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LEGO SPEAKER 第23報 ≪番外編その3 第24報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第23報

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1. はじめに |
毎年、真空管オーディオフェアでの楽しみはSUNVALLEY AUDIOさんのブースですばらしい音を聴かせていただくことだ。大型のフロアタイプスピーカーから奏でられる朗々とした音は私の目標でもある。やっぱりでかいスピーカーはいいなあ。低音の質が違う。まあ、こんなに大きなシステムはLEGOでは造れないが、方向性は参考にさせていただきたい。
最近のSUNVALLEY AUDIOさんオリジナルスピーカーシステムの傾向はコアキシャル(同軸型)ユニットの採用が多いように感じる。コアキシャルユニットは一つの理想形であり、2ウェイシステムを点音源で構成できる唯一の方式だ。海外ではTANNOYやKEFのシステムなどが有名だが、私も一度採用してみたいと思っていた。コアキシャルユニットはフルレンジユニットのような点音源のメリットと2ウェイシステムのワイドレンジを両立できるすばらしいユニットなのだ。今回のLEGOスピーカー31号機の製作はコアキシャルユニットシステムに挑戦する。
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2. コアキシャルユニットの選定 |
コアキシャルユニットのメリット、デメリットを改めてまとめてみる。
<メリット>
・ ウーハー、トゥイーターの同軸配置による点音源
・ 2ウェイシステムによるワイドレンジ再生
・ 2ウェイユニットの同一設計による最適化(音調、能率など)
・ エンクロージャ取り付けが1ユニットで済む
<デメリット>
・ トゥイーターへの制約(小型マグネット、取り付け強度低下など)
・ 高音域が低音域の変調を受ける
・ 同軸配置でもボイスコイル位置まで合わせないと位相は異なる
・ 見た目(好みによる)
まずメリットとしては、なによりフルレンジユニットのような点音源効果が期待できる。正しい音像定位と優れた音場再現性である。そして2ウェイシステムのメリットであるワイドレンジ再生と高音域専用ユニットによる中高音域の低歪みが得られる。次に通常の2ウェイシステムでは組み合わされるウーハーとトゥイーターの最適化はなされていない。つまり機種の選定で音調を合わせたり、能率の違い(一般的にトゥイーターの能率が高い)をアッテネーターで吸収することが必要だが、コアキシャルユニットでは組み合わせを考慮した設計をメーカーが行っている。このため、デバイディングネットワークも設計が簡単になる場合が多い。以前、デバイディングネットワークの考察で位相の問題を記したが、2ウェイシステムではウーハーとトゥイーターの接続位相が教科書によって記述が異なっていた。たとえば6dB/octのデバイディングネットワークで正相が正しいとするものと逆相が正しいとするものがあるのだ。この理由は通常の2ウェイシステムではユニットの取り付け位置が異なるために視聴位置との距離差から位相が異なるためだ。位相差は1Hzの場合170mで逆相だから3kHzではたった5.7cmで逆相になってしまう。したがって接続位相の正しい答えは聴いて気持ちの良い方なのだ。さらにクロスオーバー周波数付近では異なる2ヵ所から同じ音が出ているのだから正確な再現ができるわけが無い。また、コアキシャルユニットでは制作上は取り付けが1ユニットで済むこともメリットの一つだ。
デメリットとしてはトゥイーターが貧弱に成りやすい。意外にトゥイーターユニットのマグネットは大きなことが多いが、これは振動板の質量はウーハーに比べて遥かに小さいが高速で駆動するためにパワーが必要だからだ。このような大きなマグネットを搭載できないことは不利である。ウーハー用のマグネットと共用する方法もあるが単体のトゥイーターユニットよりも制約が厳しいことは避けられない。
次に、本来トゥイーターとウーハーが近接していることは良いはずであるが、トゥイーターの取り付けが十分で無いとウーハーの振動を受けて不要に変調される恐れがある。また、ウーハーからの放射音に高音域が直接さらされるのでこの影響もあるだろう。
先に接続位相の問題が無い(正相で良い)と述べたが、正しくはボイスコイル位置がそろっていないと正相とはならない。だが、セパレートユニットよりは遥 かに位相差は少ないだろう。最後にユニットが一つしか無いことはデザイン上のデメリットかもしれない。高級感がないのだ。
