![]() |
LEGO SPEAKER 第52報 ≪第51報 第53報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第52報
![]() |
1. 自作スピーカーの王道!フルレンジバスレフモデルを造る |
先の59号機の製作(LEGOスピーカーの製作 第49報)でデバイディングネットワークが必要悪であることを強く認識した。できればスピーカーユニットにダイレクトにアンプを接続したい。音の鮮度に大きく影響するのだ。
では、デバイディングネットワークを必要としないシステムはあるのか?・・・それがフルレンジユニットを使用したスピーカーシステムなのだ。
この63号機はフルレンジユニットの基本、10cmフルレンジを使用したシンプルなバスレフモデルを計画する。メーカーの既製品にはほとんど見られない方式であるが、それはなぜか? スピーカーユニットが1個ではデザイン的につまらないからなのではないだろうか。高級感が出せないのだ。
自作スピーカーの世界ではこの方式は王道であり、作例は数知れない。LEGOスピーカーとして造るからにはデザインにはこだわりたいところだ。さらに自作スピーカーの最大の価値であるオリジナリティの要素も追加したい。
使用するスピーカーユニットには、FOSTEXのFF105WK ペーパーコーン10cmフルレンジユニットを選択する。
![]() |
2.設計しよう |
デザイン図(図1)を描いてみた。内容積6リットルのバスレフエンクロージャである。一般的な10cmフルレンジユニットが要求する十分な内容積を与えている。
特徴は3キューブデザインである。後部では一体化しているが、前面から見ると3つの独立したハコに見える。エッジにはライトグリーンのラインを入れて3Dモデルのようなサイバー感を演出した。
下段のキューブはバスレフポート部であり、32×32mmのバスレフダクトを中心に置き、気流抵抗を少なくしてバスレフ効率を高める設計である。ポートにはサイドにテーパーを付けて風切り音に対処。
このダクトは前面から簡単に抜き差しが可能で、ダクト長を容易に調整できる。この内容積とダクトサイズではダクト長10cmでバスレフ周波数は約60Hzになる計算だ。4cmでは80Hz、6cmでは70Hzになる。
中央のキューブはスピーカーユニット搭載部であり、このような最小化したバッフルデザインには音質的なメリットがある。まず、スピーカーユニットの固定が強固になる。
また、バッフル面からの不要な輻射を防げる。さらに、4辺のコーナーをカットすることで回折音にも対処している。
このように支点を明確にしたスピーカーユニットの強固な固定は重要なのだ。このため、エンクロージャ内部に支柱も設けた。上下2本の支柱でリアパネルとつなぐことで不要な振動を低減する狙いだ。 この支柱は組み立て時にも重要な役割を持つのだ。
そして、中央キューブに吸音材としてスポンジボールを4個入れたエアサス・バスレフ方式である。
上段のキューブはデザイン的なもので音質的な役割はないが、内容積を増加する目的がある。
大面積で弱くなるリアパネルには中心に縦の補強リブを設けている。フレーム部のマスキングテープ処理やパネル部品にも徹底した密閉手法を施す。バスレフ方式では密閉性が効率を決めるのだ。基本仕様を以下に示す。
<63号機 基本仕様>
・形式:フルレンジバスレフ方式スピーカーシステム
・方式:エアサス・バスレフ方式
・組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・使用ユニット:FOSTEX FF105WK 10cmペーパーコーンフルレンジ
・外形寸法:W176mm H400mm D214.4mm(ターミナル部除く)
・実効内容積:6.3リットル
・バスレフダクト長:4~10cm(可変調整式)
・バスレフ共振周波数:60~80Hz
・内蔵ボール:PS-2289 4個
・システムインピーダンス:8Ω
![]() |
3.オリジナリティ要素の追加 |
この63号機の構造を見ていて考えが浮かんだ。中央キューブのバッフルパネル部分を複数造っておいて交換したら、スピーカーユニットを好みで変えて楽しめるシステムになるということだ。
10cmフルレンジユニットはこれまでの製作履歴で、いくつものストックが倉庫に眠っている。これを活かせるモデルになると考えたのである。
LEGOブロックならば工具も不要で容易に付け外しができる。外し易くすることは密閉性の低下につながるという懸念もあるが、ドッカブルユニットシステムという新たな独自コンセプトを63号機に追加するのである。 この場合、バスレフダクトが容易に調整できる機構も都合が良い。スピーカーユニットごとに最適なバスレフ周波数が異なるからだ。
