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LEGO SPEAKER 第26報 ≪第25報 第27報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第26報

トールスタイルダブルウーハーLEGOスピーカー36号機
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1. スタイリッシュモデル第1弾 |
パッシブラジエーター方式の高い効果を4機種のコンパクトモデル製作から実感した。この能力を大型モデルでも試してみたい、そう考えていた。2ウェイスピーカーシステムのウーハーをダブルとして一方をアクティブにドライブして、他方をパッシブドライブとすれば低音域のさらなる増強と密閉型のエンクロージャを実現できる。これまでの経験から単なる密閉型の動作ではなく、パッシブラジエーター方式はアクティブユニットの背圧を効果的に吸収してくれるので、大型ウーハーにおいても歪みの低減、エンクロージャ内圧の吸収など高い効果が期待できる。
大型のウーハーでは背圧も巨大なので、一般的にはエンクロージャ内容積が増大するが、パッシブラジエーター方式は、この内容積のセーブにも期待できると考えられるのだ。
今回の36号機はさらに、デザイン性にも配慮したい。市販の製品にも負けないカッコいい作品を造りたいのだ。スタイリッシュモデルシリーズ第1弾である。
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2. ファーストインプレッション |
いつもの流れとは違い、まず結果を報告したい。
写真2が製作した36号機である。大型ウーハーとは言えないがLEGOスピーカーとしては十分に大型の13cmウーハーをダブルで搭載している。上側がアクティブユニットで下側がパッシブラジエーターである。トゥイーターは私の好みから今回もリボンタイプを選んだ、エンクロージャデザインはトールスタイルで設置性とバッフル面積を最小として音像定位に配慮している。トールスタイルは見た目のスマートさもデザインのポイントである。
写真3が背面で、ターミナルが2組あり上側がトゥイーター直結、下側が内部のインダクタンスを介してウーハーに接続されている。アンプからの入力は下側のターミナルに接続し、トゥイーターへはターミナル間のフィルムコンデンサーとアッテネーターの抵抗器を介して接続される。コイル、コンデンサーが各1個のシンプルなデバイディングネットワークを採用している。クロスオーバー周波数はスローロールオフフィルターでのリボントゥイーターの安全性に配慮して3.3kHzと高めに設定した。
コンデンサーと抵抗器を外付けにしたのは交換の容易性からだが、バスレフダクトなどの他の調整箇所は無い。
リアパネルは2段構造となっており、特に長手方向の強度を確保している。横方向の強度に関しては内部に2箇所の補強桟を設けている。
デザインの詳細を見てみよう。バッフル上部のディテールを写真4に示す。コーナーカットバッフルとして音の回折現象に配慮している。リボントゥイーターは純粋な1ターンリボンではなく28号機で採用したものと同様な薄膜コイルタイプ(ラミネートアルミニウムリボン)である。
写真5は「Passive Radiator」のバッチ、エンブレムと同様にゴールドのレタリングを入れているが、タイルブロックにラベルライターで作成したテープを貼っている。
写真6はバッフル下部であるが、「No.36」のエンブレムとカーブスロープブロックでデザインした。このウーハーはプラスチックフレームだがグラスファイバーコーンで意匠は良い。インシュレーターはおなじみのオーディオテクニカ製。
写真7に設置状態を示す。写真では確認しにくいが、マジックテープベルトを使用してスピーカースタンドにしっかりと固定している。トールデザインでは地震対策も重要である。また、スピーカースタンドには1.25kgのダンベルウエイトを6個置いて転倒対策としている。スピーカーシステムでは駆動される振動板に対して支点となるエンクロージャの固定が重要であるが、これがあまくてぐらぐらとしていては、ろくな音がするはずが無い。鉛ウエイトなどのオモシを乗せて補強する手法もあるが、私はマジックテープベルトでスピーカースタンドに縛ることで強いテンションにより一体化することが、ウエイトを乗せるよりも効果的と考えている。つまりこのベルトは音質向上にも効くのだ。(ただし、やりすぎるとエンクロージャに応力歪が生じてかえって音質劣化するので注意)
