![]() |
LEGO SPEAKER 第53報 ≪第52報 第54報≫ |
LEGOスピーカーの製作 第53報
![]() |
1. はじめに |
61号機(LEGOスピーカーの製作 第51報)の失敗経験から生まれたアクティブラジエーター方式はパッシブラジエーターユニットに抵抗器で減衰した入力を行うことで、
アクティブラジエーターユニットとして直接駆動と従属駆動のバランスを得るものである。これによりメインスピーカーユニットに対する最適な背圧付加コントロールが可能となり、
さらに大音量時には振幅リミッターとしての作用も期待できる。もちろん、アクティブラジエーターユニットからの低音放射も有効である。ただし、高音域ではメインユニットと干渉するので、適切にカットする必要がある。
本方式にはスピーカーユニットの特性に応じて最適な減衰抵抗値が存在し、これを研究するためのモデルとして本機を製作する。
![]() |
2.設計 |
使用するスピーカーユニットには61号機と同じStereo誌付属のFOSTEXの8cmフルレンジユニットOMF800P(写真2)をメインユニットに、サブユニットには2016年の同誌付属フルレンジユニットM800(写真3)を選択する。
私のオリジナル技術であるアクティブラジエーター方式は図1のようにパッシブラジエーターユニットに音声出力をアッテネーターで減衰して印加して、
メインユニットからの音圧による従属駆動だけでなく、直接駆動も同時に行うものである。もはやパッシブとは言えないのでアクティブと呼ぶことにした。
さらに、サブユニットからの高音域放射はメインユニットと干渉して有害なのでコンデンサーで低減する。このコンデンサーは入力信号のLPFとして働くとともに、サブユニットの高音域における制動素子としても働き、高音域の放射を抑制するのだ。
しかし、この容量を大きくして行くと肝心の低音域でのレスポンスにも影響が出るので、ほどほどにしなければならず、中音域でのメインユニットとの干渉は避けられない。
そこで、メインユニットのOMF800Pと同じアルミコーンの振動板を有するM800をサブユニットに選択して音質への影響に配慮するのである。
この方式の最も重要なポイントは減衰抵抗の値の選定であり、これには最適値が存在すると考えている。最も低音域増強の効果の高い抵抗値を設定する必要があるのだ。
設計した構造は図2に示す内容積1.8リットルのコンパクトなハコに8cmスピーカーユニットを2本取り付けたシンプルな構成である。吸音材にはスポンジボールを1個入れる。
この2本のスピーカーユニットを単純に並列に接続すると2ユニットの密閉型となるが、強い背圧が干渉して低音は出ないだろう。サブユニットをフリーにして独立すればパッシブラジエーター動作となる。
この場合、メインユニットの背圧付加が少なくなり、緩い低音となることを経験している。
そこで、抵抗やコンデンサーによる短絡でサブユニットに制動をかけるのであるが、十分ではなかった。
アクティブラジエーター方式はサブユニットに抵抗をシリーズに入れてダンピングファクターの極めて低い状態でドライブする。
この結果、foでは制動の利いたパッシブラジエーターとして作動し、この周波数以外ではレベルは下がるが、メインユニットと同位相で駆動される。
バスレフ方式や一般のパッシブラジエーターでは、バスレフダクトやパッシブラジエーターユニットの共振周波数以下ではメインユニットの背面から直接、逆位相出力が漏洩してしまい低音域特性に影響を与える。
このためfo以下で急激に特性が低下するが、本方式ではfo以下でも同位相で駆動されるため、この問題が生じないメリットもあるのだ。
以下にスピーカーユニットの仕様と本機の基本仕様を示す。OMF800PとM800はフレームと振動板材質は同様であるが、マグネットのサイズがOMF800Pの方がひとまわり大きく、能率に違いが生じている。
高音域ではフェイズプラグの効果も違いとして出ることだろう。
<OMF800P 仕様>
・ 形式:8cmアルミコーンフルレンジ(アルミ切削フェイズプラグ)
・ インピーダンス:8Ω
・ 最低共振周波数:117Hz
・ 再生周波数帯域:fo~32kHz
・ 出力音圧レベル:83dB/W(1m)
・ 入力(NOM):5W
・ mo:2.38g
・ Qo:0.64
・ 質量:320g
<M800 仕様>
