなうちわでは風が来ないように、小さな振動板面積では空気を効率良く駆動することができない。振幅を大きくしても空気は逃げてしまうのでこの逃げを防ぐためにホーンシステムなどの工夫が必要になる。結局、大きなホーンを必要とし、コンパクト化は不可能となる。
(2)そもそも超低音での駆動ができない
スピーカーユニットには最低共振周波数fo(エフゼロ)というスペックがあり、振動板全体の質量と支持系のバネ定数から定まる共振周波数であるが、この周波数がそのスピーカーユニットの低音駆動限界となる。密閉箱による空気バネの付加やバスレフダクトの共振周波数の調整で若干低い周波数に伸ばすことも可能であるが1割程度であろう。一般にスピーカーユニットの口径サイズでこの周波数foは決まり、10cmフルレンジでは70Hz程度、8cmでは100Hz、今回用いる5cmユニットでは160Hzである。これでは超低音の駆動は不可能だ。
このfoを下げるには振動板を重くしてバネ定数をゆるくすれば良い。しかしこうしたスピーカーユニットでは高音域の再生は不可能になる。つまりこれが低音域専用のウーハーユニットなのである。
(注:低音限界といってもこれ以下の周波数が全く出ないのではない。音圧が著しく低下するということである)
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2-2 マルチウェイシステムへの発展 |
結局、超低音の再生には小口径のフルレンジユニットのみではダメで低音用のスピーカーユニットを追加しなければならないという結論に行き着く。いわゆるマルチウェイシステムである。
40Hz程度のfoを得るには16cmくらいのウーハーユニットが必要である。当然15号機には入らない。ましてやこのようなウーハーユニットを収めるには相応の大きな内容積を持ったエンクロージャでないと強大なスピーカーユニットの背圧を処理することができない。つまり大型システムになってしまう。
私が気に入っている市販の2ウェイスピーカーシステムALR/ジョーダンのEntry Sは11cmのウーハーユニットを持ち、システムのfoは60Hzである。Entry S のサイズはW130mm×D190mm×H215mmであり、15号機のW64mm×D117mm×H200mmに対して3倍以上の体積がある。
う~ん。15号機のサイズでは普通の2ウェイは無理か?もっとも私がLEGOで造る以上、普通の方式ではつまらない。
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2-3 筐体放射方式 |
あるとき15号機をテーブルに置いて音楽を聴いていたら「あれっ?このスピーカーこんなに低音が出ていたっけ?」と感じた。いつもの試聴用のスピーカースタンドに乗せた場合と比較して明らかに低音のレスポンスが良い。ところがしばらく聴いていたらいやになってきた。ドコドコと膨らんだ低音なのである。そう、バスレフダクトの周波数でテーブルが振動していたのだ。スピーカースタンドの重要性を認識した。以来、このテーブルに置いて聴くことは止めたが、この経験で思ったことは低音の放射においてエンクロージャやスタンドなどの影響が思いのほか大きいと言うことである。
大型のスピーカーシステムでは大口径のウーハーユニットからの直接放射音圧もあるが、このユニットの強力な背圧によりエンクロージャ全体が振動して筐体からの音圧放射も相当量あると思う。大型のエンクロージャを鳴らないように徹底補強することは極めて困難であるし、実際エンクロージャに触ってみると相当に振動していることがわかる。中、高音域の振動はすぐに減衰するが超低音では脚部からスピーカースタンドまたは床に伝わりリスニングルーム全体を振動させる。こうして大型のスピーカーシステムは部屋全体を振動させて超低音を再生している。幸い超低音の音域は波長が長いために(34Hzで約10m)指向性が無くなり方向感は失われるのでこの副次放射の音像定位に対する悪影響は少ないと考えられる。(だからバスレフポートは背面に設けられるし、ウーハーシステムを独立して左右チャンネルで共有するシステムが存在する)
この筐体放射やテーブル面の副次放射を積極的に利用することはできないか?15号機で好ましくないと感じたのはバスレフ周波数が増強されたからであって、超低音の振動ならば好ましい方向に作用するのではないか?無いより絶対に良いはずだ。
・・・超低音の放射を振動板に頼らない。つまり、大口径の振動板が不要であればバッフル面積を必要としないし背圧も無いので内容積も不要になる。LEGOブロックのエンクロージャでは固有振動が少ないので音色に影響の少ない超低音筐体放射が期待できる。
超低音の振動ドライバーにはボディソニック(商標?)に用いられるバイブレーター(振動器)を利用しよう。称して「バイブレーションウーハー」である。