さて、まずは31号機に使うコアキシャルユニットを選定しなければならない。ところが選択の幅が少ないのだ。スピーカーユニットメーカーのカタログを見てもコアキシャルユニットはほとんど載っていない。SUNVALLEY AUDIOさんの製品ラインアップにはオリジナルのスピーカーユニットSunvalley10インチCoaxialがあるが10インチ(約25cm)と大きいので残念ながら使うことができない。実はこれまでコアキシャルユニット採用作品ができなかったのはユニットの入手性が良くないからなのだ。
希望のユニットとしては、せっかく2ウェイにするのだからあまり小さなウーハーでは面白くない。かといって大きすぎては実現性が低いということで10cmフルレンジユニットの約2倍の振動板面積が得られる13cmクラスのコアキシャルユニットが欲しい。このクラスはますます少なくなり、製品があっても限定生産だったり、すでに製造終了だったりとこの企画は頓挫していた・・・。
こうなったら最後の手段しかない。既製品からスピーカーユニットだけを拝借するのだ。と言ってもTANNOYやKEFのコアキシャルユニットは高価であろうし、ユニットだけを入手する方法もない。そこで、以前から気になっていた製品を購入することにした。TEACのS-300NEO(写真2)である。
このスピーカーシステムは前身のS-300から気になっていたのであるが手ごろなサイズのコアキシャルユニット搭載コンパクトスピーカーシステムで、独特のユニットデザインが好きなモデルだった。これがS-300NEOとして再登場したのだ。製品仕様を以下に示す。
<TEAC S-300NEO 仕様>
・ 方式:コアキシャル2ウェイ1スピーカー
・ エンクロージャ方式:バスレフタイプ(リア)
・ 使用ユニット:低域用 13cmコーン型
高域用 2.5cmソフトドーム型
・ 外形寸法:W184mm H240mm D229mm
・ 定格入力:50W
・ 出力音圧レベル:86dB/W/m
・ 再生可能周波数帯域:55~33,000Hz
・ 内容積: 5.7リットル
・ クロスオーバー周波数:3.5kHz
・ インピーダンス:6Ω
・ 質量:4.3kg(1台)
・ その他:スパイク付属(3個)
S-300NEOはチェリーの突板仕上げが楽器のようにすばらしく、美しい外観に感激した。コアキシャルユニットはS-300から改良され、より精悍なイメージとなっている。
リアバスレフのコンパクトモデルで金属製の3本足スパイクが付属していたり、バイワイヤリング対応のターミナルも豪華でオーデイオ的に満足できる製品である。それでいて価格も手ごろだ。マグネットによるサランネットの固定は良いアイデアで、これは私も使わせていただきたい。肝心の音に関しては後ほど述べることにする。
ちょっともったいないが早速S-300NEOを分解してスピーカーユニットを取り外す(TEACさんごめんなさい)。スピーカーユニットにはTEAC YDF2-135S80という型式がマーキングされていた。内部の詳細は権利の問題があるので記述しないが、バスレフダクト先端にウレタンが貼ってあったりして、とても丁寧な造りであった。コストパフォーマンスの高いモデルだ。
外したコアキシャルユニットはマグネットが予想以上に大きく、重く立派なものであった、プレスフレームだがプラスチックのフランジカバーと金属のマグネットカバーもあり、高級感がある。デバイディングネットワークは6dB/octタイプでインダクタンスの値は不明だがハイパスフィルターのコンデンサーは3.3μFであった。トゥイーターにアッテネーターが挿入されていない点がコアキシャルユニットらしい良さである。能率も含めて設計されているのだ。
こうして理想のコアキシャルユニットを手に入れることができた。
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3. 設計過程 |
構造設計を行う。これまではここで設計図を解説するところであるが、今回は設計の過程も報告してみたい。
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(1)コンセプトの設定 |
LEGOスピーカーの作品にはすべてコンセプトがある。新たな技術の追求であったり、純粋に良い音を求めたり、目的があるのだ。今回の31号機ではコアキシャルユニットを使って造るがこれは手段であり目的となるコンセプトは「フルレンジユニットのような点音源とワイドレンジシステムの融合」である。