・ 形式:8cmアルミコーンフルレンジ
・ インピーダンス:8Ω
・ 最低共振周波数:105Hz
・ 再生周波数範囲:fo~32kHz
・ 出力音圧レベル:82.5dB/W(1m)
・ 入力(NOM):5W
・ mo:2.5g
・ Qo:0.75
・ 質量:280g
<64号機 基本仕様>
・ 形式:コンパクトアクティブラジエーターシステム
・ 方式:アクティブラジエーター方式
・ 組み立て方法:ホリゾンタルタイプ(水平組み立て)
・ エンクロージャ方式:2ユニットフロントマウント密閉型
・ メインユニット:FOSTEX 8cmアルミコーンフルレンジOMF800P
・ アクティブラジエーター:FOSTEX 8cmアルミコーンフルレンジ M800
・ 外形寸法:W128mm H224mm D124.8mm
・ 実効内容積:約1.8リットル
・ アクティブラジエーター機能減衰抵抗値:8.2Ω(初期値)
・ サブユニットLPF:10uF(2kHz -3dB -3dB/oct 初期値)
・ システムインピーダンス:5Ω
![]() |
3.製作 |
64号機の1台分の全部品を写真4に示す。
LEGO部品はバッフルパネル、フレームとリアパネルしかないシンプルな構造である。
写真5にバッフルパネルを示す。最近のLEGOスピーカー作品に共通のホワイトラインをサイドに入れたスリムタイプデザインである。このエッジ部分はコーナーカットになっており、バッフルパネルの回折音を低減する。
写真6のフレームには内面にマスキングテープが貼ってある。リアパネル(写真7)は4箇所に穴があり、下側がターミナル用、上側は素子固定用である。
写真8はアクティブラジエーター回路を構成するコンデンサーと抵抗素子、その他。吸音材はいつものスポンジボールだ。
簡単な構造なので組み立ては容易である。
まずはバッフルパネルにメインユニットを取り付ける。(写真9、10)
同様にサブユニットを取り付ける。(写真11、12)
リアパネルを組み立てる。(写真13、14)
製作作業のポイントはリアパネルに配線するアッテネーター抵抗値の最適化作業である。
これは組み立てて試聴してみなければわからない。先に示した回路図(図1)の抵抗値は仮に設定したものだ。
そこで、実際は一旦、リアパネルの背面に抵抗器を配線して試聴を繰り返し、抵抗値が決定した段階で写真14の様に正規の接続に改めたのである。
なお、LPFのコンデンサー調整は不要と考え、アンプの大きな負荷にならず、十分にサブユニットの高音域減衰と制動性能が得られるように10uFを選択している。
完成したバッフルパネルに配線をしてフレームに取り付ける。(写真15、16)
吸音材のスポンジボールを入れてからリアパネルに配線をしてフタをすれば組み立て作業は終了である。(写真17、18)
組み立ての完了した64号機を写真19、20に示す。
アルミコーンの同デザイン2スピーカーユニットなのでまとまりの良い仕上がりとなった。
8cmフルレンジユニットにはこのくらいの本体サイズがバランスは良いと思う。
それでは本機のポイントであるサブユニットのアッテネーター抵抗値を探してみよう。
![]() |
4.試聴と調整 |
まずはインピーダンス特性を測定してみた。
図3に示すR1:Open、すなわち10uFのコンデンサー制動状態でのパッシブラジエーター動作ではfoのピークが大きく、自由にメインユニットが動作していることがわかる。
foは110Hz程度である。ピークの形状がいびつであることからパッシブラジエーターの影響を見ることができる。
図4のR1:8.2Ωでは2つのスピーカーユニットが並列に接続されたことから大きく異なった特性となる。メインユニットに背圧も加わり、単体のfoでのピークが見えなくなっている。
160Hz付近にピークが見えるが、これはメインとサブユニットが並列駆動された合成特性である。
高音域のインピーダンスがコンデンサー接続のために下がっているが、この6Ωくらいならばアンプに対して問題はないだろう。システムとしてのインピーダンスはおおよそ5Ωである。
抵抗値を12Ωに設定した場合の特性を図5に、22Ωにした場合を図6に示す。
抵抗値を増加して行くとメインユニットのfoのピークが見えてくる様子がわかる。
しかし、このインピーダンス特性結果ではR1の最適値は判断できない。