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3.仕様の検討 |
21号機の基本仕様を以下に示す。なお、これは改良後の最終仕様である。
<21号機 基本仕様>
・方式:5cmフルレンジ+バイブレーションウーハー 2ウェイ超コンパクトバスレフ
・組立方法:バーチカルタイプ(垂直組立)
・デバイディングネットワーク:メインユニット -6dBアッテネータ
:バイブレーションウーハー LPF(1.2kHz -3dB)
(バイワイヤリング対応)
・使用ユニット:TangBand W2-802SE(ポリプロピレンコーン)
Acouve Laboratory Vp408(バイブロトランスデューサ)
・外形寸法:W64mm D117mm H200mm(ターミナル除く)
・バスレフ周波数:約160Hz
・バイブレーションウーハーfo:20Hz
・吸音材:活性炭
・質量付加ウエイト:100g(パチンコ玉20個)
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3-1 ドライバーユニットの選定 |
当初、前面に装着する5cmフルレンジユニットは15号機で用いたTangBand W2-803SMを考えていたが後に交換する破目になる。普通は高音域を担当するユニットはツイーターと呼ぶが、今回はフルレンジ+ウーハーという形なのでメインユニットと呼ぶことにする。
今回のキーパーツ、バイブレーターには写真2に示すAcouve Laboratoryの小型モデルVp408を選択した。ボディソニックに用いられる振動器である。インピーダンス(交流抵抗)は8Ω、再生帯域は固定状態によるが20Hz~15kHzという。15kHz?振動器としてはたいしたレスポンスである。実際、テーブルに置いて音楽信号を入力すると聴ける音がする。面白いものだ。期待の超低音も可能性を感じる。しかしこの高音域のレスポンスは逆に問題だ。メインユニットと干渉するので減衰させる必要がある。
能率(スピーカーユニットの音圧変換効率)は固定状態によるため定義できない。このVp408の外観は56mm角で厚さは17mm。今回のエンクロージャに内蔵するにはこのモデルしかない。
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3-2 デバイディングネットワークの検討 |
先に述べたように15号機のサイズで5cmフルレンジユニットにバイブレーションウーハーを追加した2ウェイとするが、これまでの製作に無かった新たな検討が必要である。デバイディングネットワークである。デバイディングネットワークとは高音域用のスピーカーユニットと低音域用のユニットに音声信号を分配する電気回路のことである。
簡単にはコンデンサーを高音域用ユニットに直列に付加すれば良い。コンデンサーと言う部品は高い周波数においてインピーダンスが低下する性質があるので高音域を通すことからハイパスフィルタ(HPF)を構成できる。その周波数はコンデンサーの静電容量〔F〕(ファラッド)で変わり、たとえば8Ωのスピーカーユニットを用いた場合、20μFのコンデンサーを直列に接続すると約1kHzでコンデンサーのインピーダンスが同じ8Ωになるのでスピーカーユニットにかかる電圧が半分になり音圧が2分の1に低下する。また、この周波数を-3dB(デシベル)カットオフ周波数と言う。
コンデンサーのインピーダンス〔Ω〕:1/(2・π・f・c)
f:周波数〔Hz〕 c:コンデンサーの静電容量〔F〕
通常、静電容量はμFというオーダーになりカットオフ周波数を下げるために静電容量を大きくするには電解コンデンサーという部品を用いる。しかし、静電容量の大きな電解コンデンサーは高い周波数で特性が劣化する(インピーダンスが上昇する)場合があるので特性の良い小容量のフィルムコンデンサーを並列に接続すると良い。この場合の合成容量は単に加算となる。
写真3に用意したコンデンサーを示す。左の2種類が電解コンデンサー、右はフィルムコンデンサー(4.7μF)である。スピーカーに用いる電解コンデンサーは無極性タイプを選ばなければいけない。220μFと100μFを用意した。組み合わせで静電容量を変更して実験できるようにY型端子を接続してターミナルにつなぎかえる算段である。
HPFは上記の式からもわかるように低音域をスパッとカットするのではなく直線的に低音域が減少して行く。したがってカットオフ周波数を適切に設定しないと本来必要な周波数にまで影響が出てしまう。カットオフ特性を向上するにはコンデンサーとコイルを組み合わせて素子(部品)数を増やすと可能であるが、挿入損失も増加するので良し悪しである。