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(2)エンクロージャ方式の決定 |
最近はタンデムドライブシステムを多く造ってきたが、今回はシンプルなバスレフ方式としたい。シンプルなバスレフ方式としては第9報で報告した16号機がある。バスレフ方式の研究のために製作したモデルで10cmフルレンジユニットを搭載したミニスピーカーだが内容積がたったの1.5リットルしかない。サイズ的にはもっとあるのだが縦横の補強構造で肝心の内容積が少ないのだ。バスレフ方式はエンクロージャ内の空気のバネ性質とバスレフダクト内の空気の質量との共振現象を利用した低音域増強技術であるが、共振周波数は両者の組み合わせでいくらでも自由に設計できる。ボックスティッシュサイズの小さな箱でもダクトを細長く設計すればいくらでも共振周波数を下げられるのだ。ところがこのような設計はうまくいかない。箱内に十分な容積がないと空気バネの性質が弱まり効率が下がるのだ。16号機の設計当時はこのような経験が無かったため、間違えた設計をしてしまった。エンクロージャには剛性が大切と内部のバスレフダクトを利用した縦横の補強もスピーカーユニットから生まれる強大な背圧に対抗できるはずも無く、単に振動モードを高周波側にシフトしただけだろう。補強リブや内部ステーも複雑に振動するのでかえって歪みの原因となるかもしれない。バスレフダクトの周囲の構造が複雑であることも共振の効率を落とすだろう。
10cmフルレンジユニットのバスレフエンクロージャにおけるメーカー推奨内容積は機種にもよるがおおよそ5リットル程度である。13cmウーハーでは実効振動板面積が2倍はあるので10リットルは欲しいところだ。今回の31号機では基本に忠実なシンプルなバスレフ方式として、内容積は10リットルを確保しよう。内容積を消費する無駄な補強は行わずにLEGOブロックの高い内部損失に期待し筐体を自由に鳴らす。ただし、振動が問題となるバッフル板とリアパネルは徹底的に補強する。さらに、バスレフダクトの共振効率を向上して十分な低音増強効果を得る。
シンプルなバスレフ方式を選択したのは先に述べたSUNVALLEY AUDIOさんのオリジナルスピーカーシステムの音、大きなエンクロージャの朗々とした響きに憧れているからなのだ。10リットルでは大きなエンクロージャとは呼べないがLEGOスピーカーとしては精一杯の大型サイズだ。NS-10Mオマージュモデル25号機をしのぐ歴代最大サイズの設計なのである。
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(3)LEGOブロックの調達 |
大型モデルを考えた場合、最大の問題となるのが大量のLEGOブロックの入手である。今回も多くのブロックをそろえなければならない。これには26号機を解体することで対応することにした。26号機は第18報で報告したタンデムドライブ方式の実験モデルである。大型の宇宙船形デザインで10cmフルレンジユニットを2台搭載し、タンデムドライブの基礎研究を行った。この結果、高い低音域増強効果とこの技術のデメリットも経験したモデルである。この後、多くのモデルでタンデムドライブ方式を採用することになったのはすでに報告したとおりである。しかし、大型の異形デザインは収納には邪魔で実験的役割も終了しており、短命であったが解体に至った。もともとこの黄色いブロック群は4号機の製作に用意したもので、LEGOスピーカー史上最大高(初期設計時1.7m!)を誇った共鳴管方式4号機の製作のために購入したものだ。そのときに安売りしていたのが黄色いブロックだったのだ。今回の製作で3代目となる。高価なLEGOブロックでもさすがに素材として元が取れただろう。
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(4)バスレフダクトの位置 |
エンクロージャ方式はバスレフ方式と決定したが、ここで悩むことがある。バスレフダクトをフロントにするかリアにするかである。オリジナルのS-300NEOはリアダクトだ。最近の市販製品ではリアダクトが多い気がするが、これはデザイン上の理由だろう。LEGOスピーカーにおいての両者のメリットを比較してみる。
<フロントダクト>
・ バスレフによる低音域増強の効率を高められる
・ ダクト構造がフロントパネルの補強になる
・ バッフルデザインのポイントとなる
<リアダクト>
・ ダクトからの高音域の漏洩が影響しにくい
・ ダクト長を継ぎ足して容易に調整できる(ただし短くはできない)
・ ダクト構造がリアパネルの補強になる