早速、FOSTEXの10cmフルレンジユニット、FF105WK(写真2)を使ってドッカブルユニットモジュールを製作してみた(写真3 以下モデルFと表記)。
ライトグリーンのコーナーカットが鮮烈なバッフルパネルである。
交換するスピーカーユニットに何を選択するか悩んだが、MarkAudioのCHR-70とPioneerのPE-101Aとした。
CHR-70はアルミコーンの10cmフルレンジユニットで、プラスチックフレームだが穴位置がLEGOのピッチ8mmと一致しており、取り付けに具合が良いのも好都合。 FF105WKも取り付け穴が長穴なのでとても具合が良いのだ。アルミコーンの音調の違いを楽しむ狙いだ。(写真4、5 モデルMと表記)
PE-101AはPioneerの貴重な復刻高級フルレンジユニットである。
ペーパーコーンにチタンのセンターキャップ。アルミ製の分厚いフレームに大変高級感がある。マグネットもとても大きい。他の10cmユニットより大柄なのでバッフルパネルの構造を変える必要がある。 倉庫に長らく保管されていたこのスピーカーユニットをきちんと鳴らして見たかったので、今回の63号機の目玉となりそうなスピーカーユニットだ。(写真6、7 モデルPと表記)
各スピーカーユニットの主要な仕様を以下に示す。
<FF105WK>
・インピーダンス:8Ω
・最低共振周波数:75Hz
・出力音圧レベル:88dB/W(1m)
・入力:30W(Mus.)
・mo:3.4g
・Qo:0.41
<CHR-70>
・インピーダンス:4Ω
・最低共振周波数:70Hz
・出力音圧レベル:85dB/W(1m)
・入力:22W(Mus.)
・mo:4.8g
・Qo:0.65
<PE-101A>
・インピーダンス:8Ω
・最低共振周波数:80Hz
・出力音圧レベル:90.5dB/W(1m)
・入力:30W(Mus.)
・mo:4g
・Qo:0.5
![]() |
4.部品の製作 |
製作した1台分の部品を写真8に示す。
基本的にはシンプルなハコなので、大きさはあるが実質的な部品点数は少ない。特徴は3種類あるバッフルパネルである。このバッフルパネルとバスレフダクト部分が付け外しを容易にできるように工夫してある点も本機のポイントと言える。
最も特徴的なパーツはこの一体成型フレームである(写真9、10)。
複雑な形状もLEGOならば自在にアレンジできる(直線形状に限られるが)。
内面には丁寧にマスキングテープを貼り、ブロック間のスキマからの空気漏れを塞ぐ。バスレフ方式ではこれが大切なのだ。
写真11、12はバスレフパネルと調整ダクトである。前面に簡単に引き抜いてダクト長を調整できる。ブロックを1cm単位で付け外して調整するのである。
計算では先にも記したが10段10cmでバスレフ共振周波数は60Hz、6cmで70Hz、4cmで80Hzになる。このあたりの手軽さもLEGOスピーカーのメリットである。
ダクトは32mm角の正方形で太目のサイズで効率を重視し、ダクト後方の内部にも十分な空間を確保している。ダクトを床面のスリットダクトなどに設計すると、効率が低下すると考えている。 バスレフポートは左右のコーナーをカットして風切り音にも対処している。
上段キューブのフロントパネルを写真13に示す。ただのフタだが、「Dockable Unit System」のエンブレムを飾っている。
写真14はリアパネルである。ターミナル用の穴が2箇所に開いた板構造。このような大きな板は曲げ強度不足と振動が心配だが、内面に縦に補強リブを設けて対処する。
この補強リブはフレーム前側の桟部分と支柱で連結して強化される構造である。
リアパネルの背面がフラットであることも制作上の重要なポイント。
支柱(写真15)は長さ12段(115.2mm)の棒だが凸断面で極めて強靭。1台に2本が入る。
その他、吸音材スポンジボール、配線ワイヤー、ターミナル、インシュレーター、ネジ類を用意する(写真16)。
![]() |
5.組み立て過程 |
本機はサイズが大きいが組み立ては容易である。いつもはバッフルパネルからフレームに取り付けて最後にリアパネルでフタをするが、63号機は交換式のバッフルパネルが特徴なので、リアパネルから先にフレームに組み立てる。
リアパネルにターミナルと配線ワイヤーを取り付ける。(写真17、18)
リアパネルに2本の支柱を立てておく。(写真19、20)
フレームにリアパネルを取り付ける。(写真21、22)
吸音材のスポンジボールは4個挿入するが、これもいつもの様に2個ずつ楊枝で串刺しにして収まりを良くしている。フルレンジシステムは配線がシンプルなところも組み立てが簡単な点である。