一般的に高音域用のスピーカーユニットと低音域用のユニットは並列に接続される。アンプから見て同等に駆動されるからである。ところがここで問題が生じた。15号機で用いていた5cmフルレンジユニットW2-803SMはインピーダンスが4Ωであり、これと8ΩのVp408を並列に接続すると合成インピーダンスが2.7Ωになってしまう(周波数による)。アンプの許容インピーダンス範囲は4Ωからなので、並列接続では危険だ。
R1とR2の合成インピーダンス
直列接続 R1+R2 並列接続 (R1・R2)/(R1+R2)
しかたない、直列接続としよう(この選択が間違いだった)。
目的とするデバイディングネットワークの特性は
(1)バイブレーションウーハーの高音域の減衰
(2)メインユニットの低音域の減衰
である。(1)は先に述べた高音域の干渉低減であるが、(2)はなぜか?・・・5cmフルレンジユニットに大きな低音域入力があるとバタついて異音を発する。ひずみの原因となるのだ。そこで、メインユニットの低音域を減衰させてこのひずみ対策と、バイブレーションウーハーの内蔵により減少した内容積に対するメインユニットの背圧対策としたいのである。
図1にデバイディングネットワーク回路を示す。メインユニットとバイブレーションウーハーは直列に接続され、バイブレーションウーハーにコンデンサーが並列に接続される。
コンデンサーC1の静電容量にはとりあえず100μFを設定した。この静電容量でバイブレーションウーハーの8Ωと約200Hzで等価となり、電流が半分に分流するのでウーハーのレスポンスは-3dBとなり、これ以下の周波数ではコンデンサーのインピーダンスが上昇してレスポンスも増加する。メインユニットにとってはHPFとなるので低域は減衰するという考えである。ターミナルをそれぞれのユニットから独立に出しておけば素子のつなぎ変え実験も容易である。C2は前述の高音域改善用フィルムコンデンサーである。
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3-3 想定される問題点 |
さて、今回の21号機には試作する前からいくつかの問題点が懸念されていた。
(1)バイブレーションウーハーの高音域干渉の問題
(2)メインユニットとバイブレーションウーハーの能率の違い
(3)筐体放射方式による振動問題
(1)のバイブレーションウーハーの高音域漏洩は先のデバイディングネットワークで対応する予定であるが、予備実験でかなり高音域までレスポンスがあることがわかっているので問題となりそうである。減衰特性を重視してカットオフ周波数を下げると肝心の超低音レスポンスまで低下させる可能性がある。実験が必要だな。
(2)の能率の違いは最大の問題である。バイブレーションウーハーに用いるVp408は能率スペックが無い。固定状態や振動素材で変わるからだ。しかし、どう考えてもメインユニットよりも能率は低いだろう。これも試作実験で確認するしかない。
(3)要するにマナーモードの携帯のように振動で踊ってしまうということである。振動に耐えうる十分な質量が必要だ。この質量は超低音振動を設置面に伝えるためにも必要となる。
普通はスピーカーシステムのウエイトには鉛を用いるが、鉛害が怖いので今回はパチンコ玉を用意してみた。パチンコ玉は1個約5gの質量があり写真4に示すように10個を袋に詰めると50g。これを5袋詰め込んで250gのウエイトとする。
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4.試作機の製作と試聴 |
15号機を解体して準備した試作機の全構成部品を写真5に示す。では、いつものように個々の構成部品を説明しよう。
写真6はメインユニット部である。スピーカーユニットは15号機の5cmフルレンジの流用で、この部分に独立してターミナルが付く。写真7はバイブレーションウーハー部である。バイブレーターのVp408は2本のネジで側面に固定する。同様に独立してターミナルを設ける。写真8はトップカバー、写真9はボトムプレートである。
組み立てはまずバイブレーターをバイブレーションウーハー部に固定する(写真10)。ダブルナットで強固に固定した。LEGOのボックス形状もこのコンパクトサイズでは相当な強度がある。ターミナルに接続してこの部分の完成。
ボトムプレートを取付け、パチンコ玉ウエイトを挿入する(写真11)。250gのウエイトはずしりと重く頼もしい限り。
メインユニット部に活性炭吸音材を詰め込み、トップカバーでフタをする(写真12)。小容積の密閉構造となるがメインユニットの低音域振幅は抑えられる予定なので問題ないだろう。
上下を合体して(写真13)、完成(写真14)。背面にターミナルが2組存在するのが2ウェイの証である(写真15)。
図1のデバイディングネットワーク回路となるようにコンデンサーを接続する(写真16)。さて、音はどうかな?