・ ダクト取り付け位置の自由度が大きい
リアダクトのメリットが大きい様だが、フロントパネルの補強に役立つ点に着目してフロントダクトを採用することにした。今回の大型エンクロージャでは振動対策が重要であるが、前述のように側面はLEGOブロックの内部損失に期待して特に補強は行わない。振動して不要輻射が生じてもいやな音でなければ良いのだ。楽器は積極的にこの輻射を利用している。しかし、バッフル面とリア面の振動は問題だ。バッフル面の振動は固定されたスピーカーユニットに変調を与えるし、リアパネルは大面積の板状構造となるのでタイコのように鳴りやすく、歪みや異音の元となる。ここは徹底した補強が必要である。したがって、リアパネルの補強は別の方法を考える。また、フロントのバスレフダクトの長さ調整方法は良いアイデアがあるのだ。
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(5)バスレフダクトの設計 |
31号機は10リットルと十分な容積があるのでバスレフダクトの開口径を大きくして放射効率を向上したい。4ピッチ分で32mm(LEGOブロックの1ピッチは8mm)の角穴として計算すると、内容積10リットルでは100mmのダクト長でおおよそ50Hzでの共振となる。バスレフダクトは100mmを中心として調整しよう。
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(6)設計テクニック |
リアパネルの振動対策は大面積のリアパネルを分割して小面積の組み合わせとして対応する。プレートブロックを3枚重ねて造る厚さ10mmのリアパネルは小面積であれば十分な強度が得られる。これを階段状に重ねることで振動に対抗した強固なリアパネルにできるであろう。
フロントバスレフのダクト長調整はダクトを2重構造にして、スライドして引き抜いて調整できるようにする。この方法であれば聴きながら簡単に調整でき、リアダクトの継ぎ足し調整ではできなかった短縮も可能である。寸法精度が極めて高いABS樹脂製のLEGOブロックならではのテクニックだ、ガタもなく滑らかに引き抜ける2重ダクトができるだろう。ダクトにガタがあると異音の原因となるので木製では困難な方法である。
本機では初めてサランネットを採用する。サランネットとはバッフル前面に取り付けるスピーカーユニット保護のためのカバーであるが、トゥイーター部分が出っ張った今回のコアキシャルユニットではぜひとも欲しい装備だ。薄い繊維で音質への影響はほとんどない。分解したS-300NEOに付いていたサランネットを利用するのだが、この固定にマグネットが必要である。LEGOブロック1ポッチサイズの超小型のネオジウムマグネットをパネルブロック内に仕込んで吸着固定する。
2ウェイなのでデバイディングネットワーク回路が必要である。オリジナルのS-300NEOと同じ6dB/octタイプの回路としてコンデンサーとコイルを1個ずつ固定しなければならない。内部に納めても良いが、交換、調整を容易にするためにリアパネルの背面に固定することにした。特にコンデンサーは簡単に交換できるようにターミナルを用いて接続する。
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(7)組み立て方法の想定 |
LEGOスピーカーの製作では組み立て方法を考えておくことも重要である。通常の接着などの組み立て方法と異なり、LEGOでは十分な力で押し込むことが必要であり、この手段を考えておかないと組み立てができない。今回の31号機では、まずスピーカーユニットを固定したバッフルパネルを側面のフレームに固定し、リアパネルでフタをする組み立て方法とする。このときリアパネルを2分割しておき、配線のあるターミナルとネットワーク部品の載ったターミナルパネルとメンテナンスリッドとする。メンテナンスリッドは何らかの事態で内部を開ける時に必要になる。だが、このメンテナンスリッドを固定する際に中空のパネル同士では固定ができない。そこで、バッフル面とリアパネルを貫通する補強柱を設ける。これによって補強と同時にリアパネルの組み立てが可能となるのだ。
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(8)バッフルデザインの検討 |