期待の音はどうか?・・・
低音域のパワー感がすごい。13cmウーハーがダブルなので面積的には18cmウーハークラスの実力かな?と考えていたが18cmウーハー密閉型の25号機よりも明らかにパワフルである。これは密閉型と比較して背圧の有効利用が効いているのではないかと考える。
予想通り歪み感も少ない。リボントゥイーターの高音域歪みの少なさもあるが、パッシブラジエーター方式の背圧吸収はウーハーの中音域の歪み低減にも効果があった。
このスピーカーシステムではクロスオーバー周波数が3.3kHzと比較的高めであり、また、一般的にもファンダメンタル帯域はウーハーが担っているので、背圧の吸収は明らかに音質向上に効果的だ。
下側のパッシブラジエーターをよく見ると、大きく振幅駆動されていることがわかる。バスレフ方式と違い、効果が目に見えることもメリットである。
このストロークを見ているとパッシブラジエーターがスピーカーユニットの最低共振周波数だけの増強ではないと思える。背圧の圧力を介して駆動されたパッシブラジエーターは第2のウーハーとして機能し、中音域までもレスポンスがあるのではないだろうか? ただし、このためか低音域に独特のクセが感じられる。パワフルではあるが遅れ感、ふくらみ感が感じられるのだ。結果的に低音域が豊かに聴こえるのではあるが、これが正しい再生音であるかは疑問ではある。
タンデムドライブの15cmウーハーを搭載した28号機と比較すると低音域のスピード感が違う。28号機は内蔵されたフルレンジユニットにより背圧の影響を低減した密閉型であり、ウーハーの直接音しか聴こえない。バスレフ方式などの低音増強手法が付加されない分、低音域のスピード感があるのだ。私は個人的には、このスピード感のある低音が正しいと考えているが、36号機の豊かな低音も大変魅力的であると感じる。結局は聴く音楽や環境などの状況で評価は変わるのだと思う。だからこそ多くのスピーカーシステムが存在し、唯一の方式がないのだろう。
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3. パッシブラジエーター方式の再考 |
今回の36号機はパッシブラジエーター方式を本格的な2ウェイスピーカーシステムに搭載するというコンセプトで設計を始めた。ここでパッシブラジエーター方式に関して今一度考えてみる。
結局、低音域におけるスピーカーシステムの方式とはウーハー(もしくはフルレンジユニットの低音域)の背圧の処理方法の違いなのだと思える。これまでの私の製作経験からまとめてみよう。
方 式 | コメント | 代表採用機種 |
---|---|---|
(1)背圧吸収方式 | ||
①密閉型 | 吸音材による吸収 | No25 |
②逆ホーン型 | 振幅変換後の吸音 | No22 |
③タンデムドライブ | アクティブ吸音 | No27、No28 |
(2)背圧再利用方式 | ||
①バスレフ型 | ダクトの共振利用 | No7、No31 |
②共鳴管型 | 管構造の共振利用 | No4 |
③パッシブラジエーター | ユニットの共振利用 | No32~No36 |
(3)背圧利用方式 | ||
①バックロードホーン | ホーンによる振幅、位相変換 | No2 |
②音響迷路 | 音道による位相変換 | |
③後面開放型 | 背圧無処理 |
まずは背圧を吸収する方式である。これには密閉型と逆ホーン型、そしてタンデムドライブがある。表には代表の製作機種番号も記した。
