LEGO SPEAKER 第51報

≪第50報 第52報≫

LEGOスピーカーの製作 第51報

写真1 コンパクトパッシブラジエーターモデル 61号機
写真1
コンパクトパッシブラジエーターモデル 61号機

1. はじめに

 今年(2017年)もStereo誌にスピーカーユニットが付属してきた。今回はムック本でFOSTEXの8cmフルレンジユニットOMF800P(写真2)とPioneerの6cmフルレンジユニットOMP-600(写真3)の2種類が刊行された。
 FOSTEXユニットは昨年と同じアルミコーンだが、フェイズプラグが特徴である。高音域の特性が良さそうだ。Pioneerユニットは6cmととてもコンパクトだが、マグネットが大きく、駆動力が期待できる。
 2種類のスピーカーユニット・・・私の研究にとても好都合である。
フェイズプラグを持つOMF800Pをメインユニットとして使い、パッシブラジエーターにOMP-600を利用することを考えたのだ。OMF800Pのアルミコーンの高音域が活かせるし、ちょっともったいないが強力なマグネットを有するOMP-600はコンパクトシステムでの制動実験にぴったりである。

写真2 OMF800P
写真2
OMF800P
写真3 OMP-600
写真3
OMP-600

2.設計

 早速、図1の構造図を描いてみた。

約1.7リットルのシンプルなハコ形状にバッフルパネルのデザインはホワイトラインのコーナーカットでスマート&スタイリッシュに仕上げたい。

OMP-600はフランジが逆にプレスされているのでバッフルパネルに落とし込みをして固定する。吸音材はスポンジボール1個で余分な背圧をソフトに処理しよう。ターミナルは2スピーカーユニットに独立して2組設けて実験に備えておく。

図1 61号機構造図
図1
61号機構造図

各スピーカーユニットの仕様と61号機の基本仕様を以下に示す。

 

<OMF800P 仕様>
・形式:8cmアルミコーンフルレンジ(アルミ切削フェイズプラグ)
・インピーダンス:8Ω
・最低共振周波数:117Hz
・再生周波数帯域:fo~32kHz
・出力音圧レベル:83dB/W(1m)
・入力(NOM):5W
・mo:2.38g
・ Qo:0.64
・質量:320g

 

<OMP-600 仕様>
・形式:6cmペーパーコーンフルレンジ
・インピーダンス:8Ω
・最低共振周波数:130Hz
・再生周波数範囲:80Hz~20kHz(-10dB)
・出力音圧レベル:82dB/W(1m)
・最大入力:10W
・mo:1.58g
・Qo:0.99
・質量:218g

 

<61号機 基本仕様>(設計時)
・形式:コンパクトパッシブラジエーターシステム
・方式:パッシブラジエーター方式
・組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・エンクロージャ方式:2ユニットフロントマウント密閉型
・メインユニット:FOSTEX 8cmアルミコーンフルレンジOMF800P
・パッシブラジエーターユニット:Pioneer 6cmパルプコーンフルレンジ OMP-600
・外形寸法:W128mm H208mm D121.6mm
・実効内容積:約1.7リットル
・パッシブラジエーター機能調整値:47uF(初期値 電磁ブレーキ方式)
・システムインピーダンス:8Ω

3.製作

 準備した61号機の全部品を写真4に示す。コンパクトなモデルなので部品点数は少ないが、スピーカーユニットが2セットあるのが特徴である。

パッシブラジエーター制動用のコンデンサーは試聴により最適化する予定である。

写真4 全部品
写真4
全部品
写真5 バッフルパネル
写真5
バッフルパネル

 写真5はバッフルパネルである。日の字型の枠だがコンパクトなので十分な強度がある。 上側の8cmユニットの固定は容易だが、下側の6cmユニットは止むを得ず取り付け部のブロックをかなり加工している。小さなスピーカーユニットほど固定に精度が必要で困難になるのだ。 横幅があるが、エッジのホワイトラインでスリムに見えるデザインである。