ひ、ひどい音!?歪っぽくて聴くに耐えない。なんか金属音も付帯している。肝心の低音も向上が感じられない。
トホホ・・・。なんという大失敗。これは大変だ。一つずつ改善して行かなければならない。ちりもつもればやまとなでしこ?
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5.改良過程 |
スピーカーユニットの直列接続はタブーであった。わかってはいたのだがこんなにひどいとは。スピーカーユニットは発音体であると同時に発電体でもある。要するにマイクロホンと構造が同一なのだ。だから逆起電力が生じる。通常はアンプがこの電力を吸収するが直列接続では互いのユニットの逆起電力による干渉は避けられない。微弱な電力であろうが音質に与える影響は甚大なのである。また、スピーカーユニットのインピーダンスは振動や周波数により動的に変化する。この影響も互いに出る。だから並列接続が常套手段なのである。
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5-1 メインユニットの交換 |
早速メインユニットを並列接続が可能な8Ωのタイプに交換した。これで並列接続の合成インピーダンスが4Ωとなり問題なくなる。選択したスピーカーユニットは同一フレームの5cmフルレンジTangBand W2-802SEである(写真17)。特性もほぼ同じ。
ユニット置換後の外観(写真18)もほとんど変わらない。
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5-2 バスレフダクトの追加 |
メインユニットの振幅を抑えれば密閉箱でも大丈夫と考えていたが、結構振幅している。このユニットのfoは160Hzだから容易にバタつくのである。これはむしろバスレフ方式にして、この周波数で共振させて振幅を抑制する必要がある。(バスレフではダクトが負荷になるので抑制効果がある)
写真19に示すように5mm径の穴の開いたブロック(長さ16mmのダクト)をトップカバー左右面に追加してバスレフポートとした。写真では6穴であるが、この数で共振周波数をある程度調整できる。約160Hzに調整した結果4穴となった。バスレフといっても内容積も小さくダクト径も細いので積極的な効果は少なく、息抜き程度ではある。
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5-3 パチンコ玉の制振 |
安価なパチンコ玉をウエイトに利用したことも大失敗であった。内部で振動して金属音を発している。一個ずつイヤホンのウレタンカバーを被せて制振した。
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5-4 デバイディングネットワークの再検討 |
並列接続にデバイディングネットワークも変更しなければならない。図2は基本形である。220μFを接続すると約100Hz以下を減衰するHPFとして働く。ただしこの回路ではバイブレーションウーハーの高音域減衰はない。(素子接続は写真1)
この状態で再度試聴する。だいぶ音質は改善した。しかしながら相変わらず低音が足りない。超低音どころではない。明らかにバイブレーションウーハーの能率が低いのである。
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5-5 アッテネータの追加 |
図3のようにメインユニット側にアッテネータ(減衰器)を追加した。R2の8Ωはスピーカーユニットに並列に接続されている。これで電流が半分に分流される。合成インピーダンスは4Ωとなる。さらにR1の4Ωが直列に接続されるので電圧が半分になり、スピーカーユニットに与えられる電力は4分の1(-6dB)となる。トータルのインピーダンスは8Ωで変わらない。抵抗値を変えればもっと減衰させるアッテネータも組めるが、スピーカーシステム全体としての能率を落とすことになるので明らかに音質的には不利だ。-6dBが限界だと感じている。先ほど述べたアンプの吸収効果も低下するので本当はアッテネータは入れたくないのだが必要悪である。
写真20のように接続して再度試聴する。うんうん。だいぶ低音が感じられるようになってきた。
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5-6 LPFに方針変更 |