密閉型は単純に密閉したエンクロージャに吸音材を詰めて背圧を熱エネルギーとして吸収してしまう方法である。NS-10Mをオマージュした25号機がこれにあたる。そのままでは大きな背圧がスピーカーユニットにのしかかり、低音域のレスポンス低下や歪みの増加が生じるので、一般的にはフラフラなハイコンプライアンスユニットと組み合わせて背圧による空気バネ効果も利用する。つまり、この背圧も含めたスピーカーユニットの動作として設計しコンパクトなエンクロージャを達成するのだ。そういった意味では使用するスピーカーユニットを選ぶ方式である。この最大のメリットはスピーカーユニットからの直接音がダイレクトに聴けることである。また、背圧の働きで振幅に制限がかかるので大音量にも強い。この性質からモニタースピーカーに採用例が多いことは以前も述べた。しかしながら、私にはエンクロージャからの筐体放射の問題があり、独特の空気バネによる弾み音のする方式であると感じられる。
逆ホーン型は背圧をすぼまり形状の逆ホーンで大振幅に変換して効果的に吸音する方法である。最も効率的な背圧吸収方式かもしれない。私も22号機で採用して効果を確認したが、本格的には極めて大型(長い)のホーンが必要となるので現実的ではない。
タンデムドライブは最近まで熱中していた方式で内蔵したサブスピーカーユニットで背圧を吸収してしまうやり方であり、テクノロジー的にもとてもおもしろい。27号機のようにコンパクトなエンクロージャの実現には大変有効で、サブスピーカーユニットの駆動力を変えることで効果を調整することもできる。28号機では直接音のみを放射するメリットを活かしてスピード感のある低音が得られた。しかし、アンプへの負担が大きくなることや、サブスピーカーユニットに対しては内容積の極めて少ない密閉型となり、この歪みの影響が出ないとは考えにくい。低音域の増強効果もメインスピーカーユニットの駆動力の向上は期待できるが発音面積が増えないのであまり大きくはない。
背圧を再利用する方式としては、最も一般的なバスレフ型がある。共振周波数を調整したバスレフダクトから背圧の力を再利用して低音を放射し、効果的に低音増強を図る。簡単な仕組みの割には効果が大きく、採用例が多いこともうなずける。私も7号機、31号機などで利用したが、最大の問題点は効率を上げるにはある程度の内容積が必要で、コンパクト化には効率的ではないことだろう。また、吸音材を少なくして共振のQを高めると共振効率は上がるが低音増強する周波数幅が狭くなるので、上手に調整しなければ最大の効果が得られない。共振周波数そのものはダクトの長さで容易に調整できるが、ある意味最も調整の難しい方式かもしれない。背圧を利用することからスピーカーユニットに対する圧力低減の効果も期待できるが、ダクトの共振を強く利用すると、この影響が駆動側のスピーカーユニットにも及ぶ問題もある。ただ、一般的にはスピーカーユニットの最低共振周波数にバスレフダクトの共振周波数を合わせることでユニット共振による過振幅を防げるメリットもある。私はバスレフ方式の独特の遅れた感じのする低音が好きになれなかったが、低音域の増強効果は優れており、奥の深い技術であると認識している。
共鳴管型は4号機などで実践したが、確かにバスレフ方式よりもストレート管では共振現象が強力で効果も大きい、しかしながら50Hzの共振には片閉管で1.7mも必要であり、ばかでかくなるので一般的でない。
背圧を積極的に利用する方法としてはバックロードホーンが有名である。背圧をいったん小さな空間に閉じ込めて、スロートを介して出される小面積大振幅の音圧を徐々に広がってゆくホーン構造により大面積小振幅の音圧に変換して放射し、空気の駆動効率を向上してパワフルな低音域増強を図るという優れた方式である。ところが、この技術も問題点が多い。次の音響迷路も同様だが、音道の長さで背圧の位相を調整するので同相となる周波数で最大の効果となり、逆相ではむしろ相殺する可能性がある。50Hzを同相に戻すには3.4mもの長さが必要であり、とても大きなシステムとなることが最大の問題点であろう。そこで、折りたたみホーンを使わずにいられないが、このために効率が低下し、ホーンの折り返しで歪が発生して独特の洞窟音となってしまう。また、周波数によって同相、逆相が繰り返すのでホーンの高周波通過を阻止しなければならない。さらに、短いホーン長ではホーン形状のカットオフ周波数が高くなるので効果がない。私はこのあたりの理論を知らずに初期の頃に失敗作ばかりを造っていた。物量でLEGOスピーカー最大の作品である2号機はバックロードホーンの効果をある程度得ることができたが、本格的にはまだまだホーンの大きさ、長さが足りず、そのような大きさのものをLEGOで製作したら強度が全く得られないので、現在ではバックロードホーンはLEGOスピーカーでは実現困難と認識している。いずれにしろバックロードホーンとはホーン動作だけでなく、音響迷路と共鳴管動作が複雑に影響しあったもので理想とは遠い難しい技術である。ただ、ハセヒロバックロードホーンに見られるように独特のアグレッシブな低音パワーは麻薬的ではある。