 写真6はフレームである。内面にはマスキングテープを貼る。パッシブラジエーター方式でも密閉性は効率低下を防ぐために重要なのだ。

 写真7はリアパネル。ターミナル用の穴が4箇所に開いている。

写真6 フレーム
写真6
フレーム
写真7 リアパネル
写真7
リアパネル

 写真8はその他の部品。ターミナル、配線ワイヤー、吸音材のスポンジボール、ネジ類である。

 写真9のパッシブラジエーター制動調整用のコンデンサーは47uF、100uF、220uFの3種類を用意した。この大きさの容量では無極性の電解コンデンサーになる。 用途的にはオーディオ用の高級コンデンサーはオーバースペックなのだが、気分である。他に実験用に200Ωの可変抵抗器も用意した。

写真8 その他の部品
写真8
その他の部品
写真9 調整用部品
写真9
調整用部品

 組み立てを行う。まずはバッフルパネルにメインスピーカーユニットOMF800Pを取り付ける(写真10、11)。いつもの様にM4ボルトとワッシャ、ダブルナット固定である。

写真10 メインスピーカーユニット取り付け
写真10
メインスピーカーユニット取り付け
写真11 メインスピーカーユニット取り付け
写真11
メインスピーカーユニット取り付け

 次にサブユニットのOMP-600を取り付ける(写真12、13)。さすがに6cmユニットは小さく、固定に苦労した。ボルトはM4を予定していたが、M3に変更した。 こうすることでクリアランスが稼げるのだ。もちろん、ワッシャを使用して隙間を塞ぐ。結果、落とし込みバッフルパネルにうまくOMP-600が収まった。

これで2スピーカーユニットのバッフルパネルが完成した。

写真12 サブスピーカーユニット取り付け
写真12
サブスピーカーユニット取り付け
写真13 サブスピーカーユニット取り付け
写真13
サブスピーカーユニット取り付け

フレームに配線したバッフルパネルを取り付ける(写真14、15)。

写真14 フレーム固定
写真14
フレーム固定
写真15 フレーム固定
写真15
フレーム固定

リアパネルにターミナルを取り付ける(写真16、17)。

写真16 リアパネル組み立て
写真16
リアパネル組み立て
写真17 リアパネル組み立て
写真17
リアパネル組み立て

 フレーム本体にリアパネルを閉じれば組み立ては完了。実に簡単である(写真18、19)。ターミナルの下側にメインユニット、上側にサブユニットを配線する。 サブユニット側に間違えてアンプをつながないようにターミナルのバナナジャックにフタをしておく。

 内部にはスポンジボールを1個入れ、ゴム足を底面に貼り付ける。スポンジボールが中で自由に踊るが問題は無い。

写真18 リアパネル取り付け
写真18
リアパネル取り付け
写真19 リアパネル組み立て
写真19
リアパネル組み立て

 組み立ての完了した61号機(写真21、22)。フェイズプラグ付きの白いメインユニットとサイドのホワイトラインがシャープなデザインになった。 サブの6cmユニットもうまく収まった。2スピーカーユニットでバスレフシステムとは一味違った意匠である。

写真20 61号機外観
写真20
61号機外観
写真21 61号機外観
写真21
61号機外観

4.特性測定

 上側のターミナルにコンデンサー、抵抗を付けて測定を行う(写真22、23)。

コンデンサー制動の効果はどうだろうか?

写真22 コンデンサー接続
写真22
コンデンサー接続
写真23 可変抵抗器接続
写真23
可変抵抗器接続

 測定したインピーダンス特性を図2~5に示す。

図2のOpen(調整用端子開放)ではメインユニットのfoは140Hz付近にあり、180Hz付近にディップが観察された。これがサブユニットの共振点ではないかと考える。

 図3のShortでは1ピークの密閉型の特性に見え、140Hzのメインユニットの共振点は、背圧が付加されOpen状態よりもダンプされている。

 100Ωの接続状態(図4)ではOpenに近いものとなっている。この抵抗値では、ほぼ開放に近い動作なのだろう。

 47uF接続状態(図5)では若干特性に変化がある。100Ωよりもピークダンプが強くなっている。これは47uFのインピーダンスが100Hzで約30Ωと100Ωよりも低いことを考えると理解できるが、 興味深いのはメインユニットのfoとサブユニットの共振周波数が下がっているように見えることである。