図7に示す周波数特性を見てみると、赤線のR1:Open状態と比較して、青線のR1:8.2Ωでは2kHz程度以下の帯域ではサブユニットの並列駆動の効果でレベルが+3~4dBほど上昇している。
もう少し効果の帯域を低音域に寄せたいところであるが、サブユニット短絡のコンデンサー容量をあまり大きくすると、位相回転の影響やパワーアンプ過負荷の問題となると考え、この程度にしたい。
5kHz付近で青線のレベルにデップが見られるが、これはメインユニットとサブユニットの干渉ではないかと推測する。これも抑えたいところだ。10kHz以上ではコンデンサー短絡の効果で差異は無くなっている。
注目点は100Hz付近の低音域の特性で、レベルが+6dBほどに大きく上昇するとともに、密閉型のようなダラ下がりの特性に近づいている。
これは予想のとおり、並列駆動の効果(ダブルウーハー)だけでなく、パッシブラジエーターとしても作用しているものと考えられ、また、メインユニットに対する背圧付加の効果もあるのだろう。
さらに、パッシブラジエーター動作におけるサブユニットの共振周波数以下での逆位相出力の問題も低減して、急激に下降する低音域特性が改善されているものと推測される。
しかし、このR1:8.2Ω状態では中高音域の上昇が大きく、サブユニットの放射が強すぎると思える。振動板の材質を合わせてあるので音質的に破綻は少ないが改善したい。
そこで、図8に示すようにR1を増加してみると、水色線の12Ω、緑線の22Ωで1~2dBレベルが低下し、Open特性に近づく変化をして行くことがわかる。
だが、この周波数特性結果からでも、まだ最適なR1値を判断することはできない。やはり試聴による判断が必要である。
・・・試聴の結果、最適なR1抵抗値は12Ωであると判断した。
これよりもR1は大きくても、小さくても低音域の量感が低下したのである。もちろん、12Ω付近で幅はあるのだが、このくらいの抵抗値にすると低音域がグリップするようにしっかりとしてくるのである。
この最適値の理由としては、抵抗値を下げた方がダブルウーハーとしての作用が高まり低音域は強化するが、同時に中音域も増強して相対的には弱くなる。
パッシブラジエーターとしての動作も抑制され、メインユニットの背圧の上昇によりタイトな低音となり、歪みも増える。なにより中高音域が壮大にサブユニットから放射されることは問題である。
反対に抵抗値を上げると、パッシブラジエーターの効果は高まるが、メインユニットに対する背圧の低下により緩い低音となる。
重要なことは、メインユニットに対する最適な背圧を付加することであり、この調整を抵抗値の設定で行えるということなのである。
したがって、最適値が存在し、これは使用するスピーカーユニットの組み合わせ、エンクロージャのサイズや2つのユニットの配置などにも影響されるのだと考えられる。
さらにこの回路方式は大音量時にはメインユニットの振幅リミッターとしての作用も期待でき、バタツキを防ぐ効果もあるのだ。
最適化された回路(図9)ではアッテネーターは12Ω、-8dBとなった。
10uFのコンデンサーとのLPFはおよそ1kHzで-3dB、-3dB/octの特性である(CRフィルタ単体の特性、実際の減衰量はサブユニットの特性により異なる)。
ほぼ高音域のサブユニットからの放射は抑えられていると考えられる。再生音は振動板の材質を合わせたので、メイン、サブユニットの音調の干渉は前作の61号機より改善していると思う。
本方式のポイントである低音域増強作用は効果的に動作し、同サイズのバスレフ方式やパッシブラジエーターよりも良好であると感じる。
これはメインスピーカーユニットに適切な背圧を付加できていることが大きな要因であると考えられる。また、大音量再生時の破綻も良く抑えられている。
![]() |
5.おわりに |
今回のアクティブラジエーター研究機64号機の製作により、本方式の検証を行うことができた。確かに効果はあるものと感じる。小型スピーカーシステムの低音域改善手法として有効であると考える。
しかしながら、やはりフルレンジユニットを使用しているのにファンダメンタル帯域が2つのスピーカーユニットから放射される点は気になるところであり、
特にサブユニット側は高音域を抑えるLPFのために位相が変化しており、この音質影響はあるだろう。
そこで、次作機はこのアクティブラジエーター方式のサブユニットを背面に搭載して研究を進めたいと考えている。
(2018.5.6)