後面開放バッフルを背圧利用方式に分類するのは間違いかもしれないが、大きな板を用いれば背圧をさえぎって背圧の影響のない本来のスピーカーユニットの低音が聴ける。
最後に本機のパッシブラジエーターであるが、背圧再利用方式のバスレフ型と比較してのメリットはエンクロージャサイズと低音域を増強する共振周波数がほぼ無関係であることではないだろうか?だからスピーカーシステムのコンパクト化に最も有利な方法であると考えた。それでは大型モデルでの効果はどうだろうか?もちろん低音域の増強効果も重要であるが、背圧の処理効果のメリットが大きいと考えられる。大型のウーハーから生じる背圧は強大であり、よほどのサイズのエンクロージャでないとこの影響を処理できず振動板に圧力が生じて歪みの原因となる。バスレフ型ではダクトの駆動に背圧のエネルギーの一部が消費されるが、そもそもバスレフダクトの共振作用はエンクロージャ内部の空気バネの動作なので、バネの反作用を振動板が受けていることが想像できる。これに対してパッシブラジエーターでは空気を媒介としてパッシラジエーターユニットが駆動される方式のため背圧の消費効率が高いのではないか。この結果、エンクロージャ内の圧力が低減して歪が減る。これが最大のメリットであろう。つまりパッシブラジエーター方式とは効率的な密閉型エンクロージャの実現手段であり、さらに低音増強も得ることができる、優れた方式であると考えている。
位相に関してはバスレフ型と同様に共振現象により位相反転し、メインのスピーカーユニットと同相となって放射される。バスレフダクトは単一の周波数での共振現象であるが、パッシブラジエーターユニットは共振周波数で駆動されるサブウーハーであって、放射される周波数特性はよりブロードではないだろうか?したがって、メインのウーハーユニットと同じものを用いれば素直な振動板の面積増強効果が得られる。ただし、駆動に時間遅れが生じるので、これが最大の問題点であろう。スピード感よりも量感に効く低音増強方式であると考える。
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4. 36号機の設計過程 |
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4-1 スピーカーユニットの選定 |
2ウェイシステムのウーハーをダブルとしてパッシブラジエーター方式を搭載するが、ウーハーのサイズが大きいとエンクロージャサイズが増大する懸念がある。振動板面積が2倍となることから、今回は控えめに13cmクラスのウーハーを選択することにした。 トゥイーターはぜひともリボンにしたい。パッシブラジエーターにより増強した低音にはリボンの歪みの無い柔らかな高音域が合うのではないか?ただし、スピード感は全く合わないのでミスマッチとなる可能性もある。まあ、今回はデザイン優先でリボントゥイーターにしよう。
3つのスピーカーユニットの配置は、当初トゥイーターを中央に挟んだバーティカルツインデザインを考えていた。音像定位にはトゥイーターをウーハーで挟んだこのデザインが有利なのだ。しかし、本機は本当のダブルウーハーではなくパッシブラジエーターからは中音域はほとんど出ないと考え、オーソドックスにウーハー2本を下部に配置した。
結果、ウーハーにはJAMO 20443を選択した。なんとグラスファイバーコーンの13cmウーハーが1個1,580円で売っていたのだ。これは買うしかない。36号機では4個のウーハーを使うが、このうち2個はアンプに駆動されない。マグネットなどの駆動系が不要なので高価なウーハーユニットはもったいないのだ。プラスチックフレームだが防磁型でマグネットカバーもきちんと装着され、安っぽさの無い立派なウーハーユニットである。最低共振周波数foは71Hzなのでパッシブラジエーター動作ではこのあたりの増強となろう。中音域は3.5kHzまで使える。