図2 インピーダンス(Open)
図2
インピーダンス(Open)
図3 インピーダンス(Short)
図3
インピーダンス(Short)
図4 インピーダンス(100Ω)
図4
インピーダンス(100Ω)
図5 インピーダンス(47uF)
図5
インピーダンス(47uF)

 周波数特性の測定結果(図6)ではShort(水色線)のみ密閉型のような異なった特性で、Open(青線)と100Ω(赤線)は同様なサブユニットの共振特性と見ることができる。

ただ、150Hz付近に低下が見え、低域のレスポンスはShortよりも落ちるようだ。

 図7に示す47uF(赤線)にすると、特性的にはこの低下が改善され、低音域が100Ω(青線)よりも増強するように見える。

 コンデンサー容量を47uF(青線)、100uF(水色線)、220uF(赤線)に交換してみると、容量が大きな方が若干140Hz付近に膨らみが生じるがあまり変化は無い様である。(図8)

図6 周波数特性 1
図6
周波数特性 1
図7 周波数特性 2
図7
周波数特性 2
図8 周波数特性 3
図8
周波数特性 3

さあ、音はどうだろうか? ・・・ところが大失敗!?

5.試聴と評価

 私は結構な大音量派である。

ところが、この61号機は私の音量に耐えられなかったのだ(写真24)。

メインユニットがバタついて異音を発生してしまったのである。見ると振動板が壮大にストロークしている。制動がまったく効いていない感じで、小音量では良いのだが、サブユニットのShort状態でも十分な背圧がかからないのだ。 測定時には信号音からのスピーカーユニット保護のためにあまり測定音量を上げていないのでわからなかった。

 ・・・これではLEGOスピーカーとして完成できない。61号機は失敗作なのか?

写真24 試聴の様子
写真24
試聴の様子

 考えてみればハイコンプライアンスで強力な8cmフルレンジユニットの背圧を6cmユニットで受けようとしたことが無謀なことであった。しかし、これは与えられたチャンスかもしれない。 この問題を技術的に克服することこそが真の研究なのだ。

 

 ・・・ひとつ考えがあった。

パッシブラジエーターは動作周波数では位相が反転して同相で動く。それならばメインユニットの信号を分割して与えても同じ動作になるはずである。

ただし、単純に並列に接続したのでは意味がない。2ユニットの密閉型になるだけなので、互いに背圧がケンカしてひずみの多い音になるだろう。 そもそも同じスピーカーユニットならまだ良いが、異なるスピーカーユニット2本を同時に使用したら干渉して音像も音場も大きく劣化することだろう。

 ならば、抵抗を介してアッテネートした入力をサブユニットに与えたらどうだろうか? ダンピングの極めて悪い状態での駆動になる。だがしかし、サブユニットに対して十分な制動効果は期待できる。高音域の干渉に関してはコンデンサーで短絡すれば低音域だけで駆動できる。 この改良の接続回路は図9のようになる。-6dBアッテネーターでサブユニットを駆動するのである。(アッテネーターには電力抵抗器を用いる)

 本機は2つのスピーカーユニットに独立にターミナルを付けているので簡単に実験ができるのだ(写真25)。

 これはサブユニットをパッシブラジエーターとしてだけではなく、メインユニットのアクティブな背圧コントローラーとしても利用するのである。この効果でバタつきを改善するという考えだ。

図9 改良型回路図
図9
改良型回路図
写真25 接続変更
写真25
接続変更

 ・・・この結果には正直驚いた。マトモな音になったのだ!