上段キューブのフロントパネルと下段キューブのバスレフパネルを取り付ける。
バスレフダクト長は後から自由に調整できるが、とりあえず最長の10cmで付けておく。
インシュレーターもここで貼り付ける。(写真23、24)
そしてバッフルパネルを配線して取り付ければ組み立て作業は終了である。(写真25)
リアパネルの背面が平面になっているのでバッフルパネルを交換する際に上向きに置いて(ターミナル部分は机上から避けて置く)作業性を高める工夫をしている。
組み立ての完了した63号機の外観を写真26に示す。
サイバーな意匠がスピーカーユニットのクラシカルなデザインと少し違和感があるが、独特のセンスに仕上がった。3キューブデザインがライトグリーンのエッジで強調され、個性的なインパクトがある。
ここで、特性測定と試聴なのだが、先に本機の特徴であるドッカブルユニットシステムを試してみよう。
バッフルパネルをMarkAudioのCHR-70に交換する。実際の交換作業は接合部のブロックポッチを一部制限してあり、容易に外すことができるようになっている。
スピーカーユニットの接続端子につなぐファストン端子は、あえて大型のものを使用しており、こちらも外し易い。ものの3分で交換が完了するのだ。
写真27のCHR-70はシンプルな白いアルミコーンが未来的デザインでサイバーな本機の意匠にとてもマッチしている。デザイン的には一押しの組み合わせである。
本機の本命スピーカーユニット、PioneerのPE-101Aに交換してみる。(写真28)
レトロなスピーカーユニットのデザインに合うかな? と思っていたがモダン家具のような佇まいで、これもなかなか良い感じだ。コーンの深いグリーンと色合いもマッチしている。 チタンのセンターキャップもゴージャスで一段と高級感を醸し出している。
さあ、音はどうだろうか?
![]() |
6.特性の測定と評価 |
スピーカーユニットをFF105WKに戻して、まずはインピーダンス測定からである。
図2はバスレフダクトを仕様外であるが、最も短い2cmに設定した場合の本機のインピーダンス特性である。実に美しい2山特性となった。 LEGOスピーカーのバスレフシステムでこんなにきれいなインピーダンス特性は初めてである。 ちょっと感動してしまった。きちんとした対策を講じればスキマだらけのLEGOブロックでもこれだけ密閉度を高めたバスレフ特性が得られるのである。これならばバスレフ効率も十分に期待できる。
測定結果から、スピーカーユニットのfoは80Hz程度、バスレフダクトの共振周波数は85Hzと読み取れる。
ダクト長を変更してみよう。(図3~6)
4cmから10cmの設定で、バスレフ周波数が変化していく様子が良くわかる。
4cm :78Hz(80Hz)
6cm :74Hz(70Hz)
8cm :68Hz
10cm:62Hz(60Hz)
設計時の計算値を( )で示したが、ほぼ一致していることがわかった。
次に周波数特性を測定した(図7)。ダクトの長さに応じて80~300Hz付近の低音域が変化する様子がわかる。ダクトを短くしてバスレフ共振周波数を上げると、中低音域がふくらんで行く。 残念ながら、この測定ではバスレフダクトの共振音が測定できていない。 これはマイクをスピーカーユニット軸上50cmという近接配置のセッティングにしたためであると考えている。
インピーダンス特性からはスピーカーユニットのfoである80Hz付近にバスレフ周波数を設定した4cm長が最適に見える。 こうすることで、foでのユニット共振によるストロークをバスレフダクトが負荷になることで抑えられるという効果もある。しかし試聴による聴感上では中低音域のふくらみが気になった。 これはリスナーの好みの問題であるが、私はバスレフ感が強く感じられる、いかにも共鳴しているという低音が好きではない。
できればバスレフダクトによる低音増強は低音域を伸ばすことに利用したいのである。
そこで、試聴の結果からバスレフダクト長は相対的に低音域が延びる、最も長い10cm(赤線)を最適と判断した。
ドッカブルユニットシステムでバッフルパネルをモデルMに交換してインピーダンス特性を測定した。(図8、9)
この結果はバスレフダクト長4cmと10cmのものである。4cmでは谷の位置からダクトの共振周波数が若干下がって75Hzになった。これはダクトの駆動力の違いやマグネットサイズの違いによる内容積変化の影響と考えている。 スピーカーユニットのfoは均等な2山特性であることから、同じ75Hzと考えられる。スピーカーユニットの仕様では70Hzであり、先のFF105WKも同様に75Hzから80Hzに5Hz上昇した。 この理由はエンクロージャ内部の空気バネの作用で機械的なユニットの総合foが上昇したことによるものだろう。