トゥイーターにはBeston RT002A リボンツィーターを選択した。極薄ラミネートアルミニウムリボンのトゥイーターで、ショートホーンがデザインされ40kHzまでレスポンスがある。薄膜コイルだが、さすがはリボントゥイーターだ。仕様では2kHzから使えるようだ。このトゥイーターもリボンとしては安価で、28号機で使用したFT7RPの半額以下だ。
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4-2 構造設計 |
使用するスピーカーユニットが決定したので構造図を描いた。図1に示すようなスリムなトールスタイルとしてコーナーカットバッフルなど意匠にも気を配る。バッフルパネルは3つのスピーカーユニットを搭載するほぼ最小のサイズとして内容積はある程度奥行きをとって約10リットル確保した。エンクロージャはパッシブラジエーター方式の場合、ただの密閉箱なので構造的な複雑さはない。バッフルパネルはトールスタイルでは特に長手方向に弱くなるが、スピーカーユニットそのものでも補強されるし、周囲を囲んだバスタブ構造として強度を得る。スピーカーユニット間の2箇所に補強桟も左右に渡そう。
リアパネルは部分的な2枚重ねの2重構造として強度を得る。こちらも2箇所に補強桟を横に渡した。接続ターミナルは2組用意し、ウーハー用とトゥイーター用を独立する。これはデバイディングネットワーク部品を背面から取り付けて交換を容易にするためである。ただし。インダクタンスのコイル素子は交換しないので内部に固定する。
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4-3 デバイディングネットワークの設計 |
デバイディングネットワーク回路を図2に示す。シンプルな6dB/octの回路としたのでHPF(ハイパスフィルター)のコンデンサーとLPF(ローパスフィルター)のコイルが一つずつである。緩やかなカットのこのデバイディングネットワークではリボントゥイーターに不要な低音域が漏れると破損する危険があるので、カットオフ周波数を高めに設定した。せっかくのリボントゥイーターがもったいないが13cmウーハーは小径なので高音域もかなり使えるだろうとの判断である。デバイディングネットワーク回路はシンプルな方が、メリットがあると考えている。
トゥイーターの音圧レベルは92dB/Wであり、ウーハーは86dB/Wなのでこの差6dBを調整する必要がある。本来のアッテネーターは抵抗器2本でインピーダンスが変わらないように構成するのが正しいが、今回は簡易型の抵抗器1本で済ませる。トゥイーターのインピーダンスが6Ωなので6Ωの抵抗器を直列に接続すれば-6dBとなるが、このような値は入手できないので5.6Ωで代用する。この合成インピーダンス11.6Ωと入手可能なフィルムコンデンサーの値4.0μFからカットオフ周波数を3.3kHzに設定した。コイルの値はこのカットオフ周波数になるようにウーハーのインピーダンス8Ωから0.39mHとなった。
なお、トゥイーターの接続位相はセオリーどおりに逆相とした。
<36号機 基本仕様>
・形式:ダブルウーハートールスタイルスピーカーシステム
・方式:2ウェイパッシブラジエーター方式
・組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・エンクロージャ方式:トールスタイル密閉型
・使用ユニット:トゥイーター Beston RT002A ラミネートアルミニウムリボン
ウーハー JAMO 20443 13cmグラスファイバーコーン 2本
・外形寸法:W160mm H480mm D205mm
・実効内容積:約10リットル
・デバイディングネットワーク:6dB/oct クロスオーバー周波数3.3kHz
・パッシブラジエーター共振周波数:71Hz
・システムインピーダンス:8Ω