以上の考察から具体的な設計に入る。フロントのデザイン図(図1)をご覧いただきたい。選択したS-300NEOのコアキシャルスピーカーユニットTEAC YDF2-135S80の取り付けサイズを実測したところ、LEGOブロックの12ピッチすなわち96mmの間隔で固定できることが解った。中央に穴の開いた穴あきプレートブロックを12ピッチで四方に配置すればM4ボルトで固定できる。この固定穴とスピーカーユニットのサイズからバッフルパネルの横幅は22ピッチ176mmに決定した。バッフルパネルの横幅は横方向のバッフル面からの輻射と後方から回折音の影響を避けるためにできるだけ小さくしたいのだ。
スピーカーユニットはオリジナルのようにフランジ部分を落とし込んで取り付けたいところであるが、とても困難なので普通にパネル面固定とする。きれいにフランジが処理してあるので見た目は問題ない。問題なのはサランネットの固定である。本来このサランネットは10mmほど落とし込んでスピーカーユニットを固定した状態でちょうど良い高さになる。パネル面固定ではトゥイーターが接触してしまうのだ。そこでサランネットの固定のためにバッフル前面の上下にリブを設けた。余裕を見てプレートブロック4枚分13mmの厚さのリブはバッフルパネルの補強とフロントパネルのデザインアクセントにもなる。
サランネットの吸着固定のマグネットは実測し、図に示した位置に取り付けるが、マグネットの埋め込み位置がサランネットの端ではないのでリブは4ピッチ16mmの幅とした。
この下側のリブの中央からフロントパネルを上下に2分割して26ピッチ208mmのバッフルパネルとバスレフダクトを設けたダクトパネルとする。ダクトパネルの高さは全体のデザイン的なバランスから16ピッチ128mmとしてシステムの高さは42ピッチ336mmとなった。
バスレフダクトの位置は左右中央とし、上下位置はダクトパネル中央であると底面に接近しすぎて共振効率が低下すると良くないので2ピッチ上げた位置とする。開いた下部にはデザイン的な効果を狙って2ピッチ幅のリブと右下にエンブレムを付ける。
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(9)エンクロージャの構造検討 |
バッフル面の設計ができたので内部設計に移る。図2に構造図を示す。
バッフル面の横幅はスピーカーユニットを搭載できる最小としたので内容積は奥行きで稼がなければならない。この前面寸法だと奥行きは250mm以上欲しいところだ。奥行きが長すぎると不恰好になるが前面からは見えないのでよしとしよう。
先に述べたようにリアパネルは分割して階段状の構造に重ねることで強度を確保する。42ピッチの高さだと5分割して1枚10ピッチのリアパネル5枚で ちょうど良い。上部3枚のパネルにアンプからの接続用ターミナルとデバイディングネットワーク部品を搭載してターミナルパネルとする。下部2枚のパネルがメンテナンスリッドである。
補強柱はバッフルパネル下端の位置がちょうどターミナルパネルとメンテナンスリッドの重なり位置になるのでこの部分に設ける。
バスレフダクトは引き抜き方式の2重構造で固定はされない。ダクトガイドの長さはバッフルパネルの厚さを含めて60mmあれば十分であろう。長すぎると内容積を食ってしまう。ダクトを押し込みすぎると内部に落ちてしまうが気をつけて扱えば問題ない。市販する製品ではないのだ。
デバイディングネットワークの部品はコイルとコンデンサーが1個であるが、コイルはいつも利用しているPARC AUDIOの箱型のコアインダクタンスを用いる。固定が容易だからだ。コンデンサーは小型のフィルムコンデンサーを用いるが、交換調整のためにターミナルにYラグ端子で固定する。
最終的な奥行き寸法は310mmとなった。内容積を計算すると、空の状態で11.8リットル。実際にはスピーカーユニットのマグネット、バスレフダクト構造、補強柱などで容積が1割ほど減るが、実効内容積は10リットル以上を確保できた。
この構造でバスレフ共振周波数を計算するとダクト長100mmで約47Hz、最終的には試聴によりダクト長130mmで約43Hzとなった。なお、吸音材は活性炭を4袋とサイズにしては少なく使っている。吸音材は内部の空気バネの効果を低減するのでバスレフ動作もダンプしてしまうからだ。バスレフ効率を 優先した設計である。
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(10)デバイディングネットワークの設計 |