モデルMの周波数特性を測定した(図10)。バスレフダクト長4cmと10cmの特性をプロットしている。
CHR-70では能率が低いが、これは仕様からもわかるが重いコーンと比較的小さなマグネットのためだろう。特徴は低音域が良く伸びていることである。
振動板が重いためかユニットのfoも低いが、10cm長では1kHzに比較して100Hzで-5dB、70Hzでは-14dBである。FF105WKは100Hzで-10dB、70Hzでは-20dBであった。
実際に試聴でも明らかに低音域がパワフルである。ウーハーのような特性のフルレンジユニットなのだ。ダクト長の影響はやはり同様に70Hz付近は変わらずに100Hz付近の特性が増減するようだ。
高音域はメタルコーンの効果で良く伸びている。13kHz付近に分割振動と見られるピークがあるが、この周波数なら影響は少ないだろう。
この場合でも私の好みはダクト長10cmであった。中低音域が増強されてバスレフ感が強まるよりも、相対的に低音域が伸びる方が良い。
バッフルパネルをPioneerのPE-101A(モデルP)に交換すると、インピーダンス特性は大きく変わり、ダクト長4cmの共振周波数は80Hz付近であるが、ユニットのfoは110Hzくらいに見える。(図11、12)
仕様では80Hzなので大きく上昇したが、このスピーカーユニットの能率が90.5dBと他の2つのスピーカーユニットと比較して高く、エンクロージャによる空気バネの影響を大きく受けるのかもしれない。 そう考えるともっと大きなハコのほうが良いのだろう。
図13はモデルPの周波数特性である。3種類のスピーカーユニット中、低音は最も伸びていない。これはfoの上昇からも推定されることなのだが、聴感上では低音不足はあまり感じられない。 低音の質が良くさすがに高級スピーカーユニットという感じなのである。 ダクト長の変化による影響は少ないが、これも最長の10cmが私の好みである。
同一入力における音圧が1kHzで84dBであり、他2ユニットの83dB、80dBと比較して能率が高いことがわかるが、軽いペーパーコーンと強力なマグネットの効果だろう。
高音域はチタンのセンターキャップの効果で最も伸びている。7kHz付近に振動板の分割振動と見られるピークがあるが、良く抑えられている。
![]() |
7.試聴評価 |
ドッカブルユニットシステムで、3種類のスピーカーユニットで聴き比べを行ったが、それぞれの個性が良くわかり、大変面白い。(写真29)
FF105WKは丹精なしっかりとした音で好感がもてる。CHR-70は低音が豊かなワイドレンジでシャープな音。でも、やはりPE-101Aの音が気に入った。柔らかく品位のある音なのだ。 ゴージャスな意匠も含め、本機ではこれがベストマッチだと思う。
63号機の製作でLEGOスピーカーでも効率の良いバスレフ方式が実現できたことは大きな成果である。長年問題としていた密閉性をクリアできたことがとてもうれしい。
シングルフルレンジユニットの鮮度の高い音は大変美しく、また、シンプルなバスレフ方式は歪み感も少ないということが再認識できた。小編成の室内楽やバロック音楽を美しい音で楽しむのに最適なスピーカーシステムがまた誕生したのだ。
![]() |
8.おわりに |
自作スピーカーの意義とはなんなのであろうか?
造る楽しみ? 自己満足? 製作スキルの向上?
もちろん、こういったことも重要ではあるが、私はオリジナリティこそが自作スピーカーの価値であると思っている。
世界に一つしかない自分だけのスピーカーシステムを造る。
メーカー製品に存在しないものを造る。
これが私にとってのLEGOスピーカー製作の意義なのである。そこで新たな独自方式にもいくつも挑戦してきた。
だが、このために最も基本的な自作スピーカーを今までマトモに造ったことがなかったことに気が付いた。それが10cmフルレンジユニットを使用したシンプルなバスレフ方式システムであった。 これまで60機以上も製作してきたのに、自作スピーカーの原点とも言えるこのスピーカーシステムを造ったことがなかったのだ。
63号機の完成でシンプルなバスレフシステムの魅力を本当に見直すことができた。
やはり先人たちの功績は大きいのだ。
アンプとのダイレクト接続による音の鮮度、効率の良いバスレフ方式の豊かで十分な低音、点音源の優秀な定位感・音場感、シングルスピーカーユニットのタイムドメイン性能・・・。
まだまだ、勉強、経験すべきことはたくさんあるのだ。
(2018.1.7)