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5.36号機の製作過程 |
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5-1 部品解説 |
36号機の主要部品を写真8に示す。大型モデルなので1台分で作業テーブルがいっぱいになる。ただ、シンプルな箱構造なのでスピーカーユニット以外のLEGO部品は3点と少ない。
その他の部品を写真9に示す。デバイディングネットワークの素子、ケーブル、ターミナル、インシュレーター、ネジ類とこちらも少ない。コアコイル素子はいつものPARC AUDIO、フィルムコンデンサーはdayton、抵抗器はMUNDORFを用意した。
吸音材にはこれまでは活性炭をよく利用していたが、パッシブラジエーター方式は背圧の再利用手法なので、吸音しすぎも問題と考え、5mm程度のウレタンシートを入れるだけにした。写真ではグラスウールのようにも見えるが、私はグラスウールには身体上の弊害があるので使用しない。ウレタンシートと言っても実態は100円ショップで購入したパソコン用のインナーケースを切り開いたものである。
写真10にバッフルパネルを示す。36号機ともなると部品製作もだいぶ洗練されてきている。まるで一体成型の樹脂モールドパーツのようだ。ABS樹脂製のLEGOなので精度も高く一体成型品よりも内部損失が大きく音響的に適している。プレートブロック3枚重ねにタイルブロックを乗せて12.8mm厚さで、周囲をさらに3枚重ねた22.4mm厚さのバスタブ構造。長板形状なのにひねり強度も高く、補強桟も横方向に2箇所に入れてある。
トゥイーターの取り付け部は96mmX96mmの角穴、ウーハーのネジ固定部は穴あきプレートブロックで造り、ブロックの加工はこの部分のタイルブロックだけである。
写真11がリアパネルである。9.6mm厚さのプレートブロック3枚重ねの板を中央部で2枚重ねた厚さ19.2mmの凸型パネルで曲げ強度も十分に高い。2箇所に横方向の補強桟も付けた。ターミナルの固定用の穴4箇所とコイル素子を固定する2箇所の穴が開いている。
エンクロージャフレームを写真12に示す。17段、厚さ163mmのシンプルな枠構造である。これにバッフルパネルとリアパネルが加わり、全体の奥行き寸法は205mmとなる。
ウーハーユニットを写真13に示す。13cmサイズのグラスファイバーコーンでプラスチックフレームだが見た目は良い。気になるのはフランジの強度が足りない点である。このあたりはコストなりである。接続端子も独特なのでギボシ端子は使えない。ハンダ付けにしよう。マグネットカバーが金属製でたたくとキンキンと鳴ったのでフェルトシールを貼ってダンプした。
写真14にトゥイーターユニットを示す。ネオジウムマグネットのリボントゥイーターでとても薄型。マッチングトランスが無いことから薄膜コイル方式であることがわかる。もっともトランスがあったらこの価格では購入できない。フェイスパネルのショートホーン形状がカッコ良いトゥイーターユニットである。振動の生じる部品ではないので角穴4隅のエッジにワッシャでの固定で十分である。
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5-2 製作作業 |
まずは2本のウーハーユニットをバッフルパネルにM4ボルト&ダブルナットで固定する。このとき、ケーブル配線もハンダ付けを済ませておく(写真15)。
組み上がったバッフルパネルを写真16に示す。上側のウーハーのみにケーブルが接続されている。13cmユニットではフランジにも幅があるので取り付けは比較的容易だ。
次にトゥイーターをM4ボルト&ダブルナットで固定する(写真17)。この取り付け角穴はネジ位置と多少隙間があるので小さめのワッシャを用いてガタをなくした。このワッシャの固定も含めて30mmのボルトにそれぞれ3個のナットを使って固定しているが、固定強度は申し分ない。(写真18)
エンクロージャフレームにバッフルパネルを上から強く押し付けて固定する。いつもながらLEGO は接着やネジ止めが不要でワンタッチに固定できて大変便利である。それでいて十分な固定強度もある。(写真19)