今回のスピーカーユニットは単体での市販製品ではないのでスペックが良くわからないが、S-300NEOの仕様からウーハー部のインピーダンスは6Ωで能率は86dB/W/m、トゥイーター部もアッテネーターが無いことから同様ではないかと推測される。S-300NEOのデバイディングネットワーク素子はコイルの値は不明だがコンデンサーは3.3μFであった。しかし、この値の組み合わせでは製品仕様のクロスオーバー周波数3.5kHzにどうも計算が合わない。教科書的設計ではなく味つけがされているのかもしれない。図3に設計したデバイディングネットワークの回路図を示すが、6dB/octタイプのトゥイーターのハイパスフィルターにはオリジナルと同じ3.3μFを用い、アッテネーターは無しとする。高音域がきつかった場合は2.2μFに交換したい。コイルはPARC AUDIOのコアインダクタンス0.33mHのL001-033を用意した。このコイルは入手性が悪くこれしか手に入らなかったのだ。まあ悪くない値だろう。図3の周波数特性グラフは実測値ではなくこの定数による計算結果である。-3dBのクロスオーバー周波数は4.5kHz程度であろう。
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(11)31号機の仕様 |
以下に設計した31号機の基本仕様を示す。
<31号機 基本仕様> (調整後)
・ 方式:コアキシャル方式2ウェイバスレフ型
・ 組立方法:ホリゾンタルタイプ(水平組立)
・ エンクロージャ方式:フロントダクトバスレフ方式(ダクト交換可能)
・ 使用ユニット:TEAC YDF2-135S80(コアキシャルユニット)
ウーハー 13cmコーン
トゥイーター 2.5cmソフトドーム
・ 外形寸法:W176mm H336mm D310mm
・ 実効内容積:約10リットル
・ クロスオーバー周波数:4.5kHz
・ バスレフ周波数:43Hz(ダクト長130mm)
・ システムインピーダンス:6Ω
・ 質量:4kg(1台)
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4. 製作過程 |
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(1)部品の解説 |
写真3に1台分の主要部品を示す。31号機はLEGOスピーカー最大容積を誇る大型モデルなので1台分で作業用のテーブルがいっぱいである。
写真4はその他の部品であるが、使用する吸音材は4袋、コンデンサーは3.3μFの1個を用いている。このコンデンサーはMUNDORFのMKT-3.30である。ターミナルはコンデンサーの接続にも用いるので1台に2組用意した。内部ケーブルや素子の端末は端子をハンダ付けした上で熱収縮チューブにより絶縁処理している。このあたりはエンジニアのこだわりである。ケーブルにW、Tのマーキングをして接続ミスを防止している。
写真5はバッフルパネルである。スピーカーユニットを取り付ける最小の横幅でプレートブロック3枚重ねの10mm厚さ、上下の補強リブできわめて強度が高い。スピーカーユニットを固定するとさらに強度が高まる。リブのコーナーはスロープブロックで仕上げ、表面はパネルブロックで化粧しているが、一部のスピーカーユニットと干渉する部分にはパネルブロックが無い。固定穴は穴あきプレートブロック2枚で4方に造られている。後で述べるマグネットが図1の位置に仕込まれており、サランネットを吸着する。
写真6がダクトパネルである。このパネルもリブの効果で強度が高い。ダクトガイドが裏面に付くとさらに強固になり、前面からの不要輻射を防止する。写真7にエンブレム部分を示す。本機からエンブレムデザインを更新した。「LEGO Speaker No.31」の文字はゴールドとして高級感を演出する。「Unit by TEAC」のゴールドバッチも付けた。
フレームを写真8に示す。大量に使用するこの黄色いブロックが4号機、26号機を経たリサイクルブロックだ。10段100mmのフレーム2個で1台分である。
リアフレームを写真9に示す。階段状のリアパネルを取り付けるこのフレームは組み立て時に安定するための固定ジグが取り付けてある。
写真10はバスレフダクトである。完全独立型で自由に抜き差しできる。写真は10段100mm(正確にはパネルブロックと端面の補強プレートブロックがあるので106mm)であるが段数を調整して簡単に伸縮できる。
写真11がダクトガイドでバスレフダクトの1回り大きなサイズで長さは5段で50mm、ダクトパネルの厚さと合わせて60mmのガイドとなる。
写真12はリアパネルAである。4ヵ所に穴あきパネルが使われており、コイル素子の固定とコイル配線の端子部分となる。プレートブロック3枚重ねの厚さ10mmだが、176mm×80mmという小型サイズで強度は十分である。プレートブロックの重ね構造は振動吸収効果も高い。
同じく4ヵ所に穴の開いたリアパネルB(写真13)はターミナル用で穴位置がリアパネルAと異なる。ターミナルはアンプケーブル接続用とコンデンサー接続用である。