抵抗値を小さくすると制動効果は高まるが、サブユニットから放射される音質影響が大きくなることと、コンデンサー短絡のためアンプへの過大負荷となるので、この8.2Ωが適値であろう。 やはり、これよりも大きな抵抗値をつなぐと効果が減ってしまった。

 コンデンサー容量は4.7uFに設定したが、音場感への影響を考えると容量が大きな方がLPFのカット周波数が下がって好ましい。だが、アンプへの負担を考えてこの容量にした。

 8.2ΩとのCRフィルタと見ると、4kHz付近で-3dBに減衰するはずで、-3dB/octのLPFである。減衰量が少ないが、もともとの-6dBもあるので良いだろう。

インピーダンス特性を確認したところ(図10)、公証インピーダンス5Ωのシステムといったところである。

 周波数特性の測定結果は図11のようになった。青線のOpen特性(パッシブラジエーター動作)と比較して、参考に測定したメインとサブユニットの単純並列接続(水色線)では教科書的に6dB程度能率が増加していることがわかる。 この測定状態の音量では低音域の改善も確認できるが、大音量では背圧が上昇して低音域は低下するだろう。なにより音質に与える干渉影響が大問題である。

 赤線が上記改良回路の状態であるが、低音域の上昇が確認でき、300Hz以上の中音域では3dB程度の能率上昇。LPFの効果で4kHz程度から能率が減少している。

10kHz付近にメインとサブユニットの位相干渉によるディップも見られるが、おおむね良好な特性である。

 青線のOpen状態と比較すると能率差を引いても、低音域のレベルが向上していることがわかる。この向上の要因はメインユニットに適切な背圧がかかったことによる効果と考えている。 何よりも重要なのは、この改良によってメインユニットのバタつきが改善されたことなのである。これで大音量での再生が可能になったのだ。

 試聴の結果、メインユニットは大きくストロークしているが、それでいて破綻しないのがうれしいところ。低音もサイズの割には出ていると思う。

 メインユニットに使用したOMF800Pはフェイズプラグの効果か、高音域がシャープで定位も良い。音質的には大変優れていると感じる。コンパクトで楽しめるシステムに完成することができた。

図10 インピーダンス(改良型)
図10
インピーダンス(改良型)
図11 周波数特性 4
図11
周波数特性 4

6.追加報告 ミニバックロードホーンシステム 62号機

 61号機ではサブユニットにまわったPioneerのOMP-600であるが、良質なスピーカーユニットなのでシングルユニットとして使用してみたいと考えた。

以前に製作したミニバックロードホーンの41号機(LEGOスピーカーの製作 第31報)に搭載してみたのである。同時に新型機として構造も見直し、強化している(図12)。

 W96mm H192mm D169.6mmのミニサイズで約55cmの音道を構成している。CWタイプ3段フォールディングの音道はLEGOブロックの造形性を活かして、なめらかに広がるように工夫している。精度の高いLEGOブロックだからできる構造である。

 再生音はこのミニサイズにしてはダイナミックで迫力のある音である。6cmとはいえ、このスピーカーユニットの駆動力が大きいことが実感できた。

ホーン開口部からはちゃんと風が出てホーンロードがかかっていることがわかる。結構な大音量でも破綻無くストロークも十分に確保されているユニットである。

特にバッフルパネルが小さいことで音場の広がり感もすばらしい。この62号機は手軽に使えて音も楽しめる、かわいいスピーカーシステムになった。(写真26)

図12 62号機 構造図
図12
62号機 構造図
写真26 ミニバックロードホーン62号機
写真26
ミニバックロードホーン62号機

7.まとめ

 一時は失敗作かと思われた61号機であるが、なんとか完成することができた。いや、隘路のおかげで新たな方式を考えることができた。

 この接続ではもはやパッシブラジエーター方式とは呼べないが、その動作は残っているハイブリッドな方式であると考えている。この改良型回路を「アクティブラジエーター方式」と呼称したいと思う。 今後もこのアクティブラジエーター方式について研究を進めてみたいと考えている。

(2018.1.7)

写真27 コンパクトアクティブラジエーターモデル 61号機
写真27
コンパクトアクティブラジエーターモデル 61号機

第50報LEGOスピーカーの製作第52報

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