ここで吸音材のウレタンシートも挿入しておく。(写真20)
リアパネルの組み立てを行う。先にターミナルとコイル素子を取り付けておく。(写真21)
コイル素子の配線は片方をプラスの入力ターミナルに、他方はコイル素子の固定ネジを用いて配線する。このためにコイル素子の固定ネジにはニッケルメッキのM4ボルト&ナットを用いている。ターミナルは2組取り付けるが、プラス、マイナスをたすきにしてトゥイーターの逆相接続を容易にできるようにした。このターミナル部分に補強桟を入れたのは接続時に力が加わる部分であるからだ。(写真22)
吸音材に穴おあけてケーブルを引き出し、リアパネルに配線する。トゥイーターユニットのケーブルは直接上側のターミナルに。ウーハーユニットのケーブルはコイル素子を通して下側のターミナルに接続する。(写真23)
リアパネルをエンクロージャフレームに固定するが、これは上から押し付けての固定はできないので横に倒して少しずつ押し込んで行く。(写真24)
デバイディングネットワークのフィルムコンデンサーと抵抗器をターミナルに接続してインシュレーターを底面に貼って完成。ターミナルのトゥイーター側には誤接続防止のキャップを貼ってある。
完成した36号機。スリムでエレガントな意匠に仕上がった。クロのLEGO ブロックは磨くと、まるでピアノフィニッシュのような美しさがある。(写真25)
早速、アンプにつないで音を出してみよう。(写真26)
と・・・ここでトラブルダークネス! 大音量時にビビるのだ。なにが原因か?
まず、アンプの駆動力を疑った。以前にも駆動力不足で同じような経験があるのだ。しかし、今回はアンプを変更しても現象は変わらない。
内部で何かの部品が振動しているのではないか?作業性を考えて長めにしたケーブルを束ねて固定した。まあこれが原因ではないだろう。気になっていたのはトゥイーターを固定する際にボルトの間に入れたワッシャである。これが緩んで振動しているではないか? リアパネルを外し(いつもながら簡単に外せるメンテナンス性はありがたい)、いったんトゥイーターを外してナットを締め直す。・・・これでもまだ直らない。
ビビリ音が出ている状態で上側ウーハー部分のバッフルパネルを押してみると状況が変化した。よく見るとウーハーユニットのフランジがゆがんで浮いている・・・これが原因か? 容易に変形してしまうプラスチックフレームのウーハーユニットを同じくプラスチックのバッフルパネルにボルトでぎゅうぎゅうと締め付けたのでお互いにゆがんで隙間ができてしまっていたのだ。ここが大音量時に振動して異音を発生していた。
原因がわかってしまえば対策は容易である。ゆがみが出ない程度に固定を緩める手もあるが、これでは本質的な解決にならない。ウーハーの振動でナットがしだいに緩んでしまうだろう。そこで、13cmスピーカーユニット用のフェルト製パッキンを用意して挿入した。これで隙間が密着し、ビビリ音が解決した。一件落着である。まあ、これくらいの手間も自作の醍醐味なのである。
唯一の調整内容であるデバイディングネットワークの定数であるが、試聴の結果、設計状態で問題無いと判断した。ウーハーとトゥイーターのつながりもわるくない。スピーカーユニットのエージングが進んでいけば定数を変更したくなるかもしれないが、当面はこのままにしよう。変更は容易である。
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6. おわりに |
やっぱり大型のスピーカーは良い。低音域の余裕が違う。この36号機はスリムなデザインなので設置寸法はコンパクトスピーカーと大差ない。このサイズでこれだけのスケール感が得られたのはパッシブラジエーター方式の成果である。
36号機はエレガントな外観も含め、現時点でのLEGOスピーカーの一つの方向性を確立した。音楽を本当に楽しめる名機がまた誕生したのだ。
さて、次回作はスタイリッシュモデルシリーズ第2弾としてホーントゥイーターの搭載で有名なあのモニタースピーカーをオマージュした作品を考えている。ご期待ください。
(2013.8.18)

LEGOスピーカー36号機 スタイリッシュモデル第1弾