写真14にリアパネルC、D、Eを示す。リアパネルCは最上部に用いるもので何も付属しないただの板状部品である。リアパネルDとEでメンテナンスパネルを造る。バスレフダクト背面部分にパネルブロックを貼って正面から見たときに内部のポッチが見えないようにしてある。最下部の左右にはポッチの無い部分を設け、メンテナンスパネルを開けやすくしている。
補強柱を写真15に示す。補強柱は27段270mmの柱であるが、凸断面として強度を確保している。この形とするだけで板状の場合とは比較にならない曲げ強度となる。
スピーカーユニットTEAC YDF2-135S80を写真16に示す。今回のメイン部品のコアキシャルスピーカーユニットである。S-300NEOから取り出した部品で、とても丁寧なつくりの優秀なスピーカーユニットだ。このコアキシャルユニットの入手により今回の企画が実現した。ウーハー、トゥイーターの2ウェイ同軸構造のため接続端子が2組ある。13cmサイズでマグネットも大きく非常に重い。
サランネットを写真17に示す。S-300NEOから利用したもう一つの部品である。裏面にマグネゥトが付いており磁力で吸着する。固定のためのパーツがバッフル表面に見えず、すばらしい方式だ。当初、サランネットを使う予定は無かったがこの固定方法が気に入ったので採用した。
写真18はサランネット固定に用いるマグネットである。LEGOブロックのポッチ1個分の超小型だが、ネオジウムマグネットなので極めて強力で十分に危険物である。パネルブロックの裏側にこのように内蔵して取り付けた。4ヵ所の吸着でサランネットを固定できる。
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(2)製作手順 |
バッフルパネルにスピーカーユニットを固定する。固定はM4ボルト&ダブルナットで強固に行う。木ネジ固定よりも遥かに強力である。(写真19)
スピーカーユニットを固定してバッフルパネルモジュールが出来上がる。(写真20)
さらにケーブルを配線する。ウーハー用とトゥイーター用を間違えないようにラベルが貼ってある。(写真21、22)
ダクトパネルにダクトガイドを取り付ける。(写真23、24)
ダクトガイドが付くとさらに強度が向上する。フロントバスレフの効果の一つである。
リアパネルA、B、Cを組み合わせてターミナルパネルを組み立てる。(写真25)
コイル素子の固定用はM3ボルト、コイル配線用はM4のニッケルメッキボルトであるが、コイル素子の交換は行わないので簡単に外せる必要はない。ターミナルはアンプとの接続用と上段のコンデンサー接続用であるが、コンデンサー接続用に誤ってアンプケーブルを接続しないように、写真26ではわかりにくいがバナナプラグ用の穴を塞いである。
リアパネルD、Eを組み合わせてメンテナンスパネルを組み立てる。(写真27)
板状の部品も重ねて組み合わせると強度を増すことができる。
フレーム2個を組み合わせて厚さ200mmの枠を造る。(写真28)
さらにリアフレームを組み合わせてフレームモジュールが完成する。(写真29,30)
 フレームモジュールにダクトパネルモジュールを取り付ける。(写真31,32)
さらにバッフルパネルモジュールを取り付ける。(写真33)
フレームモジュールの裏側には固定ジグが付いており安定しているので上向きに置いて十分な力で接合することができる。ここでこのジグの役割は終わり、外してしまう。(写真34)
吸音材を側面4ヵ所に貼り付ける。(写真35、36)
吸音材の効果は低音域での背圧吸収もあるが、今回の目的は内面反射による定在波の防止と側面の振動ダンプそしてバスレフダクトからの高音域成分の漏洩防止である。したがってスピーカーユニット背部とバスレフダクトの側面に貼るのである。
ここでインシュレーターも付けてしまう。(写真37、38)
インシュレーターは常用のオーディオテクニカAT6089CKである。これがあると断然カッコ良くなるし、音質への効果も大きな部品である。貼り付け位置は前側が支点となるバッフル面直下で、後ろ側は写真38で後ろに写っているスピーカースタンドの設置面サイズが奥行き230mmなのでこの寸法に合わせた。エンクロージャの中途半端な位置ではあるが、耐震用のマジックテープベルトでスタンドに固定するので、その位置に足がないと具合が悪いのである。
ターミナルパネルを取り付ける。(写真39)
まず、ターミナルパネル部分の配線を済ませてしまう。写真40に示す内部面の配線2ヵ所とコイル素子の固定である。
次に内部配線を行ったターミナルパネルを取り付ける。(写真41)