ここでふと気が付いた。低音を強化しようとしているのにデバイディングネットワークにHPFを用いているのは間違いなのではないか?また、相変わらず中、高音域が汚い。そうだ、バイブレーションウーハーの中、高音域が野放しであった。
デバイディングネットワークの回路を図4のようにLPF型に変更した。メインユニット側は先の-6dBのアッテネータのみとして160Hz程度の低音域もバスレフで有効に利用しよう。
バイブレーションウーハー側にはコイルを直列に接続する。インダクタンス1.0mH(ミリヘンリー)のコイルで約1.2kHz(-3dB)以下を通すLPFとなる。本当はもっと大きなインダクタンスが欲しいのであるが、コイルがバカでかくなるので現実的でない。また、入れすぎると低音まで減衰してしまう。頃合いが難しい。
コイルのインピーダンス〔Ω〕:2・π・f・L
f:周波数〔Hz〕 L:コイルのインダクタンス〔H〕
コイルにはPARC AUDIO L001-100を選んだ(写真21)。積層ケイ素鋼板のコアを持った新製品である。ずしりと重くウエイトにも利用できそうだ。1.0mHでサイズは約30mm角で長さ85mm。
写真22に示す図4の回路を接続した試作機はとてもスマートとは呼べない様相だ。
しかしその音質は?・・・。
合格である。これなら聴ける。だが問題が残った。このデバイディングネットワークどうやって納めるの?
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6.21号機の製作 |
再び21号機の全構成部品を写真23に示す。決定したデバイディングネットワークの素子が構成部品に入っている。エンクロージャが3分割になったのはボトムケースにコイルを収めるためである。パチンコ玉も制振対策してある。内容積が大幅に減ったので20個(100g)しか入らないが、重いコイルもウエイトになるのでまあ良いか。振動による移動対策のために脚に滑り止めシールを貼った。試作機の経験から万全の構えである。
デバイディングネットワーク内部配線は図5のようになる。メインユニットはアッテネータをかえしてターミナルに接続。バイブレーションウーハーはLPFをかえして独立してターミナルに接続してバイワイヤリング対応というか今後の実験に備える。ジャンパーピンでそれぞれのターミナルを結んでアンプとの接続も容易だ。
では製作しよう。
ボトムケースにコイルを挿入する(写真24)。コイルはネジ止め用のタブを切り取ってもぎりぎりのサイズ。
バイブレーションウーハー部と組み合わせる(写真25)。ちょっとケーブルが長いが改造にも備えてケーブルはネジ止めにした。
パチンコ玉ウエイトを詰めこむ(写真26)。20個入れるのも大変である。
メインユニット部にアッテネータと活性炭吸音材を詰め込む(写真27)。ここもぎゅう詰め状態。
上下を組み合わせて(写真28)、トップカバーを付けて完成(写真29)。
外観は試作機と変わらないが中身は大きく異なる(写真30)。
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7.試聴と評価 |
SV-17Kに接続して試聴する(写真31)。このスピーカーシステムは超低音を筐体放射するのでセッティング状態が重要である。残念ながら制振されたスピーカースタンドでは低音放射の効果が低い。写真のようにテーブルや机上に置いてテーブル面からの低音放射を利用する。
豊かな低音とは言えない。が、確かに超低音のスパイスを感じる。バスレフとも密閉型とも異なる素直な低音である。設置状態で超低音再生能力が変化するのは問題ではある。
21号機は15号機と比較してサイズは全く同一(写真32)。しかしそのテクノロジーは大きく異なる。超低音の音楽に対する効果は大きいと感じる。誇張した低音ではないがもう15号機の音には戻れない。
しかし、この小さなスピーカーシステムからこの超低音が聴こえるとは・・・痛快である。
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8.まとめ |
21号機は大成功とは言えない。まだまだバイブレーションウーハーの高音域干渉が残っているし、-6dBアッテネータがメインユニットの鮮度を落としている。メインユニットの低音域ひずみも解決できていない。だが、5cmフルレンジを配したこのサイズでこの低音域を再生できるスピーカーシステムはそうは無いのではないか?
「ハイパースマート」に採用した筐体放射方式は今後の大きな可能性を秘めたものだと考えている。
(2010.2.15)

LEGOスピーカー21号機「ハイパースマート」