このとき横に倒して作業を行い、補強柱の下にスペーサーをかませて位置を固定しておく。(写真42)
前面にスピーカーユニットがあるので下向きにして固定することはできないが、パネル周囲を止めるだけなのでしっかりと接合できる。
メンテナンスパネルを取り付ける。(写真43)
コンデンサーは3.3μFをターミナルに接続する。(写真44)
バスレフダクトをダクトガイドに挿入して完成である。(写真45)
バスレフダクトは10段100mmと13段130mmを用意したが、まずは10段を入れてみる。すっと滑らかに入るのにガタがない。LEGOブロックの高い寸法精度が実現した方法である。
完成した31号機を写真46に示す。黄色のフレームに黒のバッフル面では警戒色で派手かなと思っていたが、ライトオーク仕上げのようで悪くない意匠にできた。
サランネットを付けると落ち着いたイメージになる。サランネットはマグネットで吸着し、簡単に外せるのでとても具合が良い。サランネットの下部にはバスレフダクトがあるが黒色のバッフル面で目立たなくゴールドのエンブレムが良い感じである。(写真47)
裏面のターミナルパネルにはデバイディングネットワーク素子がむき出しであるが交換が容易な自作仕様である。(写真48)
ターミナルパネル、メンテナンスリッドともに強度も十分でたたいて確かめてもいやな音はしない。階段状構造は正解であった。
横から見ると長い奥行きが良くわかる。(写真49)
リアパネルの階段状構造もデザインの一部なのである。
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5. 試聴と評価 |
スタンドに設置して試聴を行う。(写真50)
すぐにその実力がわかった。スケール感のあるワイドレンジな雄大な音である。内容積が大きいということはこんなに効くのだろうか。使っているアンプが300BのTriode TRV-A300であることも影響していると思うが、ゆったりと音楽を楽しむことができた。アンプのチョイスも重要なポイントである。
この低音感ならばもっとバスレフダクトを伸ばしても良いだろう。早速ダクト調整を行った。と言ってもダクトを130mmに交換をしただけ、一瞬で聴きながら簡単に行うことができる。これはとても便利だ。さらに低音が豊かになった。これ以上はレスポンスが低下すると思うので欲張らずにダクト長はこのくらいにしておこう。聴く音楽に合わせてダクトを交換するのも良いかもしれない。高音域はまったくうるさくない。コンデンサーは現状の3.3μFでOKである。
この定位憾はフルレンジユニットに通じるものである。音場感もとても良い。やはりコアキシャルユニットは理想に近いスピーカーシステムであると認識した。
バスレフ方式の低音は遅れを感じることがあったのでこれまで好きではなかったのであるが、このサイズでここまでワイドレンジの再現ができる方式は他には無いかもしれない。考えてみれば共振現象による位相反転動作でスピーカーユニット背面の音圧の位相を戻して共振による高い効率で放射するというこの方式は極めてハイテクノロジーなのかもしれない。これまでの私のLEGOスピーカーでは本来のバスレフ方式の実力が確認できていなかったのだと反省している。
サランネットを付けるとインテリアにもマッチするジェントルなイメージとなる。睨んでいるようなスピーカーユニットむき出しよりもこちらの方がこのスピーカーシステムには合っていると感じる。(写真51)
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6. まとめ |
カメラのレンズは50mmに始まり50mmに帰ると言う。私のLEGOスピーカー製作も初めてバスレフ方式を採用した7号機で成功を見て評価をいただき、その後、数多くの製作を行ってさまざまな方式を試してきたが、結局、バスレフ方式を超えることはできなかったのではないか?バスレフ方式もまだまだ奥が深いのだと今回の31号機の製作で知ることができた。
全く同じスピーカーユニットを使っていてもS-300NEOの音は現代のコンパクトスピーカーらしいカッチリとした硬質な音でバスレフ音も積極的に聴かせている。この音も評価できるが、私はこのスピーカーユニットをもっと内容積の大きなやわらかいエンクロージャに入れてみたかったのである。だからこの31号機を造った。本当にスピーカーシステムはエンクロージャの音を聴いているのだと実感している。
そして、この31号機でコアキシャルユニットの優秀性も見出すことができたのである。
コアキシャルユニット すばらっ!
(2013.1.21)

31号機とS-300NEO